『あの頃。男子かしまし物語』劔樹人の自伝的コミックエッセイ

松坂桃李さんが劔樹人さん役で主演することになって、話題沸騰中の映画『あの頃。』

原作は、くだらなく愛おしい青春の日々を描いた劔樹人さんの自伝的コミックエッセイです。

モーニング娘。を代表するハロー!プロジェクトのアイドルにのめり込むヲタクたちの青春!それはまばゆいばかりにキラキラしていて、笑顔の絶えない輝かしい日々でした!

人間も器も小さいのに態度と性欲だけはでかいコツリン、いじられキャラのイトウ、そのイトウさんをいじり倒すロビ前田先輩、ハロプロを取ったら借金しか残らない西野、笑顔で不謹慎なことを言うナカウチ…とにかく濃すぎる面々による、濃すぎるエピソードが満載(笑)

金無し彼女なしの”底辺”生活であったにもかかわらず、毎日が楽しくて、こんな日がいつまでも続けばいいと思っていた「あの頃」の大阪・阿倍野での生活は人生の宝物。

悲しい別れもあったけれど、「あの頃」があったから今の自分があると思える、なぜか読めばほっこりしてしまうエッセイです。

ベーシストでもあり漫画家でもあり、エッセイスト犬山紙子さんの夫でもある劔樹人さんってこんな方です↓

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ハロプロって?

「ハロー!プロジェクト」略してハロプロ。

主につんく♂さんがプロデュースした女性アイドルタレントの総称として使われている言葉ですね。一番有名なのは今でも活躍しているモーニング娘。

2000年代の初めの頃は確実に日本の音楽界を席巻してましたよ。「恋愛レボリューション」なんて聴いたことない人いないんじゃない?今でも歌い継がれている名曲中の名曲です!

アンジュルムや、かつてのココナッツ娘。、Berryz工房、カントリー娘。なんかもハロプロです。

劔さんがハマったのは、ソロで活躍していた”あやや”こと松浦亜弥さん。15歳でこのアイドル性というかカリスマ性は、はっきり言って神がかってました!ここまでのアイドルってその後現れてない気がする…。

日記みたいな…あらすじみたいな…

大学院入試に失敗してバンドに全力投球するはずが、バンドも鳴かず飛ばず…。時間もない、彼女もない、お金もない…楽しいことなんて何もない毎日。

暗い部屋の中で早川義夫さんの「サルビアの花」を聴きながら固まっている劔の姿を、たまたま訪ねてきた友人が見てしまい「これはヤバい…」とCD-Rを差し入れてくれました。

そのCD-Rに収められていたのは、アイドルたちのPV。中でも劔のハートを捕らえて離さなかったのは、あやや(松浦亜弥)の「♡桃色片想い♡」「Yeah!めっちゃホリデイ」

とめどなく流れる涙を止めることもできず、生気を得た劔はヲタ活人生をまっしぐらに歩み始めるのでした!

もしかしたら仲間に出会えるかも…と何気なしに出かけたハロプロのトークイベントで、遅れた青春を謳歌する30前後のヲタ達に出会い、劔もまた青春を謳歌し始めます。

それは「どうかしていた」としか思えないくだらなく愛おしい日々なのでした。

いつも集まるのは阿倍野にあるイトウさんの部屋。イトウさんをいじることに喜びを見出しているロビ前田先輩は、イトウさんの真下の部屋に住んでいました。

ある日、大学の後輩から、大学祭で「モーニング娘。」を題材にしたイベントを企画したいと相談された劔。3時間ほどの自由な企画を任されたハロヲタたちが張りきらない訳がない。

「ハロプロあべの支部」の中心的存在、西野さんのリーダーシップによるイベントは、一般人には「気持ち悪い」としかとらえられない、まさに「ヲタク」全開!

