小説『今はちょっと、ついてないだけ』 

人生につまずき、何もかも諦めて過ごすだけの日々。一体自分はいつ選ぶ道を間違えてしまったのか。

いよいよ”中年”と呼ばれる年齢になってきて、焦りとあきらめとと嫉妬に押しつぶされそうになりながら、それでも1歩1歩踏み出していく…。

そう。今はちょっと、ついてないだけ。

7つの章による連作短編集。それぞれの章で主人公は異なりますが、全体として一つの大きな物語になっています。

一度は人生を諦めた人たちが、互いを認め合い助け合いながら再生していく、心温まる物語です。

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小説のあらすじは?

今はちょっと、ついてないだけ

立花浩樹(ひろき)が足を骨折し入院した母と同室になった宮川静枝さんの写真を撮ることになったのは、母が「息子は写真家」と話したことがきっかけでした。

確かに立花は”写真家”でした。でもそれは15年も昔のこと。バブルのころにはタチバナ・コウキという名で「ネイチャリング・シリーズ」という秘境の撮影旅行番組に出演していました。

バブルがはじけ事務所社長の巻島雅人が自己破産をすると、負債は全て立花浩樹にかかかり、この15年間は借金返済のために昼夜を問わずひたすら働いてきました。

ようやく借金の返済が終わったものの、だからといってやることもなく、暇な時間はパチンコで時間をつぶす毎日…。

静枝さんの息子・宮川良和は立花が”タチバナ・コウキ”だったことに気付いたようで「バブルの時の人だから」と、明らかに小馬鹿にしたような風でした。

携帯電話で撮った静枝さんの写真をプリントアウトしようと隣町のカメラ屋に行くと、写真の世界は完全にフィルムからデジタルの世界へ移行していることがわかりました。

自分にはもう関係ない世界だと思いながらも、店主の話は興味深く、ついつい話し込んでしまいました。

家に帰ると郵便屋さんが来て、前日母にあげたパチンコの景品のチョコレートが送られてきました。

借金を返し終わったのに何も始めずパチンコで時間を潰す毎日に小言を言われ、てっきり怒って送り返してきたのかと思うと、中からは「お母さんにとっては浩樹が世界一です。」と書かれた手紙が入っていました。

静枝さんに息子と撮った写真を送るついでに、もう一度撮影会をしようと提案し、立花は静枝さんの入所している施設に向かいました。撮った写真はフォトブックにして送ってあげました。

するとそのフォトブックを見た静枝さんの孫娘から、ダンス公演のチラシやパンフレットの写真を撮ってほしいと依頼がありました。

立花は悩みましたが、やはり自分には写真しかないと思い、東京に行く決心をしました。

今はちょっと、ついてないだけ。そのうちいい運がやってくるよ。

母はそう言って息子を送り出しました。

朝日が当たる場所

大学卒業以来、映像の制作会社ではたらいてきた宮川良和。閑職に追い込まれ明らかにリストラの対象となっていることに我慢ができなくてついに辞表を提出してしまいました。

妻の真里恵からは「ありえない」と罵られ、19才の娘・菜々子からも冷たい扱いを受ける日々。酒を飲みながら3か月前に亡くなった母の写真を見ていると、真里恵が「マザコン!」と言い放ちました。

その写真はタチバナ・コウキに撮ってもらった写真でした。

怒りに任せてそばにあったダンベルを投げ付けてしまい、追いかけた良和は真里恵に花瓶で殴られました。

それ以来、真里恵は同じ敷地内にある実家に逃げこみ、弁護士を立てて離婚の話が進んでいきました。

鞄に私物を詰め家を出た和良は、バイトが終わるころを見計らって菜々子に会いに行きましたが、そこにはなぜか立花浩樹がいました。

ダンスの公演のチラシやパンフレットの写真を撮ってもらったのを機に、公演のお手伝いをしてもらっているとのことでした。

菜々子のダンス公演を見に行った日も朝から酒に飲まれている状態で、気が付くと立花の背中に負ぶわれていました。

目が覚めるとそこは、立花が生活しているシェアハウスでした。優しく輝く朝日を浴びながら、宮川は生まれ変わった気持ちでやり直そうと思いました。

薔薇色の伝言

「ナカメシェアハウス」の庭先で立花と宮川が中年女性をモデルに撮影をしていました。宮川は2週間ほど前にシェアハウスに入居してきて、立花の撮影のお手伝いをしているようです。

瀬戸寛子が身支度を整えて出かけようとすると、モデルをしていた佐山という女性に声をかけられました。

聞くと、佐山は結婚相談所に提出する写真を撮っているとのことで、メイクのアドバイスをしてほしいようでした。

寛子が自分のチークとマスカラを使って佐山の顔に少し手を加えてあげると、血色のいいメイクに仕上がりました。

寛子は様々な資格をとり美容関係の仕事をしていました。技術には自信がありましたがリップサービスが苦手で押しが弱いために物を買わせるということができず、リストラの対象となり、現在はドラッグストアで美容部員のアルバイトをしています。

