川上未映子の衝撃の問題作、小説『黄色い家』あらすじとネタバレ

ネットの小さな記事で見つけた「吉川黄美子」の名前。吉川黄美子は20代の女性を監禁・暴行した罪で起訴され、初公判が行われたという記事だった。

伊藤花は確かにその名前を知っていた。20年以上前の奇妙な共同生活の記憶がよみがえってくる。その時の花は生きるのに必死だった。

稼いでも稼いでも花の前からお金は離れていく。黄美子とたまたま知り合った少女2人との共同生活を続けるために、ついに犯罪へと手を染めていく花。花にとっては、お金が全てだった。

そして歪んだ共同生活はある日瓦解を迎えることになった…。

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小説『黄色い家』のあらすじ

総菜屋さんで働く伊藤花、ネットでたまたま見つけた小さな記事に「吉川黄美子」という名前を見つけた。吉川黄美子は20代の女性をマンションに監禁・暴行した罪で起訴され、その初公判が行われたという記事だった。

花は吉川黄美子という名前に覚えがある。同一人物なのか?20年以上前に黄美子と奇妙な共同生活を送っていたことを思い出し怖くなった。

もしかしたら自分の元にも警察がやって来るのか不安になり、かつて一緒に共同生活をしていた加藤蘭に連絡をとった。

蘭は当時の生活は「黒歴史」であり、20年も経った今になって心配することなど何もないと言い、もう二度と花と接触するのもごめんだというように去っていった。

花が黄美子と出会ったのは、花が15歳の夏のことだった。ホステスをしている母親のと風呂も無い文化住宅で暮らしていたが、ある朝起きると母親がいなくて、代わりに隣で眠っていたのが黄美子だった。

愛はその時付き合っていた彼氏のトロスケのところに行ってしまったらしく、花は愛の友達だという黄美子とひと月ほど一緒に生活することになった。

黄美子との生活は楽しかった。風水で黄色いものを西に置くと金運があがることも黄美子が教えてくれた。

夏休みが明けたころ、黄美子は突然いなくなってしまった。入れ替わるようにして愛が家に帰ってきた。

高校生になると、花はバイトに明け暮れた。ボロアパートを出て一人暮らしをしたい一心で働き続けたが、1年半かかって必死で貯めた72万円はどうやらトロスケに持ち逃げされたようだ。

手を尽くしたがトロスケは見つからなかった。目の前が真っ暗になりやる気を失った花が、かつて愛が勤めていたスナックの前を通りかかると、店の中から1人の女性が出てきた。黄美子だった。

2年間、会いたくて会いたくてたまらなかった黄美子に「一緒にくる?」と言われ、花は家を捨て黄美子についていくことにした。

三軒茶屋の小さな雑居ビルの3階に黄美子が小さなスナック「れもん」をオープンすることになった。前のママからお店を譲りうける形で、常連のお客も引き継げるという好条件だった。

「れもん」がオープンすると、花は高校にも行かず、年をごまかして「れもん」で働いた。幸か不幸か花は酒に強いらしく、スナックの仕事が向いていた。

「れもん」には、安映水(アン・ヨンス)という男性や銀座のクラブで働く琴美がよくやってきた。ヨンスは花に携帯電話を持たせたり何かと黄美子と花のお世話をしてくれた。琴美は月1くらいで上客を連れてきてくれた。

花が加藤蘭とあったのは店の前の路上だった。蘭は花より1つ年上の18歳。少しずつ話をするようになったころ、蘭は働いていたキャバクラを辞めると言うので「れもん」のバイトに入ってもらった。

花と蘭が2人で店に出ている時、制服の女子高生を連れた客がやってきた。ライターをしているというニャー兄(にい)ことながさわ猫太は今女子高生の小説を書いていると言った。連れている女子高生は高3で名前を玉森桃子といった。

桃子は家がとても裕福で私立の女子高に通っているらしい。母親は世間体にしか興味がなく、妹の静香は桃子と違ってすごい美人だと言った。

花と蘭と桃子は不幸話に意気投合し、それ以来3人でよくつるむようになった。花はまるで青春しているようで毎日が楽しかった。

たまたま休みの日の昼間に花が「れもん」をのぞくと、そこにはヨンスがいて野球賭博が開かれていた。勝手に「れもん」を使われた気がして花は不愉快だった。ヨンスは身の上話を花に聞かせた。

