直木賞受賞小説『ファーストラヴ』衝撃のあらすじとネタバレ

島本理生さんの衝撃の問題作が、北川景子さん主演で映画化されることになりました。

女子大生の娘が父を刺殺するという、衝撃的な事件が描く心の闇。

歪んだ家族の、歪んだ物語。タイトルからは想像もつかない展開が待ち受けています。

『ファーストラヴ』というタイトルは何を意味するのか?タイトルに込められた作者の思いとは?

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小説のあらすじ(含ネタバレ)

アナウンサー志望の女子大生・聖山環菜(ひじりやまかんな)はアナウンサーの二次面接の帰り、父・聖山那雄人(なおと)の働く美術学校に立ち寄り、父を持っていた包丁で刺殺したとして、逮捕されます。

両親からはアナウンサーになることを反対されており、やったことを認める供述をする一方で「動機はそちらで見つけてください。」という挑戦的な言葉を放ったとして、世間を大いに騒がせていました。

テレビでも活躍する臨床心理士・真壁由紀は聖山環菜の半生についての本を執筆することになります。由紀はカメラマンの夫・真壁我聞(がもん)と小学生の息子・正親(まさちか)との3人家族。

時を同じくして、環菜の国選弁護人に選ばれたのは、我聞の弟の庵野迦葉(あんのかしょう)でした。迦葉は8歳のときに両親が離婚して、伯母夫婦の元に引き取られてきて、我聞とは兄弟のように育ったのでした。

由紀が環菜に会いにいったところ、聞いていた印象と大きく異なります。一人歩きしてしまっているセリフは本当は「動機は自分でもわからないから見つけてほしいくらいです。」と言ったものでした。

そして環菜はこうも言いました。「私、嘘つきなんです。自分に都合が悪いことがあると頭がぼうっとなって、意識が飛んだり、嘘ついたりしてしまうことがあって。」

環菜の母親が検察側の証人として出ると聞いて、由紀と迦葉は、環菜と母親の間になんらかの確執があったのではと思い始めます。

由紀と迦葉は、環菜と大学時代に交際していた賀川洋一という男が、週刊誌に「僕は彼女の奴隷でした」と暴露したことを聞き、洋一に取材を申し込みます。洋一は「環菜には虚言癖がある」と言いました。環菜の浮気が原因で別れることになったときには、環菜に自傷癖があったため、なかなか別れられなかった…とも。

次に由紀と迦葉は、環菜の親友・臼井香子(きょうこ)に話を聞きにいきます。香子は、環菜の父親が常に怒鳴り散らしていたこと、父親は出かけるときには鍵を持たずに出かけていき、夜中に環菜が一人きりでいるときに鍵をかけていると激怒していたこと、小学生のころから父親の教え子たちの絵のモデルをやらされていたこと、教え子から言い寄られ付きまとわれたときには気を持たせた環菜が悪いと怒られていたこと…など、驚愕の事実を口にしました。

そんなとき環菜はいつも、自分のせいだから…と言っていたと。

環菜に、父親の教え子の絵のモデルをしていたのかと尋ねると、明らかに緊張と動揺が表れました。教え子の大学生たちの印象を聞くと、一言「気持ち悪い」と。由紀がリストカットのことを口にすると「私のせいなんです…私が悪いんです」と激しく混乱し始めました。

由紀と迦葉は、検察側の証人になると言っている環菜の母親に会いに行きます。母親は「環菜は自分の力で更生すべき」の一点張りです。環菜の腕に傷があることを知っているかを聞くと「あれは鶏に襲われただけ」、環菜は何か精神的に追い詰められていたんじゃないかと言っても「そんなの本人がどうにかするしかない。あの子は私の言うことなんて一度も聞いたことない。」と。

環菜は聖山那雄人の血のつながった子ではありませんでした。母親が父親と別れた後、他の男と同棲しているときにできた子で、産むことを反対されていました。母親の子だったら絶対に綺麗だからもったいないと、父親が自分の子として引き取ったのでした。

環菜は言います。「だから恩がある。うまくできない自分が悪い」そして「私が嘘をつくことで母は安心していた。」と…。

由紀は出版社の辻と一緒に、聖山那雄人のデッサン教室に参加していたという南羽(なんば)という男性を富山に尋ねました。当時のデッサンを見せてもらうと、それは衝撃の構図でした。環菜は薄いワンピースを着て、全裸の男性の背中に寄りかかっていました。

