辻村深月の原作小説『ハケンアニメ』あらすじと結末は?ネタバレ

しのぎを削るアニメ業界。1つのアニメを制作するのに携わるスタッフは数百人。そんな、アニメを愛しアニメに人生を捧げている人々を描いた”お仕事小説”です。

同じクールで「ハケン」を争うことになったのは、かつて日本中を席巻した王子千晴監督が復活をかけた『運命戦線リデルライト』と、期待の新人監督・斎藤瞳監督が満を持して世に放つ『サウンドバック 奏の石』。

作品と監督に寄り添い守るために奔走するプロデューサー、作画を担当するアニメーター、キャラクターを演じる声優、おもちゃやフィギュアを扱う関連会社、アニメ雑誌出版社、聖地巡礼で地域活性化を目指す地方公務員…アニメ作品にはたくさんの人々の思惑とアニメへの愛が詰まっています。

果たして「ハケン」を手にするのは…?

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「ハケン」ってどういう意味?

ハケン」とは「覇権」のことです。

「覇権」とは、覇者の権力。つまりその世界で抜きん出た支配力を示すことなので、「ハケンアニメ」とは1クールまたは年間で頂点を取ることを意味します。

1クールは3か月で、1年に冬(1~3月)、春(4~6月)、夏(7~9月)、秋(10~12月)の4クールあります。

「覇権」は単純にDVD・BDなどの映像ソフトの売り上げが一番多かったものが手にすることになります。

小説のあらすじは?

王子と猛獣使い

有科香屋子(ありしなかやこ)36歳。中堅アニメ会社・スタジオえっじに勤務するプロデューサー。

9年前、弱冠24歳の新進気鋭の若手監督・王子千晴(おうじちはる)による「光のヨスガ」を見て衝撃を受けた。

以来、王子千春と一緒に仕事をすることを目標としてきた。そしてついにその夢は現実となった。

香屋子は王子に「あなたと仕事がしたい」と申し入れ、口説き落とした。

王子が得意とするのは魔法少女もの。香屋子と共に世に放つのはタイトル『運命戦線リデルライト』、略して「リデル」。

「リデルライト」とは少女たちが駆るバイクの総称で、見せ場のバトルシーンはレースだ。

業界No.1のフィギュア会社ブルー・オープン・トイ(ブルト)とも順調に話が進んでいる。

ところが来週はいよいよ製作発表の記者会見という段階になって王子が姿を消した。4月からの放映まであと3か月を切っている。

現在は3話までは制作が進んでいるが、4話目以降の脚本ができないと王子は悩んでいた。声優や主題歌にも散々こだわりとわがままを通して、挙句の果てに失踪。

社長は監督を代えることを決定したが、香屋子だけは王子が帰ってくることを信じて踏ん張っていた。

都内最大の録音スタジオ「東京テレモセンター」では声優による録音が行われていた。アフレコの合間に飲み物を買いに出て「トウケイ動画」の敏腕プロデューサー行城理(ゆきしろおさむ)と会った。

トウケイ動画は王子がフリーになる前に所属していた会社だ。そしてトウケイ動画は「運命戦線リデルライト」と同じクールでロボット少年もののアニメを放映する予定だ。

監督は香屋子もいつかは声を掛けたいと思っている今注目の斎藤瞳(さいとうひとみ)

企画部長逢里哲哉(おうさとてつや)と会う約束があり向かったブルトで、王子はいきなり目の前に現れた。「ただいま、有科さん」とほほ笑む王子を、香屋子はグーで殴りつけた。

王子が手に持っていたのはDUTY FREEの文字の入った袋にマカダミアナッツのチョコレート。ハワイに気分転換しに行っていたと言いながら、それでも4~12話までの絵コンテを仕上げていた。

王子を信じてよかった。王子が書いた絵コンテを読みながら、香屋子は胸が詰まった。

記者会見の前日、香屋子は王子の部屋でマカダミアナッツの「お土産パック」なる明細書を見つけた。ハワイに逃げていたというのは嘘で実は部屋に引きこもって絵コンテを描いていたという。

王子は王子で何百人ものスタッフを3年近く束縛することの責任をちゃんと感じて必死で絵コンテを描き上げていたのだった。香屋子は改めて王子に惚れ直した。

「リデル」の記者会見では5分ほどの予告映像で、人々の心を鷲づかみにしたのは間違いなかったが、インタビュアーの女子アナとの会話は全くかみ合わず、嵐のようだった。

「ヨスガ」のあと迷走していた王子を信じてよかった。香屋子は「あなたに、きっと覇権を取らせてみせる」と改めて心に誓った。

王女様と風見鶏

斎藤瞳監督は、父親が借金の保証人になり経済的に苦しい子ども時代を過ごした。テレビも自由に見ることもできず塾に通う余裕もなかったので、ひたすら勉強して勉強して都内の有名私立大学に進学した。

