大学生活にあきあきしていた私の目の前に現れた美しい女性”先輩”と破壊的な”黒服”。
ついに黒服は「真夜中乙女戦争」という「東京破壊計画」実行する。私が選ぶのは恋なのか破壊なのか…。
Fさんといえば、紡ぐ言葉の一つ一つが、いろんな角度で心の琴線に触れてくるので、若者を中心に圧倒的な支持を得ている、大注目の作家です。
そんなFさんの作品の中でも、この『真夜中乙女戦争』はかなりえげつない角度で刺さってくる衝撃作。二宮監督はあくまでも「かっこよさ」にこだわっています!
【主なキャスト(敬称略)】
永瀬廉:私
池田エライザ:先輩
柄本佑:黒服
小説『真夜中乙女戦争』のあらすじ
4月、新しい生活に淡い期待を抱きながらW大学に入学した「私」は、早くもそれが間違いであったことに気付いてしまった。私の人生になんの物語も生まない退屈な講義…。
大学が始まって10日経っても、私は夜は一睡もできていなかった。
神戸の同じ高校からW大に進学してきた友人の佐藤は早くもたくさんの友人を作って「リア充」を満喫していた。
私は、最も挑発的で無意味で退屈とは無縁のサークルを探した。無個性なサークルが数多存在する中、私は「かくれんぼ同好会」というサークルを選んだ。
東京駅構内でかくれんぼをしたとき、駅構内のゴミ箱の中に潜伏していると、サークルの会員に見つかるより先に鉄道警察職員に見つかって職務質問を受けた。
不審者以外の何者でもない私が事務所に連れて行かれようとしたその時、女性の”先輩”が現れて「この子、あたしの弟です」と言い私の頬をぶん殴った。そのおかげで解放された。
私は先輩とラインの交換をした。けれど先輩は誰にでも優しくて誰からも好かれている人たらしだ。私だけに優しい訳ではない。私は急激にサークルへの熱が冷め、東京タワーをひとりで眺めた。
先輩のインスタのアカウントを見つけて、過去にさかのぼって食い入るように見ていると、先輩から「もう寝ちゃった?」ってラインが来た。その日は東京に来て初めてよく眠れた。
私は東京タワーに恋文を書いて送った。すると3時間後、東京タワーから展望台のチケットが2枚送られてきた。芝公園から東京タワーを眺めるのは、今や私の夜の日課となった。
講義もバイトもない日は文学部図書館に行って勉強した。無意味な知識を詰め込むことだけが私を救ってくれる気がした。
図書館を出て喫煙所のベンチに座り込んでいると、向こうの暗闇から全身黒づくめの学生が現れ、私に「火、ある?」と聞いた。
「ない」と答えると、”黒服”の男は「オイルなら持ってたんだけど」と、オイル缶を取り出して灰皿の中に注ぎ始めた。
そして私の手を取り裏門へ走り出し、盗んだバイクで夜中の明治通りを時速150キロで走行した。
黒服はすでに一生遊んで暮らせるほどの財産を持っていた。
「映画館を作る」と言って、黒服は歌舞伎町の外れにある廃墟ビルの一室を小型映画館に改造した。
プロジェクターとスクリーンとスピーカーは大学から、アンティークソファはタワーマンションのラウンジから盗んできて、電気と水道の設備も整備された。
いつの間にか廃墟には1匹の白猫が住むようになった。私と黒服はこの私設映画館で毎夜映画を見た。
「俺たちが生きていた証拠を残そう」と黒服が言い、真夜中の映画館に他の人間を招待することにした。
夜を好む人間たちに声をかけ、1人また1人と客が増えていった。黒服は客が望む言葉を知っており、どんな客も一瞬にして黒服に心を許した。
先輩から「君と寝る夢を見た」とラインが来た。私は先輩を東京タワーに誘った。
前期の履修科目を全てAでクリアした佐藤は、大手広告代理店のインターンに行くと言う。クリエイティブな仕事がしたいと言う。
佐藤が苦しむ顔が見たくなった私は、ありったけの悪意を佐藤に伝えた。その夜、黒服は戦争を開始した。
ドン・キホーテでブロッコリーを十数個買い、大学構内の自転車のサドルを引っこ抜き、そこにブロッコリーを突き刺した。大学構内の放置自転車をヴィヴィットピンクに染め上げた。
パソコン室のキーボードの”C”と”X”を入れ替えた。学生課の掲示板の休講情報の紙を剥がし偽の休講情報を貼り付けた。
TOEIC試験が実施されている大学構内で、大音量で「ワルキューレの騎行」を流したスピーカーをドローンに括りつけて飛ばした。
「これから大学を地獄にしてやる」黒服はそう言って、鞄の中から分厚い書類の束を取り出し、私の目の前に置いた。
「真夜中乙女戦争」
黒服は着実に同志を獲得していった。大学はまさに地獄と化した。喫煙所には火が放たれ、偽の休講メールは毎日届き、徹夜で仕上げたレポートは無残に引き裂かれた。
学生掲示板のビラが剥がされた件で私は教授に呼び出された。佐藤の仕業だった。
私は悪戯の記録を全て、下半身の写真とともに佐藤のインスタグラムに投稿していった。下半身の写真が貼り付けられた履歴書が、佐藤の志望する企業にも送られた。佐藤は木っ端微塵に終わった。
廃墟ビルは1階から4階の全室の壁をぶち抜き作戦本部となり、数十名いた常連はもはや百名を超えていた。
そしてあろうことか、その中に佐藤がいた。佐藤は「俺は自由になった」と言った。
真夜中0時になり新しいTo Doリストが送られてきた。その一番上にあったのは、かくれんぼ同好会の大手出版社に内定した4年の女の内定取消工作だった。
先輩との真夜中のラインは今でも時々続いていた。私から先輩を誘って飲みに行った。そしてそのあとホテルに入った。
