映画『本心』原作小説のあらすじとネタバレ

格差は開き、自ら命の終わりを決める「自由死」が合法化されている2040年の近未来の日本。

朔也に看取られる「自由死」を望んだ母は結局交通事故で亡くなってしまい、母の本心を推し量ることができなかった朔也は母のヴァーチャルフィギュアを作ることにした。

母の「本心」を知りたくて、母と関係があった人たちと連絡を取り、少しずつ心の隙間を埋めていく朔也。やがて朔也は母の過去と出自の秘密を知ることとなり…。

愛に過去は必要なのかを問うた『ある男』の平野啓一郎さんが、再び愛と命を問う壮大な物語を書きあげました。

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『本心』のあらすじ

突然の事故で母を亡くして半年後、29歳になった石川朔也は母のVF(ヴァーチャルフィギュア)を作ることにした。

仮想空間の中に存在する母は、写真や動画、過去の日記、メール、家族や友人との会話などのデータを元に作られる。ヘッドセットを装着すると、そこにまるで本物の母がいるかのように会話もできる。

VFと言っても見た目の完成度は高くAIが会話によって学習していくため、実際の目の前の生身の人間と会話しているかのように感じることができるのだ。

朔也はリアル・アバターとして6年ほど働いている。リアル・アバターとは病気や高齢で動けない人の代わりに、朔也がカメラ付きのゴーグルで見ている映像をそのまま依頼者にヘッドセットを通して体感してもらうサービスのことだ。

朔也の仕事を見てみたいと母が依頼者となり、朔也が河津七滝へ行った時、母は「自由死」を望んでいることを朔也に告げた。「自由死」とは安楽死のことであり合法的な自死のことだ。

理由を聞くと「もう十分に生きたから」「朔也と一緒にいるときに死にたい」としか答えなかった。

朔也は大反対していたが、結局母は朔也が上海に出張している間に事故で亡くなってしまった。朔也と一緒にいるときに、朔也に看取られて死にたいと願った母の願いを叶えてあげることができなかった。

事実婚だった父とは朔也が生まれて3年後に関係を解消していたため、朔也は父のことは何も知らなかった。最後は旅館の下働きという低賃金労働者として働いていた母。「もう十分」という言葉は朔也のお荷物になりたくないという意味だったのだろうか。

完成したVFは亡くなる4年前に設定した。VFの母に思わず「自由死」について聞いたみたことがあったけど、当然データとして入力されていないので母らしい明確な答は得られなかった。

朔也は母に「自由死」の認可を与えたかかりつけ医の富田医師と会うことにした。

富田医師は「自由死」は母が自分から望んだことであり母の気持ちは理解できると言った。結局、なぜ母がそれを望んだのかの本心はわからなかった。

次に、朔也は母の職場の同僚で母と仲が良かった三好彩花に連絡を取った。朔也より2歳年上という三好は母から「自由死」のことを聞いていたようで、母が70歳を目前にして給料が下がったことや朔也の将来を心配していたことを語った。

三好はかつては売春をして生計を立てていたことも朔也に話した。朔也が高校2年生の時に、生活費を稼ぐために売春をしていた女の子の退学処分に対する抗議行動の結果退学したことを母から聞いていたようだ。

三好はまた、母が朔也に見せていた写真の父は本当の父ではないことや、作家の藤原亮治と個人的な付き合いがあったことなども話していくれた。

リアル・アバターの同僚だった岸谷が逮捕された。前大臣を爆薬を搭載したドローンが襲撃するというテロ事件が起き、幸い爆薬は爆発せず未遂に終わったが、そのドローンを現場近くまで運んだのが岸谷ということだった。

岸谷と親しくメッセージのやり取りをしていたため、朔也も警察から取り調べを受けた。さらに悪いことに、岸谷と親しかったというだけで会社は朔也に対して冷淡な態度をとるようになっていった。

三好が住んでいたアパートが台風で被災し避難所生活をしていることを知ると、朔也は三好に母の部屋で生活することを提案した。三好は過去のトラウマで「セックス恐怖症」であること、友達としてのハグさえも無理だということを朔也に告げた。

朔也は三好を傷つけるようなことはしないと約束し、三好はいくらかの家賃を支払って朔也の家でルームシェアすることになった。

仕事で依頼者からリアル・アバターは何でもやるのかを面白半分で試され、暑さのせいもあってブチ切れた朔也は依頼者の声を無視してコンビニに入った。

コンビニでは男性客が東南アジア系の女性店員に執拗に難癖をつけていた。朔也は男に「やめろ」と叫んで前に立ちはだかった。男に突き飛ばされた朔也はこんな男は殺してもいいんじゃないかとさえ思えた。会社から業務停止を通告され、朔也は事実上の無職となった。

