引きこもり生活をしている花子が恋をした。相手はスマホのアプリゲームでメッセージをやり取りするようになったレン。
レンから「会いたい」と言われて気を失った花子。花子に一切記憶はないのだけれど、花子はレンと会って楽しい時間を過ごしていたようだ。
レンから送られてくるメッセージを読むと、花子は何度かレンとデートをしていることになっている。大切な人を失うことが怖くて、再び心を閉ざす花子。そこには花子も知らない、花子の秘密があった。
『そして花子は過去になる』というタイトルの意味がわかったとき、胸に込み上げてくるのはとても温かい気持ち。切ないけれど清々しい珠玉のラブストーリー。
『そして花子は過去になる』のあらすじ
高校の卒業式の日から2年。山岸花子は引きこもって家から一歩も出ていない。
花子という名前は父親がつけてくれた。花の父は駆け出しの小説家だったため、母の両親は結婚に大反対した。新人賞を受賞したばかりの父の夢を奪いたくなかった母は、父と別れ実家に戻り21歳で花子を産みひとりで育てる決心をした。
10歳の時、母が誕生日に贈ってくれた小花柄の赤いワンピースを学校に着ていくと、花子は「トイレの花子さん」と呼ばれ、クラスメイトは花子が何か言うと悲鳴をあげた。
花子に対するからかいは一時の流行みたいなものであっという間になくなったが、花子の心の傷はなくならなかった。
高校3年生の時、花子は同じクラスの千葉翔也に恋をしていた。『花物語』を読んで恋に憧れている時期だった。
卒業式の日、翔也に呼ばれてついて行くと「つきあってほしい」と言われた。なにが起こったのか理解できずフリーズしていたら、そこへ小柳津彩香が現れた。彩香は花子が翔也への想いを書き綴っていた日記「花日記」を持っていた。
彩香は翔也とつき合っていると言った。花子に優しくしてその気にさせた罰として、翔也に告白させたのだと言う。その日以来花子は家から一歩も出られなくなってしまった。
もう恋もしないと心に決めていた。自分なんて生きていてもしょうがないと思っていた。
それなのに、花子は恋をした。なんとなく始めた「flower story」というゲームの中で、カコ(花子のハンドルネーム)に初めてフレンド申請をしてくれたレンという人物に。
レンはカコが引きこもりだと告白しても引いたりせずに優しく接してくれた。そうやって毎日メッセージのやり取りが続いて1年が経った。
レンの誕生日の4/1、日付が変わった0時ちょうどにメッセージを送ると、レンから「会いたい」というメッセージが届いた。
レンこと雨下蓮は24歳。就職がうまくいかなくて現在コンビニでバイトをしているフリーター。一緒に深夜バイトをしている43歳の井浦創(つくる)のことを自分の将来の姿と思って見ていたら、井浦は小説を書くためにバイトを辞めると言った。
蓮は小説など読まないので全く知らなかった。井浦は『花物語』という小説を書いたことを連に話した。たしか『花物語』はカコの好きな小説だ。カコに伝えなくては…そう思ったら、カコに「会いたい」とメッセージを送ってしまっていた。
蓮は『花物語』のことを言い訳にすればいいと意を決して京都に向かった。約束の場所、京都駅の大階段の上の鐘の下にカコはいた。
レンに会いたいと言われても行く勇気なんてあるはずがなかったのに…。
花子は1日中眠っていたのだろうか。気が付くと丸一日が経っていた。
スマホの画面には、レンから「来てくれてありがとう」のメッセージと「花子って呼んでもいい?」というメッセージが届いた。自分が気を失っている間に何が起こったのか…花子には全く理解できなかった。
蓮からのメッセージには明らかに花子と会っていた時の会話や出来事が綴られていた。少なくとも連は花子のことを嫌いになった様子はない。
7月になって蓮は再び京都へと向かった。貴船神社に行き2人で短冊に願いごとを書いた。
花子はまたしても丸一日の記憶がなかった。蓮からは花子と会えて楽しかったというメッセージが届いているし、スマホには貴船神社で撮った写真が残っていた。
10月、3回目のデートで水族館に行った。蓮が東京に戻って品川のスタバに入ると、そこに偶然、井浦がいた。前よりもっとボサボサ頭になった井浦はマックブックで執筆活動中みたいだ。
『花物語』を蓮も読んでみたので、その感想を伝えると、井浦は『花物語』は娘のために書いたのだと教えてくれた。小説家だったために結婚に反対されて、ずっと娘には会えていないらしい。
蓮はネットで出会って好きになった女の子に会いに京都まで行ったことを井浦に話した。井浦は蓮の話を真剣に聞いてくれた。
年が明けて新年のあいさつをして以来、蓮からのメッセージが来ない。蓮を失いたくない…花子は鏡に向かってばっさりと前髪を切った。真夜中だというのに声をあげて泣いていると、母親が飛んできた。
「変わりたい」と花子が言うと、母親が友達からのプレゼントと言って「JILLSTUART」のメイクセットを花子に渡した。友達なんていないのに…一体だれ?
