小説『森は知っている』シリーズ三部作第2弾!あらすじとネタバレ

吉田修一さんの大ヒットシリーズ、鷹野一彦シリーズの第2弾『森は知っている』

AN通信エージェントの鷹野一彦の青春時代と、エージェントの原点を描いた作品です。

映画『太陽は動かない』の中の回想シーンとして、映画化されることになりました。

南蘭島で高校生活を送りながら、AN通信エージェントになるための訓練を受けていた鷹野と柳。2人は友情以上の何かで繋がっていました。

AN通信の司令塔・風間武との出会い、初めてのミッション、そして柳との約束…。鷹野の原点がここにあります。

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小説のあらすじ

沖縄県石垣島の南西60キロに浮かぶ南蘭(ならん)島。まもなく18歳になる鷹野と柳は、高校生活を送りながら、AN通信エージェントになるための訓練の日々を過ごしていました。

ある夜、鷹野の教育係である徳永が、フランス語で書かれた「V.O.エキュ」という水メジャー企業の資料を持ってきて、今夜中に暗記するようにと言って置いていきました。

そして来週から2週間、フランス行きが決定したこと、向こうでは一条という男の指示に従うようにと告げました。

高校3年生の2学期のある日、祖父母を頼って東京から菊池詩織という女の子が転校してきました。鷹野は到着したフェリーから降りてきた詩織を、スクータータクシーで祖父母のマンションまで送って行きました。

フランスに渡った鷹野はフィリップという男のものとでセンスを磨くための「マナー教室」のような訓練を受けて帰ってきました。

鷹野が、ただ高い酒を飲み、高い食べ物を食べ、女を口説いてばかりの2週間だったと徳永に報告すると、その時に知り合ったサラという20歳の女性は、V.O.エキュの香港支社長の娘だと言われ、連絡を取り続けるように指示されました。

柳の出発が決まり、彼は誰に挨拶することもなく突然姿を消しました。18歳になるとAN通信エージェントとして本格的に働き始めることが彼らの宿命です。

柳には寛太という発達障害を持つ弟がいました。柳はかつて「冗談だ」と言いながらも、いつか寛太を連れて逃げようと思っていることや、自分に万が一のことがあったら寛太のことを頼みたいというようなことを鷹野に話していました。

畑仕事の好きな寛太は大きな農園のある施設へと引き取られていったようでした。

鷹野の高校では体育祭を終え、東京へ修学旅行へいく時期になりました。東京に出稼ぎに行っている父親たちと会うことも修学旅行の目的です。鷹野は「親戚のおじさん」ということで、3年ぶりに風間と会うことになりました。

鷹野は初めてのミッションとして「和倉地所」に忍び込んでデータを盗んでくるように言われました。夜中の2時、ホテルを抜け出した鷹野が、「和倉地所」に入り、5階の副社長室のパソコンからデータを盗み出していると、何者かが鷹野の前に現れました。

取っ組み合いになった男を蹴り飛ばし、5階の窓から飛び降りた鷹野は、窓の下の街路樹の太い枝にしがみつきました。後から、男も鷹野をめがけて飛び降りてきました。

もみ合いながら、下の枝へと落下していく2人。鷹野は意を決して歩道に飛び降り、風間の車を目指して駆け出しました。続いて落ちてきた男は足を負傷し走れない様子でした。

夜中に寝ぼけて中庭の木に登って落ちたと、担任には説明しましたが、全身血まみれで足を引きずってホテルに戻った鷹野の姿を、詩織が見ていました。

気になって仕方がない詩織は、そのことを鷹野に尋ねました。鷹野は、おじさんに連れられて飲みに行って他の客と喧嘩したと説明し、「青龍瀑布(せいりゅうばくふ)」を見に行こうと、詩織を誘いました。

「青龍瀑布」は島の北側にある滝です。青い神秘的な滝つぼを見つめながら、詩織は東京で好きだった先輩にひどい目に遭わされて学校に行けなくなり、祖父母を頼って南蘭島に越してきたことを話しました。

鷹野に「一日だけなら生きられる。それを毎日続ければいい。」と言われ心が軽くなったと言う詩織に、自分もある人から言われて「将来」というものを想像できるようになったと、鷹野は語りました。

そして冗談めかしながら、自分はスパイ組織に入ること、35歳になったら自由になれることなどを話し、「ここよりもっといい場所がどこかにあるかな」とつぶやきました。

詩織を送った帰り、徳永に呼ばれて行くと、ある若い男の顔写真を見せられました。先日鷹野が「和倉地所」に忍び込んだ時に乗り込んできた男です。名前をデイビッド・キムといい鷹野と同じくらいの年の韓国人でした。

