原作小説『透き通った風が吹いて』

高校3年生の渓哉(けいや)は夏の甲子園大会の予選を終えて部活を引退しました。想像していた以上に空っぽになってしまった渓哉…。

同級生たちは将来のことを考えているというのに、渓哉は目の前の大学受験のことでさえ自分のこととして考えられません。

バッテリーを組んでいた幼なじみの実紀(みのり)に誘われて、渓哉は湯郷の温泉旅館に風呂に入りに行くことになりました。

その途中、偶然であった美しい女性に淡い恋心に似た感情を抱く渓哉でしたが、彼女は兄の恋人でした…。

岡山の田舎を舞台に、自分の進むべき道に迷い、悩み、そして決断する若者たちを描いたさわやかな物語です。

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『透き通った風が吹いて』のあらすじは?

真中渓哉(けいや)、岡山県立林野高校の3年生。夏の大会が終わり受験勉強に向けて本腰を入れなければならない補習の真っ最中にも関わらず全くやる気が出ない。

思い出すのは岡山県大会の2回戦、さよならヒットを打たれたときの空の碧さばかり。中学生から野球にはまり、6年間続けてきた。高3で引退することはわかりきっていたことだし、これからだって野球はできるのに…。なんでこんなに空っぽなんだろう。

渓哉の実家は茶葉屋を営んでいる。昨年父が急逝し、12歳上の兄淳也が都会から帰って来て跡を継いでいる。母は渓哉にも、大学で4年間経済学か商学を学んだら実家の仕事を手伝うことを望んでいる。

渓哉が抜け殻になっていることは幼なじみの津中実紀(みのり)にはバレバレだ。伊達にバッテリーを組んできた仲ではないのだ。

実紀の提案で、実紀のはとこの深野栄美(えいみ)の実家が営んでいる湯郷の温泉旅館「みその苑」でお風呂に入ってご飯を食べて帰ろうということになった。

湯郷行きの路線バスは1日に3本しか通らない。実紀と渓哉はダッシュした。

学校からバス停まで1キロもないのに不覚にも渓哉はバテた。「大丈夫か」と気遣う実紀に腹が立ち手を払いのけたとたん、よろめいた実紀が通りがかりの女性にぶつかった。

女性は旅行者なのか、大きな荷物をもった美しい人だった。バス停の場所を聞かれて、渓哉と実紀は女性の荷物を持って3人で走った。

無事にバスに乗れたけれど、女性は湯郷温泉にいくつもりではなかったらしい。急ぐ用ではないのでと、女性は湯郷温泉で泊まることにした。女性は青江里香(さとか)と名乗った。

「みその苑」のロビーで、里香は古いリード・オルガンを見つけた。先代の女将が母校の湯郷小学校が廃校になるときに譲り受けたものらしい。

里香はリード・オルガンを弾き始めた。優しい音色だった。

温泉に入ったあと、渓哉と実紀と里香は3人で食事をした。そこで渓哉は実紀の将来のビジョンを初めて聞いた。一旦は関西圏の大学に出るけれども、将来は技術やら情報やらを持ちかえって美作(みまさか)のために働きたいというのだった。

そしてさらに実紀は「淳也さんを目標にしとる」と付け加えた。

先代女将のたっての希望で里香はリード・オルガンを演奏することになった。最後に湯郷小学校の校歌を弾くと先代女将は目を潤ませて喜んだ。

温泉に入って晩ごはんを食べさせてもらった渓哉と実紀は、夜中に男湯と女湯を掃除することになった。

渓哉の風呂掃除を手伝いに来てくれた栄美は、栄美の祖母である先代女将がもう先が長くないことを話した。

風呂掃除から上がると中庭に里香の姿があった。里香は「私は逃げてるだけだから、明日は古町に行く」と告げた。古町は渓哉の住む町だ。

翌朝、渓哉は里香を「まなか屋」に案内した。なんとなくそんな気がしていた…里香は淳也に会いに来たのだった。

蔵でIターンやUターンの若者たちと町おこしについて熱心に話をしていた淳也は、里香の姿を見て固まった。

里香はピアニストの卵だった。国内のコンテストで優勝して来月からウィーンに渡ることになっている。夢だったピアニストになるための第一歩を踏み出すために淳也に会いに来たのだった。

『透き通った風が吹いて』の感想

地元に戻って店を継ぐことを選んだ兄、将来のことを考えている同級生を間近で見ながら、将来の夢を描くことも虚無感から脱することもできない…渓哉みたいな高校3年生いるんじゃないかな。

狭い世界だけで生きてきたこれまでの学生生活とは違って、世界が開かれていくことはワクワクすることではあるんだけど、やっぱり一番は不安な気持ちが占めることでしょう。

故郷という場所は自分にとってかけがえのないたった一つの大切な場所であると同時に、縛り付けてしまう場所でもあるということ。自分で道を選んでいくことは、時には「別れ」という悲しい選択をしなければならないこと。

それを渓哉は兄の姿を見て知るんですよね。

それぞれの若者たちが迷い悩みながら前に向かって進んでいく姿が切なすぎるんだけど、さわやかです。若さゆえの未来を感じることができるからかなぁ。

本当に『透き通った風が吹いて』というタイトルがぴったりの物語でした。

『透き通った風が吹いて』を電子書籍で!

巻末には栄美視点のサイドストーリー『もう一つの風』が収録されています。
2022年10月6日時点の情報となります。 オフィシャルサイトにて必ず最新の情報をご確認ください。

 

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