小説『キネマの神様』父と娘の物語

原田マハさんの実体験と山田洋次監督の映画への熱い想いが『キネマの神様』という形の映画になりました。

ギャンブル大好きで借金をこしらえるどうしようもない父を立ち直らせるために娘の歩が借りたのは「映画」の力でした。

原作小説には数々の実在する映画の話が出てきて、映画にはかつての映画制作現場でのエピソードが。とにかく映画愛と家族愛がぎっしり詰まった素敵な物語です。

主人公のゴウを演じるはずだった志村けんさんが亡くなって、『キネマの神様』の映画制作は失意のどん底からのスタートとなりました。天国の志村けんさんに届きますように。

【主なキャスト(敬称略)】
沢田研二:ゴウ
宮本信子:淑子
小林稔侍:テラシン
寺島しのぶ:歩
菅田将暉:若かりしゴウ
永野芽郁:若かりし淑子
野田洋次郎:若かりしテラシン
北川景子:桂園子

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小説『キネマの神様』のあらすじ

父・円山郷直が倒れ手術することになって、父の代わりに狭いマンションの管理人室に詰めている円山歩39歳。

父は「宵越しの金は持たない」をモットーとするどうしようもないダメ親父。映画とギャンブルが何より大好き。

今回はサラ金への借金を完済すると意気込んで、あちこちにうそをついて借りてきた金を全額麻雀にぶっ込み、大負けしてさらに借金を増やした挙句に心筋梗塞まで起こしてしまいました。

歩は大手の再開発企業で、シネマコンプレックスを中心とした文化・娯楽施設を建設する巨大プロジェクトの課長に抜擢されていました。「映画館を中心とした文化施設を作る」というアイデアを、入社以来貫き通し、やっとつかんだチャンスでした。

しかし、プロジェクト実現に盲進しすぎたために周りの嫉妬と反感を買い、大手ゼネコン業者との癒着が噂されたため、計画から外され子会社への異動が伝えられます。歩は会社を辞める決意をしました。

借金を増やしてしまった両親は、高給取りの娘のお金をあてにしていましたが、仕事を辞めた歩にはどうすることもできません。

母と共に「ギャンブル依存症の相談会」に参加して話を聞くと「本人の性癖は変えられないので、他の趣味に気を向けること。絶対に借金を家族が肩代わりしないこと。」と言われました。

歩が父の代わりにマンションの管理人室に詰めていた時に見つけた、映画の感想が書いてあるノートはなんと200冊。映画への愛情は半端ないので、ギャンブルを辞めさせるためには、映画の力を借りるしかない…。

歩は自分が会社を辞めたこと、借金は肩代わりしないから自分で返してほしいこと、そして「お父さんには映画があるじゃない」と伝えました。

父が行方不明だと母から電話があり、歩は父の往年の親友で「テアトル銀幕」を営むテラシンの元へと向かいます。

父の入院中に歩は、テアトル銀幕で「ニュー・シネマ・パラダイス」を観て号泣してしまい、席を立てなくなってしまったところにテラシンが話しかけてくれて、父の話をしたばかりだったのでした。

嘘はつけないと父の居場所を教えてくれたテラシン。父はネットカフェでDVDの映画を観ていました。

「エイユウシャ」と名乗る会社から歩に連絡があり警戒していると、なんとそれは映画雑誌の出版社の老舗「映友社」で、「うちの雑誌で映画論評を書きませんか」という勧誘の電話でした。

現在の映友社は決して経営状況がいいとは言えませんでした。しかし、映画の一時代を築いた、凄腕の社長兼編集長・高峰好子にライターとして見込まれた歩は、もう一度大好きな映画の世界で頑張ってみる決意を固めました。

歩が映友社に引っ張られるきっかけになったのは、父が映友社のブログに、歩が書いた映画の感想のメモを投稿したことでした。

高峰編集長には15年来ひきこもりの息子がいて「ばるたん」というハンドルネームで「映友」のブログを書いています。そのブログに歩の父が投稿して、ばるたんが興味を持ったということでした。

歩は、ばるたんが唯一心を許している社員の新村と一緒にばるたんの元に向かいます。しかし、ばるたんは歩の顔を見るなり部屋に閉じこもってしまいました。聞くと、バルタンが興味を持ったのは歩ではなく、書き込みをした父の方だったのです。

歩の父・ゴウと歩、そして新村とばるたんの4人で「キネマの神様」というブログを立ち上げることになりました。ゴウが観た映画の感想を次々に書き込んでいきます。

アメリカに住んでいる歩の元同僚・清音の協力で英語版「キネマの神様」も誕生し、順調にPVを伸ばしていたある日、「Rose Bud」と名乗る人物からゴウとは違う解釈の『フィールド・オブ・ドリームス』論評が投稿されます。

ゴウとRose Budの論評合戦のような映画愛あふれるキャッチボールが始まり、ブログはますます人気になっていきました。

そんなときに、テラシンが「テアトル銀幕」を閉めると言い出します。かつて歩が計画したシネマコンプレックスはすぐそばに建設予定でした。

ゴウは「キネマの神様」にRose Budあての手紙を書きこみました。数々の名画を届きてきた「テアトル銀幕」が閉館の危機に瀕していることを。

清音から「今すぐアメリカのトークショー番組を見て」と電話がかかってきます。そこにRose Budが出ていると…。

Rose Budの正体は、なんと伝説の映画評論家リチャード・キャバネルでした。キャバネルは番組の中で「日本には名作のリバイバルを上映するメイガザ(名画座)というものがある。時代の最先端のシネマコンプレックスとメイガザのような劇場が共存している日本は、世界をリードしている」と言いました。そして

