アメリカ軍の基地から物資を盗んで人々に分け与える「戦果アギヤー」。中でも島の英雄と謳われていたオンちゃんは生還することを何よりも優先していたのに、キャンプ・カデナを襲った夜、帰ってこなかった。
オンちゃんの親友のグスクは警察官に、恋人だったヤマコは教員に、弟のレイはヤクザに。それぞれ別の道を進みながら3人はオンちゃんの行方を追い続けていた。
オンちゃんの行方の手がかりになるのは「予定外の戦果」だということはわかったが、それが一体何なのかがわからないまま月日は過ぎ去り、沖縄は日本への返還が決まった。
原作は2018年に刊行され「直木賞」「山田風太郎賞」「沖縄書店大賞」を獲得した真藤順丈さんの『宝島 HERO’s ISLAND』。『るろうに剣心』『レジェンド・バタフライ』の大友啓史監督が、戦時下から返還までの沖縄の怒りを描き切ります。
あらすじとともにネタバレを含みますのでご注意くださいね。
【主なキャスト(敬称略)】
妻夫木聡:グスク(オンちゃんの親友)
広瀬すず:ヤマコ(オンちゃんの恋人)
窪田正孝:レイ(オンちゃんの弟)
永山瑛太:オン
小説『宝島 HERO’s ISLAND』のあらすじ
沖縄にある米軍基地から物資を奪ってくる「戦果アギヤー」として活動するオンちゃんは地元の英雄だった。オンちゃんは奪ってきた物をみんなに配って回っていた。食料や衣類、医薬品はもちろんのこと、奪ってきた木材で小学校まで建ててしまった。
オンちゃん20歳、親友のグスク19歳、弟のレイ17歳の夜、沖縄中から戦果アギヤーが集まり嘉手納空軍基地(キャンプ・カデナ)を襲うことになった。いつも通り綿密な計画を立て、物資を盗むところまでは問題なかったのに、脱出という段になってアメリカ兵に追われることになってしまった。
広大なキャンプ・カデナで銃声とジープが戦果アギヤーたちを追いかける。これまで計画が露呈したことなどないのに、なぜ今回はこんなことに?
米兵が話しているのを聞くと、オンちゃんたちが侵入してきた西側ではなく、北側の金網が破られた跡が見つかったらしい。
グスクはなんとか金網から飛び出したが、失神したレイは米兵に連れていかれてしまった。そして、オンちゃんは戻ってこなかった…。「生還」を最優先に語り、きっとヤマコの元に帰ってくると約束したのに。
グスクとヤマコはコザを歩き回ってオンちゃんの情報を求めたが、何もわからなかった。レイは病院に運ばれてはいたが、退院次第拘置所に入れられることになっている。
与邦国島には「クブラ」という密貿易団が存在し、アメリカの軍事物資を大陸に横流ししていた。アメリカ政府の摘発により壊滅させられたかのように見えたクブラは、実は闇の組織として暗躍していた。
クブラは戦果アギヤーを使ってアメリカの軍事物資を盗んでくるように働かせていた。コザの人の生活が豊かになるような戦果しか盗んでこなかったオンちゃんが、キャンプ・カデナを叩くと言い出したのにはクブラが関係しているとしか思えなかった。
オンちゃんがキャンプ・カデナ襲撃前にクブラの謝花(じゃばな)ジョーと密会していたこともレイは目撃していた。
病院を退院するとレイは那覇の刑務所に入れられ、来る日も来る日も過酷な重労働を強いられた。刑務所の中で知り合った国吉さんとタイラさんはレイにたくさんの知恵と処世術を教えてくれる先生だった。
数か月経ったある日、レイはトイレに行くふりをして毎日土を運んでくるトラックの車底にしがみつき脱出を図った。
レイはジョーの女・チバナの元へと向かった。チバナが言うにはジョーは捕まって刑務所に放り込まれたらしい。レイがヤマコの家に行くと、そこには刑務所の看守たちがいて、脱獄から10時間足らずで刑務所に舞い戻ることになった。
グスクは自分も戦果アギヤーだったと自首して刑務所に入り、レイと共にジョーを探すことにした。しばらくすると反米反基地を訴える大物運動家・瀬長亀次郎が刑務所に収監されてきた。刑務所内はにわかに浮足立ち、いつ暴動が起こってもおかしくない状態となった。