エンディングでは、西野さんの声かけで集まったヲタ達が、後藤真希の「スクランブル」に合わせて踊り始めた”ヲタ芸”に、女子大生たちが逃げ惑うという大惨事に発展したのでした。

劔は、ヲタ仲間のコツリンとロビ先輩と共に、AV女優のサイン会に出かけていくこともありました。金無しの3人はAV女優とツーショット写真を撮ってもらうために、なけなしの金でDVDを買うのでした。

仕事とアイドルのコンサート、AV女優のイベント通いだけで過ぎていく劔の日々に、ある日突然、天使が舞い降りてきました。大学の音楽サークルの後輩のYちゃんが「モー娘。のコンサート、今度私も連れて行ってくださいよ。」というではありませんか!

社交辞令かなとも思いながら、あややのコンサートのチケットが取れたので誘ってみると…「ぜひ行きたいです」との返事が!!

千載一遇のチャンスを逃してなるものかと意気込む劔。しかーし!当日「お腹が痛いので行けません」と、まさかのドタキャン。チケットをダフ屋に売るも、開演直前だからと500円に値切られ、そのチケットを買って隣の席にやってきたのは、いかついおっさんでした。

隣のおっさんのことも忘れてコンサートは存分に楽しんだものの、急に現実に戻って、隣のおっさんに「おじさんはいったい誰なんですか」と尋ねてみました。

返ってきた返事は「僕はね20年後の君だよ」という衝撃的な言葉。

楽しいからいいかと思っていたけれど、これから20年ずっとこんな生活でいいのだろうか…どうなるんだ僕の人生!と、コツリンの作ったシチューを食べながらちょっとだけ涙を流した夜でした。

Berryz工房のミニライブ&握手会に参加した帰り道、とにかくもてない男たちの足の引っ張りあいに命を懸けていたヲタたちは、Yちゃんのバイト先の喫茶店に行こうと言い出しました。

タチの悪い圧力団体のような30男たちをいっぱい連れてきた劔をYちゃんはどう思ったのか…。結局、劔には一瞥もくれず、はかない恋は終わりを告げたのでした。

その日は突然やってきました。「松浦亜弥ファンクラブ限定握手会、当選のお知らせ」が劔の元に届きます。まさか、こんな奇跡の日が訪れようとは…!

意気揚々と出かけたものの、心の準備は全くできず、気が付けばあややはすぐ目の前に!

これまで何度もAV女優の握手会に参加してきたけれど、いつも伏し目で彼女たちを直視できなかった劔。「自分に負けてたまるか!」とあややの目を見て「ずっと応援しています!頑張ってください!」が言えました。

「ありがとうございます」と答えるあややの眩しすぎる輝きに、完全にやられて狂わされたしまった劔は、それからしばらく仲間たちも怖がるくらい壊れていました。(笑)

あややのコンサートで、隣のおっさんに言われた一言が忘れられず、モヤモヤしていた劔。モーニング娘。おとめ組のDVDを見ていたある日の晩。飯田圭織が発した「恋愛研究会」という言葉にビビビッときて、仲間たちと「恋愛研究会。」というヒップホップグループを立ち上げることにしました。

早々とライブハウスを押さえ、そろいのTシャツにキャップを作り、ライブ始まりに流す映像まで作ったというのに、その後誰も何の準備もすることなく、ライブ当日を迎えました。

始まり数秒だけ音を出し早々と楽器を置いたメンバーが始めたのは、あろうことか大喜利。適当なことをやり続けて、最後に唯一練習してきた曲を演奏しました。

その曲は「恋愛研究会。」にとってなくてはならないモーニング娘。の隠れた名曲「恋ING」でした。

初ライブに続くステージでも楽器を演奏することなく、飲み屋やイトウさん家でやっていることの延長みたいなことをやっていた「恋愛研究会。」ですが、一部の人たちに受け、あちこちのイベントに呼ばれるようになっていきました。

ネット上での嫌がらせをまともに受けて立ったコツリンがmixiを見事に炎上させるような事件もありましたが、恋愛研究会。は健在です。

恋愛研究会。のギター担当Rくんの甲斐性のなさを、彼女のNちゃんはよりにもよってコツリンによく相談していました。Rくんと喧嘩して落ち込んだNちゃんがコツリンに電話すると、このチャンスを逃してなるものかと、コツリンは仕事をさぼり、営業車でNちゃんの元に駆け付けました。

