スピンオフ小説『レジェンドアニメ』あらすじは?

辻村深月さんの傑作『ハケンアニメ!』で人々を虜にした王子千晴、斎藤瞳をはじめとする、アニメに魅入られアニメに人生を捧げる人々のもう一つの物語。

『ハケンアニメ!』の過去や未来を描いたスピンオフ短編小説集です。

王子千晴や斎藤瞳はもちろんのこと、『運命戦線リデルライト』『サウンドバック 奏の石』には無数の人々が携わっており、人の数だけ物語が存在しています。

そこにあるのはアニメに対する「愛」

ぶつかったり寄り添ったりしながら、彼らの「愛」は続いていくのでした!

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小説のあらすじは?

九年前のクリスマス

有科香屋子、27歳。仕事で大失敗をした。

斎藤瞳、高校1年生。クリスマス・イブの夜は膝上丈のサンタクロースワンピを着てケーキを売るアルバイトをしていた。

並澤和奈、高校2年生。絵をほめてくれたクラスメイトの田口くんがクラスの女子のクリスマスパーティーに誘われたと聞いて複雑な想いに駆られていた。

『運命戦線リデルライト』『サウンドバック 奏の石』の9年前のクリスマス。思うようにいかないことがあっても『光のヨスガ』を見ることだけを楽しみに踏ん張っていた。

声と音の冒険

トウケイ動画音響部に所属する五條正臣王子千晴と初めて仕事をすることになった。

王子は入社前からその名を轟かせていた入社2年目の21歳。すでに天才肌だが生意気で厄介というレッテルが貼られていた。

あるアニメの音響演出を任された王子は、クライマックスの戦闘シーンで数秒間全くの無音シーンを作ろうとしていた。

五條は斬新で効果的だと思ったが上層部の理解が得られなかった。

「いつか自分の作品が撮れるようになるまでは周りを頼ればいい」五條がそう言うと王子はすなおに頭を下げた。

12年後、五條は『運命戦線リデルライト』の音響監督をしている。

夜の底の太陽

小学5年生の冨田太陽。母親が厳しくてアニメも漫画も見せてもらえず、友達との会話にもたびたびついていけないことがある。

学校は違うけれど塾で仲良くなった爽平順太と遊ぶことが楽しみで、先日は拾った猫を飼ってくれる人をさがして3人で団地中を訪ねまわった。

「ザクロ」と名付けた猫を飼ってくれると言ってくれたお姉さんはアニメが好きだった。

『サウンドバック 奏の石』を見て!とお姉さんから言われ、太陽は母親の目を盗んで見ることにした。

爽平と順太と喧嘩してしまったけれど、『サバク』のおかげで仲直りもできた。

執事とかぐや姫

フィギュア会社ブルー・オープン・トイ(略してブルト)の広報マン逢里哲哉、25歳。

仕事で痛恨のミスをして落ち込んでいるときに、伝説の造形師・鞠野カエデと会った。

2度目に会ったとき鞠野はベビーカーを押して歩いていた。それをきっかけに逢里は鞠野親子に差し入れしたり親しく会話をするようになった。

「逢里くんとならやってみたいことがたくさんある」と鞠野がブルトの社員になってくれると言う。

それから数年後、最高のバディである鞠野と逢里は尊敬するアニメーターのピンチを救うために新潟県選永市に乗り込んだ。

ハケンじゃないアニメ

左近寺誠原作の長寿アニメ『お江戸のニイ太』の30周年記念のオープニングを手掛けることになったのは『サウンドバック 奏の石』の斎藤瞳監督。

和山和人は間もなく退職する予定のベテランプロデューサーの七神昇平から仕事を引き継ぐべく悪戦苦闘していた。

斎藤監督はオープニングで左近寺先生直筆のニイ太のカットを使いたいと言い、和山は意を決して左近寺誠のところへお願いに上がった。

和山はずっと自分が左近寺先生には嫌われていると思って怖くて正面から話すことすらできなかった。七神が退職するためしかたなく出向いていったのだが、左近寺は和山の想いをちゃんと見ていてくれた。

たくさんのニイ太への愛と敬意が詰まったオープニングは無事に完成した。

次の現場へ

『運命戦線リデルライト』の後、王子千晴はチヨダ・コーキ原作の『V.T.R.』でトウケイ動画の行城と組むことになった。作画監督は並澤和奈

王子と行城は、脚本を担当することになったチヨダの友人でもある赤羽環から総ダメ出しを食らい不安なスタートを切ったが、かなりいい方向に向かっている。

アニメーターの迫水孝昭と人気声優・美末杏樹の結婚式会場で顔を合わせたくさんのアニメ関係者の中に、かつて『運命戦線リデルライト』の制作進行スタッフとして働いた川島加菜美の姿もあった。

加菜美はどうしても絵を描く仕事を諦められなくて、ベテランフリーアニメーターの澤田和己のところへ押しかけるように弟子入りして、今はフリーのアニメーターをしている。

結婚式の会場で王子や香屋子などかつての仕事仲間たちと顔を合わせ、加菜美の心は複雑だった。圧倒的に人手不足のアニメーターの世界で、王子の手掛ける『V.T.R.』で声をかけてもらえていない…。ついつい愚痴を香屋子にこぼしてしまった。

認めてもらえるように頑張ろうと気持ちを新たに式場を後にすると、澤田から新しい仕事の電話があった。そのついでのように伝えられた『V.T.R.』の仕事!

澤田が伝え忘れていただけで、ちゃんと仕事の依頼は来ていたのだった。

小説を読んだ感想

「好き」を形にする仕事をしているアニメの世界。

時にライバルでありながら、次の瞬間には同志であるという不思議な世界。「アニメが大好き」という気持ちで繋がっているのはまるでスポーツ界のようでもあります。

『ハケンアニメ!』で描かれた『運命戦線リデルライト』と『サウンドバック 奏の石』とはまた違った組み合わせや経歴で出会ってきた過去や未来の姿が描かれています。

誰にだって失敗があって挫折があって、今この場所に立てているんだ…という運命というか流れみたいなものを感じます。

その時は大失敗だったことでも、その出来事があったからこそ今につながっていることは人生にはいっぱいあって、落ち込んだとしても腐る必要はないんだと元気をもらえる物語でもあります。

「好き」という気持ちは何よりも強くて、何よりも尊い!

そして、どんなお仕事でもそうですが、結局人と人は繋がっていくことで次へと進んでいくのだと、改めて実感します。

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