私は先輩にキスをした。ただそれだけで泣けてきた。先輩には付き合っている人がいるけど、私のことを好きだと言った。
目が覚めると隣に先輩はいなくて、黒服と常連たちに囲まれていた。「真夜中乙女戦争」の実行まであと数時間。
クリスマス・イヴが終わりクリスマスが始まる深夜、関東数か所の発電所を爆破し、六本木ヒルズ・スカイツリー・都庁などを放火し、その様子を東京タワーの展望台で鑑賞する。
黒服は言った。「お前は俺に何度も会いに来た。ラブレターも送っている。言葉も、おまえも、役に立たない。」
風呂場に逃げ込み、3階の窓から飛び降りようとした。黒服が私の背中をつかんで引き戻し、シャワーヘッドで私の頭を思い切り殴った。
目を覚ました私はタクシーで廃墟へと向かった。廃墟で猫を拾い上げて、私は東京タワーへと向かった。
東京タワーの展望台の中では、黒服が一人でクリスマスケーキをカットしていた。東京のあらゆる照明が落ち、真っ暗闇になった。そして小さな火の海が浮かんでいた。
階下から鉄の焼けるにおいがする。先輩に電話をかけた。
先輩は言った。「本当に最悪だよね、君は。でも、生きているなら、今は、それでよしとしてあげるよ。」
映画の見どころと原作との違い
原作者のFさんが「永瀬廉さんには、ダークに、血まみれになっていただかねばなりません。」と期待したとおり、”私”は血まみれになりますよ。
主人公の”私”のように、何もかもがうまくいかない時には世の中を破壊したい衝動にかられ、美しい女性と恋に落ちたいと願うことは誰にでもあることだと思います。
すごーく胸をえぐられるくらい過激なんだけど、ちょっとうらやましいというか共感してしまう不思議な物語でした。
抽象的に描かれた原作と違って、映画でははっきりとした結末が描かれます。そして注目のキスシーンには衝撃の展開が!
映画『真夜中乙女戦争』視聴方法は?
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小説の結末は?私なりの感想
そもそも言葉にすること自体に意味がないというのがこの物語のスタンス。
「言葉も、おまえも、役に立たない。」「すべて終わる。おまえには意味はない。」
この物語を言葉にすることは本来意味がないことで、ただ感じるだけでいいような気もします…。
この物語の結末の捉え方は人それぞれ…と言って丸投げすることも可能なんだけど、なんとか私なりの結末の捉え方を言葉にしてみようと思います。誰かから苦情が来そうな暴挙だな。
実在する”リア充”の男は「佐藤」という名を持ちます。一方あこがれの女性「先輩」も、”私”を虜にした「黒服」も名前を持ちません。
「黒服」という人物は”私”自身の中の「何かを成したい」と願う象徴であり、「先輩」という人物は「恋をしたい、愛されたい」という憧れの象徴のような気がします。
いや、「先輩」は実在したのかな。
そしてもう一つの大事な登場人物「東京タワー」は、”私”の中の理想の居場所の象徴だったのかもしれません。
スカイツリーや六本木ヒルズみたいな煌びやかなステージではなく、なんとなく地に足のついた居場所。東京に来ればなんとかなるかもしれない、何か見つかるかもしれないとやってきた憧れの場所だったのかな。
”私”は大学を卒業したら会社に入って、恋をして結婚して、普通の家庭を持つことを望んでいる真面目な大学生です。
何をどうすればすればいいのかわからないし、大学の講義は退屈なばかりでその答えをくれません。やみくもに勉強してみても虚しさしか感じない…。
大学生って一見”何にも考えてなくて楽しいだけ”に見えてるかもしれませんが、それは大間違いです。
”就職”という人生の大きな岐路の前に立って、うまくいかない自分がいやになったり、目標をどこに見据えればいいのか迷走したり、周りの人たちのことが気になって不安になったり…。
心折れそうになる経験と、越えられそうもない高い壁が無数に立ちはだかって、人生って楽じゃないと感じ始めるのがこの時期です。
逃げたくなって、何かのせいにしたくなって、何もかも無くなってしまえばいいのにと思った経験は、大人なら誰にでもあるはずです。
この本の中でFさんはこんな風に述べています。
手に入れようとしても手に入れられないものほど愛おしい。
そんなものに憧れたまま死ぬか、それから目を逸らして生きるか、目を逸らさず、それをぶっ壊すか。
死ぬ間際に「やり残したことはないか?」と自分に問うた時に「ない」と答えるために、大真面目に考えうる破壊の全てをやってみたのがこの物語なのかな。
やってることは犯罪スレスレどころか真っ黒の犯罪なので、もちろんこんなことはおススメできないけど、想像の世界なんだから何やったっていいじゃない。
本の帯にあった「携帯を握り締めても思い出はできない」という言葉通り、架空の世界ばっかりのぞいてないで「動き出せよ」っていう若者に対するエールのような気がします。
憧れの”先輩”とだって、ラインでばっかりやり取りしてないで、面と向かって「好き」って言った方がいいに決まってる。彼氏がいたとしてもね。
そして、流されてばっかりいた私が、最後の最後に選択するのは「愛」だったっていう。しびれるラストでした。
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