柚月裕子の小説『教誨(きょうかい)』のあらすじとネタバレ

幼い女の子2人を殺した罪で服役していた三原響子の死刑が執行された。響子の身元引受人として指定されていた吉沢香純は東京拘置所に遺骨と遺品を受け取りに行った。

響子の最期の言葉「約束は守ったよ、褒めて」はどういう意味だったのか?香純はこの言葉に囚われた。たったの一度しか顔を合わせたことがない響子が、どんな思いでこの言葉を発したのか知らずにはいられなかった。

香純は響子の遺骨を抱き、たった一人で響子が生まれ育った青森県相野町へと赴いた。響子と事件のことを知る人たちと会って話を聞きながら、少しずつ響子の本当の姿に触れていく香純。

事実と真実は違う…。重くて苦しくて切ない物語です。

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「教誨(きょうかい)」とはどういう意味?

「教誨」とは本来「教え諭すこと」という意味です。

特に、刑務所などの刑事施設に収容されている者(主に受刑者や死刑確定者)の精神的な救済を目的として行われる活動、つまり「教誨師」と呼ばれる宗教家などが、受刑者の非を悔い改めさせたり、死刑確定者の心に寄り添ったりする活動を指します。

基になっている実話事件とは?

2006年に起きた「秋田児童連続殺害事件」が基になっているようです。

当時9歳の女の子と2軒隣に住む7歳の男の子が約1か月の間をあけて殺害された事件で、当時33歳だった女の子の母親が逮捕されています。母親は無期懲役の判決を受けました。

事件当初、女の子は事故死と判断され、母親はそれを不服としていました。逮捕後には男の子の殺害は認めたものの、供述は二転三転しており、娘への殺意に関しては一貫して否定していると言われています。

母親の生い立ちに関しては、父親からの暴力と学校でのいじめはかなり壮絶なものであったことが明らかになっています。

事件は著者の柚月裕子さんが書くきっかけにはなったと思いますが、物語は完全にフィクションです。

『教誨』のあらすじ

死刑囚・三原響子(38歳)の遺骨と遺品を受け取るため、吉沢香純(32歳)は東京拘置所を訪れた。

響子の死刑執行が行われたのは3日前のこと。香純の母・静江にその日の午後、東京拘置所から連絡があり、そのとき初めて静江と香純が響子の身元引受人に指定されていたことを知らされた。

香純の祖父と響子の祖父が兄弟だったため法事などで会ったことはあったが、決して親しい親戚という訳ではなかった。

無縁仏にするのは可哀想だとの思いから、香純は遺骨と遺品を一旦引きとることにして本家に相談することにした。しかし、本家からは受け取りを拒否されてしまった。

響子が逮捕されたのは10年前。当時8歳の娘・愛理ちゃんと近くに住んでいた勝俣栞ちゃん(5歳)を殺した罪だ。

愛理ちゃんの遺体は青森県の白比女川で発見され当初事故死だと思われていたが、その1か月後、栞ちゃんの遺体が川沿いの遊歩道脇の林の中で見つかると、連続殺人事件として捜査されることになった。

栞ちゃんの首には絞められた跡があり、栞ちゃんの遺体に付着していた髪や衣服の繊維片が響子のものだったことが明らかになり逮捕されるに至った。その後、愛理ちゃんがいなくなった日に白比女川にかかるかげろう橋で響子の車が目撃されていたことがわかり、響子は愛理ちゃんの殺害と死体遺棄容疑で再逮捕された。

響子は1年後の裁判で死刑判決を受けたが、控訴することなく判決は確定した。

響子の最期の言葉は「約束は守ったよ。褒めて」だったと聞かされた香純は、この約束とは一体誰との何の約束だったのか気になって仕方がなかった。香純の中での響子ははかなげで優しい姿だった。

香純は拘置所で教誨師として響子と面会していた光圓寺の住職・下間将人に会いに行った。下間住職も響子の「約束」については知らないようだったが、響子が故郷に帰りたがっていたことを教えてくれた。

