満州からもどってきてからというもの、聡子は夫・優作の行動が気になって仕方がありません。そこには見え隠れする女の影が…。
何も話そうとしない優作に、とんでもない手を使って秘密を暴こうとする聡子。しかし、夫が隠していた秘密は日本を揺るがすとんでもないものでした。
聡子はたとえ「スパイの妻」と世間の誹りを受けようとも優作と共に生きる決心をしますが、そこに待ち受けていたのは…。
映画『スパイの妻』は黒澤清監督が濱口氏・野原氏と共に脚本を手掛けた、渾身のオリジナルで作品で、ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門の銀獅子賞(最優秀監督賞)をはじめとする各種映画賞を総なめにした日本映画を代表する作品です。
小説版は、行成薫氏に依頼がありノベライズされることになったもので、映画『スパイの妻』の原作というわけではありません。
【主なキャスト(敬称略)】
蒼井優:福原聡子
高橋一生:福原優作
東出昌大:津森泰治
玄理:草壁弘子
映画『スパイの妻』のあらすじ
神戸で貿易商をしている福原優作。医薬品の商談で甥の竹下文雄を連れて満州に渡りました。
満州から帰ってからの夫の不穏な行動が気になって仕方がない聡子は、優作を問い詰めますが、優作は何も話してくれません。
満州から一緒にひきあげてきた草壁弘子という女性が殺されたと、そして優作が何らかの関わりを持っていたと、幼なじみで憲兵隊長の津森泰治から聞かされ、心がかき乱される聡子。
聡子は文雄を訪ね、優作に渡してほしいと、ノートとそれを英訳した資料を預かります。それが何なのかを聞いても優作は何も教えてくれません。
聡子は金庫の中に、そのノートと一緒にフィルムが保管されているのを見つけて、フィルムに記録されている映像を見て、ある決意をしました。
聡子は、文雄から預かったノートを津森の元へと持っていき、それが証拠となり文雄は逮捕され拷問を受けることになりました。
優作と文雄は、満州で草壁弘子を通じて人体実験という衝撃的な国家機密を知ってしまい、その事実を世界に知らしめるために秘密裏に準備を進めていたのでした。
草壁弘子が亡くなり、文雄が逮捕された今、優作と共に動くのは自分しかいない…。聡子は「スパイの妻」と呼ばれても、優作とともに歩いていく決心をしました。
アメリカへの密航は二手に分かれて行うことになりました。聡子はフィルムを持って、優作は英訳した資料を持って出発します。
不安に押しつぶされそうになりながらも、2週間後にはアメリカで優作に会えると信じて、貨物船の木箱の中に隠れ出航を待っていたそのとき、外が騒がしくなりました。
密告があったと憲兵隊が乗り込んできて、聡子は見つかってしまいました。
「このフィルムを見ればわかります」そう言って流されたフィルムには、優作が自主制作し聡子が主演した短編映画が収録されていました。
優作は自分が憲兵たちを巻いて無事に密航を果たすために、妻を囮に使ったのでした。
全てを知った聡子は心から叫びました…「お見事です」
映画の見どころ
ほんの70~80年前のことなのに、今とは正しさの基準が全く異なり、自分らしく生きるということが難しかった時代。
聡子を突き動かしていたのは、ただただまっすぐに夫へ向けられた「愛」です。夫への愛を全うするために、甥までも捨て駒にしてしまいくらい、嫉妬に狂う心を抑えることができませんでした。
どんなことがあっても夫と生きていくと決めてからの聡子は、それまでのお嬢様然としていた生きていたころとは全く別人のように「強い女」へと変わっていきます。
夫と二人だけの秘密を抱えているという、自分が夫を支えているという特別感が彼女を支え、背中を押していくのでしょう。
一方優作は、愛する妻までを出し抜いて、一人で亡命を果たします。あくまでも自分の正義だけに忠実に、進んでいくように見えて、少し冷たさまで感じてしまいます。でもその冷たさが、妻に対する本当の愛だったのかなとも思います。
本当は妻を巻き込みたくない…。聡子はアメリカという国に興味は無いのに、自分と一緒だからという理由だけで危険な橋を渡ろうとしている…。亡命なんてそんなに簡単なものではないはずです。自分の中の正義という使命感がなければ、成し遂げるのは難しいことだから…、聡子を置いていったのかな。
こんな時代でなかったら、仲睦まじくいつまでも平穏に暮らせたはずなのに。自分らしくあろうとする姿があまりにも切なくて、胸が苦しくなりました。
映画賞を席巻したのも当然の作品!お見事です。本当にその一言に尽きますね。
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