岩手県花巻市の質屋の長男として生まれた宮沢賢治。天才的な文豪でありながら、社会性と生活力は皆無で、たびたび父を困らせるダメ息子でした。
そんな賢治の才能を信じ、時に厳しく、時に大いに甘やかしながら見守り続けた、賢治の父・宮沢政次郎の物語です。
2018年には直木賞を受賞した『銀河鉄道の父』が、役所広司さん菅田将暉さんという珠玉のキャストで実写化されることになりました。
子どもたちに注ぐ狂おしいまでの深い愛情を、小説と映画でぜひ感じてください。
【主なキャスト(敬称略)】
役所広司:宮沢政次郎
菅田将暉:宮沢賢治
森七菜:宮沢トシ(賢治の妹)
小説『銀河鉄道の父』のあらすじは?
1896年9月、岩手県の花巻の質屋に1人の男の子が生まれた。父親の宮沢政次郎は出張中の京都でその知らせを受け取った。男の子は「賢治」と名付けられた。
賢治が6才のとき、赤痢にかかり入院することになった。家族が猛反対したにもかかわらず、政次郎は病院に泊まり込んで賢治の看病をした。
賢治が元気になって退院した後、政次郎は腸カタルで入院することになり、それ以降も固形物を食べられない体になってしまった。
賢治、8歳。花巻川口尋常高等小学校に入学。成績こそ優秀だったが、賢治は家で大人しく本など読んでいるような子どもではなく、悪ガキどもと野山を走り回っていた。
あるときは豊沢川の川中にある島を火事にしてしまったことがある。賢治は言い出したらきかない頑固者だった。
4年生のときには2歳下の妹のトシと石集めに夢中になり、石っこ賢さんと呼ばれるようになった。
政次郎は半ばあきれながらも、岩手の地質学の勉強をして賢治に聞かせてやったり、集めた石を分類・整理するために標本箱を買い与えたりと相変わらずの甘やかしようだった。
一度言い出したらきかない賢治はいたずらも度を超すことがあり、まことに悪童だったが、成績だけは全て「甲」と揺るぐことはなかった。
中学進学を望んだ賢治だったが「質屋に学問はいらない」という祖父・喜助が許すはずがなかった。が、そこは政次郎が「時代がちがう」と援護射撃をして、盛岡中学校を受験し、無事に入学することになった。賢治は寄宿舎に入った。
5年後、盛岡中学校を卒業した賢治は実家の花巻に帰って来て、肥厚性鼻炎の手術を受けた。政次郎は案の定看病をすると言い張った。
ところが手術は成功したのに、賢治は高熱が出て病状が一変した。チフスということだった。政次郎は賢治のチフスが移ったのか20日も入院することになってしまった。
家に戻った賢治は質屋の店番を任された。初めての客は稲刈り鎌を持ってきた農家の嫁。政次郎の見立てでは1円20銭ほどの鎌に、賢治は言いくるめられて5円20銭も手渡してしまった。
賢治に質屋の商才はない…政次郎はそう思った。
賢治は店番から逃げて「妙法蓮華経」を読みふけっていた。出家したいなどと言われたらたまったものではない。政次郎は賢治を進学させることにした。
東京の早稲田か慶応かを考えていた政次郎の思惑から外れて、賢治は盛岡高等農林学校へ行きたいと言い出した。賢治は首席で農学科に合格し、再び寄宿舎生活をするため実家を出ていった。
同じ月、長女のトシも高等女学校を首席で卒業し、東京の日本女子大学校へ進学していった。2年後に次男の清六が盛岡中学校に入学すると、政次郎はゆくゆく質屋を閉める覚悟を固めた。
賢治に卒業後は何がしたいのかと尋ねると、製飴工場などという突拍子もない返事が返ってきた。資金は完全に政次郎任せのつもりのようだ。
思えば中学の時から賢治が政次郎に手紙を書いて寄こすのは、金の無心をするときだった。賢治の中に「倹約」という概念は存在しないのだった。
そして政次郎は政次郎で、甘いとわかっていながら金を送ってしまう。
賢治は結局、卒業後も研究生として学校に残ることになり、政次郎への金の無心は続くのであった。
賢治は肋膜炎を患い、仕事を辞めて帰ってくることになった。その半年後には、このところ体調がすぐれなかったトシが肺炎で入院したとの連絡があった。
賢治と母親のイチはトシの看病をするために東京へと発った。賢治はトシの枕元で物語を話して聞かせたり、身の回りの世話をかつて自分が政次郎にしてもらったようにしてあげた。
トシは退院すると、花巻の実家へと戻った。トシは3学期の試験を受けることはできなかったが見込み点で無事に卒業することができた。トシは母校の花巻高等女学校で英語教師として働くことになった。
一方、賢治はというと「人造宝石」を売る仕事を始めると言い出し、政次郎に一蹴された。政次郎に歯向かうように賢治は宗教にのめりこみ始め、日蓮宗系の宗教団体・国柱会へ入会してしまった。
宮沢家は代々浄土真宗を信仰している。賢治と政次郎の間で改宗を説く論争が繰り返されるようになった。
