小説『二木先生』あらすじとネタバレ

田井中広一は小さい頃から変わった子どもだと言われ続けてきた。周りの人たちに合わせようと努力してみたけれど、むなしくなるだけで受け入れられることはなかった。

高校2年生になった広一は、変だと思っていた自分よりももっと変な奴を見つけた。担任の美術教師・二木良平だ。

二木が実はロリコンで、エロ漫画家であることを偶然知ってしまった広一は、秘密をばらすと言って二木を脅すことにした。脅して何になるのかもわからないが、とにかく脅すことで自分の居場所を作っていく広一。

多様性とは何なのか、性癖に悩む人が生きにくい世の中とどうかかわっていけばいいのか…。答えはわからないけれど、ほんの少し楽に息ができる方法を見せてくれるかもしれない一冊です。

2019年のポプラ社小説新人賞受賞作の「ニキ」が、文庫本として発売されるのあたり「二木先生」と改題されました。意表を突く装丁にも目を奪われます。物語に違いはありませんよ。

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『二木先生』のあらすじ

高校2年生の田井中広一(たいなかこういち)。小さい頃から変わった子どもだと言われ続けてきた。自分の中の「あたりまえ」が周りの人たちのそれとは違うらしい。

小学校5年生の時に両親が離婚して、母と共に今のところへ引っ越してきた。前の学校で「宇宙人」と呼ばれたトラウマから周りの人たちともできるだけ話さずやり過ごしてきたが、広一が1人でいることを見兼ねた委員長(島崎)が話しかけてきて、誕生日会に誘ってくれた。

周りの男の子たちをまねて委員長のお父さんにじゃれついてみたりもしたけれど、調子に乗り過ぎて委員長のお父さんの頬に平手打ちをくらわし周りをドン引きさせた。委員長のお父さんからも子どもらしくないと言われた。

周りの人たちが好きなものを好きになろうと「特訓」したこともあったが、それもやめてしまった。自分の考えを口に出すことを我慢できない広一は、空気の読めない鬱陶しいやつというレッテルを貼られていった。

学校から帰って広一は本屋へと出かけて行った。成人雑誌のコーナーへ向かうと1冊の雑誌を万引きした。林の中に乗り捨ててあるワンボックスカーに着くと、その中でその雑誌を開いて読んだ。これまでに集めた雑誌も車の中に保管してある。

お目当てはがじぞうの漫画。小学生少女を性の対象としたロリコン漫画だ。がじぞうは雑誌の漫画だけでなく、もっと過激な同人誌も発行しているようだ。

2か月後、広一は再び本屋に向かった。がじぞうの漫画が掲載されている雑誌を万引きするために。ところが今度は店員に見つかってしまった。親を呼ぶか担任を呼ぶか迫られ、広一は担任を呼ぶことを選択した。

担任の美術教師・二木良平が広一を迎えに来た。雑誌の代金を二木が払い、今回は警察には通報しないと帰された。

何事もなかったかのように振舞う二木に対して苛立ちを覚えた広一は、このエロ漫画を描いているがじぞうが二木であることをみんなにばらすと脅しをかけた。

1年前、広一はたまたま下北沢の「下北チカガワ劇場」の前で二木を見かけた。二木は仲間から「がじぞう先生」と呼ばれており、どうやら地下アイドルのライブに来ていたようだ。

後からネットで検索をかけると、二木の秘密が次々と露わになった。生徒たちにそこそこ人気があり圧倒的ノーマルだと思われている二木は、実はロリコンで、エロ漫画家なのだ。

広一は、劇場前で二木の写真を撮ったと嘘を言った。二木に対して何を求めて交渉しようとしているのかも自分でわからなかったが、広一はとにかく強気で二木を脅し続けた。

二木から何を要求するのか考えてこいと言われたけれど、正直何も思いつかなかった。ただ「普通」の仮面を被った、自分よりもっと変で危険な奴がいることに我慢ならなくて、攻撃するために二木がいる美術準備室に足を運んだ。

全く二木を言い負かすことができなかった広一は、今度は二木を喫茶店に呼び出した。広一は無理矢理、二木のアパートへと押しかけていった。

二木は小学校4年生の時に初めて人を好きになって、それ以降好きになる女性の年齢が上がっていかないという話をした。好きな女性でもある一定の年齢を超えたとたん恋愛対象でなくなるのだと。実際に幼い少女に手を出さずにすんでいるのは、アニメや漫画の世界があったからだとも言った。