大学2年生のときに友人に借りて見たアニメ映画に激しい衝撃を受け、アニメの世界に身を投じたいという気持ちに抗うことができなくなっていった。

公務員になると信じていた母親を説得し、業界最大手とも言われる「トウケイ動画」に就職を決めた。

瞳が行城プロデューサーと進めている作品は『サウンドバック 奏の石』略して「サバク」。

「リデル」が深夜アニメなのに対して「サバク」は土曜の夕方枠のアニメで子ども達の人気獲得も狙っている。

「サウンドバック」とはロボットの名前で、少年たちが乗って操る。「奏(かなで)」と呼ばれる石に音を吹き入れることでロボットが変形するのだが、12話すべて違う形のロボットに変形することになっていて、メカデザイナーによるところが大きい作品だ。

アフレコで東京テレモセンター出向いた瞳は、そこで王子千晴に会った。王子は「サバク」をおもしろかったと言い、いいものを見せてもらったお返しをしに来たと言った。

「サバク」ではアニメ『マーメードナース』で人気が出たアイドル声優5人をまとめて起用していたが、瞳は彼女たちの扱いに苦労していた。

王子は「あの子たちは悪い子じゃないよ。ブログやラジオ番組をチェックしてみて。群野葵(むれのあおい)を味方にした方がいい」と言った。

大手アニメ月刊誌『アニメゾン』6月号では「サバク」が表紙を飾ることが決まっていたが、本放送を優先させている間にかなりクオリティーの低い原画が先方に渡っていることが発覚した。

瞳はめまいを覚えたが、行城はファインガーデン並澤和奈(なみさわかずな)に連絡を取ると言った。和奈は”神原画”を描くと言われるアニメーターだ。

ファインガーデンの和奈はたまたま休みを取って東京にある実家に帰っているということだった。

行城はデート中だという和奈を説き伏せ、無理矢理トウケイ動画に連れてきた。和奈が書いた原画は”神原画”と称されるにふさわしい出来栄えだった。

瞳は王子に言われた通り群野葵や美末杏樹(みまつあんじゅ)のツイッターを読んで、彼女たちがいかに自分がかかわった作品を大事にしているかを知った。葵や杏樹と話して、瞳は自分の肩の力が抜けていくのを感じた。

行城に、瞳は「サバク」が終わったらトウケイ動画を辞めるつもりでいることがばれていた。行城は反対するでもなく、これからも一緒に仕事をしたいので、どうか円満に辞めてほしいと言った。

軍隊アリと公務員

並澤和奈が所属する『ファインガーデン』は「スタジオみるきーきゃんでぃ」というアニメ会社の原画部署が独立したもので、新潟県選永(えなが)市にある。

和奈が休暇を取って東京でデートしていた相手はフィギュア会社ブルー・オープン・トイ(ブルト)の逢里哲哉。

和奈が一方的に想いを募らせ東京で会うことになったが、途中スカイツリーでとても美しい女性に会った。逢里と同じ職場の鞠野(まりの)カエデ。ブルトナンバーワンの造形師。

自分とは正反対の洗練された美しい女性を目の当たりにし、落ち込んでいる真っ最中に行城から急な原画の依頼があった。

逢里が和奈が依頼を受けるのは当然と思っていることにもショックを受けながら、和奈は原画を描くことを了承した。しかしそんな気持ちも斎藤瞳監督と出会ったことで、不思議なくらい気持が落ち着いた。

選永市が「サバク」の舞台であることを、和奈は駅に貼られた「奏の石スタンプラリー」のポスターで初めて知った。ポスターのキャラクターは和奈が描いたものだ。

選永市は「サバク」の聖地巡礼を観光の切り札にしようとしていた。

選永市観光課の宗森周平(むねもりしゅうへい)がファインガーデンを訪ねてきた。トウケイ動画からの指名で和奈に手伝ってほしいと言う。

和奈は宗森につきあって「サバク」に登場する通学路や「奏の石」が発見された鍾乳洞を視察した。宗森は地元の人たちに愛され信頼されているようだった。

1週間後和奈が再び宗森と会ったときには、初のご当地グッズ「サバクサイダー」を運んでいた。アニメで潤うということに疎い商工会の重鎮たちに動いてもらうためには、まずはサイダーが売れて手ごたえを感じてもらう必要があると言う。

