元官僚の古葉慶太、イタリア人大富豪のマッシモの依頼により重要な機密書類を強奪する計画に加わることになった。古葉慶太に選択の権利はない。マッシモの計画通りに任務を遂行するだけだ。
古葉慶太をはじめ、マッシモによって集められたのは訳ありの「アンダードック」つまり「負け犬」達だ。マッシモは殺され、ロシアやイギリス、アメリカまでもが機密書類を狙っており、敵味方のわからない怒涛の争奪戦が繰り広げられることになった。
その21年後、古葉慶太の娘・瑛美が導かれるように香港の地を踏んだ。かつて慶太と戦いを共にした人たちから語られたのは、瑛美の出生の秘密だった。
誰が敵で誰が味方なのかもわからない中で、とにかく生きることだけを考えて戦い抜いた古葉慶太の壮絶な過去と、慶太と瑛美に隠された出生の秘密が解き明かされた時、熱い気持ちがこみあげてきます。
『リボルバー・リリー』の長浦京さんが、次なる舞台を香港に、世界を巻き込む胸熱なスパイ小説を書き上げました。第164回直木賞候補にも選ばれた渾身の物語です。ぜひとも映画化してほしい!
『アンダードッグス』のあらすじ
1997年
古葉慶太(こばけいた)、32歳。かつては農林水産省に勤務していたが、日農(日本農業生産者組合連合会)の裏金作りの一端を担いで農水省を辞職した。同僚が紹介してくれた日本初のネット証券会社で働き始めて2年になる。
突然、顧客の1人、マッシモ・ジョルジアンニ(72歳)に呼び出された。マッシモは香港在住のイタリア人でアジアに複数の複数の企業を有する投資家だ。
香港返還に当たり、恒明(ほんみん)銀行から大量のフロッピーディスクと書類が運び出されることになっている。このフロッピーディスクと書類には世界の投資家たちの違法な投資記録が記録されている。マッシモは慶太に、そのフロッピーと書類を奪い取ってほしいと言った。
マッシモの息子はアメリカとその同盟国によって経営破綻に追い込まれ、自殺した。マッシモは息子の復讐を果たすためだと説明した。
細かい計画は全てマッシモによって立てられ、慶太は忠実に遂行するだけだ。なぜ自分が選ばれたのかもわからないが拒否権はない。慶太は香港へと旅だった。豆腐店のある雑居ビルの3階が慶太の拠点となる。全てはマッシモが手配した。
マッシモに会うために慶太は海上レストランへと向かった。ところが、部屋にはマッシモと2人の警護員が銃撃された死体が転がっていた。マッシモの秘書のクラエス・アイマーロだけが生き残っていた。
慶太は警察から聴取を受けた後、自宅に戻ると鍵が壊されスーツケースがなくなっていた。どうやらとんでもないことに足を突っ込んでしまったようだ。しかし途中退場は許されない。評議会(コンシーリョ)が常に見張っていて契約違反をすると直ちに始末される。
疲れて眠ってしまい目を覚ますと目の前に女がいた。マッシモが慶太の護衛に雇ったミア・リーダス、オーストラリア国籍の29歳。後に会った他のメンバーは、英国国籍の元銀行員、ジャービス・マクギリス(33歳)とフィンランド国籍の技術者、イラリ・ロイカネン(31歳)、香港在住の林彩華(リンツァイファ、32歳)。
4人で今後について話していると、慶太の携帯にクラエスから「逃げて」という電話が入った。店は何者かに取り囲まれている。5人は窓から逃げて手榴弾式催涙ガスを使って何とか逃げ延びた。
翌日、慶太は林とともにクラエスが入院している病院に向かった。厳戒警備されている病院にどうやって入るか考えあぐねていると、林が警察手帳を見せて入っていった。エリート警察官の林が作戦に加担しているのには重大な事情があるらしい。
クラエスの病室で慶太はロシア人のゲンナジー・アンドレーエヴィッチ・オルロフからの電話でマッシモの作戦を全て引き継ぎたいと提案された。クラエスは了承済とのことだ。おまけに林までもがオルロフの手先だとのことだ。
慶太の元には英国からも作戦を引き継ぎたいと連絡が入った。
