小説『ウォーターゲーム』

AN通信エージェント・鷹野一彦が史上最大の難ミッションに挑む『太陽は動かない』、鷹野一彦の高校時代からエージェントの原点を描く『森は知っている』に続く、吉田修一の傑作シリーズの第3弾!

まもなく35歳になる鷹野一彦。AN通信エージェント引退を目前に控え、最後のミッションに挑みます。

日本国内でダムの爆破が相次ぎ、水の利権をめぐって水面下で大きな取引がなされようとしています。

この物語は『太陽は動かない』『森は知っている』の続編です。これまでに起こった数々の事象や登場人物が再び複雑に絡み合うことになります。

『太陽は動かない』『森は知っている』を読んでからが絶対おすすめですよ!

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小説のあらすじは?

補修中だった福岡の相楽ダムが決壊し、氾濫した貯水湖の水が下流の町を飲み込んでいきました。

「倉庫に保管していたダイナマイトが何らかの理由で引火した」と発表されていましたが、そのニュースを鷹野一彦はベトナムで聞いていました。

V.O.エキュによるダム爆破の計画は確か中止になったはず…。計画が何者かに盗まれ、実行されたに違いありませんでした。

爆発するダムを、ダムの補修工事を請け負った建設会社社長である安達と日雇い作業員の若宮真司が少し離れた場所で見ていました。安達は「あの人ら、ほんとにやった…」と口走っていました。

以前からどこかへ一緒に逃げようと誘ってきていた安達社長は、真司を連れて小倉から名古屋へと逃げました。安達は「今2千万円もらっているから、残りの3千万円と偽造パスポートをもらったら仕事は終わり。2人でどこかで暮らそう。」と何度も話していました。

真司は、安達がトイレに入ったすきに肌身離さず持ってるポーチの中を探り【229】と番号札の付いたロッカーキーを見つけました。銭湯に行くと言って家を出た真司は、駅のコインロッカー【229】から2千万円の入った紙袋を取り出し【228】へ移し、鍵を返しました。

翌日、安達は取引をした相手に会いに名古屋駅へと向かいました。真司が離れた場所からこっそり見ていると、連れて行かれた安達は車の中で倒れていていて、男がロッカーに向かって行きました。

空っぽの【229】のロッカーを開けた男は怒り狂って車に戻っていきました。自分のことを追ってくるのも時間の問題だと考え、真司は【228】の中から2千万円を取り出し、荷物を取りにアパートへと戻りました。

真司は隣の部屋で虐待されベランダに放り出されていた女の子に「一緒にくるか」と声をかけ、女の子を連れて逃げました。かつて、自分がそうされたように……。

鷹野と田岡は、相楽ダムが決壊し濁流に飲み込まれた町に来ていました。

元々、ダムを爆破するという計画は、V.O.エキュと東洋エナジーと衆議院議員の中尊寺信孝が、復興を大義名分にして水利権を独占しようと企てたものでした。

中止になっていたはずなのに何者かに計画を盗まれ実行されたということは、中尊寺の名前が首謀者として公表される危険があるということです。

鷹野と田岡には第2、第3の爆破を阻止するというミッションが言い渡されました。安達と真司の姿は小倉港の防犯カメラに確認されていました。

同じころ、九州新聞の九条麻衣子が被災地を取材していました。飲み屋の摂子ママが、安達と見知らぬ男が「爆破」とか「ダイナマイト」の話をしていたと言いました。

また摂子ママのところで働いていた雅美という女性は、日雇い作業員の若宮真司のことを以前から知っていたようだと語り、雅美のカバンの中からは、児童福祉施設で撮った写真と共に、真司が8歳で亡くなったことにされその後は新谷洋介として育てられていたこと、【AN通信】という言葉が書かれた書類が見つかりました。

中尊寺に呼ばれた鷹野は、東洋エナジーの石崎という男から、元々のダム爆破計画について聞きました。秘密の”国際便利屋”に依頼しており、最終的にはイスラム過激派組織のテロということにするはずでした。

その”国際便利屋”の名は、リー・ヨンソン。顔に痛ましい傷があり、死をも恐れぬ貫録をまとったシンガポール国籍の男でした。

謎の女・アヤコがバンコクにいる情報を掴み、鷹野と田岡はタイへと飛びました。アヤコはリー・ヨンソンと会って、V.O.エキュと東洋エナジーの計画を丸々横取りしようとしているXの存在を聞き出していました。

九条麻衣子は若宮真司が育った児童福祉施設に来ていました。職員の会話から、新谷洋介(若宮真司)が、昨日女の子を連れてきたということを知り、その女の子から真司が「ならんとう」へ行ったことを聞き出しました。

