湊かなえの衝撃作『母性』あらすじとネタバレからの考察

女性は母から母から生まれ”娘”となり、子どもを生むことで”母”になります。本当にそうなのでしょうか…。

当たり前のように思っていることが根底から揺らいでくる物語です。

”母性”というものは女性に生まれつき備わっているものなのか、それとも育まれるものなのか…。娘として母の愛を一身に受けて育った女性は、自分が産んだ娘に同じだけの愛情を注ぐことができるのか。

湊かなえさんが「これを書き上げたら、作家を辞めてもいい」という覚悟で発表した渾身の一作です。

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小説のあらすじは?

湊かなえさんの物語の特徴でもありますが、語り手が何人もいて名前も姿も現さないため、かなり後半になるまで翻弄されます。

同じ出来事の当事者でも受け取り方や感じ方がまるで違う…当たり前のようなことですが、それこそがこの物語の肝となります。

ここでは起こった出来事だけを時系列順に並べていきます。

ルミ子が絵画教室で知り合った田所哲史(さとし)と結婚したのは24歳のときのことでした。

ルミ子は哲史の絵が好きではありませんでしたが、母は哲史の絵をとても気に入ったようだったので、哲史の絵を譲ってもらえないかとお願いしたのがきっかけでした。

全くタイプではなかったので交際する気もありませんでしたが、母は初めてのデートでプレゼントとしてもらった『リルケ詩集』と哲史の描いた絵を絶賛しており「あの人をあなたが幸せにできないはずがない」という言葉でルミ子の背中を押しました。

結婚したルミ子は、哲史の両親が用意してくれた高台の家の庭に季節の花を植え、家族が互いに愛し愛されて暮らす「美しい家」を作りあげることに夢中になりました。

結婚してからもルミ子は毎日のように実家を訪れ、料理や裁縫、編み物、着付けなど様々なことを母から教わり、結婚前よりも濃密な母娘の時間を大切にしていました。

娘の清佳(さやか)という名前は哲史の両親が付けました。ルミ子はアルバムをきちんと整理して、娘のためにたくさんの洋服を縫い、他人を思いやる気持ちを教えていきました。

哲史が夜勤で不在になる日には、必ず母が泊まりに来てくれました。

清佳が小学校にあがる前の年の10月24日。その日は台風の影響で朝から雨が降っていました。夕方になると風も強くなってきていました。

ルミ子と母は別の部屋で寝ていましたが、清佳は「おばあちゃんとねたらあったかい」と言って母の布団に潜り込んでいました。

ルミ子が夜中に目を覚ますと雨脚は弱まっているようでした。突然ゴーっという音が地面を突き上げたかと思うと、メリッときしむ音がして家全体が大きく揺れました。裏山が崩れ、土砂が我が家を襲ってきていました。

電気が点かないのでろうそくに火を灯し、ルミ子は母の寝ていた部屋へと急ぎました。開かない襖を蹴破り部屋に入ると、タンスの下敷きになっている母の姿が見えました。

ルミ子は何とか母を助けようと思いましたがタンスはびくともしません。自分はいいから清佳を助けろと言う母を見捨てることなどできるはずもなく、誰かに助けを求めようと居間に戻りました。

すると居間はすでに火の海と化していました。間に合わないと思ったルミ子は大急ぎで母を助けに向かいました。

「母親なら子どもを助けなさい」という母の言葉も聞かず、ルミ子は必死で母を助けようとしました。

「あなたの愛を今度はあの子に、愛能(あた)う限り、大切に育ててあげて」それが母の最期の言葉でした。ルミ子と清佳は助け出され、母は亡くなりました。

焼け出された3人は、哲史の実家で暮らすことになりました。義母はルミ子にはことさらきつく当たり、食事、洗濯、お風呂…日常生活の全てにおいて文句を言いました。

ルミ子は家事だけでなく農作業にも手を抜くことなく働き、熱があっても休ませてはもらえませんでした。

田所の家に越してきて3年余たったころ、哲史の妹の律子が帰ってくることになり、家族3人は隣に建てられた離れで生活することになりました。と言っても、食事は母屋で全員そろって食べていたし、家事全般は相変わらずルミ子の仕事でした。

律子は最初こそ働いていましたが、ひと月もしない間に仕事を辞め、一日中手芸などをして過ごすようになりました。律子が出かけるようになると、友達でもできたかと思って喜んでいましたが、ルミ子は律子が軽薄そうな男と会っていてところを目撃してしまいました。

義母には黙っていましたが、それ以来何度も家の近くのあぜ道に車を停めて会っているところを目撃しました。

ある日、律子がルミ子のところにやってきて「100万円貸してほしい」と言いました。結婚したい男性がいるけれど、彼の父親に借金があってそれを返済するまでは結婚できないと言われたのだそうです。

その夜、律子が男と一緒に車にいたのを捕まえ、母屋で話し合いが行われることになりました。男は黒岩克利といいました。田所の家族は、黒岩の話は二転三転し全く信用できないと”誓約書”まで書かせて追い返し、律子には見張りを付けて軟禁状態にしました。