現在32才。ブライダルメイクの仕事の面接に行きましたが手ごたえはなく、自分の身の振り方を悩みながら歩いていると、突然若い女性から声をかけられました。

明らかにセールスだろうと思いながら話を聞くと、案の定最後には健康器具のパンフレットを渡されましたが、「あきらめないで、進み続けてください」という言葉には少し励まされた気がしました。

寛子がシェアハウスに戻ると、立花と宮川がダイニングキッチンでパソコンの画面に見入っています。宮川が「お礼」と言って寛子にビールをくれました。

公園で歩きながら撮ったらとてもいい写真が撮れたとのこと。寛子の施したチークのおかげでパソコンの画面には佐山さんの薔薇色の笑顔が映し出されていました。

甘い果実

佐山智美、40才。婚活サイトで知り合った男性と交際がスタートしていました。3才年上の鈴木隆文とは結婚を前提としたお付き合いをしており、今年の夏は東南アジアへリゾート旅行に行くことになっています。

全て寛子がしてくれたメイクのおかげと絶大な信頼を寄せ、今では寛子のお店の常連になっています。

寛子の方は佐山にしたメイクがきっかけで、立花と宮川から依頼を受けて撮影の際にはヘアメイクをするようになり、それが評判となって「ナカメシェアハウス」の一室で美容サロンを開くことになりました。

隆文とのデートの前にも寛子にメイクをしてもらい、張り切って出かけた智美でしたが…、信じられないことに隆文は旅行を中止すると言い出しました。

よくよく話を聞いていると、別の婚活サイトで知り合った20代の女性とうまくいきそうなので、智美との交際は清算するつもりのようでした。

隆文の言い分は「まだ人生あきらめたくない」と。

智美は「一人でも行く」と半ば意地になり、1人でリゾート旅行に行きました。何でも面倒を見てくれるバトラー(執事)付きのヴィラで、バトラーは智美の望むことは何でもしてくれました。

1人ではどこへも行けないのでバトラーのニョマンに「エスコートしてよ」というと、ニョマンは智美をショッピングに連れて行き、夜ははちみつマッサージをして体を重ねるようになりました。

熱く満ち足りた日々を過ごしていると、突然目の前に隆文が現れました。隆文は「智美にしたことを後悔している。リスタートしたい。」と言いましたが、智美は「まだ人生あきらめたくない」とその申し出を断りました。

チェックアウトの手続きに行くと「Tomomi」と書かれた封筒をニョマンから手渡されました。ドキドキしながら開けてみると、そこにははちみつ7瓶分の請求書が。

「ビジネス」というニョマンに智美は「もう7泊する」と告げました。ビジネスでも何でもいい。あと7日、甘い果実を独り占めすることにしました。

ボーイズ・トーク

岡野健一は大学時代の探検サークルの飲み会に出ていました。仲間内で話題になるのは決まってタチバナ・コウキのことです。

同じサークル仲間だった地味で控え目な立花浩樹が「ネイチャリング・シリーズ」に抜擢されたのは岡野たちにとって衝撃でした。

立花は東京に戻ってカメラマンの仕事を始めたみたいだと後輩が言うので、検索してみたら「ナカメシェアハウス」というfacebookにたどり着きました。

岡野は写真撮影希望のメールを送り、立花と再会しました。

ナカメシェアハウスで見せてもらったフォトブックの家族の幸せそうな笑顔に惹かれて、岡野も自分の家族の写真を撮ってほしいとお願いしました。

夏休み最後の土曜日、妻と子ども達を驚かせたくてこっそり準備したバーベキューセットを持って、岡野は東京近郊の公園へ出かけました。

炭になかなか火が点かず、暑い暑いと文句を言う妻と子ども達は、立花たちが合流するや否や「帰る」と言い出しました。

結局、岡野は帰っていく妻と子どもを追いかけていき、バーベキューセットは立花たちが「ナカメシェアハウス」に持って帰りました。

翌週の土曜日、妻をもう一度バーベキューに誘ってみましたが快い返事などもらえるはずもなく、岡野は1人で「ナカメシェアハウス」に向かいました。

そこで立花と宮川と岡野は、男3人で他愛もない馬鹿話をしながらバーベキューを楽しんだのでした。

テイク・フォー

会田健、46才、独身。仕事は芸人。5年前まではテレビで見ない日はなかったのに、今では仕事が激減してついに事務所との契約が切られてしまいました。

仕方なく「テイク・フォー」という個人事務所を起こして、心機一転頑張ろうと思った会田は、昔なじみの宮川の紹介で立花にヌード写真を撮ってほしいと頼んできました。

それなら友人たちと川や海へ遊びに行った前提で、自然の中で写真を撮ろうということになりました。ところが会田には友人と呼べる人がいません。みんな会田の人気が落ちるとともに会田の元から離れていってしまいました。