AN通信の風間から中尊寺へは、水利権を手放すようにとリー・ヨンソンからの要求を伝えました。しかし、中尊寺はそれにはNOを出し、第2のダム爆破へのカウントダウンが始まりました。

リー・ヨンソン側に潜入しているアヤコから、次のターゲットは福井県の動谷ダムだと連絡があり、鷹野と田岡は動谷ダムに急ぎました。

次にアヤコから連絡があったときには、爆破まであと12分。ダム堤体に設置されたダイナマイトは6か所。鷹野と田岡は残り3秒まで駆けずり回り、何とか爆発を食い止めました。そのことを、風間に報告すると、兵庫県の知森ダムが決壊したことが告げられました。

若宮真司は南蘭島へ来ていました。児童福祉施設にいたころ、嫌なことがあると天井裏に隠れることが多かった真司は、たまたま先生と見知らぬ男が話しているのを聞いてしまったことがありました。

その男は、中学校へ上がると同時に新谷洋介をAN通信が引き取ってエージェントとしての訓練を開始する予定だったのが、新谷洋介の心臓に異常が見つかり、AN通信の任務には耐えられないと判断されたと言いました。

高校生になったら南蘭島へ行くことになっていたこともその会話で知りました。かつて母親に捨てられた真司は、正体もわからないAN通信というものにまで捨てられたという気持ちになり、いつか南蘭島へ来てみたいと思っていました。

大國首相に呼び出された中尊寺は、電力会社JOXパワーの男からリー・ヨンソンからの要求を伝えられました。中尊寺と東洋エナジーが水利権から一切から手を引くこと。そして、AN通信を壊滅させてほしいということ。

それが果たされれば、中尊寺と東洋エナジーが主導したダムの爆破計画の証拠は公にしないし、中尊寺をJOXパワーのスーパーバイザーとして迎える準備があると伝えられました。中尊寺からAN通信には、計画の中止が伝えられました。

鷹野と田岡の元にはアヤコから、JOXパワーにはデイビッド・キムが加担していると伝えられました。JOXパワーがカンボジアに何度も出張している事実があり、鷹野と田岡はカンボジアに行くことにしました。

アンコールワットの前にはタキシード姿のデイビッド・キムとドレス姿のミス・マッグローの姿がありました。

マッグローの父親はイギリスの投資会社「ロイヤル・ロンドン・グロース」のオーナーであり、マッグロー自身も重役を務めています。プノンペンのホテルで開かれたカンボジア政府主催のパーティーで、デイビッド・キムは韓国の投資会社の人間だと自己紹介してマッグローに近づきました。

デイビッド・キムは「これからヘリを飛ばして、アンコールワットへ朝焼けを見に行きましょう」とマッグローを誘ったのでした。そして「会わせたい人がいる」と、ジャングルの奥深くに住むリー・ヨンソンのところへ連れて行きました。

田岡がプノンペンのJOXパワーの事務所に忍び込んでいる間に、鷹野が何者かに連れ去られました。

鷹野を連れ去った男はアジスと名乗るキルギス人でした。中央アジアでは、上流の国がダムを作って水を独り占めしてしまえば、下流の国では深刻な事態が起こるという「水戦争」が起こりつつありました。

アジスは、リー・ヨンソンが中央アジアの水源を狙って動いているという情報があるのでその目的を調べてほしいと鷹野に依頼してきました。

南蘭島では、九条麻衣子が「若宮真司」を探しており、東洋エナジーから中尊寺の私設秘書に引き抜かれた石崎がAN通信についての情報を探していました。あちこちで聞き込みをしているうちに互いの存在を知った九条と石崎は、協力してことを運ぶことにしました。そしてついに若宮真司を見つけました。

アヤコは「私はあなたのお役に立てる」とマッグローに近づいていました。

真司は日本のマスコミから雲隠れするために石崎に連れられて、偽造パスポートを使ってカンボジアのリー・ヨンソンの元に来ていました。

真司が何者かにカンボジアに連れて行かれた情報はAN通信にも入っていて、鷹野は早速カンボジアへ飛び、ジャングルの奥深くにあるリー・ヨンソンの屋敷に向かいました。

ジャングルを抜けると広大な農地に出ました。前から走ってくるトラックの荷台に乗ってる4,5人の農夫たちが歌っている歌を聞いて、鷹野はハッとしました。南蘭島高校の校歌だったのです。そこにいたのは寛太でした。

突然背後からライフルを突き付けられ、鷹野はリー・ヨンソンの屋敷へと連れて行かれました。屋敷の前で鷹野を出迎える男の、痛ましい傷跡が残る顔に昔の面影はありませんでしたが、その瞳は柳勇次のものでした。