そしてさらに徳永は「柳が機密資料を持って姿を消した」と語ります。もしも柳から連絡があったらすぐに知らせるように、寛太は別の場所に移したと言いました。

家に帰ると、鷹野の世話をしている知子ばあちゃんが、柳からもらったという誕生日プレゼントを開けていて、鷹野宛の手紙も一緒に入っていたと言いました。そこには【またいつか、女のケツでも見に行こうな】と書かれていました。

急にひらめいた鷹野は、柳とよく行っていた海水浴場のシャワールームの裏に行ってみました。するとそこにはやはり、柳からの手紙がありました。

【来年の2月14日、お前はソウルにいるはずだ。俺は必ず会いに行く。そのとき、寛太の居場所を教えてほしい。】

詩織から誘われていたクリスマスパーティーにも行けず、鷹野は香港に来ていました。CLUBで偶然を装って、鷹野はサラと出会いました。そしてサラの香港の自宅で行われるパーティーに招待されました。

パーティーの途中で2階の部屋にある電話に盗聴器を仕掛けるのが今回のミッションです。鷹野がトイレの窓からバルコニーをつたって部屋に入り、盗聴器をしかけると、ドアから誰かが入ってきました。

サラの兄・マットの彼女でミキという女でした。互いに玉の輿を狙う者同士仲良くしましょうというミキでしたが、鷹野が後をつけると、ミキはホテルの一室でデイビッド・キムと会っていました。

南蘭島に戻った鷹野は、フェリーで島を出ていく徳永を見かけます。少なくとも、次にフェリーが到着するまでの4時間、徳永が不在であることを確信し、徳永の家に忍び込みました。

机に貼ってある「055」から始まる電話番号が寛太の連絡先に違いないと暗記して、そこにかけてみると、山梨の桃井学園という施設につながりました。口実を付けて「寛太」という名前の子どもがいることも突き止めました。

風間は、九州の水源地付近の土地が「和倉地所」の仲介で、海外企業に買われており、そこに「日央パワー」という電力会社も絡んでいることを掴みました。

万が一水事業が民営化されることがあれば、独占開発権を手に入れることになります。実際、水面下でそのような動きがあることもわかってきました。

鷹野は詩織に会いに行きます。詩織の手首をつかんで「…俺のこと、覚えててほしい。」と言いました。突然キスしようとした鷹野を、詩織はかわして「どうしたの?」と聞きました。鷹野が伝えたいことはただ一つ。「俺が詩織ちゃんの前にいたこと、俺がこの島にいたこと…、全部覚えててほしい。」

家に帰ると、徳永が来ていました。「今日の最終のフェリーでこの島を出るぞ。」

鷹野の最終テストは「日央パワー」の情報を手に入れること。そしてその情報は柳が持っていると告げられました。

柳は日央パワーから盗んだ情報を、ライバルである「東洋エナジー」に売りに来るに違いないと読み、徳永と鷹野は、柳よりも先に「東洋エナジー」を懐柔する作戦に出ました。

「東洋エナジー」は読み通り情報を欲しがり、「東洋エナジー」の幹部が宮崎県の五瀬ダムで情報提供者と会う約束になっていることを掴んだ徳永と鷹野は、宮崎へと飛びました。

ダムの放水ゲートの上に立つ「東洋エナジー」の幹部2人に、車が近づいて封筒を渡しました。柳でした。

柳の車の進路をふさぐように、鷹野を乗せた徳永の車は、柳の車に向かって走っていきます。まさに正面衝突するかと思ったその時に、徳永はハンドルを大きく右に切り、ダムを真っ逆さまに落ちていきました。

一部始終を見ていた一条は、風間に鷹野がミッションに失敗したこと、生存の可能性はないことを報告しました。

鷹野が目覚めると、そこにはデイビッド・キムがいました。沈んだ車の中から徳永と鷹野を救助したのはデイビッド・キムでした。

鷹野が寝かされていたのは韓国の貨物船の中。全く訳が変わらない鷹野に、徳永が「お前を待ってる奴がいる」と言いました。

甲板に出てみると、そこには柳がいました。柳は「日央パワー」が日本で進めようとしている上下水道事業の情報を、「東洋エナジー」に10億で売ろうと思っていること、今回の首謀者は徳永であり、鷹野を道連れにわざとダムに落ちたことなどを話しました。

