小説『老後の資金がありません』

「老後に必要な資金は2000万」と衝撃の発表があったのは2019年6月のこと。

なんとなく…うすうす気付いてはいたものの、できるだけ考えないように目を背けてきた私たちにとっては、なんだか急に現実をたたきつけられたような…。

単純計算で月5万円の出費が30年続くと1800万円になるのですから、決して脅しでも大げさでもありません。子どもが大学を卒業して就職したらこっちのもの、と思ったら大間違い!

そんな働く主婦、篤子の奮闘記です。

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登場人物

後藤家

後藤篤子

クレジット会社でパートで働くしっかり主婦53歳。子ども2人を私立大学に通わせ、住宅ローンを繰り上げ返済し、老後のための貯金は現在1200万円。

後藤章

建設会社で働く57歳。見栄っ張りで呑気な夫。なんでこんな男と結婚したかなと、篤子は今になって後悔中。

後藤さやか

大学卒業後就職が決まらずアルバイトをしている28歳。要領が悪く仕事はできないけれど、見た目はかわいく家庭的。やっと結婚が決まりました!

後藤勇人

大学4年生。来春には就職し会社の独身寮で生活することが決まっています。

後藤芳子

章の母。夫婦で老舗の和菓子屋「和栗堂」を守ってきたけれど、章が継がないというので浅草の店を畳んで得たお金は2億円。

豪華客船世界一周、美食三昧で、17年たった今ではすっからかん。現在は高級ケアマンションで生活しているものの、生活費は章と妹の志々子から援助してもらっています。

櫻堂志々子

九十九里に住む篤子より年上の、章の妹。夫・秀典はインテリで高給取り。

後藤家を取り巻く人々

松平琢磨

まじめでおとなしい、さやかの婚約者。零細貿易会社勤務で本人は安月給なのに、両親は岐阜でスーパーのチェーン店を経営しており、都内の有名結婚式場での派手婚を望んでいます。

神田サツキ

夫とパン屋を営んでいる篤子の友人。月1回一緒にフラワーアレンジメント教室に通っており、帰りにお茶をして帰るのが目下の唯一の楽しみ。

篤子の奮闘記(あらすじ)

さやかの結婚が決まり、やれやれと思っていたら、さやかから結婚式の費用を援助してほしいと頼まれます。聞くと600万円の半分の300万円。

見栄っ張りの夫は、娘が恥ずかしい思いをしないように出してあげればいいじゃないかと、いたって呑気な反応。

フラワーアレンジメント教室の帰りに、友だちのサツキに話してみると、サツキの息子は本人たちの希望の地味婚で、30万円くらいしか援助しないと言います。

夫の父が危篤だという連絡を受けて、九十九里を訪ねます。義妹・志々子が「お父さんが死んだら、お葬式は費用全部もちで兄さんの方で取り仕切ってほしい」と言います。夫は妹にも見栄を張って「長男なんだから、俺が出すよ。」と安請け合いする始末。

会社では、上司に呼び出されて行ってみると「今月で雇用契約は終了で」と、まさかのクビ宣言。営業所が閉鎖されるための解雇でした。

さやかの結婚式は盛大に執り行われました。お色直しは3回だの、引き出物は高級ブランド品だのと相手先から注文を付けられ、新婚旅行に新居の準備…、結局、娘の結婚に使ったお金は500万円にもなりました。

まもなくして義父が亡くなりました。夫は忙しいと言うので篤子が葬儀屋と話をすることになりました。

老舗の和菓子屋の主だったということで、志々子は参列者は100人は来ると一番大きなホールを押さえているとのこと。棺桶に祭壇、会葬御礼品に花輪etc…全てピンからキリまであって、篤子はどれを選べばいいのかさっぱりわかりません。