AN通信から追われる身になってからの柳は、空き巣を繰り返して貯めたお金で、寛太と一緒にロシアに密航していました。そこで知り合った日本のヤクザと、拳銃や麻薬を日本へ送る仕事をしていましたが、敵も味方も両方裏切ろうとしていたことがばれて、半殺しの目に遭い厳寒のバイカル湖に投げ捨てられました。顔の傷はその時のものでした。元KGBというロシア人に助けられてキルギスに密入国し、ある家族のお世話になって命をつなぐことができました。

傷がいえた柳は助けてくれたロシア人と共にロシアに戻って、ロシアの機密情報を中国に売って莫大な利益を手にしました。そしてその金を元手にビジネスを始め、そこでリー・ヨンソンと名乗るようになりシンガポール国籍を取得するに至りました。

柳は鷹野に「俺の王国はもっとデカくなる。…その王国に、お前もいてほしい。」と言いました。

そこへ突如警察車両とヘリが現れ、リー・ヨンソンは連れて行かれました。マッグローがリー・ヨンソンを排除するために身柄を日本へ売ろうとしていました。マッグローが、リー・ヨンソンが勝手に引き込んだAN通信とも手を切りたいというと、アヤコは「死人がいっぱい出るけど、いい考えがある」と言いました。

解放されたリー・ヨンソンは急に日本へ行くと言い出しました。鷹野や石崎、真司も一緒にビジネスジェットで日本に行くことになりましたが、搭乗直前、突然石崎が真っ青になって嘔吐をし始め、石崎を残して出発することになりました。

大量の水を飲んで胃の中のものを吐き切った石崎は、中尊寺に電話をしました。予定通りリー・ヨンソンは日本へ向かったと。中尊寺からは、間もなくそのビジネスジェットは墜落すると告げられました。中尊寺は物事が計画通りに進んでいることをアヤコに報告しました。

リー・ヨンソンが死んだ後で、ダム爆破の首謀者はリー・ヨンソンであったと発表し、自分の手を離れて進みつつある水利権の話は、中尊寺の元に戻ってくる手はずになっていました。

ビジネスジェットの中でリー・ヨンソンは鷹野に、中央アジアの水道事業は自分の命を救ってくれたキルギスへの恩返しなので、利益などは全く見込んでいないこと、ロイヤル・ロンドン・グロースのマッグローを破産させるつもりであることを話しました。

しばらくしてリー・ヨンソンはジェット機のコースが間違っていることに気付きます。機長に聞くと妨害電波のせいで操縦不能になっていると言いました。鷹野は翼の上に黒いボックスのようなものがあるのを見つけました。

鷹野は救命道具の中からロープを取り出し自分に巻き付けました。横で呆然と見ている真司に「手伝えよ。スパイになりたかったんだろ?」と言って、翼の上に出ていきました。

翼の先端まで手の力だけで移動していき、黒いボックスを蹴り落そうとしました。あと一蹴りで最後のボルトが外れるというところで、ジェット機が急降下し、鷹野の体は空中に投げ出されました。その瞬間手がボックスを掴んでいました。

ボックスの最後の1本のボルトが抜け、鷹野の体は宙に浮き、もう自分はこれで終わりだと思ったその時、腰に激痛が走りました。鷹野の腰にくくり付けられているロープを、真司が必死に引いている姿が見えました。

諦めてはならないと思った鷹野は、自分もロープを手繰り寄せ少しずつ機体に近づいていきました。もう海面はそこまで迫っています。柳たちはなんとか機体を不時着させようとしていました。

機体の外に体があると着水の衝撃で、鷹野の体は吹っ飛ぶに違いありません。鷹野は真司を信じて翼を蹴りロープを引きました。鷹野の体が機体の中に転がり込んだのと、機体の腹が海面に衝突したのはほぼ同時でした。鷹野と真司は互いの体とシートを必死でつかんで、何回も襲ってくる衝撃を乗り越えました。

ロンドン市街を見下ろす高層ビルにあるロイヤル・ロンドン・グロースのオフィスで、マッグローの差し出した小切手をアヤコが受け取っていました。今頃リー・ヨンソンたちの乗ったジェット機は墜落しようとしているところです、とアヤコは言いました。

中央アジア水道事業のプロジェクトを正式に発表するパーティーで、パートナーのリー・ヨンソン氏の訃報を伝え、世界中から同情を買った上で、今回のプロジェクトを慈善事業のように見せるという計画になっています。

パーティー会場には田岡の姿がありました。アヤコは、英国軍からの情報でタイランド湾の沖合でビジネスジェットの機体の一部が発見されたので、墜落したことは間違いないと言いました。