「東洋エナジー」は言い値で情報を買う意志を示してきており、寛太はすでに山梨の施設から連れ出されているので、柳は鷹野に、計画が成功したらカリフォルニアで3人で合流しようと言いました。

寛太が施設から連れ出されたことを知った風間は、寛太が釜山行きの船に乗せられたことを突き止め、すぐさま釜山に飛びました。寛太は釜山に着くには着いたものの、迎えが来ないまま警察に保護されていました。

鷹野たちは北朝鮮との国境近くの厳寒の地で「東洋エナジー」の幹部2人と会うことになりました。現金と情報を引き換えると、「東洋エナジー」の2人はさっさと帰っていきました。

徳永とデイビッド・キムが乗った車の後を、柳と鷹野が乗った車がついて行きます。突然、徳永の車が大きく蛇行し始めたかと思うと、助手席からデイビッド・キムの体が放り出され、氷の上を滑っていきました。

それを見た鷹野は「早く車から降りろ」と叫びました。車から転がり降りた鷹野と柳は車を背に必死で走りました。次の瞬間、2人の背後で車が爆発しました。

「走れ!」今度は柳が叫びます。爆発で割れた氷の裂け目が2人の足元へと迫ってきます。鷹野はついに氷の裂け目から水中に落ちてしまいました。

助けに来ようとする柳に、鷹野は「来るな!お前は寛太を守れ!行け!」と叫んで、水の中へと沈んでいきました。

「東洋エナジー」の2人の後をつけた風間は、取引の現場を離れたところから見ていました。死んだと思っていた鷹野が氷の裂け目に飲み込まれていくのを見て、考えるより先に体が動いていました。

一条に徳永を追うように命じて、風間は鷹野を助けるために飛び込みました。川岸にあった板に鷹野の体を引き揚げ、岸に向かって必死で歩きました。

「俺は約束したはずだ。お前のことを、俺は絶対に守るって。」

爆音を聞いた近所の住民が集まってきて、ロープを投げてくれました。鷹野を乗せた板に結び付けたところで、風間は、完全に意識を失いました。

本部から徳永を消すように命令を受け取った一条は、ロシアへ渡る船に乗り込む直前の徳永を刺し、海へと突き落としました。徳永が奪い取った13億円のお金は全てAN通信が回収しました。

柳は徳永に使われていましたが、AN通信を裏切ったことには変わりがないということで、AN通信の捜索対象者のリストに名前が載ることになりました。しかし、積極的に捜索するための予算もミッションも用意されないことになりました。

弟の寛太も山梨の施設に戻されることになりましたが、監視下から外れることになりました。寛太を助けに来たとしてもAN通信は一切関知しませんが、柳は一生AN通信から逃げ隠れしながら恐怖の中で過ごすことになりました。

鷹野を助けた風間は、ひどい凍傷のため膝から下を切断することになりました。風間の病室を訪れた鷹野に、風間は「これからのことは、お前が自分で決めろ。」と言いました。

胸に起爆装置を入れる手術を受けるかどうか。24時間だけ生きることを許される世界で生きていくのかどうか…。鷹野の手術の日は明日です。

成田空港に詩織の姿がありました。鷹野の姿を見た気がして、詩織は必死で追いかけました。「鷹野くん!」と叫ぶと、仕立てのいいスーツを着た男性が振り向きました。「詩織ちゃん?」振り返って微笑んだのは鷹野でした。

詩織はこれからニューヨークへ留学に行くところでした。鷹野は小さな通信会社に勤めていて、これから上海に出張だと言いました。

「じゃ」と別れた直後、鷹野は振り返って「青龍瀑布よりいいところ、どっかにあるよ。」と言って去っていきました。

「私も見つけるから!今度はそこで会おう!」詩織はそう叫びましたが、鷹野は振り返らず、姿が見えなくなりました。

2年後、水道事業の民間委託を認める水道法改正案が閣議決定されたという記事が、全国紙に一斉に掲載されました。

鷹野一彦の生い立ち

大坂のマンションで幼児2人が母親に置き去りにされ、2歳の弟が餓死、4歳の兄が保護されるという事件がありました。

母親が置いていったのはペットボトル2本と菓子パン3個だけで、ドアやサッシはガムテープで密閉され、8月の猛暑の中閉じ込められていました。

母親が遺棄した直後には「ママ―!ママー!」という叫び声も聞こえていましたが、通報を受けて市の職員が訪れた時には応答もなかったと言います。

発見前の数日間は2人とも何も食べておらず、2歳の弟はすでに餓死しており、その体を4歳の兄が抱きしめて寝ているところを発見されました。

AN通信はこの少年が病気で死んだことにして、「鷹野一彦」という新しい名前を与えて引き取ることにしました。

風間はかつて、頓挫したGNN計画とそのためにプールされた巨額の隠し口座について調べていた新聞記者でした。あと少しで核心をつけそうだというときに、AN通信のある人物から電話があり、会って話すことになりました。

