原作小説『線は、僕を描く』あらすじ

喪失感から抜け出せず何をする気力もない1人の青年が、偶然出向いたバイト先で「水墨画」と運命の出会いを果たします。

両親と死に別れ喪失感真っただ中の青山霜介の止まってしまった時間が、命と向き合い命を描くことで再び動き始めます。

水墨画家でもある原作者の砥上裕將さんが「日本水墨画に対する願い」を込めて綴った芸術小説であり、1人の青年の心の恢復と成長を描いた青春小説。

第59回メフィスト賞を受賞して作家デビューするきっかけとなった作品です。

この物語に触れたら「水墨画」を鑑賞したくなりますよ。砥上裕將さんが描く水墨画の一例は↓こちら。

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小説のあらすじは?

大学生の青山霜介(そうすけ)が親友の古前(こまえ)に頼まれて出向いたバイトは、展覧会の飾りつけと聞かされていたのに、行ってみるとなかなかの肉体労働だった。

最初8人いたバイト要員は一人また一人と抜けて帰っていき、ついには霜介一人になってしまった。古前に電話をかけ追加動員をお願いして、なんとか設営は完成した。

霜介はお弁当をもらって帰ろうと思ったが控室の場所がわからない。途方に暮れていると一人の老人に声をかけられた。

老人は霜介を伴って控室に行くと、お弁当を二つ取り出して「食べよう」と言った。明らかに来賓者用の豪華なステーキ弁当を、霜介は老人といっしょに平らげた。

会場に戻ると霜介たちがセッティングしたパネルに掛け軸がかけられ、作品の展示が始まっていた。水墨画だった。

老人は霜介に絵の感想を尋ねながら会場を回っていった。最後の一枚は大きな薔薇の絵だった。

墨の黒一色で描かれているにも関わらず、深い赤を感じさせる見事な絵。

そこへ「おじいちゃん」と美しい女性が声をかけてきた。薔薇の絵を描いたのは老人の孫であるこの女性。

老人がいきなり「この若者を私の弟子にしようと思う」と口にし、女性は怒りだした。老人は芸術に疎い霜介でもその名を知る水墨画の大家・篠田湖山(こざん)だった。孫娘は篠田千瑛(ちあき)といった。

1年後の「湖山賞」をかけて霜介と千瑛は戦うことになった。

それから霜介は湖山先生の自宅を訪ねて絵の手ほどきを受けることになった。会場設営のバイトのときに世話をしてくれた西濱さんは、湖山先生の一番弟子で雅号を西濱湖峰(こほう)というすごい先生だった。

湖山先生の自宅兼アトリエでは千瑛が練習していることもあったし、斉藤湖栖(こせい)という最年少で「湖山賞」を受賞した若い先生もいた。

墨のすり方や線のひき方、基本の描き方を湖山先生独自のやり方で手ほどきを受けていくうちに霜介は水墨画の魅力にはまっていった。

霜介は17歳のときに両親を事故で亡くしていた。叔父に引き取られて生活はなんとか回っているように見えていたが、両親の死について考えない日はなく、自分の悲しみの大きさも理解できないまま、どんどんボロボロになっていった。

食べる気力も動く気力もなく、毎日実家に戻っては記憶の中の景色だけを見つめて過ごしていた。

高校卒業後はエスカレーター式に進学できる私立大学に入学し、ひとり暮らしを始めた。やりたいことがあった訳でも学びたいことがあった訳でもなかった。

たまたま同じゼミになって仲良くなった古前から頼まれたバイトで、まさか人生を変えてしまうほどのめり込むものに出会えるなんて、思ってもみなかった。

基本の技法が全て入っているという「春蘭」を、家に帰っても霜介はひたすら画仙紙に描き続けた。

千瑛との合コンをセッティングしてほしいと古前に頼まれたが絶対無理と断ると、同じゼミの川岸さんが千瑛の作品展を開催して親睦会を開けばいいと秘策を打ち出した。

千瑛は了承するどころか揮毫会を開きたいと言った。せっかくだから若い人たちにも水墨画に興味を持ってもらいたいと言うのだった。

篠山湖山の美しい孫娘というだけで宣伝効果は抜群。川岸さんが「私もやりたい」と言い出して水墨画サークルまで立ち上げることになってしまった。

西濱さんに連れられて藤堂翠山(すいざん)先生の自宅に訪問すると、翠山先生は霜介の目の前で「崖蘭」の絵を描いて見せてくれた。筆の角度や線の書き方、体の使い方、出来上がった絵の印象も湖山先生のものとは全く違っていたけれど、心が大きく揺さぶられる作品だった。