会場では大きなスクリーンにキルギスを含む中央アジアを紹介する映像が流れていました。これらの美しい国々が抱える水の問題をあらわにし「ロイヤル・ロンドン・グロース」が中央アジアの国々の救世主に見えるかのようにマッグローがスピーチをすることになっています。

アヤコが考えたスピーチをよどみなくこなし、最後のセリフを口にしようとしたその時、会場がどよめきました。聴衆はマッグローの背後のスクリーンに目を向けています。

そこに映しだされていたのは傷だらけのリー・ヨンソンの顔で、海に漂う救命ボートからのLIVE映像でした。リー・ヨンソンは言いました。「ご覧の通り私は無事です。私たちが乗っていたビジネスジェットはミス・マッグローの策略で墜落しました。」

マッグローはあわてて「ミスター・リー。本当に無事でよかった。」と取り繕いますが、続いてスクリーンにはマッグローの顔が映し出されていました。

「そろそろよね?リー・ヨンソンたちが乗ったジェットはもう墜落してる?」と口にするマッグロー。「この作戦にゴーサインを出したのはあなたですよ。」と言うアヤコの声に、マッグローは「ええ、そうよ。指示を出したのは私。結果報告を受けるのも私。」と答えていました。アヤコとの会話が録画されていたのでした。

リー・ヨンソンたちはジェット機をなんとか海上に不時着させることに成功しました。機体は沈んでいき360°見渡す限り水平線の中を漂流していた鷹野たちの前に、突然大型クルーザーが現れました。乗っていたのはデイビッド・キムでした。

デイビッド・キムは、お前らを殺そうとしたのもアヤコ、救ってくれと頼んできたのもアヤコだと言いました。

数か月後、鷹野はリー・ヨンソンとタクラマカン砂漠にいました。

中尊寺は政界を引退し、「ロイヤル・ロンドン・グロース」とリーの会社との合併計画が合法的に進められていました。真司はリーの元で働いているとのことでした。

そこへアヤコが現れました。マッグローが雇った傭兵たちに命を狙われていると言いながらも、相変わらずの感じに鷹野は安心しました。

いいものを見せてやるというリーに付いて車を15分ほど走らせて、何もない砂漠の真ん中であたりを見廻しました。

「タイミングは完璧だ」とリーの見つめている方角を見ると、キラキラと太陽に輝きながら何かが動いてきます。夏の3か月だけ、タクラマカン砂漠に出現するホータン川の始まりを、鷹野たちは車で追いかけていきました。

小説を読んだ感想

シリーズ2作に出てきた登場人物が、再集結した形の物語。読んでいてとても興奮しました。

このアヤコという女性、本当にややこしい!物事をややこしくややこしくしていきます。

AN通信にしてもデイビッド・キムにしても、その時々有利な方へと身を転じていくので「昨日の敵は今日の友」逆もまた然りということの繰り返しですが、アヤコの身の転じ方は半端じゃないですって。

美しい女に男が簡単に騙されるように、それだけで説得力があるってことなのかな。笑

映画『太陽は動かない』が成功した暁には『ウォーターゲーム』を映画化しようという話が、原作者の吉田修一さんと羽住英一郎監督の間で交わされているそうなので、映画化には期待大ですね!

映画は原作ほどややこしいストーリーにはしないと思いますが、ぜひこのアヤコのキャラだけは変えずにお願いしたいなぁ。

日本は島国なので、今まで水の利権についてなど考えたことがありませんでした。

確かに大陸の中で国と国とが隣接する場合、川の上流に位置する国が優位で下流が不利になるとか、水質や川の利用についてもめ事の火種になることは大いにあり得ることですね。

小説の中で田岡が語っていた「ライバルという言葉の語源は、同じ川の水利用をめぐって争うもの」という話や、アメリカのベクテル社が南米ボリビアの水道事業を丸抱えで請け負った結果、水道料金は跳ね上がり水質は不衛生になり暴動が起こったという話は歴史的事実です。

そして、ブッシュ元大統領一族がベクテル社の株主に名を連ねていたというのも世界的に周知されていることです。

「貧乏人は水を飲むな」と一部の富裕層にだけ水が独占されている事例は、小説の中だけで起こっているフィクションではなく、現実のこと…。そういう情勢にも私たちは目を向けていかなければならないと痛感しました。

ストーリーの面白さだけでなく、色々なことを考えさせられた物語でしたが、最後のシーンは特に感動しましたね。映画でも使われるといいなと思いました。

『ウォーターゲーム』を読むまで知らなかったんですが、ホータン川って本当にあるんですってよ!

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