『名も無き世界のエンドロール』で衝撃的なラストを見届けたキダの5年後を描いた物語です。
ヨッチもマコトもいなくなった世界は、キダにとって彩のない灰色の世界でした。
キダは、突然現れた訳ありの11歳の少女・彩葉(いろは)と共に生活を始めます。
彩葉の作るご飯を食べて、一緒に買い物をして、水族館に遊びに行って…。キダの世界は少しずつ色付き始めました。
彩葉は一体何者?
小説『彩無き世界のノスタルジア』のあらすじ
ヨッチもマコトも失った世界。たった一人で残されたキダは、変わらず裏の世界で「交渉屋」として生きていました。
暴力団のフロント企業「トゥエンティエックス・エステート(TXE)」の事務所に現れたキダ。一般の人間をだまし全財産を搾り取った挙句、法外な利子で借金をさせている悪事を「謝れ」と社長(組長)に詰め寄っていました。
「できない」と言う社長に向かって、右の袖口からガソリンと思われる液体が噴射されました。組員全員が銃を向ける中、キダは平然と「社長が火だるまだぞ」と、自らもライターを取り出しました。
社長はキダが連れていた女性の前に跪き「申し訳ない」と言いました。その一部始終を録画していたキダは言います。「じゃあこれから交渉を始めたいんですが、この動画1億円で買っていただけますか。」
現在のキダの名前は「サワダマコト」。キダという名前を捨て、マコトの名前をもらって生きていました。
そんなキダの元に11歳の少女、彩葉(いろは)が転がり込んできます。「パパとママが殺された」と言って川畑の元を訪ねた彩葉は、「このオジサンの家がいい」とキダを選んだため、面倒を見ることになったのでした。
通いなれたファミレスのナポリタンとコンビニ弁当しか食べていないキダにとって、少女が作る料理と会話のある生活はとても新鮮でした。
先日キダが交渉に乗り出したTXEのカタギの人間を食い物にした商売は、課長と呼ばれている井戸茂人の仕業でした。キダのせいで社長から大目玉を食らうことになった井戸は、キダに大きな恨みを持っていました。
ファミレスで偶然出会い挨拶をしにいった井戸に「どちら様ですか」と言ったキダに対して、さらに言い知れぬ憎悪を募らせていました。井戸はこの辺りでは知らない人などいないくらいの筋金入りの極悪人で、裏社会を掌握しつつある人物でした。
キダが事務所から帰ろうとしたとき、同じく川畑洋行で「殺し屋」として雇われている氷室から相談を持ちかけられます。
長年「殺し屋」稼業をしている氷室でしたが、児童養護施設に多額の寄付をしていると打ち明け、そこの人気のある先生が施設をやめるかもしれないことに心を痛めていました。聞くと、昔付き合いのあった男に付きまとわれているそうで、カタギの人間ではないと言います。
「交渉屋」ならこんなときどうするかと聞かれ、キダは「俺がやります」と答えていました。川畑の耳に入れることなく、勝手に行動することはこの世界ではご法度です。先日も、TXEへ出向いた交渉事で、勝手に1億円を搾り取ったことを川畑から戒められたところでした。
彩葉が眠った後キダは家を抜け出して、先生に付きまとっている男のところへ行きました。男は井戸の下で働く組員で、上納金を納めるためにその女性を風俗店へ売り飛ばすことを企んでいたのでした。キダはその男に上納金の7万をくれてやり、女性から手を引くことを約束させました。
川畑から連絡があり、彩葉の素性はまだわからないけれど、井戸の罠かもしれないと言います。井戸はTXEを生贄にして組を乗っ取り自分だけが生き残ることを考えているような奴だと。
新しい会社を立ち上げたり、市長を脅したりしているようで、ちょうど彩葉が川畑のところにやってきた頃、井戸の下で働いていた佐々木という男が行方不明になったようでした。その佐々木という男は、かつてキダがリサと別れるように交渉した相手でした。
