
「望み」という言葉は、前向きで、明るくて、力強いものだと思っていました。こんなにも、辛くて苦しい、望みがあるなんて…。
わが身に降りかかるかもしれないと、想像しようと思わなくても、自分に置き換えずにはいられない物語です。
『検察側の罪人』の雫井脩介による衝撃と感動の傑作です。
衝撃と感動のあらすじは?
石川家は、建築家を営む父・石川一登、フリーの校正者の母・貴代美、高校1年生の息子・規士、中学3年生の娘・雅の4人家族。
社会的にも経済的にも安定した幸せな家族でした。そんな、家族に訪れた地獄のような数日間の物語です。
大好きだったサッカーをケガのせいで諦めざるを得なくなった規士は、部活をやめ、夜出かけたら朝まで帰ってこないことがあったり、顔にあざを作って帰ってきたりと心配な行動が目立ち始めます。
一登と貴代美は気になりながらも、高校生という難しい年ごろの息子との関わり方を模索していました。そして見つけた、机の中のナイフ。
さすがにただ事ではないと問いただしますが「関係ない」「何でもない」としか言わず、一登はナイフを取り上げます。
ある夜規士は出かけていきますが、いつもなら昼前には帰ってくるのに丸一日経っても帰って来ないし、携帯の電源は切られたままです。そこに殺人事件を告げるニュースが流れます。
翌日、息子が殺人事件に関わっているかもしれないと、警察が来ます。遺体で発見された少年は、規士と交友関係にありました。
いきなり訪ねてきた記者から貴代美は、行方不明になっている少年は3人で、現場から逃げ去るところを目撃された少年は2人であると聞かされます。
その後、家の前にはマスコミが押し寄せ、インターフォンが鳴り響き、平穏だった日々が一変します。
その上、遺体で発見された被害者の少年が、一登の仕事の取引先の孫であることが判明します。
玄関ドアには卵を投げつけられ、門扉には赤いペンキが吹き付けられ…、進行中の仕事はキャンセル。ネットには規士への誹謗中傷の書き込み。
雅も塾に行けなくなり、希望の高校への進学にも陰りが見え始めます。
何もわからない今でさえこんな状況で、今後自分たち家族は普通に生活していけるのか。そして、息子は人を殺めるような人間ではないと信じる父は、息子が既に殺されているのではないかと思い始めます。
一方妻は、たとえ息子がどんな罪を犯していようと、とにかく生きて帰ってきてくれることだけを望みます。
息子が殺人犯だと思うのか、と声を荒げる夫と、息子が死んでいてもいいの、と泣き叫ぶ妻。
どちらになっても究極の絶望しか存在しないのに、そのどちらかの望みにしかすがることができない現実。
貴代美は、一登の仕事が立ち行かなくなっても、フリーの校正者として家族を食べさせていくと、たとえ罪を犯していたとしても規士を守り、共に歩いていく覚悟を決めます。
現実はそんなに甘くないし、息子は無実に違いないと言う一登。兄の犠牲になりたくないと泣く雅。
そして一登は、取り上げたはずのナイフを規士が持ち出したことを知り、もう何を信じればいいのか、何を覚悟すればいいのかわからなくなります。
石川家はボロボロで崩壊寸前でした。
物語の結末は?(含ネタバレ)
ここから先は、ネタバレを含みます。結末を知りたくない方はご注意くださいね。
小説の感想
最後まで読まないと結末はわからないから、読みたいんだけど…、結末には絶望しか待っていないので、読みたくない…。
読みながら、こんなにも苦しかった小説は他になかったかもしれません。
息子が殺人犯だと思うのか、と声を荒げる夫と、息子が死んでいてもいいの、と泣き叫ぶ妻。きっと、どちらもそんなこと望んでいるはずがありません。
どちらになっても究極の絶望しか存在しないのに、そのどちらかの望みにしかすがることができない現実。
きっと、この物語を読んだら、父か母かのどちらかに近い気持ちに揺れると思います。でも正解がわからない。本当はどちらも望みたくない。
物語の中の両親は、何度も気持ちが揺れ動きます。そして、死んでいるかもしれないと思った自分を、殺人を犯しているかもしれないと思った自分を責めます。
同じことが自分の身に起こらないなんて、絶対に誰にも言えない…。そうなったとき、私だったらどう思うんだろう、どうするんだろう、どれだけ考えても答えは出ませんでした。
当たり前のように感じている日々が、いかに大切なものかを、改めて思い知らされた気がします。
そして、難しい思春期の子どもとの関わり方…。自分はどれだけ子どものことがわかっているのか。自分の思いはどれだけ子どもに届いているのか。
いろいろなものを問いかけてくる、苦しい苦しい物語でした。
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