絶好の稲刈り日和の日曜日、清佳に律子の見張りを頼んで、大人は全員稲刈り作業に出かけていました。帰るとそこに律子の姿はありませんでした。清佳が言うには「絶対に出て行かない」と約束しておつかいを頼まれたのに、帰ったらいなかったということでした。

哲史がふさぎ込む義母を見かねて、大阪に律子探しに連れて行きました。そこで律子は黒岩と一緒にタコ焼きを売っていたのだそうです。

あの台風の日から6年後の37歳の秋、ルミ子は妊娠に気付きました。「いい歳して」と、義母はもちろんいい顔はしませんでした。

そのころ哲史のもう一人の妹の憲子が4歳になる息子の英紀(ひでき)を毎日のように連れてきていました。英紀は行動が乱暴で奇声を発することも度々あり、嫁ぎ先の森崎家の人々は完全に英紀を持て余していました。

ルミ子が相手をしてあげると英紀は次第に落ち着いくるので、義母や憲子は、英紀の世話をルミ子に押し付け、ルミ子は片時も休息を取ることができなくなりました。

夕食後は英紀と手を繋いで散歩することがルミ子の日課となっていました。軽い出血があり医者から絶対安静を渡され寝ていた時も、憲子が泣き叫ぶ英紀を散歩に連れて行ってほしいと離れに連れてきました。

ルミ子が仕方なく英紀を散歩に連れ出すと「ぼくのこと好き?」といつもの質問を投げかけてきました。「1番目に好き」と言うと満足するはずが、英紀は「本当は赤ちゃんが1番なんでしょ」と顔を曇らせました。

ルミ子はごまかさずに「今は赤ちゃんが1番大切」と答えると、英紀はルミ子を突き飛ばし、走って行ってしまいました。

尻もちをついた瞬間ルミ子は下腹部に激痛が走り、目が覚めると病院のベッドの上でした。お腹の中の赤ちゃんはいなくなっていました。

ルミ子が英紀に突き飛ばされたとき、救急車を呼んでくれたのは、近所の中峰敏子さんでした。ルミ子を何度か見舞いに来てくれるうちに親しくなり、敏子さんは自宅で開いている手芸教室にルミ子を誘いました。

週に1度、2時間の手芸教室は、ルミ子にとって夢のような時間でした。作品が上手に出来上がるとみんなが褒めてくれるし、何よりよその家庭でも嫁は冷たくあしらわれていることがわかり、愚痴を吐き出し励まし合える空間はとてもありがたいものでした。

1年ほどたった頃、敏子さんからお姉さんの彰子さんを紹介されました。彰子さんは名前からその人がどんな人なのかわかると言うので、清佳を見てもらうと「燃えたぎる炎のような人」と言われました。

清佳とうまくいっていないことや、過去の不幸な体験に清佳が関わっていることを言い当てられると、ルミ子はそれ以来彰子さんの力を信じてどんどんハマっていきました。

彰子さんは「悪いオルグを改善する」と言って、えらい先生が調合したという粉薬を差し出しました。1包1000円、1か月で3万円は正直きつかったけれどニキビの薬だと偽って清佳に飲ませ続けました。

ようやく彰子さんの先生に会わせてもらえるところまでこぎつけたのに、清佳に中峰さんから買った薬を飲ませていたことが義母にばれ、今後一切、中峰さんとは関わらないように約束させられてしまいました。

清佳が彼氏の亨の家の近くでバスを待っていると、反対車線に停まったバスから哲史が降りてきました。なぜこんなところに?不穏な空気を感じ、清佳は哲史のあとをつけていきました。

すると今は友人の仁美に貸しているルミ子の実家に入っていきました。こっそりついて入って様子をうかがってみると、哲史と仁美は不倫関係であることが見て取れました。

清佳は「どういうこと?」と詰め寄りました。仁美は「あなたとお母さんを見ていられないから、哲史は家に帰りたくない」と言い、さらにもっと衝撃的な事実を口にしました。

その夜、清佳は「ママ。赦してください」とメモを残して、庭の桜の木にロープをかけ首を吊ろうとしました。幸い義母が気付いて清佳は一命をとりとめました。

哲史は、清佳が運び込まれた病院に1度顔を出すと、その後仁美とともに消息不明になってしまいまいしたが、15年経ってふらりと帰ってきました。

哲史はルミ子にも清佳にも謝って、それを受け入れたルミ子は現在田んぼをつぶして作ったビニルハウスで哲史とともにカーネーションの栽培をしています。

清佳は哲史が戻ってきた翌年、亨と結婚しました。清佳のお腹の中には今新しい命が宿っています。

それぞれの真実と母性

ここから先は大いにネタバレを含みます。同じ出来事が、心の奥底に持っているものでこんなにも受け取り方が違うものなのか…。かなり衝撃的です。

衝撃の真実とは?
ルミ子の母は、土砂崩れでタンスの下敷きになったとき、圧死したのでも火事で焼死したのでもありませんでした。

ルミ子が娘の清佳ではなく母親の自分を助けようとするのを見て、舌を噛み切って自らの命を絶ったのでした。

ルミ子はそのことは自分しか知らないと思っていましたが、ちょうどその時自宅に戻ってきた哲史が、半狂乱になったルミ子とタンスの下敷きになっている清佳を助け出したのでした。

