綿矢りさの青春小説『ひらいて』痛々しいあらすじとネタバレ

青春はときどき暴走し、間違った表現をしてしまいます。

クラスの目立たない男子・西村たとえのことが気になっている愛は、全く恋心に気付いてもらえず、とんでもない方向へと気持ちを暴走させていきます。

たとえのことが好きすぎて、たとえの彼女である美雪に近づき、美雪の体をもてあそぶかのように愛撫する愛。

ただ「ひらいて」受け入れてほしいだけの感情が、痛々しく狂おしく美しい物語です。

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小説のあらすじは?

高校3年生の木村愛は、1年生のときから気になる存在だった西村たとえと同じクラスになって心が浮き立っていました。

愛が先生に言われて階段の掃除をしていると、1階に続く手すりの裏側のちょうど死角になっている三角地帯にたとえの姿を見つけました。

手には白い便せんが握られていて一心不乱に手紙を読んでいるようです。話しかけてみるとごまかされてしまいました。

予備校に通う友達と夜中までマクドナルドでしゃべるのが習慣になっていた愛は、ある日仲間たちに誘われて夜中の高校に忍び込みます。

みんなから離れて自分の教室へ行き、たとえの机の中を見ると、そこにはぱんぱんに膨らんだ茶封筒が3つ。口が開いていた一つを逆さにすると何通もの白い封筒が出てきました。

愛はそのうちの1つを抜き取って、あとの手紙は元通りに机の中へ戻しておきました。

家に帰って手紙を読んでみると、進路のことや将来のことについて書かれていて、差出人の名前は「美雪」となっていました。

愛の知っている「美雪」は一人しかいません。1年生の時に同じクラスだった美雪。色白の精巧なお人形のような見た目の女の子、だけど昼食前に必ず制服の裾をめくって糖尿病のインシュリン注射をしてクラスの女子をドン引きさせた子。

たとえに話しかけようとしてみてもうまくいかず、愛は美雪に近づくことを試みることにしました。4限が終わって教室から出てきた美雪の後をつけていくと、美雪は理科準備室に入っていきました。

愛は偶然を装って入っていき美雪に話しかけました。ずっと気になってたなどと嘘を言ってメールアドレスの交換をしました。

学校では一切接触している様子がない2人に、事実を確かめようがなくて、愛は再び夜中の学校に忍び込みました。たとえの机の中からまた3通の手紙を抜き出して読み、2人は周りにはばれないように付き合っていることがわかりました。

昼休みに美雪のクラスが球技大会のセレモニーの団体練習をしている声が聞こえて見ていると、美雪がフラフラと校舎の裏へと歩いていく姿が見えました。

愛が急いで駆けつけてみると、美雪がぐったりしていました。「ジュース」と言われ買ってきたものの全然飲もうとしない美雪に、愛は口移しでジュースを飲ませました。

少しずつ美雪との距離を近づけて、愛はストレートに「彼氏いるの?」と聞いてみました。恥ずかしがりながらも美雪は中学校2年生の時から西村たとえと付き合っていること、話すのは塾でだけで学校では話さないことにしていることを教えてくれました。

たとえとはキスをしたこともないという美雪に、愛は無理矢理キスをしました。

たとえに近づきたいという気持ちがなぜこんな形で美雪に向かうのか、愛にもよくわかりませんでしたが、もう美雪のことは逃がさない…そんな確固たる信念に囚われていました。

文化祭の準備日にたとえが現れたことに心躍ってしまった愛は、みんなが帰って2人だけの作業になったタイミングでたとえに告白しました。

愛が「美雪じゃなくて、私ではだめ?」と言うと、たとえは明らかに困惑して「ごめん」と言いました。愛は「2人して傷をなめ合って、狭い世界で馬鹿みたい」とたとえに捨て台詞を吐いて学校を飛び出しました。

