
『円弧 アーク』は、アメリカのSF作家ケン・リュウによる短編小説です。そのテーマは”永遠の命”。
永遠の命を手に入れた女性・リーナは果たして幸せだったのか。彼女は死なない体とどのように過ごし、どんな選択をしていくのか。
小説家であるとともに弁護士、コンピュータープログラマーでもあり、「紙の動物園」という作品でSFの大賞で3冠を達成した21世紀の奇才とも言われているケン・リュウ氏。
彼の描くSF小説はファンタジーでありながら、人の心の奥深いところに届く物語です。
小説のあらすじは?
15才のリーナが妊娠…。相手の男チャドはイエール大に合格していて、明らかにリーナの妊娠に当惑していました。
リーナの父は激怒し、子どもを産むのなら全部自分一人でやるようにと言い、チャドは何週間もリーナのことを避け続けました。
8月、チャドはイエール大のあるニューヘブンへと旅立っていき、リーナはたった一人で息子を産みました。息子はチャーリーと名付けられました。
父はリーナをひとり部屋に住まわせて、母が手伝うことも許しませんでした。18歳になるまではリーナと赤ん坊が食べていけるだけの仕送りはするけれど、一切の協力はしないとリーナを突き放しました。
チャーリーとの生活はリーナの思っていたものとは違っていました。おむつの臭いもミルクの臭いも嫌いでした。夜眠れないのも嫌い…。何よりチャーリーのことを嫌いな自分のことが嫌いでした。
チャーリーをベビーカーに乗せて公園に行ったある日、ジェイムズという男が話しかけてきました。彼は「赤ん坊はだれの持ち物でもない」と言いました。
リーナはチャーリーを両親の家の玄関先に置き去りにして、ジェイムズとともに旅に出ました。4年間、国中のあちこちを旅していましたが、ジェイムズはある日姿を消してしまいました。
何日も食べることができなくなって倒れたリーナは病院で目覚めました。リーナは自分で働いて稼ぐことを決意しました。
ある建物の前に大勢の人がひしめいていました。ウィンドウの中の男は、内臓がスライスされ、頭蓋骨が帽子のように外されて脳がさらされていました。
「ボディ=ワークス 仕組みを露わにする」と書かれた看板には小さな文字で「職員募集中」と書いてありました。
プラスティネーションはまず死体の腐敗を止める防腐処置から始めます。それから組織内の水分と脂肪をアセトンに置き換え、アセトンを液体ポリマーへと置き換えます。
死体はポーズをとって固められ、依頼者の元へ届けられます。操り人形のようにそのポージングを決めるのがリーナの仕事です。
リーナにプラスティネーションの技術を教えたのはエマです。エマが年を取って引退すると、リーナはチーフ・アーティスティック・ディレクターに昇進しました。35歳のことでした。
生まれたその日に亡くなった赤ん坊をプラスティネーションしてほしいという依頼が入り、小さな亡骸を目の前にしたリーナは冷静ではいられませんでした。
暗闇の中でリーナを求めて泣いているチャーリーの姿が目の前に現れきて、両手がうずいて動かなくなってしまいました。リーナはボディ=ワークスを辞めました。
何日も同じ服を着て家にこもっているところへ、会社のオーナーであるジョン・ウォーラーが訪ねてきました。ジョンは毎日訪ねてきて、1か月たったころ「一緒に住もう」と言ってきました。
ジョンは21歳で医学部を卒業した天才で、死体の腐敗を止めるだけでは飽き足らず、老齢と死を克服する研究をしていました。
リーナは38歳でスタンフォード大学に通い始め、週末はジョンの研究室に行って、彼の発明した装置に入って処置を受ける生活を続けています。「リーナの体は30歳のままで、それが永遠に維持される。」とジョンは言いました。
永遠の命を手に入れたことを発表すると、金持ちはついに命まで買える時代になったのかと世間は騒然となりました。ジョンの研究は次に、莫大な費用がかかる処置のコストダウンと大衆化を模索するようになりました。
ある日「悪い知らせがある」とジョンは言いました。そして、彼には遺伝子異常があり若返り手続きが逆に老化を導いていること、制御不能な癌があることを告げました。
ジョンは数か月で数十年分の年を取り、亡くなりました。リーナは何十年かぶりにスタジオに入り、10年以上かかってジョンの体をプラスティネーションし、「アダムの創造」という作品を完成させました。
新たな生活を始める決意をしたリーナはカナダのノヴァスコシア州にいました。ジョンが亡くなる前に凍結保存しておいた精子を使って、リーナは71歳で妊娠しており、何よりも心の平穏を求めていました。
町はずれのバーで、50代半ばと思われる男性が話しかけてきました。その手には見覚えがありました。リーナの最初の息子、チャーリーでした。
祖父母はチャーリーに「母は死んだ」と言っていましたが、チャーリーは修学旅行で訪れた「ボディ=ワークス」のスタジオで熱心に説明する女性が、何度も写真で見続けていたリーナであると気づいたと言いました。
大切な仕事が終わると、きっと自分のことを迎えに来てくれると信じていたけれど、それは自分の思い込みだったと、ジョンを亡くして苦しんでいるリーナを見て「今なら会いに行っても構わないかな…」と思いやってきたのだと語りました。
56歳年下の妹・キャシーが生まれてから、チャーリーはそばにいてずっと手を貸してくれました。若返り処置の申し出を断り、脳梗塞で体の自由がきかなくなったチャーリーは、しばらくして亡くなりました。
リーナはチャーリーを産んで100年後の同じ日、もう1人の娘セーラを産みました。世間では生命延長が当たり前の世の中になっていました。
パートナーのデイヴィッドは生命延長を望みませんでした。リーナは生命延長の処置を止め、デイヴィッドととともに老いていく決心をしました。
小説の感想
人類の永遠の憧れである「老いない命」さらにはもっと進んで「死なない命」。果たして、それは人々を幸せにするのでしょうか。
時間に追われない毎日、何度でもやり直しのきく人生、それはそれでうらやましいと思わないと言えば嘘になりますが、死への恐怖が存在しない日々は逆に、生きている喜びを感じる機会も無くしていくような気がします。
もし私に「永遠の命」を与えられるチャンスが訪れたとしても、私は100%いらないと答えると思います。もちろん後悔もいっぱいあって、やり直したい過去もいっぱいあるんだけど。
永遠の命なんて絶対いらない。終わらない人生なんて怖すぎる。
『Arc 円弧』の中で「死は生命がこれまで発明してきたなかでもっとも偉大なものだ」とデイヴィッドが語るシーンがあるのですが、これはスティーブ・ジョブズが言った言葉です。
死があるからこそ生物は進化した…新しいものが生まれるためには死は必要なのです。そして、自分の心と直感に従う勇気をもち、自分の時間を無駄にしないようにとジョブズは語っています。
古代から現在にいたるまで”不老不死”は人々の願いでした。特に権力者や独裁者は強く望んだことでしょう。ほんとにそれでいいのかな。
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『紙の動物園』は短編集で、他にも不老不死のその後を描いた『波』や日本を描いた『もののあはれ』など傑作が15作品収録されています。
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