ヨンスは一度も日本から出たことのない在日韓国人で、子どものころから差別を受け貧しい生活を強いられてきた。兄の雨俊(ウジョン)と幼なじみの志訓(ジフン)とつるんでは近所では皆に知られる存在となっていた。テキヤで働いていたこともあったが、ウジョンとジフンは親分から盃をもらってヤクザになった。

黄美子とウジョン、琴美とジフンがつき合っていたのでそこにヨンスも混じることが多く、みんなの弟分として長い付き合いだった。黄美子の母親が刑務所に入っていることもヨンスは花に教えてくれた。

黄美子と花が住んでいる部屋を出ていかないといけなくなると、「れもん」が入っている雑居ビルのオーナー・ジン爺(陣野)が、自分が持っている一軒家を貸してくれることになった。蘭と桃子もやってきて4人の共同生活が始まった。

黄美子は難しいことを考えたり管理したりするのは無理なので、お金の管理は花が全て行っていた。「れもん」を始めて1年2か月、銀行口座など作ることができないので段ボールで管理していた貯金は235万円になっていた。

部屋の一角には黄色いものばかりを集めた「黄色コーナー」があった。

家を出てから全く連絡を取っていなかった母親の愛から花に突然連絡があった。どういう風の吹き回しかと思ったら、お金を貸してほしいと言う。

うまい儲け話があると騙され、200万円の借金を作ってしまったのだった。黄美子に相談するとお金はまた稼げばいいとあっさり言うので、花は泣く泣く愛に200万円を渡した。

ジン爺から黄美子に電話があった。「れもん」が燃えていると…。火元は1階の料理屋「福や」だった。4人はお金を稼ぐすべを失った。

どうにかして「れもん」を再開させたいと思い、花はスヨンに相談してヴィヴィアンを紹介してもらった。面接に合格した花はヴィヴィアンの下で働くことになった。

ヴィヴィアンから3枚の偽造キャッシュカードを預かり、50万円ずつを引き出す。すべてATMの場所を変え、2週間後には現金150万円をヴィヴィアンに渡し、カードを次の3枚と交換する。報酬は1割なので月に30万円もらえることになる。

「れもん」を再開させるためのお金を貯めるためと自分に言い聞かせて、花はヴィヴィアンの仕事を続けた。初めのころは心臓が爆発しそうなくらいドキドキしたが、それにも次第に慣れていった。

桃子の妹の静香がいきなり乗り込んできた。桃子はクラブ通いをきっかけにイベントを企画してはパー券を売るチームに引き込まれていた。その中のウーノという男を好きになってしまった桃子は、いい格好をするためにパー券を何十枚も買うようになった。

パー券を買ったものの売るあてもなく50万円の支払いだけが残り、静香はそのお金を回収するために来たのだった。

蘭も働いていたキャバクラを辞めたようで、にっちもさっちもいかなくなったと判断した花は、ヴィヴィアンにもっと仕事を回してもらえないかと相談した。

花と蘭と桃子は「アタック」と呼ばれる、事故カードを使ってデパートで金券を買いまくっては金券ショップに持ち込んで現金化するという仕事を始めた。偽造クレジットカードを使うようになるころには、面白いように金が転がり込んでくるようになっていき、「アタック」を始めて2か月余りで段ボール貯金は570万円ほどになっていた。

桃子の50万円の借金もそこから払ってやった。

ヴィヴィアンと連絡がつかなくなると、花はヴィヴィアンが警察にでも捕まっていずれ自分たちの元にも検察がやって来るのではないかと神経をすり減らしていった。なにも考えていない蘭や桃子の言動にイライラをぶちまけ、花は工具に走り黄色いペンキを買った。

花は蘭と桃子に命令して、部屋の壁を黄色に塗り上げていった。

お金のこと生活のこと「アタック」のこと、自分だけが考えて神経をすり減らしているのに、蘭も桃子も何も考えていないように見えることに花は苛立っていた。ある日、桃子が友達を勝手に家に連れてきているのを見て、花は怒りを爆発させた。

