小説『アリアドネの声』あらすじとネタバレ

災害救助ドローンを手掛けるベンチャー企業で働く高木春生。春生は小学生の時に水の事故で兄を亡くした経験があり、今でもその時の夢を見ることがある。

スマートシティWANOKUNIのオープニングセレモニー当日、突然大きな地震が起こり、WANOKUNIは壊滅的な被害を受け、春生に地下5層のWANOKUNI駅の取り残された女性を救出するというミッションが課せられた。

要救助者の女性は「見えない・聞こえない・話せない」という三重障害を抱える中川博美。WANOKUNIプロジェクトを先導した知事の姪だ。

地下では火事と浸水が起こっており、制限時間6時間以内に地下3層にある避難シェルターまで誘導しなければならない。余震のため次々に襲いかかる想定外のトラブル。ネット上でも非難が炸裂していた。

春生が挑む前代未聞のミッションは果たして…。

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「アリアドネ」ってどういう意味?

アリアドネ」というのはギリシャ神話に出てくる女神の名前です。

アリアドネが想いを寄せるテセウスが迷宮に入ることになり、アリアドネはテセウスに糸玉を渡します。テセウスは入り口に糸を結び付けて迷宮に入っていき、牛頭人身の怪物ミノタウロスを退治した後、その糸をたどって迷宮から脱出することができたというのが「アリアドネの糸」として有名な物語です。

つまり「糸」が難局を乗り越えるための道しるべになったということです。

「アリアドネの声」はこの物語になぞらえて「声」や「音」が難局を乗り越えるための道しるべとなっているという物語です。

小説『アリアドネの声』のあらすじ

ドローンビジネスを手掛けているベンチャー企業「タラリア」に入社して3年目の高木春生(はるお)。毎日片道2時間以上かけて静岡から東京まで通勤している。

子どもの頃、春生は兄貴とよく「度胸試しの洞窟」に来ては魚を獲って帰っていた。といっても洞窟に入るのはいつも兄貴だけで、春生は怖くて入れなかった。

洞窟の入り口にまで潮が満ち、春生が慌てて大人を呼びに行ったときにはすでに手遅れだった。おぼれた兄貴は帰らぬ人となってしまった。兄貴の口癖「無理だと思ったら、そこが限界」という言葉が今でも春生の胸を縛り付けている。

春生がドローンの実技指導の講師として担当したスクールで高校時代の同級生・韮沢粟緒(にらさわあお)に会った。特に親しい訳ではなかったけれど、高校時代陸上部だった韮沢が交通事故で陸上ができなくなったとき、春生は兄貴の話をしたことがあった。

ITの技術を駆使して作られたスマートシティ・WANOKUNIが本格始動するという日、春生はオープニングセレモニーでドローンの空中ショーをすることになっていた。

WANOKUNIは街としての機能のほとんどが地下にあり、地上には主に住宅や教育施設がある。物流は地下に張り巡らされているドローン専用の配送路が用いられるためトラックなどもほとんど走っておらず、住む人にやさしい街づくりがされている。

殿山知事、山口市長の挨拶が続く会場で、春生は韮沢の姿を見つけた。韮沢の9歳の妹は交通事故のあとショックで失声症になったらしく、障害者枠でWANOKUNIの住人枠に当選したということだ。

殿山知事の姪で「見えない・聞こえない・話せない」の三重障害をもつ中川博美さんが介助者の伝田志穂とともに壇上に上がった。博美は盲ろう者用に開発された指点字で伝田に言葉を伝えていた。

ドローンショーも無事に終わり、春生と花村佳代子我聞庸一は午後からのドローンの見本市の準備をしていた。すると大きな地震が発生した。道路には大きな亀裂が走り、あちこちから煙が上がっている。

確かWANOKUNIプロジェクトは活断層の存在が浮上し一時とん挫していたはずだ。問題が解決されてからプロジェクトは再開されたのではなかったのか?地下施設は甚大な被害を受けていた。

韮沢は妹のを探していた。地震の混乱ではぐれてしまったらしい。親切な人に医療センターに送り届けられた碧と韮沢が無事に会えたことを見届けて春生が戻ると「緊急災害対策本部」へと連れていかれた。

