映画『春に散る』原作小説は熱き男たちの物語、あらすじとネタバレ

老齢を迎えつつある一人の男が40年ぶりに日本の地に降り立った。男の名は広岡仁一、元ボクサーだ。

かつてともに四天王と呼ばれたボクサー仲間を訪ねると、みんな生きにくさと孤独を感じているようだった。広岡は4人で生活できるシェアハウスを作ることにした。

40年ぶりに一緒に生活を始めた4人の前に現れた一人の若者、ボクサーの黒木翔吾の存在は、初老を迎えた男たちの血を熱くさせた。

目指しても誰も手が届かなかった「世界チャンピオン」の夢を翔吾に託すことができるかもしれない。

生きるとはどういうことか、死ぬとはどういうことなのか…。男たちの熱い想いがぎっしり詰まった深い深い物語です。

佐藤浩市さんの広岡と横浜流星さんの翔吾の本気が伝わってくる素晴らしい映画です!

【主なキャスト(敬称略)】
佐藤浩市:広岡仁一
横浜流星:黒木翔吾
橋本環奈:広岡佳菜子(仁一の姪)
山口智子:真田令子(ジムのオーナー)
窪田正孝:中西利男
片岡鶴太郎:佐瀬健三
哀川翔:藤原次郎

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小説『春に散る』のあらすじ

広岡仁一、40年前にハワイ経由でアメリカに渡ってきた。ボクシングの世界チャンピオンになるために…。

結局チャンピオンにはなれなかったけれど、今ではここアメリカで2つのホテルを所有しそれなりの成功を収めている。

心臓発作を起こし、自分の身がいつどうなるかわからないと思った時、自分には心残りがないことに気付いてしまった。心の貧しさを埋めるように、広岡は日本に帰る決心をした。

ボストンバッグ1つで日本に降り立った広岡が最初にしたことは、後楽園ホールでボクシングの試合を見ることだった。会場で広岡は真田令子に偶然会った。

令子は広岡がかつて所属していた「真田拳闘倶楽部」通称「真拳(しんけん)ジム」の会長・真田浩介の娘で、父亡き今は令子が会長を務めている。令子に言われ、広岡は真拳ジムを訪ねてみることにした。

当時、真拳ジムには広岡を含む「四天王」と呼ばれるボクサーが在籍していて、4人のうち誰が世界チャンピオンになってもおかしくない状況だった。それなのに誰もチャンピオンにはなれなかった。

真拳ジムの近くの不動産屋で令子に保証人になってもらい部屋を借りることにした。進藤不動産の事務員の土井佳菜子が手伝ってくれて、広岡の日本での生活は始まった。

四天王の一人藤原次郎は傷害事件を起こして現在服役中だと聞き、広岡は面会に行くことにした。藤原は2か月後に仮釈放を控えているが、妻とは離婚しており、住むところも仕事もないと言った。

藤原が佐瀬健三の居場所を知っているというので教えてもらって、広岡は山形まで佐瀬にも会いに行くことにした。佐瀬は山形でボクシングジムを開いていたが事業に失敗し、周囲から孤立しわずかな年金でギリギリの生活をしているようだった。

佐瀬によると、星弘は横浜で家庭を持っているとのことだった。横浜で星の妻が経営しているという小料理屋「まこと」探して訪ねると、妻の真琴は1か月前に亡くなっており、星は大家から一刻も早く出ていくように迫られていた。

映画の予告で見た”元音楽家のための老人ホーム”が気になり、佳菜子に話してみたところ、進藤不動産の社長が「いい物件がある」と紹介してくれた。

かつて一家心中があったという曰く付きの事故物件だったが、家賃が格安で5,6人でシェアしても充分な広さがあるということで、広岡は借りることに決めた。

リフォームが完成した家に、広岡は藤原、佐瀬、星を迎えた。4人は家を「チャンプの家」と名付けて、40年以上前に真拳ジムの2階で合宿生活をしていたときのように共同生活を始めた。

