原作小説『ロスト・ケア』戦慄のあらすじは?

43人もの人間を殺した<男>が逮捕された。しかし<男>はシリアルキラーでもサイコパスでもなかった。

介護の現場にあふれる家族の悲鳴、落ちると二度とはい上がれない絶望という名の穴。それをもたらしているのは社会システムなのか。

<男>は何のために殺人をくり返すのか。

秀逸なミステリーであり社会派小説でもある日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。

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小説のあらすじは?

ある<男>に「死刑判決」が下された。<男>の罪は32人の殺人と1人の傷害致死容疑。充分に裏が取れた殺人が32人というだけで、実際男は43人もの人間を殺害していた。

後悔はない。判決の瞬間、<男>は笑みを浮かべた。

 

大友秀樹は79歳の父を連れて富裕層向け介護付き有料老人ホーム「フォレスト・ガーデン」を訪れていた。

学生時代の友人・佐久間功一郎が営業部長を務める「フォレスト・ガーデン」はまさに天国のように居心地がよい施設だった。

大友は検察官として1,2年ごとの転勤を余儀なくされ、1歳の娘を抱える妻に父の介護を任せることは不可能だった。

入居金は3億円近かったが、貿易業で成功した父の財産を全て処分すればなんとかなるだろう。大友は「フォレスト・ガーデン」に父を入居させることにした。

「フォレスト」は介護事業で全国展開している業界トップの企業だ。

同じころ、羽田洋子は76歳の母・静江の介護で精根尽き果てていた。認知症を患った母は洋子のこともわからなくなってしまい「お前は誰だ!泥棒!」と洋子を罵倒し暴れる毎日。

38歳で離婚した洋子は実家に戻り、必死で働き息子の颯太を育ててきた。母の協力なしではとても生活していけなかったことに恩を感じていたので、母の介護は当たり前だと思っていた。それなのに…。

介護保険制度があっても、母の介護にかかる費用は大きな負担となり、洋子は平日はスーパーでレジ打ちをし週末はスナックで働いていた。洋子が長時間家を空けるときには、母がベッドから這い出ることができないように両手をベルトで拘束して出ていくのだった。

母のことを愛しているはずなのに、毎日続く地獄の日々に、もう精神は限界だった。

ある朝、母が亡くなっていた。「心不全」ということだった。地獄のような日々が終わった。涙がこぼれたけれど、なぜかほっとした。

「フォレスト」介護施設で働く斯波宗典(しばむねのり)は訪問入浴車のハンドルを握っていた。数年前に父親を介護し看取ってから、その経験が活かせると思い介護業界に入った。

フォレスト八賀ケアセンター入社4年目の31歳、長時間の肉体労働で手取り18万円はあまりにも安い。介護保険制度ができてから仕事量は増え給料は減っているというのが現状だ。真面目で意欲的に働いているものほど辞めていく、そういう業界だ。

「フォレスト」に介護保険法違反があったとして改善勧告が出された。新聞一面で取り上げられ、心配になった大友は佐久間に電話をかけた。佐久間は「大丈夫」と言って電話を切ったが、大友は内心穏やかではなかった。

佐久間は、学生の頃から理路整然と正論を唱え性善説を信じている大友のことが大嫌いだった。勝つことと成功することだけを信条として生きてきた佐久間はフォレストを退社することにした。

裏社会のケンに、フォレストの顧客や従業員の名簿を利用することを持ちかけられた佐久間は、オレオレ詐欺に手を染めた。佐久間は劇場型の振り込め詐欺を考え出し、稼ぎは倍増した。ほしいと言う奴に名簿の一部をコピーして売り飛ばした。

大友の元に佐久間が死んだと連絡が入ったのはそれからしばらくしてからのことだった。荒稼ぎをして気を良くした佐久間はケンからの独立を画策していたが、どうやらそのことで反感を買ったようだ。

昼勤シフトの仕事を終えた斯波は、介護サービス利用者の梅田久治の家が見える空き地に車を停めて、ある人物が来るのを待っていた。

介護サービスセンターでは独居老人や昼間家族が不在の利用者を訪問するために自宅の鍵を預かっている。そのキーボックスを開けられるのは社員だけだ。

斯波はキーボックスの中の梅田久治の家の鍵が合鍵に入れ替わっていることに気付いた。キーの頭に刻印してあるマークが違っていたのだ。誰が?何のために?