モデルをしている環菜のうつろな表情を見て、由紀には悪い記憶がよみがえりました。それは、由紀の実体験でした。

母親は由紀が女の子らしい格好をすることを嫌い、少女小説を処分したり空手を無理矢理習わせたりしていました。由紀の父親は児童買春をしていたのでした。

父親の闇の部分を母親から聞いたのは成人式の朝こと。それ以来、家を出て、その場しのぎの手ごろな恋愛とバイトを繰り返して、1年休学したあと大学3年生として復学を果たした日に出会ったのが迦葉でした。

迦葉は母親から虐待されていたことがあり、家族にトラウマのある由紀と迦葉は傷をなめあうように毎日一緒に過ごしていました。それでも男女の仲になろうとしたときに、互いに体が拒絶してしまい、気持ちが攻撃的になってしまって喧嘩別れしてしまいました。

そんなとき、迦葉の兄・我聞の写真展があり、由紀はなんとなく見に行って、我聞と出会いました。それから何度かデートを重ねて交際することになった2人。由紀は我聞に抱かれて、初めて大事にされて愛されていることに安心感を感じたのでした。

環菜が中学生のときにはもう初体験を済ませていたと言っていたことを、デッサン会に参加していた南羽の手紙で知り、由紀は初めての彼氏のことを環菜に尋ねます。

それは環菜が小学校を卒業した春休みのことで、相手は大学生の小泉裕二。初恋の相手だったと言います。

父も母もいない一人きりの夜に、鍵を持たずに出かける父から鍵を閉めるなと言われていました。でも恐くて鍵をかけて少しだけ眠るつもりだったのに寝入ってしまい、父に怒鳴られ家から追い出されてしまいました。父方の祖父母の家に行っても責め続けられ、どこへ行っていいかもわからなくなって、転んでそのまま道端に座り込んで泣いていたら、声をかけてくれたのが裕二でした。

裕二を取材すると「なりゆきでそういう関係になったけれど、警察に逮捕されるかもしれないと思って逃げた」と言います。

そのころから環菜の自傷行為は始まりました。腕に傷がある間は絵のモデルができないことがわかり、自傷行為を繰り返すようになってしまっていました。それを母親は「バイト代がでないと文句を言ったのでやめさせられた」と嘘の証言をしていることを知り、環菜は急に感情をむき出しにして怒り始めました。

「ひどすぎる。言うことなら全部聞いたのにっ、我慢したのに…どうして!」

環菜は、自分は殺すつもりはなかった。本当のことを言いたいと言い出しました。

環菜は裁判で何を語ったのか
アナウンサーの二次面接で失敗したと感じた環菜は、自分を罰して、それを父に確認してもらうために父に会いに行きました。いつも包丁を使っていたので、途中で包丁を購入して、駅のトイレで数回腕を切りました。

父のところに着くと、血だらけの腕に動揺した父は、誰にも見られないところで血を洗うように言いました。別の階の女子トイレで、また父に迷惑をかけてしまったと腕を深めに切ってしまったところ、父が入ってきました。

「おまえがおかしくなったのは母親の責任だから、どこか頭の病院に連れて行ってもらう」と母親に電話しかけたのを止めようとしてもみ合いになり、濡れた床で足を滑らせた父に包丁が刺さってしまいました。

大変なことになったと、母親に助けを求めるために家に帰りましたが、母親は「それくらいなによ。私はこれからどうやって生きていけばいいのよ。」と叫んで口論になりました。

それから家を飛び出し「私を信じてくれる人はこの世にはいない。死んでしまいたい。」と思いながら川べりを歩いていました。

母親に電話すると言われたとき、強く拒んだのは、以前母親から腕の傷を「気持ち悪い」と言われたことがあったから…。

逮捕後に「父を殺した」と供述したのは、母親に「勝手に包丁が刺さる訳がない」と言われて、ずっと母親から「嘘つき」だと言われ続けていたので、自分が本当のことを言っているのかどうかわからなくなったからだと言いました。

そしてなぜ、アナウンサー試験の失敗をわざわざ父親に報告しに行ったのかを聞かれると「あのときと一緒だったから…。デッサン会…。」とつぶやくように答えました。

テレビ局の面接官の男性たちの視線を受けているうちに怖くなって、気付いたら倒れていました。自分を罰して父親に許してもらうために、包丁を買って父親の職場へ向かったのでした。つらいことから救ってくれたのは血を流すことだけでした。