四天王が揃ったお祝いをしようということになり、佳菜子も誘って5人で飲みに行くことになった。

焼き鳥屋で佳菜子に絡んできた若者たちともめ事になり、若者たちは4人をじいさん扱いして喧嘩を吹っ掛けてきたが、元ボクサーは年老いても健在だった。

パトカーの音がして3人は逃げてしまったが、1人の青年はどうやらボクシングの心得があるようだった。広岡のパンチを受けて倒れた拍子に頭を打ったので、帰る途中で病院に連れて行き、その夜はチャンプの家に泊めることにした。

青年は名を黒木翔吾といい、高校時代に三冠を獲りプロデビューしたが7戦連勝した後ボクシング界からぷっつりと姿を消してしまっていた。

翔吾は怪我が治ってからもチャンプの家を訪れ、広岡のクロス・カウンター、藤原のインサイド・アッパー、佐瀬のジャブの三段打ち、星のボディー・フックを教えてほしいと言った。

4人は翔吾にボクシングを手ほどきすることになった。とっくの昔にお払い箱となった自分たち”じいさん”に教えられることがあるのかと迷ったが、心が踊るのを止められなかった。4人はそれぞれ工夫して翔吾に練習をつけた。

試合に出るためには、どこかのジムに所属しなくてなならない。広岡は令子に翔吾を真拳ジム所属に所属させてほしいと頼みにいき、そこで翔吾の父親はボクシングジムの会長であることを知った。

翔吾の復帰第一戦は、藤原直伝のアッパーでKO勝ちした。

翔吾と佳菜子もチャンプの家の住人となり、翔吾のトレーニングもより熱を帯びたものになっていった。

同じ真拳ジムの期待の星・大塚俊が世界戦に挑戦する前にどうしても翔吾と試合がしたいと言った。以前真拳ジムでスパーリングをした際、大塚は翔吾から強烈なアッパーをくらってダウンしたことがあり、翔吾を倒さないと世界タイトルには挑戦できないということだ。

異例の同ジム選手による試合が組まれることになった。そしてその試合で勝った方が世界タイトルに挑戦することになった。

翔吾と大塚の試合の日がやってきた。翔吾が大塚を追い詰めようとしても、大塚はするりとかわして、翔吾の顔面に確実にパンチを決めてきた。

フラフラになりながらも翔吾は諦めてはいなかった。翔吾をノックアウトしようと大津塚が距離を詰めてきた瞬間、翔吾は体を沈めると大塚の脇腹にボディー・フックを叩き込んだ。

翔吾は大塚に勝利し、4月にアフメド・バイエフというチェチェン出身の世界チャンピオンに挑戦することになった。

試合まで1か月余りとなったある日、広岡は翔吾の前髪を払うような仕草に言葉を失った。あるはずのない前髪があるように見えている…網膜剥離?

失明する危険があるため、網膜剥離だと試合に出ることはできない。すぐさま医者に診てもらうと、網膜剥離の一歩手前「網膜裂孔」ということだった。

翔吾はレーザーで裂孔を塞ぐ手術を受け、予定通り世界タイトルの試合に臨むこととなった。

スパーリングを全て中止し、打たれないで勝つための練習が始まった。翔吾は大塚の試合のビデオを見ながら同じ動きをなぞるシャドーボクシングを練習し、大塚の速さを身に付けた。

広岡からはついにクロス・カウンターを教えてもらえるようになった。

翔吾も四天王の仲間たちも、実は広岡が重い心臓病を抱えていてニトログリセリンが手放せない状況であることに気付いていた。3人がフォローする形で広岡はセコンドに入ることになった。

バイエフとの世界タイトル戦の日。試合はバイエフ優勢で進んでいた。強烈なパンチを受け続けた翔吾の右目はほとんど見えなくなっていた。

動きを止めた翔吾にとどめを刺そうと、バイエフが渾身の右フックを繰り出した瞬間、鮮やかなクロス・カウンターがバイエフの右頬に決まった。

しかしバイエフはダウンせず結局試合は判定へと持ち込まれた。そして僅差で新しいチャンピオンが誕生した。

試合が終わると翔吾は直ちに病院に連れて行かれ手術が行われた。網膜を貼り付けるために眼球の裏に医療用のガスを注入し固定するため、翔吾は何日もうつむいた状態でいなければならなかった。

