映画『夜明けのすべて』原作小説のあらすじとネタバレ

月に一度PMSの症状を爆発させながら、職場の温かい人たちに囲まれなんとか仕事を続けている藤沢美紗。

入社してきた山添孝俊はやる気が全くないように見えるが、実はパニック障害を抱えていた。

自分の病気への対処方法は試行錯誤から抜け出せず全く解決しないのに、なんだか相手の助けにはなれるような気がする。

パニック障害の不安な日々を味わった経験を持つ瀬尾まいこさんが、明日を待ち遠しいと感じられる夜明けの光が差し込むような日常を描きました。

恋愛でもなく友情でもなく、ただ寄り添い合う2人が紡ぐ、ただただ温かで優しい物語です。

【主なキャスト(敬称略)】
松村北斗:山添孝俊
上白石萌音:藤沢美紗
石光研:栗田社長
渋川清彦:辻本課長

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小説『夜明けのすべて』のあらすじ

藤沢美紗、28歳。大手の化学製品会社から転職して3年。

栗田金属は栗田社長平西鈴木という60歳前後のベテラン勢と住川さんという世話好きなおばさん、先月入社したばかりの若者・山添と美紗の6人だけの小さな会社だ。

美紗にはどうしても山添がやる気があるように見えない。出勤時間は誰よりも遅く、退社時間は誰よりも早い。ガムや飴を口に入れて仕事をしていることも多いし動きも緩慢だ。

山添が炭酸飲料のペットボトルを開けるシュパッという音が耳についた瞬間、美紗の心は一気にざわつき、山添に対する暴言が止まらなくなった。

意地悪なことを言っているのは心ではわかっているのに。自分でも止めたいと思っているのに止まらない。

美紗は何年もPMS(月経前症候群)に悩まされていた。精神的な不安定や頭痛、めまい、無気力といった様々な症状が現れるらしいが、美紗の場合、生理の日やその直前にいら立ちがつのり、怒りを爆発させるのを自分でも止められない。

もちろん病院にも通い、いいと言われていることを全部試してきた。学生時代には人と会わなければなんとかなっていたが、社会に出て予測できないPMSの症状に会社を辞めることになってしまった。

2年間はバイトでつないだが、いつまでもこのままじゃいけないと思い、栗田金属の社長にはPMSのことを正直に話して採用してもらえることになった。

月に一度ブチ切れる以外は皆に気を遣って穏やかに仕事をしてくれる美紗を、周りの人達は温かく見守ってくれる優しい職場だった。

美紗がトイレ掃除をしていると、薬が落ちていることに気付いた。

事務所に戻ると山添がものすごい汗を噴き出しながら青白い顔をして、鞄の中身を机にぶちまけて何かを探していた。

薬だと気づいた美紗は、トイレで拾った「ソラナックス」と水を山添に渡した。「ソラナックス」は美紗も飲んだことがある薬だった。

山添孝俊、25歳。順風満帆の人生を歩いてきたはずなのに、2年前突然パニック障害を発症した。

電車にも乗れなくなり、薬を飲んでも動くことさえもままならないことが続き、山添は大好きだった大手のコンサルティング会社を辞めることになった。当時付き合っていた彼女とも別れてしまった。

薬を大量に飲んでいて、最近はあまり発作が起きなかったのに。

一人で帰れると言ったけれど、何かあるといけないからと美紗は山添をアパートまで送っていった。

美紗は山添のパニック障害に気付いたみたいで、自分はPMSだと言い「お互い無理せずがんばろう」と言って帰っていった。

山添は決してやる気がないのではなく、パニック障害のせいで気分を落ち着かせる必要があったのだ。炭酸飲料を飲むことにブチ切れてしまったことが申し訳なくて、美紗は休みの日に山添のアパートを訪ねた。

驚く山添に、美紗は「散髪をする」と言った。じっと座って相手に作業される美容院と歯医者はパニック障害の人には最難関だという記事を読み、山添の髪を散髪しようと思い立ったのだ。

人の髪を切るのは想像していたより難しく、山添はとんでもない髪型になった。その姿を鏡で見て、山添は2年ぶりにお腹を抱えて笑い転げた。

美紗が突然山添にブチ切れてから約1か月後、そろそろPMSの症状が来そうな気がして、山添は美紗を観察していた。

美紗の変化をいち早くキャッチした山添は、美紗を会社の外に連れ出し空き地の雑草を抜くように言ってやり過ごした。

年末年始の休みは長い。当然どこにも出かける予定もない。翌日からの出勤が億劫にならないように山添が近所の神社にお参りして帰ってくると、ポストには封筒と紙袋が入っていた。中から出てきたのは、お守りが3つ。