下間住職は三原家の菩提寺である松栄寺の住職に香純が出向いていくための口利きをしてくれて、もし断られたら光圓寺で供養してくれると言った。香純は響子の遺骨を持って青森県の松栄寺を訪れることにした。

松栄寺の住職・柴原昭道は檀家が響子の遺骨の受け入れを断固拒否しているので受け入れる訳にはいかないと言った。響子の母親の千枝子のが亡くなったときにも千枝子の遺骨を三原家の墓には入れないと大反対があったらしく、千枝子の遺骨は本家の墓地の横に拾ってきた岩を立てかけただけの墓に納骨されていた。

帰りは津軽日報社という新聞社の記者・樋口純也がホテルまで送ってくれることになった。樋口は響子が逮捕された後もずっと事件のことを調べていて、柴原住職から香純が来ることを聞いてぜひとも話がしたいということだった。

樋口は響子と同じ小学校に通っていて、樋口が2年生のとき響子は6年生だった。樋口が転校してきてすぐにいじめられているとき、響子が助けてくれたことがあった。樋口による響子の印象は、穏やかで無垢な人というものだった。

樋口は取材でわかった響子の生い立ちを香純に教えてくれた。

響子の父親の三原健一は昔から素行が悪く千枝子の妊娠をきっかけに結婚したらしい。家の格が違うと本家は大反対だったが健一の父・正二の後押しで結婚できたため、健一は正二に恥をかかせてはいけないと「しつけ」と称して千枝子と響子に厳しかった。

響子は幼稚園の頃からずっといじめられていた。響子が泣いて帰るたびに千枝子は幼稚園や学校に訴えるので、さらに疎まれいじめられるようになっていった。健一は響子が馬鹿なのが悪いと、さらに厳しく叱りつけるようになった。

響子が高校生の時、体操服がハサミでバラバラに切られてゴミ箱に捨てられたことがあった。健一や千枝子にばれてはいけないと思った響子は、いじめた子の財布からお金を盗んで新しい体操服を買った。

それ以来、いじめた子のお金や物を盗むようになった。遂に盗んでいるところを目撃され、響子が窃盗をしていたことが明るみに出て、健一は響子を何度も殴った。いじめられていた響子の気持ちは誰もわかってくれなかった。

高校を卒業すると響子は仙台市の建設会社に就職した。要領が悪く職場でもいじめられるようになったが、優しくしてくれた梶智也と付き合うようになり結婚し、愛理を授かった。しかし梶とはしばらくして離婚した。

逮捕された後、響子は自分がいじめを受けていたことは一切主張しなかった。響子に一体何があったのか、なぜ世間は響子をまるで鬼畜のように扱ったのか、ますますわからなくなった香純は滞在を延期することにした。

翌日、樋口の紹介で津軽日報社の編集局長・釜淵学と会った。香純は響子が働いていたコスモスというスナックのママに会わせてもらえることになった。

コスモスのママは響子のことを優しくてまっすぐな子だったと言った。ただ響子をとりまく身内と住人たちが響子を追い込んだのだと。

響子は抗うつ剤や安定剤など薬もたくさん飲んでいたため、副作用などで起き上がれないことが多く、思うように愛理の世話ができなかっただけで、けっして育児放棄などしていなかった。

コスモスのママも響子の「約束」のことは知らなかった。「褒めて」と言うからには、きっと約束の相手は母親の千枝子だろうとママは言ったが、千枝子はもう亡くなっている。香純は三原の本家の嫁・寿子に会いに行くことにした。

三原の本家に嫁いだ寿子は、千枝子と同じように三原家の人から虐げられて生きてきた。しかし、響子が事件を起こしてみんなが千枝子を責めたて罵っている時に、手を差し伸べてあげられなかったことを悔やんでいた。

寿子は、千枝子が亡くなったときに葬儀に駆け付けてくれた千枝子の友人・青木圭子のことを教えてくれた。

香純は芳名帳が保管されている松栄寺を訪れた。芳名帳を見せてほしいと頼んでも柴原住職は「できない」と拒否したが、やがてすべてを察したかのように、芳名帳をそっと香純の前に置いて席を立った。

香純は芳名帳の中の青木圭子の連絡先をメモすると、松栄寺を後にした。

青木圭子に会うために香純は秋田県の大館に向かった。響子が千枝子としていた「約束」を知りたいと話すと、圭子はそんなことに意味はないと拒否したが、最後には話してくれた。

女児殺害事件の真相は?