賢治はついに家出をしたが、トシが喀血し結核だと判明するや呼び戻された。賢治が持って帰った大きなトランクには、書きためた童話がぎっしり入っていた。
読んで聞かせるとトシが喜ぶので、賢治はせっせと童話を書いた。団体の機関紙にも載るようになったころ、稗貫農学校から教諭にならないかとの打診があった。
賢治がやっと定職に就いた。政次郎は目頭が熱くなった。
しばらくして病状が悪化したトシが亡くなった。長男の賢治ではなく次男の清六に家を継がせることになり、清六は商売を見極めるために東京へと出ていった。
賢治は清六に協力してもらいながら東京で童話を売り込んでいたいたが、どの出版社にも見向きもされなかった。しかし、岩手では新聞に賢治の童話がたびたび掲載されるようになった。
賢治は『春と修羅 心象スケッチ』、『注文の多い料理店』を続けて自費出版し、年度末には農学校を退職してしまった。
『春と修羅』も『注文の多い料理店』も評論家からの評価はよかったがほとんど売れなかった。賢治は文筆に専念すると言い家を出ていき「羅須地人協会」なるものを立ち上げた。
清六が東京から帰ってきて、今後は鉄材を扱う商いをしたいと言ったので、実家の隣に「宮沢商会」と名前を付けた店を構えた。
冬になり、たびたび賢治を訪ねている清六に、政次郎は賢治の様子を聞いてみた。賢治がタバコを吸っていると言う。嫌な予感がした政次郎は翌朝賢治の元へと走った。
机に突っ伏したまま眠っている賢治の傍らには灰皿が置いてあった。そのころ世間では「結核菌はニコチンに弱い」という何の根拠もない俗説が流れていた。
政次郎はぜろぜろと呼吸をする賢治を引っ張って病院へ飛び込んだ。入院もして検査をしたが結核菌は出なかった。
賢治の熱は下がらず呼吸の喘鳴は続いていたが、文筆活動と「羅須地人協会」の活動の一つである農業相談は続けていた。
ついに「両側肺浸潤」と病名を告げられ、賢治は実家に戻って静養することになった。咳は日に日に激しくなり喀血するようになった。
清六の商売が軌道に乗り始め、政次郎は質屋を閉め賢治の看病に専念した。弱音を吐く賢治に、政次郎は机の上じゃなくても物語は書けると励ました。
小康状態のときには賢治は膝の上で小さな手帳に何かを書き記していた。
賢治は書きためたものを清六に託し、もしも誰からも見向きもされなかったら処分してほしいと政次郎に頼んだ。賢治は起き上がれなくなった。
それでも賢治は訪ねてきた農夫に丁寧に相談に乗ってやるのだった。政次郎はもう見ているだけでも限界だった。
翌朝「南無妙法蓮華経」と大声で唱える声が聞こえた。賢治のわけがないと政次郎は飛んで行った。やせ細った賢治が唱えている姿を見て、政次郎は遺言を書きとる決意を固めた。
賢治の遺言を書きとり硯箱を置きに戻ると、2階から賢治の名を叫ぶイチの声が聞こえた。賢治は旅立った。
その後賢治の作品は文壇から大いに評価され、死後1年経って全集刊行となり、一周忌には岩手日報に「雨ニモマケズ」が掲載された。
政次郎は賢治の遺言通り、日本語訳の妙法蓮華経を100部作り思いつく限りの人々へ送った。
映画『銀河鉄道の父』見どころと原作との違い
原作小説が限りなく実話を描いているので映画もほぼその通りに進んでいきます。
狂おしいくらいの父の愛情を感じる物語です。厳しい家父長制のあった時代に、家族の反対を押し切って泊まり込みの看病をするとか…喜助が言った「父でありすぎる」という言葉が染みてきます。
そして、宮沢賢治が子どもの頃は悪ガキで、大人になっても定職に就かず金の無心ばかりするダメ息子だったことや、日蓮宗にのめり込み父の話には耳も傾けない頑固者だったことには、なかなかの衝撃を受けました。
農民の生活を第一に考えながら執筆活動にもいそしんでいた姿しか知らなかったので、この事実にはかなりの人間味を感じてしまいましたね。
賢治のことを「しょうがない奴だ」と思いながら、無心されるとお金を用意してしまう政次郎。もちろん裕福だったゆえにできることではあるのですが、これはもう「親バカ」としか言いようのないレベル。
でもそんな風に政次郎が賢治の才能を信じ続けてくれたから、今私たちは宮沢賢治の作品に触れることができているんですよね。
この物語は宮沢賢治の一生を描いたものではありますが、賢治を育てた父・政次郎の物語です。役所広司のコミカルでありながらも愛情深さを感じさせてくれる姿にはきっと胸が熱くなりますよ。
映画『銀河鉄道の父』視聴方法は?
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宮沢賢治の物語というより「宮沢賢治の父」の物語です。
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