終末期の患者ばかりが狙われる連続不審死事件。そこには「ドクター・デス」と名乗る謎の医者が存在していた。
被害者の家族は苦痛から家族を解き放ってくれた「ドクター・デス」にむしろ感謝の気持ちを抱いている。「ドクター・デス」とは果たして殺人犯なのか?救いの神なのか?
原作は”どんでん返しの帝王”の異名を持つ中山七里さんのサスペンス。刑事犬養隼人シリーズの第4作目。今回のテーマは「尊厳死」「安楽死」。実に重い。重すぎる…。
原作小説と映画では後半部分の趣が大きく異なります。どちらも終わった後にずーんと心に重たいものが残るのは変わらないのですが…。
〈ドクター・デス〉は実在した人物です。末期患者の「死ぬ権利」を支持し、130人もの安楽死に関わったとされています。
【主なキャスト(敬称略)】
綾野剛:犬養隼人
北川景子:高千穂明日香
木村佳乃:雛森めぐみ
小説『ドクター・デスの遺産』のあらすじ
「悪いお医者さんが来て、お父さんを殺しちゃったんだよ。」という子どもからの一本の通報を発端に、これまで闇に隠れていた「安楽死」という連続殺人事件を追うことになった警視庁捜査一課の刑事、犬養隼人と高千穂明日香。
少年の父・馬籠健一は肺がんで自宅療養中のところ、心不全で亡くなったとのことでした。息子が言うには、1人目のお医者さんが来て注射をしたら、お父さんは急に静かになって、息を引き取ったとのこと。
遺体を引き取り司法解剖をした結果、血中のカリウム濃度が異様に高いという、かつて東海大学医学部付属病院で発生した安楽死事件の患者死亡時のデータと瓜二つでした。
妻を問い詰めると「営利目的ではなく〈死ぬ権利〉を主張し、積極的安楽死を推進するために活動している」とうたった【ドクター・デスの往診室】というサイトが存在し、サイトを通じて「ドクター・デス」に安楽死を依頼したことを認めました。
【ドクター・デスの往診室】のサイトにコメント欄に書き込みをした人物に地道に聞き込みをし、ドクター・デスの人相を特定しようとします。みんな口をそろえて言うのが「頭のてっぺんが禿げていて、背が低く、印象に残らない顔」だということ。
そして、実際に安楽死をお願いした家族は、苦しむ家族を安らかに眠らせてくれたことに、むしろ感謝しているような口ぶりなのでした。
顔も名前もわからないとあっては犯人の特定のしようがありません。犬養は禁断の手段に出ます。
犬養の一人娘・沙耶香は重度の腎臓病で入院していました。沙耶香をおとりに使おうというのです。しかし、娘に万が一のことがあってはいけないので、仮名で別病院におびき出すという計画を実行しました。
ドクター・デスとの約束の時間警察の包囲網は強固なものでしたが、ドクター・デスは現れませんでした。
しかし、沙耶香の元には塩化カリウム製剤の点滴バッグが届けられていました。
ドクター・デスの存在が世間に公表されてからは「ドクター・デスに安楽死させられた人がいる」という通報があり、またしても安楽死が遂行されていました。
ここでも「ドクター・デスの顔は印象が薄くてあまり覚えていない」と言われますが、同伴の看護師は個性のある顔立ちだったとの供述を得ます。
似顔絵から雛森めぐみという看護師を特定します。
雛森めぐみは「ダクター・デスの目的は知らなかった。抗がん剤の一種を注射していると思っていた。」と語り、その医者の名前は「寺町亘輝」だと言いました。
名前がわかったところで捜査に進展はなく、こう着状態が続いていましたが、鑑識課から有力な情報がもたらされました。ドクター・デスが足を踏み入れた場所から採取された土の中からは「凝灰質粘土の土と風化した藻」が含まれていることがわかりました。
その土質に該当する場所は3か所。ホームレスがテント村を形成している河川敷でした。
捜査員をNPO職員に潜入させ、テント村の様子を録画し、「寺町亘輝」らしき人物がいないか精査したところ、それらしき人物が見つかります。警察は慎重に包囲網を敷き、「寺町亘輝」を確保しました。
原作とは異なる映画の結末は?
ここから先はネタバレを含みます。映画の後半は原作とだいぶ違います
実在した「ドクター・デス」
アメリカのジャック・ケヴォーキアンという病理学者は、末期患者の「死ぬ権利」を支持し、130人もの患者の安楽死に関わったとされています。
「ドクター・デス」という呼び方は、彼自身が使っていたわけではなく、メディアで付けられた名前です。
彼は自作の自殺装置を開発し、自殺幇助活動を行っていました。装置を自分で動かすことができない患者に対して、彼自身が装置を作動させたことにより殺人罪で告訴されます。
有罪判決を受け服役しますが、健康上の理由で、自殺幇助を行わないことを条件に仮釈放されます。
釈放後は、積極的に安楽死の啓蒙活動を行っていたとされています。
映画の見どころと原作との違い
原作と映画では、物語の進み方がだいぶ異なります。
原作小説は、犬養が目の前の「安楽死」を容認してしまうという結末なので、さすがにこれを映画にするわけにはいかないですからね。
「尊厳死」「安楽死」という重いテーマはもちろん残したままで、そこに娘を命懸けで守る父という「親子の絆」をプラスして、映画を作り上げています。
そして、ドクター・デス。この難しい役を全身全霊で演じた役者さんには、心から賞賛の拍手を送りたいです。部屋に自分が安楽死させた患者の死顔の写真を飾っていたり、沙耶香や犬養を殺そうとしていたりして、かなりの猟奇性を感じてしまった…。
死ぬことが分かっていてそれまでの時間が痛みに苦しめられることが分かっている場合に限ってのみ「安楽死」の手助けをしていた原作のドクター・デスだったら、決してそんなことはしていないので、かなりエンターテインメントに振り切っていましたね。
それでも、ドクター・デスは「安楽死」の意義を、少々乱暴な方法で、重すぎることのないように世間に投げかけたのだと感じました。
見る人によって、自分の置かれている立場によって、たぶん受け取り方はそれぞれだと思います。そのどれもが間違っていないし、正解でもない…。
この映画ではやっぱり「安楽死」はいけないことという思いの方が強いのかな。っていうか、日本では犯罪ですからね。
人の死というデリケートな問題は、なかなか想像しようにも難しくて…、考えると苦しくて…、迷路に入り込んでしまいます。
この映画を観た人はどんな感想を持ったのか、すごく気になりますね。
映画『ドクター・デスの遺産』視聴方法は?
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刑事犬養隼人シリーズ
警視庁刑事部捜査一課の刑事・犬養隼人を主人公とし、命をテーマとして扱うシリーズ物語。
『切り裂きジャックの告白』:臓器移植
『七色の毒』:色にまつわる7つの事件
『ハーメルンの誘拐魔』:ワクチンの副作用
『ドクター・デスの遺産』:尊厳死、安楽死
『カインの傲慢』:臓器移植と貧困
『ラスプーチンの庭』:民間療法
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