朔也は都心のビルの古紙回収をし、母のVFは介護施設入所者の話し相手になるという仕事が舞い込み、何とか生計を立てていた。

リアル・アバター登録会社から連絡が来て、朔也は口座に300万円ものお金が振り込まれていることを知った。朔也がコンビニで男に対して取った態度を誰かが録画していてネット上で拡散されたらしい。

動画は100万回以上再生されており、朔也の勇敢な態度には称賛の声が集まっていた。ネット上の投げ銭システムで朔也には世界中からお金が振り込まれていた。

その中で200万円もの大金を振り込んでくれたアバター・デザイナーの<あの時、もし跳べたなら>という名前の人物は、朔也の行動を絶賛していた。朔也は知らなかったが<あの時、もし跳べたなら>は通称イフィーと呼ばれており年収は5億円とも噂される超有名人だった。

朔也はイフィーと会うことになった。イフィー(本名:鈴木流以)は子どもの頃に交通事故に遭い下半身不随のため車椅子生活を余儀なくされている、現在19歳の若者だった。

朔也のことを気に入ったイフィーは朔也を専属契約にしたいと申し出た。朔也は悩んだ末に受けることにした。

クリスマスにはイフィーがパーティーを開いてくれて、朔也は三好も連れていった。イフィーは三好とも気が合ったようだ。3人で外出してみることもあった。

イフィーは三好のことを女性として意識しているようで、朔也には特別な感情はないのかと何度も尋ねた。正直、三好に対して特別な感情がないわけではなかったが、朔也にとってはイフィーも三好も大切な人なので、身を引くことにした。

朔也と三好の2人でイフィーの20歳の誕生日プレゼントを買いに行く約束をしていた日、朔也はイフィーのリアル・アバターとなって三好との待ち合わせの場所に向かった。

サプライズプレゼントにするはずが、結局イフィー本人に選んでもらう形でプレゼントを決めた。帰り道、イフィーは感情を抑えきれず、朔也を通して三好に気持ちを伝えてしまった。

朔也は藤原亮治にメールを書き、母が亡くなったことを報告した。藤原から丁寧な返事が来ると、朔也は思い切って会って話がしたいと申し出てみた。

藤原に母との関係を聞いてみると、8年くらい母とつきあっていたと教えてくれた。藤原がもしかしたら父親なのではないかと考えていた朔也に、藤原は衝撃的な事実を教えてくれた。

母が一緒に生活をしていたのは父ではなく女性だったこと。子どもがほしかった母は見ず知らずの第三者から精子の提供を受けて朔也を妊娠したこと。朔也を出産する直前に同居していた女性はいなくなってしまったこと…。

藤原は「自由死」については母よりむしろ自分の方が願望的に語っていたことを話した。

三好はイフィーと付き合うことになったと言って朔也の家から出ていった。三好はまだ悩んでいるようだったがきっと2人はうまくいくと思っている。

母のVFと自分の出生の秘密の話をした後、朔也は操作画面を開いて母のVFを消した。

朔也の転機となったコンビニの女性店員にも会ってみた。ティリ・シン・タンというミャンマー人二世で言葉の理解に不自由があるようだった。

朔也は自分がやりたいことがやっと見つかった気がした。大学に行って福祉の勉強がしたい。そしてイフィーと対等な立場で仕事がしたい。貯金は進学のために使おうと思っている。

映画の見どころと原作との違い

自分は「自由死」が推奨されるどんどん広がっていく格差社会、ヴァーチャルフィギュアやリアル・アバターというサービスが存在する近未来の日本。これ映像で見せられたら、実際にありそうってもっと身近でリアルに感じてしまうんじゃないかな。

そんな社会、実際にはあんまり来てほしくはないなぁと私は感じてしまいましたが…。

自分は一体何者なのか。大切な人にとってどういう存在なのか。誰でも一度は考えたことがある永遠のテーマなのかもしれません。

『ある男』でもそうでしたが、わからないことがあると知りたいと思ってしまうのは当然の欲求なのですが、知ってしまった後に知らない方が良かったのかもしれないと思ってしまう…、なかなかに理不尽で切ない人間の性ですね。

「本心」なんて必ずしも語る必要も知る必要もないんじゃないかな。

重いテーマを何重にも重ねた物語なので最初は読むのがしんどいのかなぁと感じましたが、読後感はかなり爽やかです。立ち止まった人が再び歩き出すまでの過程がとても丁寧で優しい言葉で描かれています。

裕福な人にも貧しい人にも平等に訪れる「死」。その事実を大切な人とどのように受け止めるのかを話すことは、決してタブーなどではなくとても大切なことなのだと感じさせてくれる、素敵な物語でした。

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