立花と宮川は岡野と一緒に長野にカヌーの講習を受けに行くのに会田を誘いました。

岡野はアウトドアに興味のない妻子に少しでも関心を持ってもらうために、愛犬のあずきを連れて動画を撮る予定だと言います。会田は宮川や岡野の協力を得て、アウトドアを楽しむ姿を撮ってもらいました。

そして立花に「ギャップが人の目を惹きつける」と言われ、会田は鍛え上げた腹筋を濡れたTシャツ越しに見せるセクシーな写真も撮影しました。

2週間後、後輩芸人が会田に電話をしてきて「超ヤバイ」と。ネットでは凄い事が起きていました。

羽化の夢

あずきがトンボを追いかけて湖に入っていった姿が愛らしいと話題になり、あずきの後を追って湖に入り、あずきを抱きかかえて湖から上がってきた会田が濡れた服を脱いで絞った姿がセクシーだと、ネットでは「シバイヌとニンジャ男」が大評判になっていました。

宮川は元々テレビマンで、岡野は大手のIT関連企業で働いているので動画作成などは朝飯前です。

立花、宮川、岡野、会田の4人はアウトドア関連の動画を日本内外に向けて配信し始めました。寛子は撮影用のヘアメイクを担当していました。

いろんなことが軌道に乗り始めたように感じていたところへ、不動産屋から「ナカメシェアハウス」を3か月をめどに退居してほしいと言われました。

宮川は最近誘ってくれているBS番組の制作会社に会田と一緒に顔を出しているようで、その会社に就職できないかと考えているようでした。

その制作会社は、バブル時代に活躍していた人が今どんな暮らしをしているかを検証する「あの人は今」的な番組を企画していました。

タチバナ・コウキの名前も当然のように上がりましたが、そこは宮川がうまく断ってくれました。

ところが、巻島雅人に取材の申込をすると「タチバナ・コウキがレポーター役をしてくれたら」と条件を付けられたと言います。

かつて自己破産をして、借金を全て立花に背負わせた巻島が今何をしているのか、気にならない訳がありません。そんな思いに囚われていると、非通知番号から電話がかかってきました。巻島でした。

巻島からはすぐに福岡の住所が送られてきました。立花は挑発に乗るまいと思いながらも、巻島がキャスティングできれば宮川の立場はよくなるかもしれないという気持ちも手伝って、博多行きの新幹線に飛び乗りました。

「相変わらず立花は情に弱い」巻島は言いました。

「でもそういう奴だから、格好よく撮りたいと思った。みんな、立花に夢中だった。」と言い、「本人は自分の力に無自覚だ」と続けました。

立花たちが今やっていることは「サナギ」の状態だから、美しく羽化するためには自分をうまく利用しろと巻島は言いました。

しかしどうしても過去の感情が邪魔をして、立花はイエスとは言えませんでした。

東京に戻った立花は、東京を一望できる展望台で宮川に「自分は心底、何を欲しているのかを考えた。20年近く経った今でも同じ、見たことがない景色が見たい。」と言いました。

そして宮川に丁寧にお礼を言うと「僕と組んでくれませんか。」と切り出しました。「見にいこうじゃない」宮川は力強く答えました。

寛子と会田にも声をかけて、新しい写真スタジオ兼美容サロンに年明けには引っ越すことになりました。

たまたまサロンに来ていて久しぶりに会った佐山さんは、少し見ない間に艶めいてとても綺麗になっていました。聞くと海外に素敵な彼がいて、クリスマスは海外で過ごすとのこと。

忘年会をしようと計画しましたが、お目当ての焼き肉屋のクーポン券の期限は切れているし、さらに悪いことに今日は定休日だということがわかりました。

「ちょっと、ついてないだけ」「そんな日もあるって」

別の焼き肉屋に予約を入れて、宮川、会田、寛子と連れ立って歩いていきます。岡野は会社から直行する予定です。

立花は道端のポストを見つけると、1年前母に贈ったものに似たメッセージを書いて送ることのできるチョコレートに「ありがとう ついてない時期は、抜けたようです」とメッセージを書き添えて、母に送りました。

小説の感想は?

「今はちょっと、ついてないだけ」

自分が何をしたいのか、何を求めているのか、正確につかむことは何才になっても難しいことなのかもしれません。

それでもじっとしているのではなく、ちょっと肩の力を抜いて前に歩き出してみる。そうすれば、ついてない時期は抜けるのだと信じてみたくなりました。

登場人物は、借金を抱え、結婚に焦り、仕事に行き詰まり、妻子に愛想をつかされた中年軍団。

自業自得っちゃ自業自得な部分もあるけど、時代の流れに翻弄されて、その岸にしかたどり着けなかった人たちです。

「頑張れ!頑張れ!」と励まされても、何をどう頑張ればいいのかもわからない時期にそんなことを言われても追い詰められるだけです。

「今はちょっと、ついてないだけ」

肩の力を抜いてあたりを見回すことができれば、物事は違った見え方がするのかもしれませんね。

そんな風にどーんと息子を信じられるお母さんに、私もなりたいな。

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