相談にのる風を装いながら、とにかくスケベな展開へと持ち込もうとするコツリン。雰囲気で押し切りNちゃんとチューをするに至りました。

それを「誰にも言うな」と言いながら自らが言いまわっているコツリンを、恋愛研究会。はイベントとして公開処刑することにしました。

最近調子に乗っている劔を検証する「ツルギ裁判」という偽の企画の後、「ちょっと待ったー!ほんまに裁かれんとあかん奴がおる!コツリ出てこいっ!」とRくんに呼び出されたコツリン。

2度の土下座の後、Rくんとコツリンのディープキスでフィナーレへ…と思ったら、なぜか西野さんが「夢芝居」を熱唱して、もはやどうでもいい雰囲気でイベントは終了しました。この時、だいたいのことは笑ってしまえばどうにかなるという恋愛研究会。の空気が確固たるものになってしまったのは言うまでもありません。

楽しい毎日を送っていたはずの劔。突如としておこった職場での人間関係のもつれから、まさかの夜逃げをすることになりました。

仕事もバンド活動も辞めて、日雇いのおっさんたちに紛れて過ごす毎日。心が壊れそうな日々を救ってくれたのも仲間たちでした。

夜逃げ生活は1か月半ほどで終わり、再就職を果たし無事に平穏な生活を取り戻した劔のもとに、Rくんと別れたNちゃんから電話がありました。

Rくんが失恋のショックから発狂し、Nちゃんの家に立てこもったと言うのです。そして「僕をベランダから突き落として殺せ。君はその罪の意識を一生背負って生きてゆけ。」などという、とんでもない要求を突き付けていると言います。

慌てた劔はNちゃんの家に駆け付けようと思いましたが、Nちゃんの家の場所を知らないし、なんせお金がなくて数百円の電車賃も持ち合わせていません。劔は片っ端から友人たちに電話をかけまくりました。

ヒロポンさんからお金を借りて、一緒にNちゃんちに向かうと仲間たちも集まってきました。西野さんは趣味で持っていたSWATの衣装で乗り込んできたもんだから、完全におふざけモードに。

それを見てRくんは我に返ったようで、集まったみんなは2人を残して帰ることにしました。帰りながら話したのは2人の心配ではなく「Nちゃんの部屋着姿よかったな~」ということでした。

時が流れて、時々は集まってくだらない話にバカ笑いすることもあったけれど、それぞれの立場も変わっていきました。

西野さんはアイドルへの熱が冷めクイズに熱中し始め、ロビ先輩は仕事が安定し彼女との結婚に向けて動き始めていました。コツリンはというと仲間たちから少し距離を置いて、釣りをしたりPerfumeの現場に通うようになっていました。

劔は、ようやくできた大切な彼女の東京転勤が突然決まり、彼女以上に優先するものなんてないから~と、仕事や生活のあてもないまま彼女に付いて上京することにしました。28歳の夏のことでした。

渋谷のライブハウスでバイトを始め、東京での生活に少しずつ慣れたころ、コツリンが肺がんになりました…。

このことがきっかけで再び連絡を取り合うようになった仲間たちは、昔と同じように不謹慎とも思えるようなエールをコツリンに送り、コツリン自身も手術の前日に風俗に通うという相変わらずな日々を過ごしていました。

手術を無事に終えたコツリンを迎えて行った恋愛研究会。のイベントは「コツリン生前葬」。自身の肺がんという病気をも笑いに変え、苦しい抗癌剤治療もPerfumeのライブに行きたい一心で乗り越えてきたコツリン。

しかし、数か月後、がんの骨への転移が発見されました。そんなときでも前向きなのがコツリン!「DJ末期がん」という名前でDJ活動を始め、アイドルのライブに通い、どうでもいいことでネットを炎上させていました。

久々に東京でも恋愛研究会。のイベントを行うことができましたが、実はコツリンの状況は悪化の一途をたどっていました。しかしそこはコツリン!脳腫瘍が発見され脳への放射線治療が始まり体調が悪いにも関わらず、なんとこのタイミングでTwitterを始めました。