宗森は町の観光のメイン「河永(かなが)祭り」でも「サバク」とのコラボを考えているようだった。いろんな団体が作った舟を流し、その舟が岩場に乗り上げたりして威勢よく壊れるところを見るのがメインのお祭りで、「サバク」の舟を出したいのだと言った。

壊れた舟の破片はお守りとして持ち帰る風習があるので、ファンにとっても魅力的なイベントになることが期待された。和奈はその舟の絵をぜひとも描きたいと思った。

「サバク」は最終回を迎え、7月に入りスタンプラリーが始まった。若者や家族連れが和奈と宗森が作った「サバクMAP」を手に選永の町を歩いている。

300年の歴史を誇る河永祭りに「サバク」の舟を出すことに商工会の年寄りたちは難色を示した。万事休すかと思われたそのとき、60代前半というイケオジ、副理事長が真っ赤なポルシェで颯爽と登場した。

副理事長の奮闘により河永祭りに「サバク」の舟を出すことが了承されたが、資金のことを始め問題は山積みだった。

和奈は東京で休暇中になかば拉致されるような状態で『アニメゾン』の表紙を描かされた借りを返してほしいと、斎藤瞳監督に電話をかけた。

斎藤監督は選永市のスタンプラリーや河永祭りのことは何も聞かされていないようだった。行城プロデューサーからも連絡がありトウケイ動画は全面協力してくれることになった。

舟の資金はファンからの出資を募り、お守りになると言われている舟の破片を出資額に応じて配分すること、舟を川に流す際の舟謡を声優の群野葵が引き受けてくれたこと、川下り当日『マーメードナース』の5人の声優が選永に来てくれること、斎藤瞳監督が川下り翌日のトークショーに来てくれることなどが着々と決まっていった。

斎藤瞳監督のトークショーの相手は宗森の高校の先輩のアニメ関係者にお願いしようということが決まり、宗森と一緒に駅まで迎えにいった和奈は最大級に驚いた。

そこにいたのは王子千晴だった。王子が選永市出身だったことは別に隠していたわけではないが誰も知らなかった。しかも迎えに来た王子の父親というのがイケオジの副理事長だった。

お祭り前夜祭の3日前には舟が納品され、和奈は「サバク」の絵を描き始めた。「手伝いたい」とブルトの逢里と鞠野が来てくれて、舟は無事に完成した。

たくさんのファン見守られて「サバク」の舟は川の中に旅立っていった。和奈はとても充実した気持ちでその光景を見ていた。

この世はサーカス

「サバク」の最終話には賛否両論あったが、瞳は自分の意見を通した。行城は「目先の利益ではなく10年先にも語られるアニメを」と言い瞳を後押しした。

そして瞳はトウケイ動画を去るときが来た。会社ともめて喧嘩別れのように去っていく社員が多い中で、瞳の退社は円満だった。

「サバク」の主要スタッフたちは送別会を開き「いってらっしゃい、斎藤監督」と瞳を送り出した。

明確なハッピーエンドを提示してファンの心に大きな足跡を残した『運命戦線リデルライト』と、おざなりなハッピーエンドを嫌って誠実に子どもに作品を届けた『サウンドバック 奏の石』。世の中は目が離せないサーカスのようだ。

王子の次回作は人気作家チヨダ・コーキ原作の『V.T.R.』の映画化。トウケイ動画の行城とタッグを組むらしい。作画監督は並澤和奈。

和奈は宗森とうまくいっているそうだ。

「いつの日か、また、私ともお仕事ご一緒してもらえますか?」と聞く香屋子に、王子はあっさり「いいよ」とほほ笑んだ。

『運命戦線リデルライト』ってどんなアニメ?

当然ですが『運命戦線リデルライト』も『サウンドバック 奏の石』も『ハケンアニメ』の中で描かれている架空のアニメです。それでも映画化が決まって、本気のアニメ制作が始まりました。

どちらも原作者の辻村深月さんが12話分のプロットを書き下ろしたという渾身の作品です。

主人公・十和田充莉(とわだじゅうり)は自らの魂の力でバイクを変形させてライバルたちと競う。バトルシーンはレースだ。6歳で始まり、1話ごとに1年が経過していく。

「リデル」の最終話は、王子監督が主人公をいかに殺すのかという話でもちきりだったが、どれだけバイクで転倒しマシンが大破しても誰一人死ななかった。

痛々しく醜く顔を歪めた主人公が「私は死なない。そんな私たちを、お前ら、どんだけ醜くても、責任もって、愛してよ」と言い放った。それが「生きる」ことにこだわった王子の描いたラストだった。

監督は『プリキュア』シリーズの大塚隆史監督、キャラクター原案は『魔法少女まどか☆マギか』の岸田隆広氏。

『サウンドバック 奏の石』ってどんなアニメ?

