小説『いのちの停車場』

医者の立場で言う”正論”と、患者の家族として思う”感情”

これらは決して一致しません。頭ではわかっているけれど、心はそれを望んでいない…。医師である咲和子にとってもそれは例外ではありませんでした。

在宅医療や終末期医療のあり方、患者の尊厳など、現代の医療現場に横たわる様々な問題を描いた物語。

現役医師の医師として終末医療に携わっている南杏子さんが、実体験も交えながら描いた渾身の問題作です。

病院での治療は教科書通りに行われるもの。それに対して在宅医療、終末医療というものは全く教科書の存在しない医療で、一つとして同じパターンのケースは存在しないとのこと。

”死ぬ”ことよりも、最期まで自分らしく”生きる”ことを描いた物語です。

【主なキャスト(敬称略)】
吉永小百合:白石咲和子
松坂桃李:野呂聖二
広瀬すず:星野麻世
西田敏行:仙川徹
田中泯:白石達郎(咲和子の父)

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小説『いのちの停車場』のあらすじ

医師の白石咲和子は、今日の患者の受け入れの可否を決めるホットライン担当です。何事も起こらない静かな夜を願ったのもつかの間、ホットラインが鳴り響きます。

近くで大規模交通事故が発生し重症患者が20名以上いる模様で、7人の受け入れを打診されました。咲和子は受け入れを受諾しました。

各所から応援の医師やナースが集まってくるものの現場は戦場のような状態です。そこに一般の救急外来の患者も来ますがとても手が回りません。

激しい腹痛と嘔吐で受診にきた10歳の女の子を、事務のアルバイト・野呂聖二が車いすで連れてきました。咲和子は虫垂炎だと診断し、脱水症状を起こしているので先に点滴をしようと言いましたが、その直後、重症患者の容体が急変し呼び戻されてしまいます。あちこちから咲和子の指示を仰ぐ声がきかれる中、咲和子は「それぞれできることを進めて。責任は私が取る。」と言いました。すべての患者が落ち着いたときには朝の5時を回っていました。

数日後、咲和子は病院長から呼び出しを受けました。虫垂炎で受診した女の子の家族からクレームが来ていると言います。事務員の男性に点滴をさせたとマスコミに公表すると大騒ぎしているとのことでした。

アルバイトの野呂が手が回らない現場を見かねて女の子に点滴をしてくれていました。「できることをしていい。責任は取る。」と言ったのは確かに咲和子でした。7人もの重傷者を受け入れるからそういうことになると責任を追及され、咲和子は大学病院を退くことにしました。

若いころに結婚・離婚をし、子どもはいないので、肉親と呼べるのは、金沢で暮らしている父・白石達郎だけです。咲和子は金沢に帰ることにしました。

父に頼まれまほろば診療所行ってみると、院長の仙川徹は大腿骨を骨折して車いす生活を余儀なくされていました。まほろば診療所の現在の診療形態は「訪問看護」。徹が動けなくなってしばらく休診状態でしたが、咲和子に訪問看護を手伝ってほしいと言いました。

看護師の星野麻世に同伴してもらい、なんとかこなした訪問看護初日。たった5人と思っていたけれど、これは大変なことを引き受けたと実感しました。

【CASE 1】並木シズ

最初の患者はパーキンソン病を患っている並木シズさん。夫の徳三郎による老老介護です。徳三郎はお金がかかることは徹底的に拒否しますが、シズが起きてこないように、眠り薬を強くしてくれだの、早く死んでもらわないと困るだのと言っていました。

2日目の訪問看護から戻ると、診療所の前に派手な車が停まっていました。なんと、野呂聖二がきていました。自分のせいで咲和子がこんな田舎に来ることになって、罪滅ぼしをさせてほしいと申し出ます。医師免許はないけれど、運転免許があるならと、訪問看護の運転手として手伝ってもらうことになりました。

並木シズさんが救急搬送されたと連絡があります。2日後には退院しましたが、明らかに状態は悪くなっていて、死期が迫っていました。咲和子は徳三郎に「死のレクチャー」をしました。

それから5日後の早朝、シズは徳三郎に手を握られて、旅立っていきました。「シズ、シズ…」と泣いている徳三郎を見て、冷たい夫のように見えていた徳三郎は、妻の死の恐怖を前にしてうろたえていたのだと気づきました。

