
生活保護をテーマに貧困と格差社会を描き出した衝撃作。
弱者を護るためのシステムから”護られなかった”人達がいます。それがたまたま網の目からこぼれ落ちたのではなく、誰かが見てみぬふりをしたり、はじめから救う気がなかったのだとしたら…。
中山七里さんの作品は単なるミステリーではありません。テーマが重く、胸の奥深いところまで共鳴してくるので、読んでいて苦しくなります…。
佐藤健さんと阿部寛さんという豪華キャストで映画化されることになりました。彼らが全身全霊で伝えたいことは何なのか、映画を鑑賞する前にぜひ一読してほしい物語です。
衝撃のあらすじは(含ネタバレ)
誰も住んでいない仙台市のアパートの一室で、福祉保険事務所の課長・三雲忠勝の遺体が見つかります。
失踪したのは2週間前ですが、死亡推定は3-5日前。手足や口をガムテープでぐるぐる巻きにされたまま放置され、次第に衰弱していく”餓死”でした。
宮城県警捜査一課の刑事・笘篠と蓮田は、聞き込みをしますが、被害者は人から恨まれるようなはずがない善人だと、誰もが口をそろえて言うのでした。
そして、第2の事件が起こります。今回の被害者は県議会議員の城之内猛留。
三雲のときと同じく死因は”餓死”で、遺留品はなく、ゴシップや黒い話には縁のない清廉潔白を絵に描いたような今どき珍しい県議会議員でした。
手がかりが全くつかめない中、被害者2人の過去を調べていくうちに、三雲と城之内は2年間同じ職場で働いていたことが分かりました。笘篠と蓮田は塩釜福祉保険事務所へと向かいました。
三雲と城之内が一緒に働いていた時期に、生活保護の申請を却下されて逆恨みしている人物が怪しいと、当時のデータを調べていきました。
怪しいとされた人物に順に当たっていくうちに、当時、三雲と城之内は生活保護申請した人の生活をろくに確かめることもせずに申請を却下していき、相当な恨みを買っていることがわかってきました。
職員の話では、却下をされて事務所とトラブルになった申請者の一人、遠島けいのケースでは、知人が事務所に乗り込んできて三雲と城之内にけがをさせた挙句、事務所を放火して警察沙汰になったことがあると言います。
その知人という男は利根という人物でした。
塩釜署と仙台地裁で事件の調書を調べると、利根勝久(当時22歳)は懲役10年の有罪判決を受けて服役中でした。
20歳の利根勝久が、以前ボコしたチンピラに絡まれているときに知らない老婆・遠島けいが「火事だ!」と叫んで助けてくれました。
けいは面倒見がよく、近所の中学生カンちゃんとともに利根は毎日けいの家にやってきては夕飯を食べて、まるで家族のように過ごしていました。
働いていた工場がヤクザの手に渡り、危うく組員になりそうになったときは、けいが土下座をして工場から助け出してくれました。
そして次の仕事が見つかるまで、けいは家で利根の面倒を見てくれたのでした。
新しい職場と住む場所がけいの家から遠く離れていたため、けいのところに顔を出す頻度がだんだん少なくなってきていたある日、カンちゃんが、けいがお金がなくて食べていないようだと知らせてくれました。
やがて電気もガスも止められて、利根が訪ねた時には、けいはティッシュを食べて空腹をしのいでいました。
けいは生活保護の申請に行ったけれど、門前払いを食らったと言います。
利根は1日仕事を休んで、もう一度生活保護の申請をするために福祉保険事務所にけいに付き添っていくことにしました。
福祉保険事務所では「弟がいるのならそちらに頼れ」と、20年以上も音信不通で居場所もわからない弟を引き合いに出され、申請書を受け取る気もない様子でした。
利根がけいの生活をいくら説明しても、親族でもない第三者は口出しするなと制され、挙句の果てに申請書は破り捨てられてしまいました。
それから3週間後、けいが死んだとカンちゃんから連絡が来ます。餓死だったとのこと。
警察署で変わり果てた姿となったけいと対面した、利根とカンちゃん。胃の中から山ほどティッシュペーパーがでてきたことと、生活保護の却下通知が届いていたことが警察から告げられました。
利根は翌日、福祉保険事務所に乱入し、三雲と城之内を殴り、事務所裏のゴミに火をつけました。
そして、放火と傷害で有罪になり服役することとなったのでした。
刑務所の中で模範囚だった利根は、8年で仮出所していました。
笘篠と蓮田が、利根の勤務先に行ってみると、3日前から無断欠勤しているとのこと。そこで、利根が出所後世話になっている服役中の仲間・五代という男のところへ向かいます。
当時の窓口の三雲、課長の城之内が既に殺されているので、次は所長だった上崎がターゲットになる可能性が高いという話をすると、五代は「明日、上崎はフィリピンへの売春ツアーから帰ってくる」と言います。
上崎を確保するために利根は必ず仙台空港に現れると踏んだ警察は、総動員して仙台空港の警備に当たります。
なかなか見つからない利根。きっと旅行者に変装しているとは思っていたものの、まさかの盲点を突かれました。利根は女性旅行者に変装していました。
利根を取り調べている笘篠と蓮田の元に一方が入ります。「上崎がいなくなった」と。
利根は「こうならないために先手を打つつもりだった」と言います。
「知っていることを話せ」と言う笘篠に、利根は「上崎の捜索を手伝わせろ」という条件を出しました。
小説の感想
中山七里さんの小説は、いつも読みながら胸が苦しくなります。
犯人が逮捕されても、事件の全容が明らかになっても、自分の中で何一つすっきり解決されないから…。
今回の物語は「生活保護」がテーマです。
貧困と格差が社会問題になっていることも、不正受給者が数多く存在することも私たちは知っています。
その陰で、もしかしたら、この物語のようなことが実際に起こっているのかもしれません。
「知る」ということは「知らない」ことよりずっといい事なのかもしれないけど、知ったところで何もできないのであれば、知らないことより質が悪いのかもしれない…。
見て見ぬふりをしたり、知らないふりをするのは、犯罪ではないのだけれど、罪悪感を伴います。
だけどそれを払拭する方法が分からない…。
毎回そう思いながら、中山七里さんの本を手に取ってしまいます。また次回もこんな思いをしながら読むことになるのかな…。
映画は「東日本大震災」に焦点を当てて、少し物語をアレンジしてあるようです。
そちらもぜひ見てほしいのですが、よかったら原作も読んでみてね。
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