酒屋の店員を殴ったという些細な傷害事件で男が野方署に連行された。男はスズキタゴサクと名乗った。
取り調べの中でスズキは、まるで謎解きを仕掛けるかのように爆破予告をしてくる。秋葉原、九段、代々木と次々に連続して爆弾が爆発していく中で、スズキはある男の名前を口にした。
スズキの言葉に翻弄され謎を解いていくも、爆発を止めることができない。警察内にも犠牲者を出し、都内は大パニックとなっていった。
スズキの目的とは一体なんなのか?ある男は連続爆破事件に何のかかわりがあるのか?
大切な人の命と見ず知らずの人の命が天秤にかけられた時、果たして「命の重さ」に差はないと言い切れるのか?自分自身の中に悪意はないと言い切れるのか?
「ミステリが読みたい!2023年版」で1位を獲得した戦慄のミステリー。ぜひ映画化してほしい!
『爆弾』のあらすじ
野方署に一人の男が連行されてきた。酒屋の店員を殴ったという傷害容疑だ。男はスズキタゴサク(49歳)と名乗った。事情聴取をしていた等々力功はどうせすぐ身元は割れるだろうと、いつものように雑談混じりの聴取を行っていた。
スズキが突然、10時ぴったりに秋葉原の方で何かがあると言い出した。等々力は霊感だというスズキを全く相手にしていなかったが、10時に秋葉原の空きビルで爆発があったという一報が入った。
続けてスズキは、ここから3度、次は1時間後に爆発すると告げた。
11時に東京ドームの近くで爆発が起こると、スズキは爆発に必ず関係していると警視庁捜査一課特殊犯捜査係の清宮と類家に取り調べのバトンが渡された。
スズキは心の形を当てる《九つの尻尾》というゲームをしようと清宮に持ちかけた。清宮は何らかの情報をスズキから引き出すために、そのゲームに乗ることにした。スズキの口から「ハセベユウコウ」という名前が挙がり一同は戦慄した。
長谷部有孔はかつて驚くべき検挙率をたたき出した名物刑事だった。ところが4年前、長谷部が担当している事件現場で自慰行為にふける写真が週刊誌に取り上げられた。警察を退職した長谷部は、報道から3か月後、阿佐ヶ谷駅のホームから飛び降りて自殺した。
世間を騒がせた不祥事ではあったが、なぜ今になって長谷部の名前が?
清宮はスズキと交互に質問をくり返した。スズキが卑下た雑談をしながら指を1本ずつ立てていったのを類家は見逃さなかった。スズキはまるで謎解きを楽しむかのようにヒントを出している。午前4時、九段下の新聞社か新聞販売所…。
沼袋交番に勤務する倖田沙良と矢吹泰斗は酒屋からの第一報を受けてスズキの対処に当たったことから、爆弾捜査に加わっていた。九段下の新聞販売所の所長がスズキの写真を見せるなり「昨日来た」と話したことから次の爆破現場はここで間違いないと思われたが爆弾が見つからない。
沙良は閃いた考えを上司に告げると、猿橋と共にパトカーに乗り込んだ。配達中のバイクだ…。配達中のバイクは6台。そのうちの1台から爆弾が見つかった。4時まで残り1分で沙良と猿橋は最後の1台のバイクを見つけた。
運転手をバイクから遠ざけると、猿橋は住宅街の外へとバイクを運んだ。猿橋がバイクを置いて地面にダイブするとバイクは爆発した。
回収された爆弾は比較的容易に材料が手に入るTATP爆弾だった。
スズキと再び対峙した清宮。スズキは相変わらず指を立てながら遠回しで意味深なヒントを出していった。次の爆発は代々木、ターゲットは子ども…。代々木の幼稚園からは3個の爆弾が発見された。
清宮と類家が出ていき、部屋にはスズキと記録係の伊勢勇気だけになった。スズキは伊勢に、スマホを忘れた場所を思い出したと言った。
伊勢から情報を受け取った矢吹は沙良を連れて世田谷区の喫茶店に向かった。マスターは忘れものだというスマホを矢吹に渡した。スマホカバーを外すと、カバーの裏には住所が書いてあった。
等々力は井筒とともに長谷部の元妻の元へと向かった。長谷部の元妻・石川明日香は娘の美海(みう)と一緒に生活していた。明日香も美海もスズキを知らないと言った。息子の辰馬の連絡先を聞いて、等々力は石川家を出た。
11時、代々木公園の南門、ホームレスの炊き出しが行われている場所で爆発があった。謎解きはまだ続いていたのだ。怒りに任せて、清宮はスズキの指をねじり折ってしまった。スズキはさらに、ここまでが1回戦と告げた。