ヴィヴィアンが持ってきた新しい仕事は「スキミング」だった。琴美の店にスキマーを仕込んでクレジットカードの情報を抜き取るのだと言う。この新しい仕事「セラヴィ」も順調に進んでいった。

蘭と桃子との関係はぎくしゃくしていき、ついに桃子がお金は3人で精算して解散しようと言い出した。その時点で段ボール貯金は2000万円を超えていた。

4等分にすることに花は納得できなかった。仕事に対する重圧も責任も、花のそれは他の3人とは比べ物にはならない。

琴美と楽しいお酒を飲んで帰宅した花は、蘭と桃子がお金を持って逃げようとしているところに遭遇した。桃子は花が自分たちを支配していただけだと言い放ち、花は桃子につかみかかった。

そのとき黄美子が、桃子が実家から盗ってきたラッセンの絵の額縁をつかんで振りかざすと、何度もふすまに振り下ろした。そんな状況でも紙袋を持って逃げようとする桃子を花は必死でつかみ、それを止めようとした蘭とももみ合いになった。

ふいに桃子は階段を転がり落ちていった。桃子は全部警察と親に言うとわめくので、花はガムテープで桃子の口をふさぎ手足も拘束した。

桃子を何とか説得してどういう風に収めたらいいのいいのか悩んでいると、ヨンスからヴィヴィアンが飛んだという連絡が入った。頭が混乱しながら歩いていると、道の反対側にトロスケを見つけた。花は「金を返せ」と殴りかかっていったが逃げられてしまった。

次にヨンスから電話があったのは「琴美が死んだ」という知らせだった。琴美と一緒に暮らしていた追川という男はシャブ中でこれまでも琴美に暴力を振るっていたが、追川と一緒に死んでいたらしい。

ヨンスからジフンが生きていたことを聞いた花は、琴美が喜ぶと思って酔った勢いでついしゃべってしまった。ジフンに会いに行くことがばれて追川に殺されたのかもしれない…自分がしたことが怖くなり花はどうしていいかわからなくなっていた。

夜も眠れなくなった花は部屋の壁の黄色いペンキを削り続けた。

蘭と桃子は何もかもなかったことにしようと言い、お金をきっちり4等分して出ていった。花は黄美子を残して家を出た。

花はかつて住んでいたボロい文化住宅に戻った。母親は何事もなかったかのように花を迎えた。

それからの花は1000円にも満たない時給で朝から晩まで働いた。36歳の時、母親が亡くなった。その後、惣菜屋で働くことになり現在に至っている。

黄美子の裁判はどうなったのかネットで検索しても何もわからず、花は古い携帯電話のアドレス帳にあったヨンスの番号に電話をかけた。黄美子は執行猶予が付き、かつて愛が働いていたスナックの2階に住んでいるのだと教えてくれた。

花は黄美子に会いに言った。黄美子がいなかったら花は生きていけなかった。それなのに見捨ててしまったことを謝り、一緒に行こうと言った。しかし黄美子は花の申し出を断った。

『黄色い家』の感想

犯罪に手を染めてでも生きるのに必死だった少女の物語。

生まれた場所が悪かったから?親が悪かったから?もちろんそういう負の連鎖的な要素もあるんだろうけど、お金持ちで何不自由なく育った桃子も堕落していくのだから、それだけとは言えないんですよね。

ただ少女たちは愛されたくて見守ってほしかっただけなのに。少女たちの隣にもっと別の世界があると教えてくれる大人が一人でいいからいてくれればよかったのに。

お金だけで繋がっていた繋がりはいとも簡単に切れてしまう…、本当は花はそんなつながりを求めていたんじゃないはずなのに。

結局悪いのは大人たちなんだと思う。だけど、その大人たちもどうやって生きていくのが正しいことなのかがわからない世の中。ものすごく混沌としていて重い世界だった。

唯一救いに感じることができたのは、花が黄美子さんに会いに行ったこと。花は黄美子さんのことを恩人だと思っているし、人と人のつながりとして感じていたってことなんだよね?

普通に働いてお金をもらって、不平不満をこぼしながらも何不自由なく暮らしている今の生活に感謝することしかできないのかな。なんだか切ない読後感。

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