美紗に話すと小原神社のお守りは入れたけど、伊勢神宮と日吉神社のお守りは知らないと言われた。そして「お守りの真相をつかむのを生きがいにしよう」と訳の分からないことを言われた。

そろそろPMSがくるかもと危惧しながら美紗はジムにでかけた。ジムで仲良くなった亜美が30歳の誕生日だと言った。お祝いしたい気持ちがあるのにイライラが止まらなくなり亜美に暴言を吐きまくってしまった。

美紗は落ち込みながら、また雑草でも抜けば気が楽になるのかもしれないと、会社の近くの空き地に行った。

すると山添が現れた。平日仕事があまりできていないし、生活のリズムを整えるために土日のどちらかに倉庫の整理に来ているのだそうだ。

晴れた日の土曜日、山添が会社に行くと美紗が事務所の大片付けをしていた。大きな家具を出すのを手伝わされた。

日曜日、美紗は急に映画が見たくなって『ボヘミアン・ラプソディー』を見た。クイーンのファンだったわけでもないのに感動しまくった美紗は、この感動を誰かに伝えたいと思いつき山添を訪ねた。

山添はクイーンが好きだった。美紗が歌うへたくそな歌に大笑いしながらクイーンの曲にワクワクしたのは久しぶりだった。

栗田社長が事務所を片付けたお礼にくれた5000円で『ボヘミアン・ラプソディー』のサントラ盤を買ってきて2人で鑑賞会をした。

山添は伊勢神宮のお守りは以前勤めていた会社の辻本課長だと思うと言った。日吉神社のお守りは栗田社長じゃないかということにも気づいていた。

美紗が突然仕事を休んだ。急性虫垂炎で手術することになったということだった。丁度PMSの時期なのに…と山添が気になっていると、会社代表でお見舞いに行ってほしいと言われた。

何も考えず電車に飛び乗ると案の定気持ち悪くなってきた。1駅で電車から転げ出てどうしようかと考えた結果、レンタサイクルで向かうことにした。

病室では美紗のお母さんに恋人と勘違いされた。

山添は自転車を買って毎日美紗の様子を見に来た。退院の日には同室の方への挨拶まで気にしてくれて先に自転車で荷物まで運んでくれた。

美紗のおかげでクイーンや和菓子、自転車が好きだったことを思い出し、自分も誰かの元に駆け付けることができるとわかった山添は気持ちがよかった。

山添は自分のことは嫌いでも美紗のことを好きになることができると伝えた。

山添は栗田金属がゆったりとした会社というだけでなく優秀な人たちが集まった会社だということに気付き、月に一度か二度専門的な商品を一般の人にもオープンにするという企画を立ち上げた。

いつもの心療内科でも顔色がいいと言われ薬の量が減った。不安はもちろんある。山添は明日は何をしようかと、自転車で風を切った。

『夜明けのすべて』の感想

本当に心の奥底からほっこり温かく、柔らかな朝の陽ざしが差し込んでくるような優しい優しい物語でした。

PMSやパニック障害という名前だけは聞いたことがあっても、実際にどんな症状にどんな風に困っているのははっきりとわからない病気。

抱えている人は自分がそうであることを誰にも言えずに、山添くんのようにひっそりと一人で生きていこうとしている人も多いのかもしれません。

自分が何か困難な状況に陥ったとき、ネットの情報に頼ってしまうのもあるあるです。ネットの情報なんて信用できないと日ごろは思っているのに、藁にも縋る思い…。

山添くんの心療内科の先生が言った「ネットの情報は声が大きい人が言っていることで、山添くんをよく知るそばにいる人の声じゃない」という言葉には、まさに憑き物が落ちたと言うか肩の荷が下りたというか…一筋の光が見えた気がしましたね。

情報社会にもまれている現代の生きづらい人たちにぜひ届けたい一冊です。

『夜明けのすべて』を電子書籍で!

暗闇の中にうっすらと光が差し込むような、温かくて優しい物語です。
2024年2月20日時点の情報となります。 オフィシャルサイトにて必ず最新の情報をご確認ください。

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