獄内闘争のリーダー・タイラが懲罰房に入れられた。看守たちは厳戒態勢を敷いていたが、暴動は起こった。混乱に紛れてグスクはジョーを必死で探したが見つからない。与那国島出身の男が病舎にいることを知ったグスクはその男に会いに行った。
やせ細り今にも死にそうなジョーを見つけて、グスクとレイはオンちゃんがどこにいるのかを問いただした。ジョーは、オンちゃんが「予定外の戦果」を手に入れたことだけを伝えて息を引きとった。その後暴動は鎮圧された。
グスクは1年半の刑期を終え出所した。その後、警察学校を卒業してグスクは警察官になった。
沖縄では米兵による殺人、強姦、ひき逃げなどが横行していたが、基地内に逃げ込まれると沖縄警察には手が出せない。グスクは刑事として勝手知りたるコザの情報網を駆使して捜査にあたっていた。
グスクの活躍がアメリカ軍司令部のアーヴィン・マーシャルの目に留まり、アーヴィンはグスクにアメリカと日本の橋渡し、つまりスパイになることを求めてきた。
一方、出所したレイはジョーが死んだことを伝えにいって、そのままチバナのところで居候になっていた。戦争孤児たちの中で「山羊の目」と呼ばれているアメリカ人を父に持つと思われる少年がレイに懐き、いつもレイの後をついてくるようになった。
ヤマコは働きながら猛勉強して教員採用試験に合格し、小学校2年生の担任として働き始めた。半年経っても子どもたちをまとめることもできず自己嫌悪の日々が続いた。
学校の帰りに「山羊の目」といじめられている孤児と出会い、ヤマコは孤児たちへの読み聞かせを始めた。少しずつ教室の子どもたちとも心の距離を縮め始めたころ、ヤマコの小学校にアメリカの航空機が墜落した。ヤマコの目の前で3人の子どもが亡くなった。
心を失っていたヤマコの前に、ある日「山羊の目」の少年が現れ、初めて言葉をしゃべった。自分を指差し「ウタ」と言った。再びウタたちに読み聞かせをすることによって、ヤマコは少しずつ心を取り戻していった。
それからヤマコは反基地・本土復帰を掲げる「復帰協(沖縄県祖国復帰協議会)」の活動にのめり込んでいった。
60年代になると戦果アギヤーあがりのコザ派と喧嘩屋あがりの那覇派の抗争が激しくなっていった。レイは、コザ派の辺土名が那覇派の首領・又吉世喜とタイラを拉致したと聞き、又吉とタイラを助けにいった。
コザ派と那覇派の抗争は激しくなり、レイはコザ派から那覇派へと寝返ったとされて命を狙われることになった。又吉とレイはトカラ列島の悪石島へ身を隠すことにした。悪石島は闇の組織クブラが潜んでいるかもしれないと言われている島だ。
嵐を乗り越え悪石島に到着した又吉とレイは、人々が寝静まってから島の散策をした。山の上にあった小屋を調べているとき、又吉とレイは襲撃に遭った。クブラかと思ったが2人を襲ったのは地元の若者たちだった。
クブラが密貿易に悪石島を使っていたころ、若者たちの親は荷積みに従事していた。2度の一斉摘発でクブラも協力していた島民も逮捕され、島は壊滅状態に陥った。密貿易団と縁を切る覚悟で立て直してきたのに、再び関りをもつのはごめんだと又吉とレイを襲ったということだった。
レイはクブラが連れ去った人探しをしていると伝えた。ある老人がレイの顔を見て娘を返せと怒りをあらわにした。レイに似た顔のオンちゃんがこの島にいたのは間違いないと思われた。
摘発の混乱に紛れて悪石島を脱出しようとしたオンちゃんの船はアメリカ軍の攻撃に遭い沈んたということだ。老人の娘は脱出の手引きをして一緒に沈んだらしい。
船の残骸から見つけ出されたのは1つだけだと見せられたのは、オンちゃんが肌身離さず身に着けていた魚の歯の首飾りだった。9年かかってやっとたどり着いたのはオンちゃんの死だった。
沖縄本島に戻ったレイはヤマコに会いに行った。そこへレイの命を狙いに来た男が現れ、そばにいた国吉さんが刺された。レイはその男をめった刺しにした。