ここから先は大いにネタバレを含みます。知りたくない方は【+ボタン】を開かないでね。

女児殺害事件の真相は?
愛理が亡くなる1週間ほど前、体調がすぐれない響子と千枝子はぐずる愛理を連れてかげろう橋に行った。辛そうに地面に座り込む響子と「帰らない」と駄々をこねる愛理を見ているうちに、千枝子は「あの子がいなかったら…」とつぶやいてしまっていた。

千枝子の言葉から一週間後、愛理はかげろう橋から落ちて亡くなった。

愛理を失った悲しみに暮れていたとき、響子は自宅アパートの前で栞ちゃんと会った。愛理の仏壇に供えるために買ってきた雑誌を見せたら喜ぶかもしれないと思い、響子は栞ちゃんを自宅に招き入れた。

愛理に似た栞ちゃんのうなじを見ているうちに手を触れてみたくなり、逃げようとする栞ちゃんを押さえつけた。泣かれるとまた近所の人や栞ちゃんのお母さんから何を言われるかわからない。それが怖かった。

気が付くと響子は廊下で寝ており、こたつのコードが首に巻き付けられて栞ちゃんは死んでいた。

裁判で状況証拠が次々と突きつけられ断片的に様々な感触の記憶を体が覚えているので、響子はおそらく自分が2人を殺したことに間違いはないと思った。しかし、響子には事件の記憶がほとんどなかった。

「約束」とは?
千枝子は響子に「あの子がいなかったら…」と言ったことを口止めした。

それを裁判で言えば、少しは響子の擁護になったかもしれないのに、千枝子はなぜ言わなかったのか。

千枝子は響子が極刑を免れないことを分かった上で、帰る場所を守りたいと願っていたのだった。千枝子までもがこの町を追い出されたら響子には帰る場所がなくなってしまう。

響子は最期まで大好きな母・千枝子との約束を守って、この町に帰ってきたのだった。

千枝子といっしょのお墓には入ることができないけれど、故郷に帰りたがっていた響子の遺骨を、香純はかげろう橋から撒いた。

『教誨』を読んだ感想

著者の柚月裕子さんが「執筆中、辛くてなんども書けなくなった」と話しているとおり、読むのもなかなかに辛い物語でした。こんなに最初から最後まで読むのが辛かった物語は初めてかもしれません。

響子にとっても千枝子にとっても故郷は決して居心地のいい場所ではなかったのに、それでも人はどこかに帰属したいと願い、故郷に帰りたくなるものなのかな。

響子が帰りたいと願った気持ちよりも、千枝子が響子に帰ってきてほしい、この手で抱きしめてあげたいと願った気持ちの方が強かった気がします。

狭くて深い閉鎖的な関係はうまくいっている間はいいけれど、少しでも人から浮いてしまうとあっという間に居場所をなくしてしまう…。逃げ出せば他に生きていく場所があるのに、誰も教えてくれないと本人は気付かないし、逆にしがみついてしまうものなのかもしれません。

いじめや村八分をしていた人たちはきっと悪いことをしているなんて思っていなくて、その人なりのコミュニティを守るための正義があったのでしょう。加害者になることや加害者を生んでしまうことは、特別なことではなくて誰の身にも起こりうるのだと改めて痛感しました。

死刑執行の描写の重々しさは、さすが柚月裕子さん。これは本当に読んでいて苦しかった。

映画になったらこれは見られないかも。かの有名な『ダンサー・イン・ザ・ダーク』も見た後だいぶ後悔したからなぁ。

でもこれぞ読書という醍醐味が味わえる一冊です。一人でも多くの人に読んでほしい。

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