生活保護をテーマに貧困と格差社会を描き出した衝撃作。
弱者を護るためのシステムから”護られなかった”人達がいます。それがたまたま網の目からこぼれ落ちたのではなく、誰かが見てみぬふりをしたり、はじめから救う気がなかったのだとしたら…。
中山七里さんの作品は単なるミステリーではありません。テーマが重く、胸の奥深いところまで共鳴してくるので、読んでいて苦しくなります…。
映画では東日本大震災から10年という節目の年に、震災に端を発したある出来事から現在へと続いている物語を描いています。
連続”餓死”殺人事件という、異様とも思える殺害方法は何を意味するのか…、佐藤健さん演じる利根の怒りに満ちた目は、一体何に向けられているのか…。
【主なキャスト(敬称略)】
佐藤健:利根泰久
阿部寛:笘篠誠一郎
倍賞美津子:遠島けい
小説『護られなかった者たちへ』のあらすじ
誰も住んでいない仙台市のアパートの一室で、福祉保険事務所の課長・三雲忠勝の遺体が見つかります。
失踪したのは2週間前ですが、死亡推定は3-5日前。手足や口をガムテープでぐるぐる巻きにされたまま放置され、次第に衰弱していく”餓死”でした。
宮城県警捜査一課の刑事・笘篠と蓮田は、聞き込みをしますが、被害者は人から恨まれるようなはずがない善人だと、誰もが口をそろえて言うのでした。
そして、第2の事件が起こります。今回の被害者は県議会議員の城之内猛留。
三雲のときと同じく死因は”餓死”で、遺留品はなく、ゴシップや黒い話には縁のない清廉潔白を絵に描いたような今どき珍しい県議会議員でした。
手がかりが全くつかめない中、被害者2人の過去を調べていくうちに、三雲と城之内は2年間同じ職場で働いていたことが分かりました。笘篠と蓮田は塩釜福祉保険事務所へと向かいました。
三雲と城之内が一緒に働いていた時期に、生活保護の申請を却下されて逆恨みしている人物が怪しいと、当時のデータを調べていきました。
怪しいとされた人物に順に当たっていくうちに、当時、三雲と城之内は生活保護申請した人の生活をろくに確かめることもせずに申請を却下していき、相当な恨みを買っていることがわかってきました。
職員の話では、却下をされて事務所とトラブルになった申請者の一人、遠島けいのケースでは、知人が事務所に乗り込んできて三雲と城之内にけがをさせた挙句、事務所を放火して警察沙汰になったことがあると言います。
その知人という男は利根勝久という人物でした。
塩釜署と仙台地裁で事件の調書を調べると、利根は懲役10年の有罪判決を受けて服役中でした。
利根勝久が20歳の時、チンピラに絡まれているのを「火事だ!」と叫んで助けてくれたのが遠島けいでした。
けいは面倒見がよく、近所の中学生カンちゃんとともに利根は毎日けいの家にやってきては夕飯を食べて、まるで家族のように過ごしていました。
利根の働いていた工場がヤクザの手に渡り、危うく組員になりそうになったときは、けいが土下座をして工場から助け出してくれました。
そして次の仕事が見つかるまで、けいは家で利根の面倒を見てくれたのでした。
新しい職場と住む場所がけいの家から遠く離れていたため、けいのところに顔を出す頻度がだんだん少なくなってきていたある日、カンちゃんが、けいがお金がなくて食べていないようだと知らせてくれました。
やがて電気もガスも止められて、利根が訪ねた時には、けいはティッシュを食べて空腹をしのいでいました。
けいは生活保護の申請に行ったけれど、門前払いを食らったと言います。
利根は1日仕事を休んで、もう一度生活保護の申請をするために福祉保険事務所にけいに付き添っていくことにしました。
福祉保険事務所では「弟がいるのならそちらに頼れ」と、20年以上も音信不通で居場所もわからない弟を引き合いに出され、申請書を受け取る気もない様子でした。
利根がけいの生活をいくら説明しても、親族でもない第三者は口出しするなと制され、挙句の果てに申請書は破り捨てられてしまいました。
それから3週間後、けいが死んだとカンちゃんから連絡が来ました。餓死だったとのこと。