レイは取り乱すヤマコを無理矢理押し倒した。オンちゃんのことは言えなかった。
その間、グスクは拉致されていた。軍司令部の最高責任者のポール・W・キャラウェイ暗殺計画を指揮している「オンちゃん」と呼ばれる男の居場所を教えろと拷問を受けたが、オンちゃんの居場所がわかるならこっちが聞きたいくらいだった。
4日もの拷問からやっと脱出して、グスクはチバナからオンちゃんが何年も前に亡くなっていたことを聞かされた。アーヴィングの通訳・小松によると、グスクを襲ったのは米国第一主義者のダニー岸と呼ばれる男らしい。
オンちゃん亡き今となってはレイが何をしでかすかわからない。キャラウェイ暗殺計画にも加担している可能性が高い。グスクはレイを探したが、オンちゃんが亡くなっていたという噂が広まり開かれた別れの儀式にもレイは現れなかった。
オンちゃんの「島葬」の最終日、キャラウェイが襲われそうになったが、すんでのところで武装集団は逮捕されたとの一報が入った。グスクは違和感しか感じなかった。
計画がそんなに簡単な訳がない。解決したと見せかけて油断したときに襲撃すると読んだグスクは、酒宴で盛り上がっているキャラウェイの元へと向かった。
暗殺者たちはハーバービュークラブのスタッフとして働きながら機会をうかがっていた。憲兵とグスクたち沖縄警察に囲まれ、暗殺計部隊は制圧されたが、そこにレイの姿はなかった。
1960年代後半になると「本土復帰」「戦争反対」を叫ぶシュプレヒコールはどんどん大きくなっていった。グスクはサチコという女性と結婚していたが相変わらず忙しくなかなか家に帰ることもままならなかった。
そんな中「おれは帰りついた」という謎の手紙がグスクの元に届いた。オンちゃんのはずがない。誰かのいたずらなのか?
クリスマスにはウタのいる施設をはじめとするコザのあちこちにかつての”戦果”を思わせるプレゼントが届いた。ヤマコ宛ての手紙には「生還の前祝い」との文字があった。レイのしわざなのか?
アーヴィンの友人(スパイ)が謎の死を遂げていることを調べているグスクは、又吉を訪ねた。又吉が言うには辺土名がコザ派から分裂して武闘集団をつくり麻薬を売りさばいているということだ。
島の教員の政治活動を制限する2法案が提出され、デモはさらに激化していった。デモに紛れ込んで妨害工作を図ることで稼いでいる辺土名が現れると踏んで、グスクは張っていた。
予想通り現れた辺土名を、グスクは警察ではなくコザ派の親分・喜舎場朝信と那覇派のドン・又吉が待つ倉庫へと連れていった。辺土名はキャンプ・カデナから木箱を抱えて出てきたオンちゃんをクブラに引き渡したことを認めた。アーヴィンの友人を始末したのも辺土名だった。
そして辺土名はさらに、麻薬の売買を仕切っている黒幕は伝説の英雄だと言った。
2年もすると謎の”戦果”は沖縄中に届けられるようになっていた。そしてある日「ガスマスク」が届けられた。同じころ、グスクは基地で毒ガスが漏れる事故があったという情報を掴んだ。
グスクが地元の記者に情報を流そうとしたところ、アーヴィンに止められた。それを断ると、翌日には琉球警察にグスクの席は無くなっていた。
沖縄に毒ガスが持ち込まれていたこと、また日本政府がそれを認識していたことが報道されると、アメリカと日本政府への怒りからデモは激化していったが、沖縄の本土復帰は着実に進められていった。
沖縄返還に向けた佐藤栄作とリチャード・ニクソンの首脳会談の中継を見るために、グスクと国吉さんは復帰協本部に向かった。
同じ時、ウタに懐いていたキヨが母親と共に遺体で発見された。施設に預けられていたキヨを母親が引き取っていたが…無理心中だった。
キヨが亡くなってからのウタはさらに扱いにくくなった。ヤマコはウタと話がしたいと思ったが、ウタは拒絶して逃げていく。逃げるウタを追いかけていくと宜野座に向かっているようだった。キヨの日記にもウタと宜野座に行っていたことが書かれていた。ウタの秘密が宜野座にあるということなのか。