蓮から連絡はなかったが、花子は夢中でメイクの練習をした。蓮からメッセージが来たのは2月の終わりのことだった。
正月に実家に戻ると、蓮は父から「末期癌でもうすぐ死ぬ」と告白された。蓮を産んだ時に母は亡くなっており、父は愛する人を失った悲しみが大きすぎて蓮のことをうまく愛せないでいた。改めて父から謝られて蓮はまた死にたい気持ちに陥っていた。
愛犬のバロンが死んだのも蓮の誕生日だった。蓮はずっと誕生日がくるのが怖くて嫌だった。
でも二度と後悔はしたくなかった。蓮は無性に花子に会いたいくなり、京都へ向かった。
3月1日、4回目のデート。花子の提案で『君の名は』の映画を見て、蓮は花子の友達へのプレゼントにシルバーのハイヒールを選んだ。
蓮はその日、花子に「好きだ」と伝えようと決心して京都に来ていた。告白しようとしたその時、花子は蓮の言葉をさえぎって、ずっと残るからメッセージで送ってほしいとお願いした。そして3月31日の自分の誕生日に返事をしたいと言った。
花子はまた一日の記憶がなくなっていた。スマホの画面には花子のことが好きだと言う蓮からのメッセージが表示されていた。
嬉しくて仕方がなかったのに、蓮を失うのが怖くて花子は「flower story」のアプリを削除してしまった。また何のために生きているのかわからない毎日が始まった。
花子は本棚に『4.7インチの世界で』という本を見つけた。買った覚えなはいけれど、その本は花子の大好きな『花物語』の作者の新しい小説で、花子は夢中になって読んだ。
最後のページをめくると白い紙が落ちてきた。「クローゼットを開けて」と書いてある。クローゼットには素敵な洋服が並んでいて、シルバーのハイヒールと日記が置いてあった。
日記には花子には覚えのない蓮とのデートのことが詳細に書かれていた。でも記憶のどこかにあるような気もする。花子は悟った…自分の中にもう一人の自分がいることを。
花子の中のもう一人の人格・カコが生まれたのは、花子が「トイレの花子さん」とからかわれ、一番の仲良しだったゆかりちゃんに悲鳴を上げられた時。それ以来、花子が何か大きなショックを受けて意識を閉ざしたときに表に現れてくるようになった。
蓮から会いたいとメッセージが来た時、花子は気を失ってしまい、カコが蓮に会いに行った。カコはまずデパートに飛び込み、キラキラ可愛い「JILLSTUART」でメイクをしてもらってメイクセットを買った。新しい洋服と靴を買い美容院に行って、蓮との待ち合わせの場所に向かった。
蓮から会いたいというメッセージが届くたびに、花子は自分の意識を手放した。蓮と会ってデートしていたのはカコだ。花子に蓮とのデートがどれほど楽しかったかを伝えるために、カコは日記を書いた。
ある日、蓮とのデートから帰ったところで母に出くわした。母は花子の中にいるカコが過去にも現れていたことに気付いていたようだった。カコは母に、花子に渡してほしいと「JILLSTUART」のメイクポーチを託けた。
カコの想いを受け取った花子は、どうしても蓮に会いたいと思った。「flower story」は削除してしまったので、もうメッセージは送れない。3月31日に京都駅に行ってみるしかない…花子は覚悟を決めた。
花子が初めて会う蓮は思った通りの人だった。緊張しながら花子は蓮に自分の想いを伝えた。
蓮の就職活動がうまくいっていたら、花子が引きこもらなかったら、2人は出会えていなかった。きっと『花物語』が連れてきてくれた運命だったんだと思えた。
『そして花子は過去になる』の感想
前半は花子や蓮の生きにくさや心のささくれが痛いくらいに伝わってきて、とてもヒリヒリします。でも恋って素敵ですね。そんなヒリヒリした気持ちも少し前向きにさせてくれる力を持っています。
花子も蓮もただ自分の大切な人から愛されたいと願っている、普通の男の子と女の子なだけなんです。
遠回りしたことも辛い目に遭ったことも、全てはこの結末に至るためだったのだと考えたら、人生は悪いことばっかりじゃないし、大切な人に出会う運命ってあるのかもと思えてきます。
花子の大好きな井浦創先生はきっと花子のお父さんですよね。きっとこれも運命の出会い。
物語を最後まで読むと、「カコ」は「花子」だったり「過去」だったり二つの意味を持っていることに気付いて、さらに温かい感動があふれてきます。
とても切ないけれど、優しくて温かい珠玉のラブストーリー。この感動ぜひ味わってほしいなぁ。
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