警察署で変わり果てた姿となったけいと対面した、利根とカンちゃん。胃の中から山ほどティッシュペーパーがでてきたことと、生活保護の却下通知が届いていたことが警察から告げられました。
利根は翌日、福祉保険事務所に乱入し、三雲と城之内を殴り、事務所裏のゴミに火をつけました。そして、放火と傷害で有罪になり服役することとなったのでした。
刑務所の中で模範囚だった利根は、8年で仮出所していました。
笘篠と蓮田が、利根の勤務先に行ってみると、3日前から無断欠勤しているとのこと。そこで、利根が出所後世話になっている服役中の仲間・五代という男のところへ向かいます。
当時の窓口の三雲、課長の城之内が既に殺されているので、次は所長だった上崎がターゲットになる可能性が高いという話をすると、五代は「明日、上崎はフィリピンへの売春ツアーから帰ってくる」と言いました。
上崎を確保するために利根は必ず仙台空港に現れると踏んだ警察は、総動員して仙台空港の警備に当たります。
なかなか見つからない利根。きっと旅行者に変装しているとは思っていたものの、まさかの盲点を突かれました。利根は女性旅行者に変装していました。
利根を取り調べている笘篠と蓮田の元に、上崎がいなくなったという一報が入りました。利根は「こうならないために先手を打つつもりだった」と言いました。
利根は笘篠に、全てを話す代わりに上崎の捜索を手伝わせろという条件を出しました。
映画『護られなかった者たちへ』のあらすじ
東日本大震災が起こった2011年、仙台市。避難所は家族の安否もわからないまま着の身着のままで逃げてきた人たちでいっぱいでした。
そこで遠島けいと利根泰久と家族を亡くした小学生かんちゃんは出会いました。けいさんとの生活は、孤独に育ってきた利根にとって初めて感じる温かい”家”でした。
東日本大震災から9年経った仙台。全身を縛られたまま放置され餓死させられる…という凄惨な連続殺人事件が起こります。
1人目の被害者は保健福祉センター職員の三雲忠勝、2人目の被害者はかつて三雲の上司だった福祉保険事務所職員の城之内猛。2人はともに手足を縛られて餓死させられていました。
警察は怨恨による殺人と踏み、刑事の笘篠誠一郎と蓮田智彦がその線で捜査を進めていくうちに見えてきたのは、東日本大震災によるいまだ続く生活困窮の現状と福祉保険事務所による隠蔽でした。
笘篠と蓮田の懸命な捜査線上に浮かんだのは刑期を終えて出所したばかりの利根泰久という男。利根はかつて、知人を助けるために福祉保険事務所で放火、傷害事件を起こしていました。
笘篠と蓮田は、2人の被害者の共通項から、次第に利根を追い詰めていきますが、決定打がない中で、3つめの事件が起こってしまいます。
被害者はなぜ”餓死”という殺され方をしたのか?
そこには衝撃の事実が隠されていました。
映画の見どころ
東日本大震災から9年経った宮城県仙台市。震災から見事に復興したところもありますが、その陰で貧困や格差という問題は未だ根強く残っていました。
震災に端を発したある出来事が、10年経って牙をむいていく…。日本という国が抱えている社会問題を題材にした映画です。
佐藤健さんが殺人事件の容疑者の役を、狂気をまとった迫真の演技で魅せてくれます。ただこの物語は単なる殺人事件じゃないのが中山七里さんの真骨頂。
原作からアレンジされて、震災とも絡んだ物語になっているのでメッセージ性は必然的に増してきますよね。
弱者が取り残され見てみぬふりをされている世の中に、果たして明るい未来なんて存在するのか?佐藤健さんが全身全霊で訴えるメッセージを受け取ってください!
映画ではけいの家のふすまには「おかえりなさい」という利根とかんちゃんにあてたメッセージが残されていました。
原作との大きな違い
ここから先はネタバレになります。まだ映画を見ていないという方は見ない方がいいかも。
映画『護られなかった者たちへ』視聴方法は?
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