結局、葬儀代に200万円かかりましたが、参列者なんてほとんど来ることはありませんでした。おまけに戒名料やお寺へのお布施とお墓でさらに200万円。

1200万円あった老後のためのなけなしの貯金は300万円になってしまいました。

とどめは突然にやってきました。夫の会社が傾き、本社以外の人員は全員解雇。退職金はなし。夫婦そろってまさかのクビ…。

嫁に行ったさやかは、夫からDVを受けているのか…なんだか様子がおかしいし…。

篤子は、さやかがいつ帰ってきてもいいように節約して貯金することに決め、新聞も解約、車も手放し、義母・芳子のための生活援助の9万円も払えないと志々子に伝える決意をしました。

そんな提案、志々子に簡単にわかってもらえるはずもなく、篤子は「うちでお義母さんを引き取ります。うちにはもうお金がないんです!」と言ってしまいました。

義母・芳子は意外にあっさりと了解して、篤子の元へ来ることになりました。夫はいまだにハローワーク通いでしたが、篤子はコンビニで働き始めました。

芳子を引き取って生活をはじめたある日、サツキから電話があります。聞くと「お義母さんを貸してほしい。」と。一緒に住んでいたサツキの姑が1か月ほど前にふら~っと出て行ったまま行方不明になっているのだけれど、役所の職員が生存確認のために家庭訪問に来ると言います。

詐欺の片棒を担ぐようで、絶対に嫌だと思う篤子でしたが、なんと芳子は乗り気。10万円で引き受けます。家庭訪問では、役所の職員はベッドで寝ている芳子の顔だけ見てさっさと帰っていきました。

それから数日後、サツキがまた「お義母さんを貸してほしい。」と言ってきます。今度は従姉の姑の代わりだと。50万円で引き受けることにしましたが、訪ねて行ったサツキの従姉の家があまりにも汚くてベッドもカビ臭く、芳子は「こんな人たちは信用できない。やめた!」と言って帰っていきました。

もうこんな危ない綱渡りはやめようと思っていたら、今度はサツキから「おじいさんを貸してくれる人いませんか。」とお願いされてしまします。それを芳子に伝えると、驚くことに「おじいさんの替え玉、私がやるわ。」と謎の意気込みを見せました。

芳子がニット帽をかぶって、おじいさんのふりをしてベッドに潜っていると、役所の職員の人がいろんなことを尋ねてきます。認知症のふりをして返事をしないでいたら、介護認定は?かかりつけの病院は?といろいろお嫁さんに尋ねてきて、最後にかつては県議会議員だった話をして帰っていきました。

うかつにも県議会議員だった話をしてしまうなんて…。ネットに写真が上がっているので、替え玉だということが簡単にばれてしまいます。芳子と篤子は「謝礼なんていらない。」と大急ぎで帰りました。「もうやめましょう」芳子は言いました。

さやかが訪ねてきて「子どもができた」と告げます。そして琢磨がとろくて自分がひっぱたいたりしていたことも…。芳子から「ダンナ様にはやさしく」と言われたさやかは「わかってる。反省してる。」と。要領が悪くおっとりしていたさやかが、なかなかたくましく成長していました。

行方不明だったサツキの姑は無事に見つかりましたが、誤嚥性肺炎をこじらせて、あっけなく亡くなってしましました。サツキ夫婦はパン屋を畳んで奄美に帰ることにしました。

志々子は、芳子が篤子となんとなくうまくやっていることに嫉妬したのか「お母さんを引き取りたい」と言ってきました。芳子は志々子の元へ引っ越していきました。

そして夫は、退職後会社を興して成功しているかつての同期・天馬に電話をかけて、天馬の会社での再就職が決まりました。

小説の感想

他人事だと思うと単純におもしろい物語でした!これがわが身に起こったら…と考えたら、怖ろしいことこの上ないけど…。

子どもが大学を卒業して、やれやれ私たちの仕事は終わり、と思ったら大間違い!子どもの結婚に、老親の介護や葬式、ここには出てきていないけど、おそらく孫ができたらできたでまた出費がかさむのでしょう。

自分たちの老後くらいは、子どもたちに迷惑をかけないようにしたいと思いながら、そんなことは可能なんだろうか…にわかに不安になってしまいました。

面白おかしく読んで、最後はやっぱり人と人とのつながりが一番大事よねと、温かい気持ちで終わることができたんだけど…

この問題って結構ガチやん…。

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