美雪に誘われて家に遊びに行った日、愛は「ずっと好きだった」と、自分でもぞっとして鳥肌が立つような言葉を美雪に言い、キスをして全身を愛撫しました。

たとえに振られた腹いせにたとえの彼女と寝るという自分で招いた事態にも関わらず、愛は自分の複雑な状況についていけずにいました。

なぜかどうしようもなく美雪のことが抱きたくなり、美雪の家に行って2人で愛し合ったあと、愛は美雪の携帯電話からたとえに「今から学校に来られる?」と、たとえを呼び出しました。

美雪に呼び出されたと思って学校に現れたたとえを待っていたのは全裸の愛。

困惑して帰ろうとするたとえに、愛は「美雪とは2回寝た。私のものになってほしい。」と抱きついてキスを求めました。軽くキスをしながらたとえは「俺たちの領域に踏み込んでくるな。」と言いました。

美雪から、たとえが東京の大学に合格したのでついていくと告白され、愛との関係もたとえに話したいと言われ、逆上した愛は、たとえが好きだったこと、手紙を盗み読みしたこと、告白して振られたこと、その腹いせに美雪を傷つけるために寝たことをぶちまけました。

美雪から来た手紙を読んで居ても立っても居られなくなった愛は、美雪の家に行きました。美雪はちょうどたとえの家に行こうと出かけるところでした。

たとえのお父さんがひどい状況になっていると美雪は言いました。愛と美雪がたとえの家に着くと、何かが割れる音や怒鳴り声が聞こえてきました。

「こんなの見せたくなかった」というたとえに、美雪は「私たちは悩みを持ち寄って慰め合っていただけ。これからは心をひらきましょう。愛ちゃんに向かってもひらいてあげて。」と言いました。

「どうぞ上がって」と蛇の目で言う父親に殴りかかろうとしたたとえを、愛と美雪が必死で押さえて止めると、父親は「情けない」とうっすら笑いながら見下ろしてつぶやきました。

愛はたとえの父親を渾身の力を込めて殴りつけました。

3人でたとえの家を飛び出し公園でたとえの話に耳を傾けている間、愛は美雪を支え続けていたのでした。

学校でもの言いたげなたとえに向かって行った愛に、たとえは「おまえも一緒に来い。」と言いました。

怒鳴る先生を尻目に愛は教室を抜け出してまっすぐ美雪の元へ。そして耳元で「あなたを愛してる。また一緒に寝ようね。」とささやくと、学校を出ました。

目的地もなく切符を買って電車に乗った愛は、差し込む光と眠たげな静寂に満たされていました。美雪とたとえには何かまた違う感情が芽生え始めていました。

美雪とたとえに受け入れてもらった、その事実が心を満たしていきます。ポケットの中にあった折り鶴を丁寧にほどきながら「ひらいて」とつぶやきました。

小説の感想

捉えどころの難しい物語ですが…、主人公・愛の”暴走”とも言うべき行動がちょっとだけわかる気がするのはなんでなんだろう。

好きな人に振り向いてもらえなくて、矛先が好きな男性の彼女に向かってしまった挙句の果てに彼女と寝るとか、好きな人を学校に呼び出しておいて裸で待ってるとか、そんなこと絶対にしないし全然理解できないけど…。

でも若いころの思考回路ってどうかしてたよなぁという心当たりは心の隅っこの方にちょっとだけ残っていて…。ずっと見ないようにしていた消しゴムで消したいくらいの”過去”というか”黒歴史”と久々に対面したような感じがしました。

愛もたとえも美雪も心を閉じたままで、自分の心も見せないし他人の心も見ようとしていない。それが乱暴すぎではあるけれど、愛の暴走によってちょっと心がひらかれて救われるような感じがするのかな。

やってることは至って無茶苦茶なのになんでなんだろ。

無茶苦茶だったけど、魂の叫びと言うか震えに共鳴したかのように、愛を受け入れた美雪とたとえ。

青春と言うのはときに表現を間違えるし痛々しいものではあるけれど、悪あがきは決して無駄ではないと…。結局誰でも自分をひらくこと、そしてひらいた誰かに受け入れてもらうことを強く切望しているのだと改めて感じました。

賛否両論分かれる物語かなぁとも思いますが、綿矢りささんの愛おしく狂おしい文章がさく裂した傑作でしたね。

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