自分は二木に認められたのではないかと気づいた広一は小説を書くことにした。読みふけっていたお気に入りの小説に出てくる脇役のジョンの物語を紡ごうと決めた。

ひと月ほどかかって広一は約3万字の小説を書き上げた。母親が夜勤で留守にする夜、広一は二木の部屋を訪ね、書いた小説を読ませた。二木は広一の文章力を高く評価し、書き直してもう一度持ってこいと言った。

広一が家に帰ると、いないはずの母がいた。自分が書いた小説を二木に添削してもらったので、その直しを一人でファミレスでしていたとごまかしたけれど、母は許さなかった。母は二木に電話をかけた。

広一は何事もほどほどにすることができず、のめり込むと食事も摂らなくなったり他のことが全くできなくなってしまうので書くことを焚きつけないでほしいと母は電話口でまくしたてた。ところが最後はどういうわけか二木に懐柔されてしまったようだ。

二木は母に、広一が小説の新人賞に応募すると言っていた。

広一は、二木の思い通りになんかならないし絶対に新人賞になんか応募しないと思っていたが、二木はあろうことかクラスのみんなの前で「田井中が新人賞に応募する」と発表してしまった。

クラスの吉田たちにからかわれ教室を飛び出した広一は、いつもの体育倉庫の裏へと向かった。そこには委員長がいて、久しぶりに話をした。委員長は広一ならやれそうな気がすると言い、広一が賞を取ったら自分もみんなの前で夢を発表して挑戦してみると言った。

広一は家に帰ると押し入れから子どもの頃に書きためていた物語のノートを取り出した。子どもの頃から文字には特有の色があるように感じていたことを思い出し、色を題材にした小説を書くことにした。

広一は無事に小説を完成させ新人賞に応募した。

3年生に進学するとクラス替えはなく担任の先生だけが替わった。2日後に1次選考の結果発表を控えて、広一は委員長にだけ小説のあらすじをざっくりと話して聞かせた。

新人賞に応募すると公言して以来、吉田を筆頭としたクラスの男子の広一に対するいじりがどんどん激しさを増していった。あまりにもしつこいので、広一はいじられた内容をこっそり録音していたのだが、それが吉田にばれてしまった。

吉田は教室のみんなの前で広一のスマホの再生ボタンを押した。しかし、そこから流れてきたのは自分の性癖を告白する二木の声だった。

美術の時間、生徒たちは二木に詰め寄った。二木のどんな言葉も生徒たちに響くことなく、二木は吉田によって土下座をさせられようとしていた。その姿を見て、広一は思わず手を挙げて叫んだ。

新人賞に応募した小説はロリコンが主人公で、二木に語りのシーンを読み上げてもらっていただけだと。そして本当のロリコンは自分で、二木はそれをかばっているだけだと。

委員長だけは小説の本当の内容を知ってくれている。自分が一番誤解されたくない相手が本当のことを知ってくれているというだけで広一は満足だった。

『二木先生』の感想

誰しも大なり小なり「自分って人と違うのかな?おかしいのかな?」と悩む部分ってあると思います。でも社会に溶け込んで普通のふりして生きていかなくちゃいけない。そういう生きづらさを抱えた人に届く物語かもしれません。

二木先生は「自分の大事な部分をクローゼットの中に隠して生きていく方法もあるのに」と広一に言いました。犯罪を犯さないように、自分にだけわかる方法で、自分だけが満たされる方法で生きていくことができるのだと。

盗撮ニュースをしょっちゅう耳にする昨今。盗撮はもちろん犯罪なので絶対に許すことはできません。その一方で自分の力ではどうすることもできない性癖を持っている人がいるのも事実。

はみ出した広一と二木先生が最後には意外に支え合っている姿がかっこよくて、 やっぱり人って1人では生きられないんだ…と痛切に感じました。

多様性という魔法の言葉でなんとなく世の中をオブラートで包んでしまっているけど、世間は甘くないどころか絶対的に厳しいのが世の常。

実際、自分の子どもが被害に遭うことを想像すると、そういう人には身近にいてほしくないと思ってしまうけど、反対に自分の子どもがそういう性癖に悩んでいるとしたらどうやって手を差し伸べていいのか全く分かりません。

二木先生のように「クローゼットの中に隠して生きていく方法」が、生きにくい世の中を渡って行くための一つの方法になればいいのにと思わずにはいられませんでした。

本当に難しいテーマで、どちらの立場に立って受け取るかで気持ちがブレまくる物語でした。映画化してほしいけど、扱ってる性癖がロリコンだと難しいのかな?

あと、どこにでもいる吉田のような奴は、ただ声がでかいだけで、みんなが決して同じ気持ではないということにも気づいてほしいですね。こんな奴に心を削られることが一番あってはならないことだと思います。

小説が気になっている人にはぜひとも一読してほしい!

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