夜になり、キダは仕事に出かけていきます。「帰ってくるって約束して」と言う彩葉の小指に、キダは小指をからませ「大丈夫だ」と言って出ていきました。
職員が退庁してから夜の警備が始まるまでのエアポケットとも思える時間帯に、キダは市役所に忍び込み市長室に向かっていました。川畑からは、井戸は市長と市長室で会っているという情報を得ていました。
市長室に着くと、そこには両手両足を拘束され口に粘着テープを貼られ、意識を失った市長が椅子に固定されていました。さらに、井戸の姿がありました。
「商売の邪魔をしたオトシマエをつけてもらう」と銃を向けた井戸ともみ合いになり、キダは井戸の手首に糸をくくり付けました。その糸はキダの袖口を通って、キダの体に括りつけられた手榴弾の安全ピンへとつながっていました。糸を引くと瞬時に爆発することになります。
「彩葉と、彩葉の両親から手を引け」とキダは井戸に要求しました。しかし井戸が電話をかけたスマホの画面には、キダの部屋が映っておりそこには涙をためた彩葉が映し出されていました。
「俺が死ぬとガキも死ぬことになる」と言い、井戸はナイフを取り出し糸を切ると、キダの脇腹にナイフを突き立て、切った糸を市長のいすへ括りつけました。キダが倒れでもすると瞬時に爆発することになります。
全ては井戸の計画通りで、彩葉は井戸が送り込んだスパイなのでした。生きることに何の執着も無いキダの元に「生きる意味」という弱点を送り込んできたのでした。
「彩葉は親元に返してやってくれ」と頼むキダに、「俺が外でタバコを吸い終わるまで、倒れずに堪えてみせろ。」と言って井戸は市長室を出ていきました。
小説を読んだ感想
マコトがいなくなってからずっと止まったまま、彩を失った世界で歩き出すこともできなかったキダに少しは救いができたのかな。
『名も無き世界のエンドロール』では、読み終えた後、辛くて辛くて。友情のため?ヨッチを失った気持ちが分かるから?そんなのでマコトの計画に協力してしまったんだけど、一人残された世界でキダは生きていけるのかなとずっと気になっていました。
もしかしたら後を追ってたりするんじゃないかと思っていたので、とりあえず生きていてくれたことにホッ。
マコトもヨッチが死んでから一歩も前に歩き出すことができていなかったけど、それはキダも同じことだったのだと改めて気づかされました。ただキダは常に受け身で、自分から選択するということができなかっただけのような気がします。
どこへ行くでもなく、育った町のファミレスで相変わらずナポリタンを食べて、押しボタン信号のボタンを押して、何も見ず何も感じず、金にも女にも興味がなく、同じことを繰り返しているだけの日々。かつては色にあふれていた思い出の場所も、今は色の無い灰色の世界と化し、その中にじっととどまっているだけのキダ。
11歳の少女が現れて、結局その子はスパイだったのだけどキダの生活に”色”を持ってきました。理由なんて何もないけど”生きる意味”を持ってきました。それは信用できない大人に囲まれて育った彩葉にとっても同じことだったのだと思います。
人はひとりでは生きられないし、誰かに必要とされ、必要としながら生きていく生き物だという物語。
『名も無き世界のエンドロール』は元々の題名が『マチルダ』でした。『マチルダ』とは映画『レオン』に出てくる女の子の名前です。この『彩無き世界のノスタルジア』は見事に『レオン』のオマージュでしたね。
行成薫さんは『レオン』が大好きだと公言しておられるので、同じ結末だったらどうしようと思いましたが、そこは救いがあったのでよかった。
キダ、35才。人生はまだまだ続いていきます。彩を取り戻した新しい世界で、力強い一歩を踏み出したに違いないと信じてます。真っ赤なモミジのトンネル、またどこかで見られるといいね。
何年か後、また岩ちゃんで映画化されることを願ってます!
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