田舎町を襲った巨大ロボットから平和を守るため立ち上がった少年少女たち。彼らは「サウンドバック」というロボットを操って戦う。

「奏(かなで)」と呼ばれる石に音を吹き入れることでロボットが変形するので、12話すべて違う形のロボットに変形することになっている。

ノックの音、春を告げる雪解けの氷の音、大好きなタカヤの声…。そして戦うたび、ヒロイン・トワコの世界からその音が消える。

世界から音が消えていくのをトワコはみんなに黙っていた。みんなが戦えなくなってしまう…。

トワコから音を奪っても戦い続けるのか…。タカヤたちは選択の時を迎えていた。

最終話、トワコに音が戻ったのかどうか明確な描写はされなかった。けれど瞳の中で結論は決まっていた。トワコに音は戻らなかった。

人生には大事な何かを失っても成し遂げたい何かがある、やらなければならないことがある。人生は都合よくばかりはいかないことを瞳は描きたかった。

監督は『テルマエ・ロマエ』の谷東監督。キャラクター原案は『ツルモク独身寮』の窪之内英策氏、メカデザインは『機動戦士ガンダム00』の柳瀬敬之氏。

「ハケン」争いの結末は?

「ハケン」を取ったのは『運命戦線リデルライト』か『サウンドバック 奏の石』か?

そのクールで最も売り上げを出した「覇権アニメ」は『サマーラウンジ・セピアガール』通称「夏サビ」と呼ばれる、女子校のヨット部を舞台にした青春アニメだった。

情熱を友情を丁寧に描いたストーリーがすごくいいと次第に評判となり、見逃したアニメファンたちがDVDをこぞって購入したために、春のアニメ界の頂点に立ったのだった。

「サバク」はDVD売上こそ2位だったが、子どもが多く見てくれたおかげでおもちゃの売上がよく、純利益ではトップだった。

「リデル」は売上は及ばなかったが、アニメファンの多くが「素晴らしかった」「衝撃的だった」と声をそろえて言うのだった。

小説を読んだ感想

アニメという世界を通して、何かを心の底から好きと思えることに出会い、そのことに自分の人生をかけることの幸せと苦悩を丁寧に描いた物語。

それにしても、登場人物のキャラが立っててめちゃくちゃ面白かった!!

第1章は、全然大人になり切れていない駄々っ子のような王子と、王子に振り回されながらも彼の才能に惚れこんだ猛獣使いのような女性プロデューサーの物語。

猛獣使いっていう表現が笑えるくらいぴったりの、仕事ができる香屋子さんは、恋愛にはとことん疎いところがこれまた魅力的。王子にプロポーズされていることにも気づかないときた。(笑)

第2章の女王様は真面目を絵に描いたような女性監督。そして寄り添うのはあちこちにいい顔をして美味しいところだけを持っていく天才、まさに風見鶏男。

一見嫌な奴にも見えてくる行城も実はなかなかいいヤツだということがわかってきて、最初の反動で物語が進むにつれて好きが止まらなくなってくる。

第3章のアニメーターは自分に自信がないオタク気質の女の子。自分はアニメを監督する女王アリをささえる軍隊アリなのだと認識していて、決して立場を踏み越えない。こういう素晴らしい人たちがいてアニメ作品が出来上がるのだと崇高な思いが湧き上がってくる。

市役所観光課の宗森くんはまさに地元に根差した公務員の鑑!おじいちゃんおばあちゃんに愛され、地元のためにをモットーに必死で働く姿はキラキラ輝いてる。

男女2人ずつの章立て展開でありながら全てがうまく絡み合ってて、アニメ界の裏側もほんの少し垣間見えた気がして、物語そのものが面白いのはもちろんだけど、アニメという映像を文章だけで見事に表現してしまった辻村深月さんの表現力にもすっかり魅了されました。

好きなものだからこそ苦しむし、好きなものだからこそどんなに辛い目に遭っても乗り越えられる…人間ってなんて不思議で魅力的な生き物なんでしょう!

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