【CASE 2】江ノ原一誠

IT企業社長の江ノ原一誠をオフィスビル最上階の自宅に訪ねました。40歳の若さですが、ラグビーのプレイ中にけがをして手足が動かない四肢麻痺の状態になっていました。

江ノ原の希望は在宅医療で最先端の医療をしてほしいということ。お金ならいくらかかってもいいので、幹細胞治療をしてほしいと言いました。

咲和子は文献を読みあさり、つても使って、「再生医療クリニックTOYAMA」と連携を取りながら治療していくことにしました。

【CASE 3】大槻千代

新しい訪問看護者を訪れた咲和子と麻世と野呂は、まるでゴミ屋敷の自宅の浴槽の中で大槻千代さんを見つけました。聞けば一日の大半をお風呂で過ごしているとのこと。セルフ・ネグレクトでした。

娘の尚子も駆けつけてくれましたが、千代さんは常に喧嘩腰で、尚子も「この散らかった家は母の個性」だと言いました。

尚子夫婦が経営している食堂を訪問して話をしてみると、若い夫は「片付けんとダメだ」と言ってくれて、1か月お店を休んで千代の家の片付けを手伝ってくれることになりました。

千代さんが脱衣所で転び、救急車で運ばれたと連絡があります。治療を受けた千代さんは病院で大声を出して暴れまわり、鎮静剤を打たれて眠らされるようになってしましました。尚子は千代を家に連れて帰ることにしました。大好きなお風呂をリフォームして少しでも快適に過ごせるようにしたいと言いました。

お風呂のリフォーム中、尚子の家にお風呂に入りに来るようになった千代さんは「ありがたい、ありがたい」と娘に感謝の言葉を口にするようになりました。尚子とともにお風呂屋さんに行くこともありました。

お風呂のリフォームはやめて、大浴場のついたデイサービスを利用しながら、このままの生活を続けることにしました。

咲和子が帰ると、父が倒れていました。タンスの上の箱を取ろうとして椅子から落ち、大腿骨を骨折していました。

【CASE 4】宮嶋一義

父の手術の3日後、城北医大の医学部長から「ただちに上京してもらいたい」と電話があります。城北医大病院に着くと、厚生労働書統括審議官の宮嶋一義が入院する特別室に案内されました。

宮嶋の病名は膵臓癌で肺への転移も見られました。抗癌剤の効果も乏しく、郷里の金沢で在宅医療を希望していると言います。

最高の技術で最高の医療を受けてほしいと提案するスタッフと家族に反して、宮嶋は「治療はやめて、自宅で緩和ケアを受けたい」と言いました。国の財政を圧迫している医療費を削減するために”病院から在宅へ”というキャンペーンを掲げている厚生労働省の人間が、病院にしがみつく訳にはいかないというのが理由でした。

友達もなく縁もゆかりもない土地で夫の介護を完璧にしようと頑張っている妻の友里恵は、次第に弱っていく夫を見ながら、精神的にまいっている様子でした。

麻世は、介護の一時休止=レスパイト・ケアに、自分の実家の旅館に友里恵を招待したいと言いました。2泊3日、美味しい料理を食べて、近くを観光して、友里恵は元気になって帰ってきました。

友里恵がいない間に宮嶋は、片付いていない段ボールを開けて荷物の整理を始めていました。咲和子たちが訪ねた時には、よく息子と遊んだというプラレールが組み立てられていました。友里恵とも母校や思い出の場所を訪ねたりして「ここには自分の世界があった」と語りました。

宮嶋の死期が近づいてきました。息子の大樹に電話しても出てくれません。宮嶋が「だ、だい、き…」とうめくように発した声に、咲和子はとっさに野呂の手を握らせて「息子さんですよ」と声をかけます。野呂も迫真の演技で「親父!親父!」と呼び掛けました。

そこへ大樹が到着しました。部屋には縦横無尽にプラレールが組み立てられており、電車が右へ左へと走っていました。「親父、ありがとう…」大樹は宮嶋の手を握り、声にならない声で言いました。

咲和子の父は、大腿骨骨折の手術後は比較的元気にしていましたが、誤嚥性肺炎を起こしてから急激に状態が悪くなっていました。そして、さらに悪いことに脳梗塞を起こし、その後遺症で衣類や風が当たっても激痛を感じる「異痛症」に苦しめられていました。