マッシモの当初の計画通り、慶太とクラエスが持つている鍵と指紋認証で貸金庫を開けた。中にはマッシモが立てた計画書が入っていた。書類を持ち出すことは許されないので、慶太とクラエスで半分ずつ読んで暗記することにした。
全て読み終えると、慶太は書類をゴミ箱に入れるとライターで火をつけた。古葉から書類を強奪するために男が押し入ってきたが、香港警察が踏み込んで事なきを得た。
慶太とクラエスは香港警察の凱(ラウ)という男と護送車で移動していたが、凱はマッシモに雇われた別グループの一員だと語った。慶太とクラエスを助けたのではなく、頭の中にある情報が目的だった。
ジャービスとイラリの作戦により護送車を足止めさせると、凱が慶太をクラエスを連れて護送車を降りた。クラエスは隙を見て凱に神経毒を噴霧すると、凱の拳銃で凱を始末した。
慶太を助けるためにミアが銃を持ってクラエスに接近した。林の運転する車が見えたのでそちらに走ろうとした瞬間、巨大な鉄骨が落ちてきて林を車もろとも押しつぶした。ミアと慶太が乾物商の倉庫に逃げ込むと、そこにはマッシモ殺害事件のときに慶太を尋問した香港警察の雷楚雄(ルイコーハン)がいた。雷は自分をチームに加えろと言った。
オルロフからかかってきた電話に慶太は英国政府の代理人との三者会談を申し出た。オルロフは了承したが、3人で会うはずの店に英国政府代理人として現れたのは慶太と顔見知りのアニタ・チョうという女性だったった。
アニタが何かに気付き店の外に出た瞬間、爆発音が響き店が吹き飛んだ。慶太の右ふくらはぎには金属のパイプが突き刺さって身動きが取れなかった。
意識を取り戻した慶太は、自分が倉庫のようなところで拘束されていた。アメリカ人工作員のフランク・ベローという男が電話越しに慶太を拷問しながら、自分の支配下に置きたいと提案してきた。
そこへオルロフが踏み込んできて慶太は助けられた。慶太はオルロフとのこれまでの会話を録音していて、全世界に告発すると脅しをかけていた。
慶太が入院している間に慶太の住居は立派な事務所へと様変わりしていた。事務所ではマッシモが編成したチームリーダーと会合を行うことになったいた。凱が死んで瓦解したチームは消えたので残り3チーム。
チームAのリーダーはアイルランド国籍の元捜査官、ロイ・キーディング、チームBのリーダーはトルコ国籍のアズラ・チャクマフ。話し合い決裂した。アズラはすでにベローに懐柔されていたのだ。
事務所に1階の豆腐店の店主、白先生(バイエンシャン)と娘のが入ってきた。白は藍的手(ランディショウ)という闇の組織の一員で評議会のメンバーの1人だった。白はアズラを木箱に入れて運び出した。
直後、外から激しく銃撃された。慶太の携帯にはクラエスを通してベローから電話があった。慶太は、アメリカが自国の農作物を流通させるために日本の農業組織をつぶすべく農水省の裏金作りをリークさせたせいで農水省を追われた恨みを忘れてはいなかった。ベローとは全面対決の覚悟だ。
白の案内で隠し階段と隠し通路からビルから逃げ出した。白が用意した車で慶太とイラリとロイはジャービスと合流するための場所へ向かった。ところがジャービスは慶太たちの目の前で銃弾を受けた。
ジャービスを始末したのはアニタだった。ジャービスは英国を裏切りベローと繋がっていた。
2月7日0時を迎える少し前、予定通りフロッピーディスクと書類を運ぶための輸送車と警護車が恒明銀行を出た。撹乱するためにダミーの車列が出発したが、そのうちの2ルートのうちのどちらかが本命とにらんだ。ロイのチームととそれをバックアップする特殊部隊CT1と慶太のチームと特殊部隊CT2が2ルートの車列を追った。
ロシアのとアメリカ、そしてマッシモチームによる三つ巴の戦いが始まった。
慶太は何度も銃撃を受けながら車列を追った。イラリの作戦により輸送車を地下の共同溝に落した。慶太は白の紹介で「偉大挖洞(偉大な穴掘り)」と呼ばれる薄に共同溝をたくさん掘らせていた。薄のチームは事故に見せかけてベローに始末されてしまったが…。