「緊急災害対策本部」には消防士や警察官、スーツ姿の人が何やら神妙な面持ちで話をしていた。その輪の真ん中には世界にたった1台しかないドローン・アリアドネシリーズ第三世代SVR-Ⅲが置かれていた。

多種多様な高性能センサーを搭載しているアリアドネシリーズは遭難者発見に特化した機体だ。つまり安否確認のとれない要救助者がいるということだ。

WANOKUNIは地下5層構造。現在地下1層と2層では火災が発生しており、5層では地下水の浸水が始まっているらしい。消防が3機のドローンを投入したらしいが3機とも機体を喪失してしまったと、かつて春生のドローン講習の生徒だった消防士の火野誠が教えてくれた。

要救助者は地下5層のWANOKUNI駅に1名だけと聞いたが、その名前を聞いて春生は戦慄した。盲ろう者の中川博美さんだった。

博美と伝田はテレビ番組の収録に向かうためホームで地下鉄を待っていたところ突然の地震に襲われた。パニックではぐれてしまって、伝田だけが駅員にエレベーターに押し込まれて地上に戻ってきたが、博美はホームにとり残されてしまった。

地下水の浸水と火災が迫る中、制限時間6時間で3層にあるシェルターまで誘導しなくてはならない。移動距離にして約2000m。

SVR-Ⅲには要救助者のかすかなうめき声も聞き取れる最先端のマイクロフォンと音響分析機能が搭載されている。

春生の操縦で5層のWANOKUNI駅に到着したSVR-Ⅲは「コーンコーン」という音をキャッチした。音のする方向を探すと、博美が崩れ落ちた天井近くにある点検用の仮設通路の支柱に寄りかかって、白杖で鉄骨を叩いていた。

ドローンから伝田の香水を噴霧し助けに来たことに気付いてもらうと、続いて救援物資を博美に投下した。博美は誘導ルートや誘導の方法、意思疎通のためのルールなどを詳しく書いた点字カードを確認すると、バックパックを背負った。

そこへ突然余震が発生し、博美は落水してしまった。ドローンのマイクとサーモカメラで博美を探し出しすと、博美は落ち着いた様子であおむけで水面に浮かんでいた。

喪失していた1機のドローンを投下した電波中継器に接続して、SVR-Ⅲと2機のドローンで駅の改札にあったバルーン人形を運び博美の近くまで運ぶと、博美は人形につかまってドローンの風の来る方向へと泳ぎ始めた。博美は無事にホームの陸地へとたどり着いた。

ドローンの充電と博美の体力回復が終わると、ドローンから垂らしたワイヤーを博美に握らせて4層へと誘導した。

スパリゾートエリアに着くと、そこは太陽光を取り込むダクトがあって地下とは思えない明るさだった。脱衣場、岩風呂と抜けていく途中で博美は立ち止まった。博美の手話をカメラで捉えると「水、痛い」と訴えていた。付近を捜索すると漏電していることがわかった。

30分だけWANOKUNIの送電を停止してもらい博美を誘導することにしたが、突然崩落が起こり、SVR-Ⅲのカメラが壊れて視界を失ってしまった。

我聞が対象物までの距離を測った点群データを使って荒い3D画像を作ってくれたので、なんとか障害物を認識して誘導できそうだ。博美の位置はサーモカメラが赤い点で示してくれている。

けがをしたのか博美の足取りが急に重くなり、30分の送電停止を延長してもらってなんとか博美を温水設備エリアへと誘導した。

ドローンの充電と博美の体力回復のためにいったん作業が中断され、春生と火野が休憩をしていると、見知らぬ男が近づいてきて、WANOKUNIは手抜き工事だの中川博美の三重障害はガセだのとまくし立てた。男は暴露系ユーチューバーのコバッシーというらしい。

博美を3層の水耕栽培エリアの作物保管庫まで誘導したが、ここでもまた問題があった。進行方向の先にはネズミの大群が姿を現していた。伝田の香水を噴霧するとネズミの大群は逃げていった。

物流倉庫に着くと、今度は自動運転のフォークリフトが5,6台暴走していた。動き回るフォークリフトの間を抜けていくなんてことが果たして可能なのか?