【CASE 5】若林萌

北陸小児癌センターから在宅医療の依頼が来ました。患者は6歳の女の子・若林萌ちゃん。胎生期の腎芽細に由来する悪性の腎腫瘍でした。三次治療の抗癌剤も効果がなく、転移は全身に広がっており、余命は数週間とのことでした。

萌ちゃんの両親は、未だ娘の病状を受け入れることができず、なんとか新しい薬で治療できることを望んでいました。咲和子が、その望みがないことを告げると今度は自分を責めるという、苦しみのプロセスの真っただ中にいました。

萌ちゃんは初日から野呂にとても懐いていました。萌ちゃんは野呂に「海に行きたい」と言いました。どうしても萌ちゃんの願いを聞いてあげたくて、まほろば診療所のスタッフは何かできることはないかと探しました。

千里浜のなぎさドライブウェイは世界でも数か所しかない波打ち際まで車で行くことができる海岸です。萌ちゃんの体に万が一のことがあったら…とためらう両親に、咲和子は「特別な一日がほしいという、萌ちゃんの願いを叶えてあげませんか。」と話しました。

海に行く日は、最高のお天気でした。父親に抱かれて海に足をつける萌ちゃんはとても楽しそうでした。萌ちゃんはその3日後に亡くなりました。

【CASE 6】白石達郎

咲和子の父・達郎の病状は一向に改善することはなく、一日中痛みにうめき、まるで拷問に遭っているかのようでした。神経内科医だった父は、痛みを抑える手立てがないことを誰よりもよく知っています。

達郎は家に帰りたがっていました。在宅死を受け入れるには、家族の覚悟が不可欠だと言うことを頭では理解している咲和子でしたが、父の延命治療を辞める決断ができません。それは医療者だからなのか、娘だからなのか…。

苦悩する咲和子のところへ仙川がやってきて話します。仙川の妻は40歳の若さで乳がんで亡くなったと聞いていました。仙川は、全身に痛みが広がり呼吸もままならなくなった妻を励まし、治療を受けさせていました。家に帰りたいと懇願する妻を、一日だけ家に連れて帰った翌朝、妻は首を吊って亡くなっていたのでした。

咲和子は父を自宅に連れて帰ることにしました。まほろば診療所のみんながSTATIONで咲和子を励ます会を開いてくれました。野呂は必ず医師免許を取って戻ってくると勉強を再開することを宣言しました。

マスターの柳瀬は「苦しくてどうしようもない。」と言う咲和子に「思って行けば実現する。ゆっくり行けば到着する。」というモンゴルの格言を贈りました。

翌朝、達郎は咲和子に「そろそろ母さんのところへ行く」と言い、メモを渡しました。

ペントバルビタール2グラム点滴静注

その薬が意味するのは積極的安楽死です。

一人で抱えきれず仙川のところへ向かった咲和子。「これまで人を救うことだけを考えてきたのに、その線は越えられない…。」と言う咲和子に、仙川は1962年の名古屋高等裁判所の判決文を見せました。そこには積極的安楽死を是認しうる6つの条件が書かれていました。

咲和子が下した決断は?
モルヒネを使っても痛みをコントロールできない患者は数えきれないほどいます。父の望む処置が、痛みに苦しむ患者や家族の救いになる可能性も少なくないはず。自分が金沢に戻った意味があるとすれば、それはこの行動にあるのかもしれない…。

父との約束の朝。仙川は処置に立ち会う「第三者の医師」として、野呂は記録用のビデオを録画するために咲和子の家を訪れました。

生理食塩水でルートを確保するために、父の腕に震えながらトンボ針を刺し、鎮静剤を連結しました。あとは父がつまみをオンにすれば薬剤が静脈に流れ込みます。

「私、間違ってない?」と聞く咲和子に、父は「ありがとう」と言いました。

つまみに伸ばしかけた父の手が、ふらりと布団の上に舞い戻り小刻みに震えたかと思うと、突然だらりと垂れ下がりました。見慣れた死のプロセスをたどることなく、父は亡くなっていました。