0時になると本物の車列が恒明銀行を出発した。先に出発した車列がフェイクであることは想定済みだ。
慶太はミアの運転する車で移動していたが、ミアがベローの手先であることに気付いてたことを話すと突然銃撃された。ミアがベローによって始末されたらしい。慶太は後から追ってきた雷の車に乗り込んだ。
ロイが追っていた輸送車には武装集団が乗っており、ロイのチームは壊滅状態だった。背中と足に銃弾を食らったがロイは慶太に合流した。
輸送車の車列は正式開通前の海底トンネルへと向かっていた。
慶太がトンネルの入り口に着くと、すでにトンネル内では武装集団とCT2による戦闘が繰り広げられていた。慶太は気付かれないように近づきワイヤーで避難用ドアのバーに自分の体を固定した。
薄はこのトンネルにも細工を施していた。大きなモーター音が鳴り始めると同時に暴風がトンネル内を吹き抜けた。風速50メートルの風は次々と戦闘員たちを吹き飛ばしていった。
風がやむと慶太はワイヤーを外し輸送車に近付くと、プラスチック爆弾を扉に取り付けた。開いたコンテナの中をのぞき込んだ瞬間、銃声が響いた。慶太は必死で横転したワゴン車の陰に隠れた。
スーツ姿のベローと3人の男が見えた。コンテナからバンへと7つの金属製アタッシュケースを運び入れるトンネル出口に向かって走り始めた。
追いついてきた雷が動かせそうなワゴン車を見つけ、慶太と乗り込んだ。そこへロイから電話があった。ロイはトンネル出口からこちらに向かっているようだ。ベローの一味が出口に向かっていることを告げると、次の瞬間爆音が響いた。ロイが自分の車を横滑りさせながらベローの車に衝突させていた。
既に息絶えていたロイに近付くと、慶太はベローから銃撃された。横転したバンの陰から撃ってくるベローに雷が応戦した。
ベローが立ち上がった瞬間、ライトを消して走ってきたイラリの車がベローに突っ込んだ。そしてベローを車の前面にひっかけたままトンネルの壁に激突した。
雷は7つのアタッシュケースをワゴン車に積み替えた。慶太はまだ息のあったベローに銃弾を撃ち込むとアタッシュケースを開けるための鍵を奪い取った。
ロイの死体を後部座席に乗せると車はトンネル出口へ向かって走りだした。ロイを負傷者だと偽り難なく検問を突破し、海沿いの人気のない道で車を停めると、慶太はアタッシュケースを開錠した。
1つだけ異様に重いケースがあったが、その中から出てきたのは信管を除去されたセシウム137を用いたW54型核弾頭だった。アメリカは西側各国を取り込むために、このアメリカ製核弾頭を保管させていたのだろう。必死になって取り戻そうとするわけだ。
突然、警察官を装った男2人が車の窓から銃を向けてきた。雷と1人のニセ警察官が相打ちとなった。もう1人が慶太に向かって銃口を向けるやいなやイラリがその男を撃ち抜いた。
イラリは雷を車の運転席から車外へ落とすと、慶太に運転するように命じた。イラリは核弾頭はアメリカの民主党側に、フロッピーディスクと書類は共和党側に渡すつもりだと語った。イラリの雇い主は日本政府に違いない…。
赤信号で停まると慶太は頭を深く下げベルトのバックルを叩いた。その瞬間、後部座席で爆発が起きた。慶太は死んだCT2隊員から勝手に取ってきたグレネードをロイの胸に抱かせ、自作の起爆発信機をベルトにバックルにしのばせていた。
慶太は雷の部下に頼んで6つのアタッシュケースを香港警察の重要証拠保管庫に運ばせた。そして残る1つのアタッシュケースをアメリカのジャスティン・ウィッカード中尉に引き渡した。
2018年
大学を卒業してまもない古葉瑛美。バイト先のコーヒーショップに警察官がやってきて逮捕された。逮捕容疑は不正アクセス禁止法違反と電子計算機損壊等業務妨害罪。
瑛美は盗んだデータを基に投資で稼いでいた。人付き合いが困難なスキゾイドパーソナリティ障害を持つ瑛美は会社勤めができなかった。