ロックバンド「神聖かまってちゃん」のマネージャーの仕事が軌道に乗ってきて忙しくしていた劔は、Twitterでコツリンの様子を見ているだけでしたが、大阪でのライブが決まり、コツリンの見舞いに行けることになりました。

Twitterでいくら具合が悪いと書いていても、いつもの軽いノリから安易に受け止めていましたが、そこにいたコツリンはもはや見る影もない姿に変わってしまっていました。

がんは体中のあちこちにできており、動くことも話すこともままならない様子でした。ショックでした…。

一時は危篤に陥ったものの、奇跡的に復活したのもつかの間、コツリンはついに意識不明の状態になってしまいました。取材を放り出して大阪へ向かおうとしていた劔に「コツリンが息を引き取った」と連絡がありました…。コツリン37歳の春のことでした。

コツリンのお通夜に出席するため大阪に向かった劔。顔を見たらまた泣いてしまうのではないかと思いながら棺桶をのぞくと、コツリンの顔の両側に納められていたのは、なんとエロい巨乳美少女のフィギュアでした。その夜、仲間たちはいつものようにコツリンの話で盛り上がり笑いあったのでした。

数か月後、東京で「コツリン追悼イベント」をすることになった恋愛研究会。当然しんみりした雰囲気になどなるはずもなく、故人が聞いたら絶対に怒るであろう生前のエピソードに加え、コツリンがよく指名していた風俗店の女性による証言という、生きている人間でも死にたくなるような、笑いに満ちたイベントとなりました。

どんな不謹慎なことでも笑い飛ばしてきた恋愛研究会。の良いところでもあり悪いところでもある持ち味が、存分に発揮されたイベントでした。ただ、みんなより先に死ぬとえらい目に遭うことだけは充分に証明されましたが…。

あれから数年。仲間たちはみんな、新しい仕事を持ったり結婚したり…と、それぞれの道を歩き出しました。劔はもちろん今が人生で一番楽しいと胸を張って言うことができますが、愛しい「あの頃」をときどき思い出すのでした。

エッセイを読んだ感想

劔さんによる、実にくだらなくて愛おしい日々を描いたコミックエッセイ。

決してデフォルメされているわけではないのに、伝えたいことだけが直で伝わってくるような、味のある、いい意味で「うまい」漫画と、エッセイがミックスされたおもしろい本でした!(↓の電子書籍で試し読みできるので、ぜひ読んでみて!)

読めば読むほど、いや~ほんとにくだらないけど愛おしい日々というのが、心に染みわたってきますよ。

劔さんの場合、それがあややを代表するハロプロだったんですけど、多かれ少なかれきっと誰にでも、なんであんなことにあんなに夢中になっていたんだろうと思えるようなことの1つや2つはあるはず。

若いからできたんですかねぇ。あの頃つぎこんだお金をちゃんと残していたら、もっと楽な生活ができていたんだろうけど…、あの頃はそれ以上大事なものなんてなかったんだよねぇ。うんうん。

私はバンド活動をやっていたので、大好きだったグループを追いかけまわしてましたよねぇ。今から思えば、昼夜関係なく活動していたあのエネルギーとお金は一体どこから湧いて出てきてたんだろう??

消しゴムで綺麗に消したいくらいの黒歴史もゴロゴロ転がってるのが「あの頃」

かつてのメンバーとは今でも一応SNSで繋がってはいるけど、みんな日本全国に散らばっちゃって、それぞれ家族もあって、今では話をすることも無くなっちゃったな。また会いたいな。

でもきっと会ったら、黒歴史の暴露し合いになるんだろうな。こういうのって、本人覚えてないけど他人が覚えてるっていう爆弾が必ず暴発するに決まってるからなぁ。リアルコツリン怖すぎる…。やっぱり集まるのはやめておこう…。

くだらなくも愛おしいエッセイを読んで、くだらない思考がぐるぐる回り始めたのでした!(笑)

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