哲史が帰ってきたとき自宅からは火の手が上がっていました。玄関に入って最初にしたことは、玄関に飾っていた自分が描いたバラの絵を安全な場所に運ぶことでした。

絵なんか放っておけば、3人とも助けることができたのに…。哲史は罪悪感から、ルミ子や清佳の目を見ることができなくなっていきました。

話したのは仁美だけれど、ついには清佳に事実を告げて自殺に追い込んでしまい、苦しくて家にいられなくなって失踪したのでした。

ルミ子の真実
ルミ子には”母性”というものがありませんでした。ずっとずっと母の愛情を受け続けることだけを求めて、自分が愛情を注ぐなんてことはできなかったのです。

それでも母が死ぬ前は、清佳には母親としてできる限りの精一杯をしてあげていましたが、それは”母性”からではなく、母に褒められたいがためのことでした。

火事の原因になったろうそくを点けたのがルミ子だったことも手伝ってか、母が清佳の命を優先させたとき、ルミ子は崩壊してしまいました。

心の底では自分から一番大切なものを奪った憎しみの対象でしかないと思っている清佳を、ルミ子は夜ふとんの中で殴ったり、話しかけてくると追い払ったりしていました。

清佳が祖母が亡くなった本当の理由を知り、ルミ子に詰め寄ったときには、ゆっくりと手を伸ばし清佳の首を締めあげたのでした。

義母からはいびり倒されながらも、護られ褒められることだけを夢見て尽くす…どこまでも娘としてしか生きられないのでした。

清佳の真実
清佳もまた娘として母から護られ愛されることだけを望んでいました。

母をこき使いいじめる義母や伯母たちにも一人で立ち向かいますが、完全に逆効果。母からは空気の読めない暴力的な子として遠ざけられてしまいます。

実は、冒頭に出てくる新聞記事は全く関係のない他人の出来事です。「愛能う限り…」という言葉にひっかかった高校教師は清佳です。

清佳の行きつけのたこ焼き屋さんのりっちゃんやバイトのヒデ、田所家のメンバーも健在で、それなりにうまくいっていることがうかがえます。

精神的に大きなショックを受けた時、人はそれを受け止めることができなくて、記憶をどこかに閉じこめてしまうものなのでしょうか。

ルミ子の口からは、娘を愛し大切に育てたことしか語られませんが、実際には殺したいほど憎んでいました。記憶を書き換えてしまうほどに…。

母からの「愛能う限り、大切に育てて」という最期の言葉は、ルミ子にとっては呪いの言葉だったのだと思います。

母の言うことを聞かなければいけないという気持ちと、最愛の母を亡くした原因となった娘を憎む気持ち。まるで真逆の感情が小さな心の中に同時に存在するなんてことできるはずがありません。そりゃ精神も崩壊するでしょう。

唯一の救いは、現在の田所家がいい距離を保って平穏に続いていることです。母の苦しみを知った清佳が大人になって、一歩ひいて受け止められるようになったということなのでしょうか。

小さな命を授かった清佳は、母親の”母性”というものを感じずに育ってしまったけれど、遠い昔祖母から与えられた「無償の愛」の記憶があります。絵に描いた”美しい家庭”ではなく、本当の家族を作ることができますように。

小説を読んだ感想

愛能う限り、大切に育てた娘

文学的にはとてもきれいな表現だけど、大仰すぎて取って付けたような白々しさを感じずにはいられません…。

読み始めた時から背中のゾクゾクが止まりませんでした。この怖さ何と説明すればいいのか…。

母親のことを慕う気持ちが誰にでもあって当然だと思いますが、その気持ちが世の中の何よりも優先されて、我が子を思う気持ちよりも強いなんて、そんなことって実際にあることなのでしょうか。

土砂崩れのせいでタンスの下敷きになった母親を助けるとき「私はお母さんを助けたいの」まではいいとして、その後の「子どもなんてまた産めるじゃない」という一言。MAXで背筋がぞーっとしました。

娘として母に愛され続けることを望み、母性のかけらも持ち得なかったルミ子。そしてそんな母親に必死で好かれようと母性を求め続けた清佳。2人の気持ちはこんなにもすれ違うなのか…。ルミ子にほんの少しでも”母性”があれば…。

母と娘のどちらか一方の手を離さなければならないとなったら、私は娘を選びます。もちろん迷うけど…、その選択を唯一理解してくれるのも母だと信じられるからです。

”母性”のない人間、”母性”を求める人間、さらには田所の母のように歪んだ”母性”を振りかざす人間。様々な”母性”によって振り回される物語は、どんなミステリーよりも背筋が寒くなりました。

こればっかりは読まないと感じられないと思います。あらためて湊かなえさんのすごさが感じられた作品でした。

それにしても、これ、どんな映画になるんだろう…。怖い…。

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