「ゴウ。君に、”テアトルギンマク”に、神のご加護を」

テアトル銀幕には映画ファンが押し寄せ、ハリウッド俳優からも存続を応援する手紙が届きました。

テラシンは命ある限りテアトル銀幕を続けていくとテレビのインタビューで宣言しました。

それからもゴウとRose Budのやりとりは続いていましたが、ある時からプツリとRose Budの書き込みが途絶えるようになりました。心配したゴウは「貴君の力になりたい。貴君の無事を、キネマの神様に祈っています。」と書きこみ続けていました。

ついに来た返事には、Rose Budはがんに侵されていて、先は長くないことが語られていました。そして最後に「君に会ってみたい。会いに来てくれないか。」と結ばれていました。

歩とゴウがRose Budに会うためにニューヨークへ向けて立つ前日、Rose Budが亡くなったと知らせが入ります。ゴウの元にはRose Budからのメールが届いていました。

「君と一緒に、一番好きな映画を観たかった。私の人生最良の映画。それは、君が人生最良だと思っている、あの映画だ。」

Rose Budが亡くなってから映画を観ることもブログを書くこともできなくなってしまっていたゴウ。

長い沈黙のあとやっと、ゴウはテアトル銀幕に向かうことができました。その日は「キネマの神様感謝祭」と銘打ってありました。

アメリカから帰ってきた清音と結婚を反対し確執のあった清音の父、15年以上ひきこもっていた高峰編集長の息子「ばるたん」こと興太も小ざっぱりした格好でテアトル銀幕にやってきました。

この映画を 円山郷直と リチャード・キャバネルに捧ぐ

スクリーンに映しだされた白い文字に続いて始まったのは、シチリアの海の風景とテーブルの上にもられたレモン…ゴウとRose Budが一番好きな映画でした。

映画『キネマの神様』のあらすじ

ギャンブルと映画をこよなく愛するダメ親父・ゴウと家族に奇跡をもたらす「映画の神様」とは…。

若き日のゴウとテラシンは、映画の撮影所で働く仲間でした。ゴウもテラシンも撮影所の近くにある食堂の娘・淑子に想いを寄せています。

銀幕スターの桂園子と一緒にドライブに出かけたりして、少しずつ距離を縮めていく4人の恋の糸は複雑に絡まり始めるのでした。

ゴウの念願の初監督作品となるはずだった「キネマの神様」。撮影初日にスタッフともめてゴウは転落事故で大けがをし、幻と化してしまいました。

淑子は手紙をくれたテラシンの想いを断り、撮影所を辞めて実家に帰ると言うゴウについて行く決意を固めました。

そして50年後。テラシンは自分の夢だと語っていた小さな映画館「テアトル銀幕」を経営しており、そこに淑子が働き口を求めてやってきたことで再会しました。

そのころのゴウは酒とギャンブルに明け暮れ、借金は膨れ上がるばかり。妻にも娘のにもほとほと愛想をつかされていました。

ゴウの再生計画として提案されたのは、通帳とカードを取り上げる代わりに、テアトル銀幕や配信で好きな映画を好きなだけ見ること。

ゴウは半ばやけくそでテラシンの元に転がり込みました。その時「テアトル銀幕」で試験的に上映していたのは、かつてゴウも関わった桂園子が主演する映画でした。

ある日、ゴウがかつて監督して映画を撮ろうとしていた幻の脚本『キネマの神様』を、テラシンから譲り受けたゴウの孫・勇太が、この素晴らしい物語を今風に書き直して脚本賞に応募しようと言い出します。

それからはゴウと勇太の心躍る作業が始まりました。そして書き直した『キネマの神様』は脚本賞の大賞を受賞しました。

コロナ禍で映画館が風前の灯火のごとく経営が立ち行かなくなってくるのは「テアトル銀幕」とて例外ではありませんでした。

ゴウは脚本賞でもらった賞金100万円のうち70万円を「テアトル銀幕」に寄付し、大好きな映画を「テアトル銀幕」で鑑賞しながらその生涯を閉じたのでした。

時代を超えてもたらされる、愛と友情の物語です。

映画の見どころと原作との違い

原作小説は、挫折した娘と父が共に映画によって再生する物語です。ゴウとテラシンの過去の経緯は出てこないので、過去の物語は映画オリジナルのエピソードですね。

元々、山田洋次監督の大ファンだった原田マハさんが、山田洋次監督との対談の機会を得た時に「キネマの神様」という小説を書いたので映画化してもらえないかと永年の妄想を口にしようとしました。

すると、すでにその本を読んだと言う山田洋次監督が、こういうエンディングで映画にしてみたいとおっしゃって映画化が実現することになったそうです。

若き日のゴウとテラシンはかつて山田洋次監督が身を置いた撮影所のエピソード、そして映画好きでギャンブル依存症の父のエピソードは原田マハさんの実体験。

映画黄金期の古き良き時代と歴史、そして家族の再生物語を一緒に描く壮大な作品になったという訳です。

家族を描くことが多い山田監督が、自身とは切っても切れない「映画」をテーマに、「家族」にもたらす奇跡を描くのはある意味必然なのかもしれません。

ゴウを演じる予定だった志村けんさんが亡くなって、スタッフもキャストの失意のどん底からの撮影再スタート。

銀幕の中の沢田研二さんが何度も志村けんさんに見えたのも、目の錯覚なんかじゃなくて、本当に志村けんさんが降りてきている気がしました。ゴウが「東村山音頭」を歌うシーンは思わずジーンとします。

キネマの神様への祈りが…志村けんさんへの祈りが、届きますように…。

映画『キネマの神様』視聴方法は?

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2024年5月24日時点の情報となります。 配信が終了している可能性がございますので、オフィシャルサイトにて必ず最新の情報をご確認ください。

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