沙良と矢吹はスマホカバーに書いてあった住所に赴いていた。そこはシェアハウスだった。チャイムを鳴らしても誰も出てこなかった。鍵が開いていたので、沙良と矢吹は中へ入っていった。
奥の部屋はさながら実験室となっていた。スクリーンが下がっており、そこには一人の男の映像が映っていた。最期の言葉をつづる長谷部有孔だった。
スクリーンの向こう側には部屋が続いていた。部屋の奥には半透明のビニールを被った人間が椅子にテープでぐるぐる巻きにされていた。長谷部の息子の辰馬だった。
矢吹が突然、「来るな」と叫んで沙良を突き飛ばした。その瞬間、爆弾が爆発した。矢吹が守ってくれたおかげで沙良は無事だったが、矢吹は右足の膝から下がなくなっていた。辰馬の遺体はバラバラに飛び散っていた。さらに、シェアハウスの2階からは若い男の遺体が2体見つかった。
遺体の2人は山脇と梶、シェアハウスの住人で間違いなかった。服毒による死亡だが自殺なのか他殺なのかはわからない。
SNSにはスズキタゴサクと名乗る男の動画がアップされ拡散されていた。スズキは爆弾をしかけたこと、催眠術をかけられ原稿を読まされているだけで、自分は犯人ではないことを語っていた。
時間を置いて2つ目の動画がアップされた。スズキタゴサクは1回目の動画が一定数拡散されると自動的に2つ目の動画がアップされる仕組みだったこと、今後都内のいたるところで爆弾が爆発すること、起爆承認のホストマシンは犯人の体内にあるので犯人を殺せば爆発は免れること、安全なのは野方警察署だけだということを語った。
全てはフェイクであるが、確実にパニックは起こる。そして爆発も確実に起こる…。
梶が九段の新聞販売所で、スズキが代々木の炊き出しでかつてお世話になったことがあるとすると、次のターゲットは長谷部が自殺した阿佐ヶ谷の駅、午後4時?
突然取り調べ室の扉が開き、沙良が入ってきた。沙良はスズキに銃を抜こうとしたが、類家に押さえ込まれた。
警察が総動員で阿佐ヶ谷駅を調べたが爆弾は見つからない。山脇が自販機の飲料配達員だったことがわかり、爆弾は自販機の中だと気づいたときには遅かった。4時、阿佐ヶ谷駅の自販機の爆発を起点に、10秒おきに山手線の駅が反時計回りに次々に爆発し始めた。
シェアハウスの実験室で爆弾が作られていたことは間違いないようで、作られていた爆弾の数も想定された。あと1個足りない。スズキが自らのストーリーを完成させるために、もう1つ残しているのか?あと1人協力者がいるということなのか?
物語の結末は?
ここから先は大いにネタバレを含みます。知りたくない方は【+ボタン】を開かないでね。
『爆弾』の感想
テーマは「命の重さ」。この世に存在する命の重さは平等であるという大前提に、かなり鋭い角度で突き刺さってくる物語です。
大切な人の命と見ず知らずの人の命の重みは同じなのか…。究極の選択を突きつけられたとき、果たして人は「同じ」だと受け入れることができるのか。
ヒントを小出しにし少しずつ正解に近付いているように思わせて、肝心な部分で寝首を掻くかのように警察を翻弄し続けるスズキタゴサク。
幼い頃から蔑まれ見下されてきたスズキが望んだのは世間から注目されることであり存在を望まれることでした。
そんな身勝手な欲求を満たしながらも、スズキが問いかけてくるのは果たして「命の重さ」に違いはあるのかという究極の問です。
子どもがターゲットになったことがわかると必死で謎を解こうとするのに、その問題が解けたとたんまだ疑問が残っているにも関わらずもうやるべきことはやった感に襲われる警察。そしてそれを嘲笑するかのようにホームレスの炊き出し現場で爆発が起こるなんて、人の心を弄んでいるとしか思えません。
仲間が爆発の犠牲になればスズキに対する殺意が湧いてくる。それで命は平等だなんて言えるのか。身内や友達が全く関係のない場所で爆発が起こったときに、人はまるで自分事のように感じることができるのか。
人間の中に生じる悪意や狂気といったものをまざまざと見せつけられる衝撃のミステリーでした。
これ絶対に映画にしてほしい!
食えない奴なんだけど実はかなり頭はいい、自分を卑下しながら認められたい欲求があふれ出てしまっているスズキタゴサクを演じる俳優は誰がいいかな、妄想が止まりません!
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