うとうとした翔吾が万が一にでも顔を上げてしまわないように、広岡は夜通し付き添った。

新チャンピオンになった翔吾はベルトを返上して引退すると言った。佳菜子と共にアメリカに渡って新しい道を歩いていくことを決めているようだった。

佳菜子が来たので広岡は帰って眠ることにした。土手の桜を見て帰ろうと歩いていると、突然激しい胸の痛みに襲われた。

広岡は薄れていく意識の中で、自分が心を残すべき場所を見つけることができたこの1年の歳月に、ささやかな幸せを感じていた。

小説『春に散る』の感想

初老に突入した男たちが再び夢を追い求め、生きがいを知っていく物語なのですが、言い換えればどのように死に向かって行くかの物語でもあります。

『春に散る』という題名、読む前から胸がザワザワしてしていましたが、やっぱりそういうことか…。と、もちろん切ない気持ちにはなるんだけど、読後感はなぜか悲しさは感じませんでした。

夢破れた男たちが40年ぶりに再会して、また一つの夢に向かってまるで青春時代のような時間を過ごした1年間。広岡にとっては自分の人生が凝縮した1年だったのですね。

刑務所に服役したり、薬物に手を出して地獄を見たり、死んでいるかのように孤独に生きてきたり…、4人の40年という時間には、それぞれ単なる「苦労」という言葉では片付けられないほどの壮絶な時間が凝縮しています。

佳菜子は佳菜子で、不思議な力を持っていたためにカルト教の教祖に祭り上げられそうになり、教団から身を隠すような生活を強いられていました。

試合に勝っても虚しさしか感じることができず、ボクシングから遠ざかっていた翔吾が4人と出会うことで、翔吾だけでなく4人の男たちや佳菜子の運命までもが動き始めます。

他人との出会いが人生を変えてしまう運命の出会いというものの存在が感じられて、読む手が止められなくなりました。

『春に散る』というタイトル通り、広岡が最後には心を残して散っていくわけですが、人間は心が残せるくらい愛する者や夢中になれることがあるのは幸せなんだと、改めて教えられた気がしました。

映画の見どころと原作との違い

一番の見どころは、何といってもボクシングプロテストに合格した横浜流星さんと窪田正孝さんの本気のボクシングシーン!映画の中でも20分という時間を費やして描かれる渾身の場面です。

中西利男というボクサーは、原作では広岡がアメリカで試合を見て心を動かされ、日本に帰るきっかけをつくったボクサーです。

吹き替えは一切なしで、お二人が本当に戦っておられるのですが、あまりにも動きが速すぎて監督がカットをかけられなかったという逸話まであるほどです。

それほどまでにリアルさを追求しているにも関わらず、単なる格闘技映画ではないのがこの映画の本当のすばらしところです。ボクシングを通して生き様とか死に様を感じることができると思います。

原作では四天王として描かれている4人が映画では星弘を欠いた3人になっていますが、佐瀬と藤原は日本で地を這うような生活をしています。一方、広岡はアメリカで事業で成功を納めているのに、心の中に空いた穴が埋められないまま帰国。

3人がそれぞれに何か人生の忘れ物をしてきたまま老年期にさしかかってしまった今、翔吾を通して青春をやり直していく姿はどの年代の人にも刺さるんじゃないかな。

佳菜子も原作ではかなり複雑な半生を抱えているのですが、映画では広岡の姪として登場します。仁一の兄が亡くなったことでずっと介護してくれていた姪に初めて会う訳です。40年という時間の長さと自分や日本という国も年老いてきたことを仁一に突きつけるという、かなり踏み込んだ出会いになるように変えられています。

また翔吾は原作ではボクシングジムを営む父親がいるのですが、映画では母子家庭に変更されています。

それぞれにトラウマや心の傷を抱えて生きている人々が仲間とともに新しく歩み始める姿、死期を目前にした男が想いを全て託していく姿は原作でも心を掴まれますが、やはり映像のパンチ力はすごいですね。

原作には上下2巻に男たちの人生と熱い想いがぎっしりと詰まっています。4人の40年間を詳しく知りたい方はぜひ原作を読んでみてください!

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