環菜の母親の秘密
環菜の母親と裁判所のトイレで会ったとき、由紀は母親の腕に環菜よりももっとひどい傷があることを見逃しませんでした。

母親は「私は正常ですから」と繰り返し、去っていきました。

環菜が受けた判決は?
求刑懲役15年に対して、出た判決は懲役8年。

環菜は控訴をせずに一審の判決を受け入れることにしました。

由紀の元に届いた手紙には、大勢の大人が自分の言葉を受け止めてくれたこと、これまで悲しみも苦しみも拒絶も自分の意思も、決して口にしてはいけないものだったけど、どんな人間にも意思と権利があって、それは声に出していいものだということがわかったことに救われた、と書かれていました。

由紀は環菜の半生についての本を執筆することになっていましたが、性虐待を受けた女性たちのノンフィクション本に変えて、取材・執筆し直すことになりました。

夫の我聞は、由紀と迦葉の過去に何かがあったことに気付いていました。そして、かつて迦葉に由紀のことが好きだったんじゃないかと聞いたことがあると言いました。

迦葉は「大事だったけど、恋愛ではなかった。」と答えたと言います。

「由紀は負うべきものじゃないものを負いすぎてる。もっと気楽に僕にむかって、迦葉の愚痴を言ったり、誉めたりしていいんだ。」我聞にそう言われて、由紀の中で長年抱え込んでいた秘密が消えていったのでした。

小説を読んだ感想

最後は円満解決…とまではいかないものの、これ以上は無理でしょぐらいの枠には収まって、なんとなく心安らかには読み終えたのだけれど…。とにかく読んでる間中、心が重くて苦しい苦しい物語でした。

たぶん、この感覚は女性にしかわからないんだろうな。

幼い女の子には性的な視線を受けている自覚はなく、なんとなく不快で気持ち悪くて、身の危険を感じてしまうような感じだけれど、それが大人になるにつれて、視線の意味がわかってくる…。

臨床心理士である由紀が語る言葉です。

性虐待には手を触れない形の虐待が存在するのだと、なんとなくは知っていましたが、それは触れられる虐待と何ら変わらない心の傷を残すことを初めて知りました。

暴力や性的虐待は連鎖するとよく言われます。閉ざされた家族の中で起こった悲劇は、外へ開かれることなく繰り返されます。

自分の世界しか知らない子どもは、自分の世界が異常であることに気付かないまま成長していくのでしょう。大人になってあるとき、自分が置かれていた状況を知っても、そのときにはもう声をあげることさえできなくなってしまっています。

自分の気持ちは声に出していいのだということ、声に出せば聞いてくれる人がいるのだということが、この物語を通じてもっともっとたくさんの人に届けばいいなぁと心から願っています。

北川景子さん主演の映画、男性も女性も、たくさんの人が観てくれるといいな。

”ファーストラブ”というタイトルの意味は?

最後まで読んでも、ある女性が父を殺害してしまった動機を追う…という物語で、ファーストラブが何たるかの答えは書かれていません。

ファーストラブ” 直訳すると ”初恋” ですね。

最初、もしかして初恋ではなくて、親から最初に受ける愛のこと??と思ったりもしましたが、島本理生さんのインタビューを読んで納得しました。

例えば、愛情のように見せかけて実は身体が目当てだったりとか、特に若いころには、恋愛と見せかけた危ないものが周りにたくさんあるものです。そのため、恋愛とは似て非なるものを混同している女性って、実はすごく多いんじゃないかと思うんです。”あのときの恋愛は実は恋愛ではなかったのかもしれない”本当は悲しい気持ちを押し殺していたのかもしれない”。読んだ方に少しでもそうした気づきがあればと思い、この小説に”初恋”という意味のタイトルを付けました

意図はものすごくよく伝わりましたが、同時にものすごく怖くなりました。

若いころの恋愛って、島本理生さんがおっしゃる通り、危なっかしくて傷つくことが多いものですが、後から心のどこかで美化しているというか、自分を納得させる理由を見つけているものだと思うのです。

それを今更「本当にあれは恋愛と呼べるものだった?」と問われるのは…、奥底にしまっておいたものを取り出す作業というのは、辛くて苦しい作業なのではないかと…。

環菜が初恋だと信じていた今泉裕二との関係も、環菜は「信頼した相手なんて…あのときだけ」と言っていますが、裕二は環菜がアイドルみたいに可愛かったし誘っているように感じたからと答えていて、決して本当の愛情があったと言えるものではありませんでした。

環菜の心が壊れてしまったのは、この”初恋”の経験だけが原因ではありませんが、少なくとも男性によって心と体を傷つけられた環菜のような人は、そういうところから見つめ直していく必要があるのかもしれないですね。

臨床心理士(今は公認心理師ともいわれる)の仕事って、奥深くて、なんだか怖い仕事だとも感じてしまいました。

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