ウタは原生林の中の洞窟へと入っていった。もしかしたら銃器類が集められている隠れ武器庫かもしれないと思い、ヤマコは改めてグスクと一緒に訪れようと思った。
職を失ったグスクは私立探偵事務所を開いていた。探偵の仕事をしながら沖縄中に届く謎の”戦果”について調べていた。こうなったら相手をおびき出すしかないと考え「グスクは危険」という噂を流した。
エサに食いついたのは予想外の人物だった。小松とダニー岸がグスクの前に現れ、ダニー岸は親戚の家に避難させていたはずの妻・サチコを連れていた。
ダニー岸がサチコの首を絞めようとしたとき国吉さんがダニー岸を撃った。国吉さんが言うには小松こそがダニー岸だと…。”ダニー岸”とはアメリカの利益のために働く日本人の総称のことだった。ダニー岸はオンちゃんがある時期まで島にいた証拠があると言った。
コザではまた飲酒運転の米兵による人身事故が起こっていた。これまでも米兵による人身事故や強姦、殺人に裁きが下されることがなかった。人々の不満は頂点に達し、暴動が起こり始めていた。
その中でキャンプ・カデナの金網を越えようとしている武装集団がいた。グスクは集団の中にオンちゃんを見た気がして後を追った。オンちゃんだと思った男はレイだった。
グスクはレイにタックルして背中に背負っているものを奪った。レイは中身は「VXガス」だと言った。毒ガスが漏れた事故と思われていたのは、レイたちがVXガスを狙って弾薬庫を襲ったもので、化学者を誘拐してVXガスを新たに合成させていたのだった。
レイは大陸に渡り、ベトナムで麻薬農家と手を組んで荒稼ぎし、ありったけの武器を買い込み、”戦果アギヤー”結社を作っていた。米軍から奪うのは沖縄の主権。
レイとグスクは侵入に気付いた米軍に囲まれた。突然、銃声が響き米軍の1人が撃たれた。見るとウタがライフルを構えていた。ウタがアーヴィンにむけて発砲するや、銃弾の嵐がウタを襲った。
又吉の仲間たちがジープでキャンプに突っ込み、レイたちとウタの遺体をキャンプから連れ出した。ヤマコとグスクとレイは、ウタの遺体をウタの秘密が眠る宜野座の洞窟へ運んだ。
洞窟の中には子どものおもちゃや毛布、衣類などがあった。ウタは私設に入る前、この洞窟で生活していたのだった。
20年前、戦果アギヤーがキャンプ・カデナを襲った夜、一人の女性が金網を破って基地に入り、キャンプ・カデナ内にあるウタキ(神聖な場所)で子どもを出産した。その子どもの父親は米軍の地位の高い人物だったために箝口令が敷かれた。
オンちゃんはキャンプ・カデナから逃げる途中で生まれたばかりの赤ん坊を見つけ、その子を連れて脱出したのだ。その子こそがウタだった。
悪石島でクブラの手伝いをさせられながらオンちゃんはウタを育てていた。そしてクブラの摘発のどさくさに紛れて脱出し、沖縄本島に戻ってきていたのだ。
洞窟を奥に進むと、人の骨が安置されていた。オンちゃんだった。
1972年、沖縄は日本に返還された。
映画の見どころと原作との違い
登場人物こそ架空の人物ですが、物語に描かれている戦果アギヤー、戦闘機の小学校墜落、米兵による死亡事故の無罪判決、コザ派と那覇派の闘争、コザ暴動…全て歴史上の事実です。
私達は沖縄についてあまりにも知らないことが多すぎると改めて感じさせてくれる物語です。その「怒り」がこの物語の原動力になっているのだとも。
沖縄の「怒り」は、沖縄の人を「人」として扱わなかったアメリカの基地に対してはもちろんですが、沖縄地上戦では集団自決を促した日本軍、基地を沖縄に押し付けて知らんぷりを決め込む日本政府にも向けられています。
生き証人はほとんどいなくなっているのですから、戦後80年を迎える2025年にこの映画が封切られることには大きな意味があると思います。
基地が舞台になるため映画は日米共同製作で作られています。大友啓史監督の本気度がうかがえますね。
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