仙川が2通の封筒を手渡します。「患者の苦痛を緩和する目的であること」「本人の真摯な嘱託・承諾があること」を証明するために、父がしたためたものでした。

しばらくして咲和子は「警察に行きます」と言いました。

自分の行為を世間に問いたいという思いでした。咲和子の中には、世間に問うことで希望を見出す人々が必ずいるはずだという確信に似た覚悟がありました。

映画『いのちの停車場』のあらすじ

白石咲和子は救命救急センターで働く医師でしたが、ある事件をきっかけに退職することになり、故郷の金沢に帰ってきます。

金沢で仙川のまほろば診療所を手伝うことになりました。まほろば診療所は在宅訪問看護をしていました。

最新の設備と技術が整った大学病院の現場と在宅医療の現場では、求められることがあまりにも違っていましたが、次第に患者だけでなく家族にも寄り添っていくことに、咲和子はやりがいを見出していきます。

【CASE 1】寺田智恵子(小池栄子)★

末期の肺癌を患いながら、自分らしく生きることを望む芸者。

【CASE 2】並木徳三郎(泉谷しげる)

妻シズを老老介護しています。家はゴミ屋敷と化し在宅医療には非協力的な態度をとり咲和子たちを困らせたりもするけれど、実は愛妻家でした。

【CASE 3】江ノ原一誠(伊勢谷友介)

骨髄損傷による四肢麻痺を、積極的に最先端の治療を受けることで回復させたいと願うIT企業の社長。江ノ原の車いすはスタンディングもできる画期的なもので、日本にはまだ5台ほどしかないのだそう。

【CASE 4】中川朋子(石田ゆり子)★

癌が再発し、まほろば診療所を頼ってくるプロの女流囲碁棋士。かつては咲和子の隣に住んでいた幼なじみです。最新の抗癌剤治療に意欲を見せて咲和子の元を去りましたが…。

【CASE 5】宮嶋一義(柳葉敏郎)

末期の膵臓癌に侵され、在宅医療を望む元高級官僚。高校卒業後に家出した息子のことだけが気がかり。

【CASE 6】若林祐子(南野陽子)

8歳の娘・萌の癌が受け入れられず、少しでも延命・治療できる方法にすがろうとする母。

萌ちゃんが看護師の麻世に「死ぬって苦しい?」って聞く場面は、こんな小さな体で”死”を覚悟している姿に涙腺崩壊します。

(★のエピソードは原作にはない映画オリジナルのエピソードです。)

そして、咲和子の父は、大腿骨骨折、誤嚥性肺炎、脳梗塞と転がり落ちるように体調を崩していき、ついには痛みがコントロールできず、苦痛にあえぐ日々を送るようになります。

あまりの苦しさから自殺を図りますが、それさえも不自由な体で成し遂げることは叶わず…。

「お父さんを楽にさせてくれ。お母さんのところへ行くよ。」そう懇願する父に、咲和子が下した決断は…。

映画の見どころと原作との違い

原作小説を読んでいるとき、何が正解なのかわからなくて、辛くて苦しい思いを感じました。

咲和子たち在宅医師のアドバイスが、すんなり届くことばかりではなくて、むしろ反発されることの方が多い現実。頭でわかっていることと、心が全く反対だった場合、どうすればいいのか…。

答はもちろん1つではないし、求めていることも人それぞれです。

でも、”死”は必ず誰にでも訪れるものだから、単にそのことを悲しむだけではなく”いのち”が一瞬でも長く輝くお手伝いができるのではないかと、”希望”を与えてくれる物語です。

咲和子を助ける看護師の星野麻世はとにかく明るく太陽のような存在です。でも原作とは違って、麻世もまた心に大きな傷を負っていました。早くに両親を亡くし、その後車の事故で姉までも亡くし、1人で甥っこの翼を育てています。

登場人物はそれぞれに心の葛藤を抱えていて、自分の価値感までもが信じられなくなるような出来事が起こりながら、懸命に支え合い懸命に生きて、希望を見つけていきます。

頭で考えることと気持ちって、ときに全く違う方向を向くんですよね。老老介護をして追い詰められた徳三郎さんは、手を煩わせる妻に「早く死んでくれ」と口走ってしまったこともありますが、実際に妻が亡くなってしまうと寂しくて寂しくて仕方がない…。

最後のシーンは人によってとらえ方が違うのではないかと思います。父の苦しみをそばで見るのも苦しい…それは事実。でも絶対に死んでほしくない…それも事実。

”死”ではなく”いのち”を扱った珠玉の物語です。

映画『いのちの停車場』視聴方法は?

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