バンコクで会ったその男は中馬重雄という老人でした。中馬によるとAN通信はGNN計画より以前に存在しており、GNN計画の資金を受け継いだだけであるとのことでした。

そして特定の誰かが私腹を肥やすために作ったものではないこと、吸い上げた情報は特定の企業ではなく、それを欲しがるあらゆる方面に売る、産業スパイであると語りました。

さらに、構成員のほとんどが孤児であること、日本にも多くいる育児放棄されたり虐待を受けたりして保護された子どもたちをスパイとして育てているという衝撃の事実を告げました。

風間は日本に戻って再び中馬と会いました。施設の子どもたちが産業スパイとして働かされていることが事実であれば、自分の新聞記者人生をかけてでも、世間に暴き出すつもりでいました。

風間は中馬と一緒にAN通信が引き取る予定だという「鷹野一彦」という男の子に会いに行きました。小学5年生になるというのに、小学1,2年生くらいの体格しかありません。

AN通信が引き取らなければ、この子は国の規定により実父の元へと引き取られていくことになっていましたが、この実父は過去に子どもに対して壮絶な虐待を行っていました。

中馬氏は言いました。「もう一度だけ考えていただきたい。子は親と一緒にいるのが一番だというマジョリティーのルールのために、行かなくていいはずの地獄に連れて行かれる子どものことを。」

11歳の鷹野は風間の家に引き取られていきました。最初の3週間ほどはおとなしくお利口にしていましたが、次第に精神の不安定さがあらわになり、食べては吐くことを繰り返したり、部屋にこもって出てこられなくなったりしていました。

バットを振り回し、家の中のありとあらゆるものを叩き壊し暴れまわる日が続くかと思えば、部屋の隅で体を丸めて寝てばかりいる日が続くということの繰り返しで、半年ほどたったある日のこと…

散々暴れた鷹野は、自分の部屋に帰らずに豪雨の中へ飛び出していきました。風間が後を追うと、鷹野は何度か風間に渓流釣りに連れてきてもらった場所で、つり橋の上にぽつんと立っていました。

次の瞬間、鷹野は欄干を超えて濁流の中に身を投げました。風間はすかさず飛び込みました。そして濁流に持っていかれようとする鷹野を捕まえて、なんとか引っ張りあげました。

「1日だけでいい…、ただ1日だけ生きてみろ!お前のことは俺が絶対に守る!」風間の心からの叫びでした。

小説を読んだ感想

鷹野一彦という人物を作った原点の物語です。

心臓に起爆装置を埋め込んで働かせるなんて、非人道的であり得ない設定ですが、AN通信エージェントたちが幼いころに受けた虐待はあまりにもひどいものでした。

子どもは親を選べない…。死に至る寸前の虐待を受けていても、親が「自分が育てる」と言えば、彼らは親の元に返されてしまう。そんな負の連鎖を断ち切るためにできた組織でもあるのでした。

「自分以外を信用するな」とたたきこまれる鷹野たちでしたが、肉親のいない鷹野にとって、柳や風間は肉親以上の存在であったに違いありません。

自らもAN通信に身を投じることになった風間は、鷹野を連れて帰る新幹線の中で、鷹野に尋ねました。

「あの部屋で、お母さんを待っているとき、君はどんなことを考えていたの?」

鷹野の返事は

「僕は壁の向こうに行きたいと思っていた。弟と一緒に飛行機にも乗ってみたかった。船や車にも乗りたかった。弟と一緒にいろんな所に行く自分のことを考えていた。」

そんな当たり前とも思えるようなことが叶わなかった少年。風間の心はどれほど締め付けられたことでしょう。

風間と鷹野の関係は、恩人とか…同情とか…上司とか…言葉で表されるようなものではなく、鷹野が生きていく理由がわかったような気がします。

これだからスパイものってやめられない!

冷静沈着に動き、時には冷酷な姿さえ見せるスパイが、ほんの一瞬見せる人間らしい感情に、いつも胸の奥底をギュッと掴まれてしまって苦しくなります。

『森は知っている』はスパイものの中でも最も好きな作品の1つです。

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