それを確かめるために梅田久治の家の前で合鍵を作った人物が現れるのを待っていた。

そこへ現れたのはセンター長の団啓司だった。梅田久治の家の鍵を開けて入っていった団はしばらくすると出てきた。斯波は立ち去る団の後を追った。

大友はある特殊詐欺の資料を見ていてあることに気付いた。押収された名簿の出どころはフォレストであることが間違いないようだった。おそらく佐久間が持ち出したものなのだろう。

ある県の特定のケアセンターの「死亡のために契約を終了した利用者」の割合が突出して高いと感じるのは気のせいではないと感じ、大友は椎名とともにデータを精査することにした。

変死体として検視を受けた数も他のセンターと比べて格段に多く、また死亡推定時刻が午後2時から午後6時と午後10時から午前2時に集中しており、曜日との相関関係も見られた。

明らかに人為的な何かが働いている…。これは殺人だ…大友は確信した。

大友はフォレストの八賀ケアセンターのある社員に同行を求め、任意の事情聴取が始まった。精査したデータを男に突きつけると、男はあっさりと認めた。

男は介護利用者の部屋に盗聴器を仕掛け入念に調査してから処置に及んだこと、タバコから抽出したニコチンを皮下注射して毒殺していたことなどを淡々と話した。

男が手を下した人数は43人。経緯をきちんと記録したノートまであると言う。反省しているどころか、最後にはこう言い放った。

「殺すことで彼らと彼らの家族を救った」

そしてトランクに死体を積んだ車を乗り捨てていると、もう一つの殺人を告白した。

物語の結末…<男>とは?

ここから先は大いにネタバレを含みます。知りたくない方は【+ボタン】を開かないでね。

トランクの中の死体は?
トランクの中から見つかった死体は、フォレスト八賀ケアセンターのセンター長、団啓司だった。
<男>とは誰なのか?
<男>の正体は斯波宗典だった。

団が梅田久治の家から出てきたところを呼び止めると、団はいきなり斯波に襲いかかってきた。

斯波が団を突き飛ばすと、団はたまたまそこにあったコンクリートブロックに頭を打ち付けて動かなくなってしまった。

団は梅田久治の家に泥棒に入っていたようだった。

事件の真相は?
斯波は20代で年の離れた父の介護をすることになった。父子家庭に育ち唯一の親族である父の面倒をみるのは当たり前だと思っていた。

介護しながらの仕事には制限があり、次第に生活は困窮していった。3年間で髪は真っ白になった。ついに食べるものにも困るようになり、意を決して生活保護の申請に行ったが却下された。

この国には絶望という穴に落ちてしまった人に手を差し伸べるシステムが存在しないのだ。

認知症を患った父がふと正気に戻ったときに「殺してほしい」と泣いて頼んできたことが引き金となった。父の尊厳を守るために、斯波は父を殺した。

それからは「自分がしてほしかったことをしよう」と決心し、家族を苦しめ自らも苦しんでいる老人を選んで殺してきた。

斯波は自分のやってきたことを『ロスト・ケア=喪失の介護』と呼んだ。

斯波は正しいことをしたと主張し、全く罪悪感を感じていない。人のためにした殺人と死刑の何が違うというのかと言われ、大友は返す言葉がなかった。

物語の結末は?
大友が斯波の本当の目的に確信を持ったのは公判が始まってからだった。

連続殺人事件は「ロスト・ケア事件」と呼ばれ、物議をかもしていた。殺人は許されることではないが、本当の問題は社会のシステムにあって、斯波が凶悪犯として語られることは少なかった。

「悔い改めろ!」犯罪者に対して抱く感情がはっきりと自分自身に向いていることを大友は感じていた。

斯波は殺した人間と自分の命をもってこの国に問題を突き付けているのだ。人が人の死を望まなくていい世の中、絶望の穴が開いていない世界を作るために…。

小説の感想

<男>のしたことは卑劣な連続殺人で当然憤りと恐怖を感じますが、それ以上に介護から解放された家族がホッとするという事実に胸をえぐられる思いがします。

そういう意味では私も斯波に取り込まれてしまったということなのでしょうか。

介護をしている家族のことを認知できずに暴言を吐いたり暴れたりされて、真心を込めて対応できるなんて、私にも全く自信がありません。

そんなことよりも、もしも自分が年を取って暴言を吐いて家族を困らせるような老人になることを想像したら、気がおかしくなりそうです。長生きするのが怖い…。

以前「ドクターデスの遺産」を読んだ時にも、治る見込みがなくて残りの時間が痛みと苦しみだけの時間になるとしたら、人は死を選んではいけないのかという問いに答えを見つけることができませんでした。

もちろん殺人という行為は絶対に許されないことですが、介護生活が終わったことに安堵した家族を責めることはできなくて、亡くなった本人も自覚がないとはいえ自分が家族を苦しめているという事実から抜け出せてよかったと感じてしまっている自分がいます。

高齢化社会の問題はそれだけではありません。60歳以上の老人が金融資産の7割を保有していると言われている社会の中で、日々の食べるものにも困っている老人も存在しています。

お金がないと刑務所に入りたくて犯罪をくり返し、お金があると特殊詐欺のターゲットになる…。犯罪に加担するのも被害者になるのも高齢者という現実も描かれています。

物語の中で椎名が語っている通り、こうなることは何十年も前からわかっていたことなんです。法的整備もシステムも先送りして真剣に考えてこなかった日本という国のせいなのでしょうか。

この物語はフィクションであり全てが事実でないことを分かった上でも、やっぱりやりきれない思いはぬぐえません。

介護保険というものを使ったこともなくて、何がどういう風に問題なのかもわからないと、考えること自体もやめてしまうことになります。いずれは自分もお世話になることなのだからちゃんと考えないといけないことなのだとは思うのですが。

事件は解決したけれど、またモヤモヤが残りまくる衝撃の物語でした。

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