瑛美は義父に言われていた通り、ロンドンに本部のある外資系の法律事務所に連絡をとった。
瑛美が父親だと思っていた古葉慶太が血のつながらない養父だと知ったのはインターナショナルハイスクール1年生の時だ。義父は「20歳になったら全部教える」と言ったけれど、その直前マニラのホテル火災で亡くなった。
都築という弁護士が到着すると、瑛美はどういうわけか保釈された。都築の説明によると、瑛美には中華人民共和国大使館職員の身分が与えられ、ウィーン条約に基づき裁判権が免除されたということだ。
香港に着いた瑛美を待っていたのは黄燕強(ウォンインクン)という若い男性。黄は瑛美をある老人の元へ連れていった。老人の名はオルロフといった。オルロフは瑛美の義父と黄の父親の過去の秘密を知っているようだ。黄は父親の名前を雷楚雄だと語った。
瑛美と黄は次に、周敏静(ジョウシンジン)に会いに行った。周は林彩華の妻で、林が亡くなった後、雷によって匿われ慶太によってカナダに逃がされたと言った。黄はそこで初めて父親の雷が警察官で1997年の事件に関わっていたことを知った。
翌日、愛美と黄はデニケン・ウント・ハンツィカー銀行でクラエスと会った。3人の指紋が合致して初めて貸金庫の鍵が渡されることになっている。金庫の中には青い手形が押された紙が一枚入っていた。黄は「藍的手」を意味すると言った。
クラエスが立ち去ると銀行の担当者が封筒を運んできた。封筒にはある住所が入っていた。
瑛美と黄は九龍半島にある「白豆業」という豆腐店を訪ねた。白アレックス博文(ボウエン)という店主が、母親である白春玉(バイチュンユウ)が療養する病院へと案内してくれた。
春玉は8年前にの白先生が亡くなったときに慶太が香港にやってきて再会したと言った。慶太の字で書かれた手紙を手渡され、瑛美は間違いなく瑛太に導かれて香港にきたことを確信した。
春玉から受け取った受領証を持って、瑛美と黄は香港警察へと向かった。21年間の保管期間を終え、瑛美には慶太の提出品と所持品一式、黄には雷の所持品と証拠品一式が渡された。
瑛美が受け取ったのはアタッシュケースが2つ。中にはフロッピーディスクと封筒が入っていた。封筒の中には次の目的地と瑛美の出生の秘密が書かれていた。
慶太の遺言通りフロッピーディスクとを処分すると、瑛美はアニタ・チョウに会いに行った。アニタは瑛美の持つ写真の中で、義母として瑛美の記憶の中にいた。
物語の結末は?
ここから先は大いにネタバレを含みます。知りたくない方は【+ボタン】を開かないでね。
『アンダードッグス』の感想
手に汗握る展開とはまさにこのこと。文字を読んでいるのにまるで映画を見ているかのように映像が浮かんできて興奮が止まりませんでした。
「アンダードッグス」とは「負け犬」のことです。汚名を着せられ農水省を追われた古葉慶太をはじめ、マッシモによって集められたのは訳ありの事情を抱える者ばかり。その負け犬軍団が、少しでも報酬を釣り上げようと敵の裏をかき味方を裏切り錯綜していくスパイ劇。
古葉慶太は元官僚というだけの一般人。否応なく巻き込まれていく戦場は敵も味方もわからない無法地帯で、一歩足を踏み出すたびに誰かが目の前で命を落としていく、誰も信じられない最悪の状況です。
そんな男が、ただ生きることだけを目指した戦いの記録と思ったら大間違い!
一歩間違えれば直ちに命を奪われる綱渡りの状況でありながら、約束を守る者には協力と援護を惜しまない慈愛に満ちた物語であり、父と娘の深い愛情を感じる物語になっています。
この戦いと慈愛という2つの糸の絡まり具合が絶妙で、マジでしびれました。
ロシアに中国、イギリス、アメリカと世界の大国を巻き込む壮大なスケールで描かれる凄まじいスパイ劇。これ絶対映像向き!映画で見てみたい!
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