画賛と落款まで入った正真正銘の翠山先生の絵を、霜介はもらって帰った。

アトリエに帰ると、湖山先生、千瑛、斉藤さんがいた。千瑛と斉藤さんが描いたボタンの花を見て湖山先生が何やら難しい顔をしている。湖山先生は西濱さんにも描くように声をかけた。

西濱さんのボタンは写実的ではなかったけれど、そこには「命」が宿っていた。湖山先生は「心の内側を見ろ」と言っているようだった。

夏休みに入ると、霜介はどこへも行かずに誰とも会わずに、一日中自分の部屋でひたすら春蘭を描き続けていた。

古前と川岸さんが、千瑛とイケメンがデートしていて別れ話をしているのを目撃したと言い出し、なぜかその現場に霜介を連れて行くと言い出した。

霜介が連れて行かれたのは植物園だった。

そこで霜介は初めて本物の春蘭を見た。薔薇の咲き乱れるエリアにたどり着くと、そこに千瑛と斉藤さんが現れた。

斉藤さんは自分に足りないものを見つけるために会派を離れて世界を見る旅に出ると言った。技術だけではない、絵の本質を見つけるために…。

久しぶりに湖山先生の自宅に行った霜介は「君の先生だ」と言って、1本の菊を手渡された。

たった一輪の花なのに、霜介にはどこからどのように手を付ければいいのか全くわからなかった。

大学の学園祭で水墨画サークルの作品展示を湖山先生も見に来た。湖山先生と懇意にしているという大学の理事長は、湖山先生にその場での揮毫を打診し、湖山先生は快諾した。

湖山先生が描いたのは葡萄。大きな葉、いくつもの実、それらが蔓によって結ばれることによって命が吹き込まれていく。霜介は感じた。水墨画とは命を描くことなのだと。

学園祭が終わると、霜介も千晶も「湖山賞」の選考会に出す作品にとりかかった。

相変わらず霜介は、白い菊の花を前に思い悩んでいる。何本も枯らしては何本も買い込んでをくり返し、ひたすら菊と向き合い続けた。どうかすると筆をもつことなく一日中菊を眺めていることもあった。

湖山先生が倒れたと連絡が入り、霜介は病院に駆け付けた。

菊を描きあぐねている霜介に、湖山先生は「命を見なさい」と言った。そして「君の中にはよく命が写るだろう?」とも言った。

初めて会った時から湖山先生は、家族を失い夢を失い生きる意味を見出せなかったかつての自分と同じ姿を霜介の中に見ていたのだった。

家まで送ってくれるという千瑛に、ある場所に寄ってほしいと霜介はお願いをした。

そこはかつて霜介と両親が暮らしていた家。「ただいま」と霜介が言うと、「おかえり」と千瑛が言った。

霜介は両親の写真の前に白い菊を供えた。父と母のことを考え続けた日々を一輪の菊の花にしたいと思った。

その年の「湖山賞」は千瑛のボタンの絵に贈られた。霜介は心から拍手を送った。

「青山霜介君」と呼ばれ、我に返る。霜介には審査員特別賞「翠山賞」が授与された。

霜介は自分が満たされていることを感じた。誰かの幸福や思いが自分の中に映りこむことがこんなにも幸福なのだと気づいた。

たくさんの人が描き紡ぎ合ってきた線の中に霜介はたたずんでいた。

小説の感想

両親を不慮の事故で亡くし喪失感の中に生きる青年が、水墨画と出会い、命と向き合い、命を描くことで自分を取り戻していく再生の物語です。

作者の砥上裕將さんが水墨画家なので、湖山先生の言葉や想い、霜介の感じ方戸惑い方、霜介をとりまく絵師たちの葛藤などに説得力があり、言葉に力があります。

芸術を言葉で表すのは難しいと思うんだけど、こんなにも水墨画に引き込まれていくのが不思議で本当に心地よく感じました。

湖山先生始め周りの絵師の先生たちも、頑固だったり偉そうだったり偏屈だったりせず、みんな水墨画と真摯に向き合い悩み尊敬し合ってる姿も温かくて。

凍えて固まってしまった心を解きほぐす、優しい優しい物語でした。

絵というものは物事を正確に写実的に表す手段ではなく、命や想いを込める作業なんですね。

絵を描く人はまるで絵で会話ができるように、言葉より巧みに心を絵に託すことができます。絵を見ると何を伝えたいのかがわかってしまう…、線1本で描いた人の性格や心情までわかってしまう…どんな言葉より雄弁です。

ただの白黒のモノトーンの世界が、こんなにも奥深く感慨深くおしゃべりだなんて。

小説の中に描かれていること以上の知識は全くないけれど、水墨画というものに興味をもって実物を鑑賞したくなること間違いなしですよ。

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