我聞がフォークリフトの動きのパターンを計算してなんとか 奥の出口までのルートを割り出した。1秒たりとも無駄にはできない。ドローンは博美を誘導し始めた。

博美がなにかにつまずいたのか倒れた音がした。博美に向かってフォークリフトが突進してくる。あわや衝突かと思ったその時、博美を示す赤い点がフォークリフトを避けるように動いた。

振り返ると、ネズミの大群に気付いたのは博美が先だった。もしかして博美は見えているのかもしれない?疑問が渦巻き始める。実際ネットでは殿山知事の人気取りのために中川博美は三重障害を演じていると叩かれていた。

博美を無人の工場エリアまで誘導し、点検用の空中歩廊を進んでいく。狭い歩廊を順調に進んでいると思ったその時、突然春生の頭に激しい衝撃が走った。頭にドローンが墜落してきたのだ。

暴露系ユーチューバーのコバッシーが逃げていく姿が見えた。捜索の状況を盗聴するために飛ばしていたらしい。

春生の頭にドローンが直撃し倒れる瞬間、春生はレバーを傾けてしまった。そのためSVR-Ⅲは墜落し電波の届かないところに喪失してしまった。

地下施設の大型換気ダクトから中継器を下ろしてSVR-Ⅲに電波を届かせるしかないということになり、ドローンがかき集められることになった。そこへ韮沢が現れた。

韮沢の妹の碧が再び行方不明になったらしい。地下の採光窓が割れて落ちた可能性があるので、ドローンを1台妹の捜索に回してほしいと韮沢は訴えた。春生は博美を安全な場所まで誘導したらすぐに駆けつけると約束した。

火災の煙も地下水の流入も想定していた時間よりも早く迫っていた。ドローンを使っての中継器の投入がうまくいかなかったので、春生は地下1層まで下りることにした。酸素ボンベのタイムリミットは20分。時間内に博美をシェルターまで誘導する必要がある。

無事にSVR-Ⅲに電波が届き、博美の誘導が再開された。その時、再び余震が発生し、炎が勢いを増した。春生たちが地下1層に滞在できる制限時間は残り2分。

博美をシェルターに続く扉のある壁まで誘導し、安心したのもつかの間、扉は壁の左右にあることがわかった。シェルターに続くのは右のドアだが、博美は左のドアへ向かって行ってしまった。

春生は反射的に「右です!」と叫んでしまった。

すると、博美の位置を示している赤い点が右のドアに向かって移動し始めて、無事に右のドアからシェルターへと入っていった。

救助隊がシェルターへと向かい、博美を担架で運んで上がってきた。その姿を見て一同は驚愕した。なんと担架に乗せられて上がってきたのはもう1人の要救助者である碧だった。

3層のスパリゾートで崩落が起きた時、碧は博美のいる場所に落ちていた。博美の足取りが重くなったのはけがをした碧を背負っていたからで、春生たちが保温のための発熱材を入れたバックパックと思っていた赤い点は碧だった。

声を出せない碧と盲ろうの博美は、互いに補い合って出口を目指していたのだ。

伝田と抱き合って、少女の無事を確認した博美は声をあげて泣いた。

『アリアドネの声』の感想

人はどんな立場であろうがどんな状況に陥ろうと誰かを救いたいと思うのだと、心の底から感じられる温かい物語でした。

「無理だと思ったら、そこが限界」春生はずっとこの言葉に縛られて生きてきました。自分にもっと勇気があれば、自分が無理だと思わなければ兄を助けることができたのに、という後悔の念が春生を苦しめてきました。

それが、博美さんによって「無理だと思ったら諦める」という新しい解釈を知ることで、ただがむしゃらに無理をしてでも前に進むだけではいけないということを知っていきます。

春生が三重障害を抱える中川博美さんを助ける…という物語でありながら実は救われるのは春生という。人と人との繋がりってこういうことなんだと思わせてくれる素敵な物語でした。

ネットでとにかく他人を叩きたがる人種やバズるために手段を選ばないという今どきの世相も取り入れられているので、よけいに感情移入してしまいました。欲を言えばこいつらに天罰を与えてほしかった!

これ、ぜひとも映画化してほしいですね。

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