直木賞受賞作『ホテルローヤル』繊細な人間模様のあらすじは?

直木賞受賞作『ホテルローヤル』、超話題作として累計発行部数は100万部を超えるのだとか。

桜木紫乃さんの実家は「ホテルローヤル」というラブホテルで、実際にホテルの手伝いをしたこともあるという、桜木さんの自伝的な作品です。

釧路湿原を見下ろせるロケーションで、廃墟と化した『ホテルローヤル』の一室から始まり、ホテル創設の話に至るまで、7つの物語が、時間を逆走して描かれていきます。

ホテルの一室で、さまざまな人が仮面と心の鎧をを脱ぎ棄て、本能や感情をあらわにします。「ホテルローヤル」を作った父親・田中大吉にも娘の雅代にも物語がありました。

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時間を逆行するあらすじ

シャッターチャンス

地元の高校を3年連続で全国優勝に導き「氷神」と呼ばれた男・木内貴史は、地元の会社のアイスホッケー選手でした。28歳のとき、右膝靱帯を損傷して、ホッケー選手生命が絶たれてしまいます。

地元のスーパーに就職し、そこで再会した中学時代の同級生・加賀谷美幸と付き合い始めます。

貴史が見つけた新しい目標は、ヌード写真の写真家として成功すること。雑誌に投稿するから、ヌードを撮らせてほしいと美幸に頼み込み、やってきたのは廃墟と化した「ホテルローヤル」でした。

本日開店

観楽寺の2代目住職・西教のもとに嫁いだ設楽幹子。幹子には寺を守る大事な仕事がありました。檀家の男性たちに体を売ることです。

先代が亡くなり、新しく檀家総代となった息子の佐野敏夫と会うことになりました。お布施という名目でもらうお金は一律3万円で、お寺に戻るとご本尊さまのかかとのあたりに置いておくことになっていました。

青山文治という檀家の一人に会うことになっている日、青山は「ホテルローヤル」の社長の遺骨を持ってきました。最期の言葉が「本日開店」だったという田中大吉の遺骨はみんなに引き取りを断られ、不憫に思った青山が持って帰ることになりました。

家に持って帰る訳にもいかないので、寺で預かってほしいと言います。大吉の遺骨は、観楽寺の骨堂に置かれることになりました。

えっち屋

「ホテルローヤル」の経営を引き継いだ娘・田中雅代。母は高校の卒業式の翌日に若い男と町を出ていき、父は肺を患い入院中。就職試験に全部落ちて、仕方なく稼業を継いで早10年経っていました。

ホテルの一室で心中事件があってからというもの、客足がすっかり遠のいてしまい、1日に来る客はたったの1組。雅代は30年の「ホテルローヤル」の営業に終止符を打つことにしました。

部屋で販売しているアダルトグッズを、製造販売業者の営業マン・宮川、通称”えっち屋”が引き取りに来ました。雅代は、心中のあった部屋で最後にアダルトグッズで一緒に遊ぼうと、宮川を誘いました。ベッドの上で抱き合いましたが、2人には勢いだけでは越えられないものがありました。

バブルバス

本間真一と恵夫妻は、お墓で姑の新盆の読経をしてもらうために観楽寺の住職の到着を待っていましたが、約束の時間を30分過ぎても現れません。お寺に電話をすると、どうやらダブルブッキングだったようで、今日は来られそうにないとのこと。

真一と恵は、次の読経はお彼岸のときでいいと伝えて、渡さずに済んだお布施の5000円を「ホテルローヤル」の一室に使うことにしました。5000円あれば外食できるし、1か月分の電機代にもなるし、今の本間家にとっては貴重なお金でしたが、恵はどうしても「声が出せるところでやりたい」と慎一に懇願したのでした。

姑亡き後、舅が同居したいと言い出して、狭い賃貸アパートの一室を渡すことになり、ふだん夫妻は子どもの2段ベッドの下に布団を敷いて寝ていたのでした。

秋になり、舅は急に体の調子を崩し、家のトイレで倒れてから3日で亡くなりました。葬儀のあとどういう訳か不登校だった娘が毎日学校に行くようになり、恵はパートを始めました。家計に5000円の余裕ができたら、またお父さんをホテルに誘おうと思って。

せんせぇ

単身赴任をしている高校教師・野島広之は、3連休で妻に知らせることなく札幌の自宅に帰ることにしました。前任校の校長から紹介されて結婚した妻の里沙は、あろうことかその校長の愛人。校長がかつて18歳の里沙を担任していた時から20年にわたり男女の関係を続けていると知ったのは1年前のことです。

電車に乗ろうとする野島に「せんせぇ」と話しかけてくる女子高生・佐倉まりあ。母親は昨日、父親の弟と出ていってしまい、頭がおかしくなった父親もいなくなってしまった…今日からホームレス女子高生なのだと言います。この先一人で生きていかなくてはならないので、ススキノでキャバ嬢にでもなろうと思うから職場見学する、と言って一緒に札幌で降りてきました。

野島は自宅マンション前で、タクシーから降りてくる里沙と校長を目撃してしまいます。自宅に帰れなくなった野島は、まりあとともにビジネスホテルに泊まることにしました。

翌日も行く当ても家もない2人は、釧路に行くことにしました。

星を見ていた

山田ミコが「ホテルローヤル」で掃除婦を始めて早5年。ミコも60歳になりました。3人の成人した子どもからはめったに連絡もなく、仕事をしない10歳年下の夫との2人暮らし。ホテルの女将・るり子からのお下がりなどももらいながら、なんとか生活していました。

そんなある日「ホテルローヤル内 山田ミコ様」という次男からの手紙が届き、開けてみると「母さんが好きにつかってください」という手紙と1万円が3枚入っていました。

湿原に初雪が降った日、一緒に働く和歌子が持ってきた新聞を見ると「山田次郎」という名前と「死体遺棄事件、容疑者の身柄確保」の記事がありました。テレビのニュースは、次郎は中学卒業してから極道の道に進み、暴力団の抗争がらみの殺人事件だと伝えています。

和歌子もるり子もやさしくしてくれましたが、ミコはひとりになりたくて、帰り路の途中で林の中に入っていきました。何時間も星を見ていると、夫の正太郎がミコを探しに来ました。ミコは正太郎に負ぶわれて家に帰りました。

ギフト

看板屋を営む田中大吉、42歳。看板屋の経理を手伝う妻と小学校6年生の息子がいます。団子屋で住み込みで働くるり子という21歳の女に惚れてしまい、毎日団子屋に通っていました。

ラブホテルを建てて、ひと山当ててやりたいと考えています。穴だらけのもうけ話に、妻は大反対。るり子だけが大吉の話を聞いてくれます。

るり子から「赤ん坊、できた」と聞いて、大吉はラブホテルの建設を決意します。妻は離婚届を置いて出ていき、大吉は実家に迎えに行きましたが、父親に足蹴にされて追い返されてしましました。

つわりで苦しむるり子にミカンを食べさせたいと、百貨店を回ってやっと見つけた季節外れのミカンは3個で6000円。ミカンから剥がした金色のシールに『ローヤル』の文字。

大吉はるり子に「ラブホテルの女将にならないか。ホテルローヤル。なんか格調高いだろ。」と言いました。

小説を読んだ感想

現在から過去へと時間をさかのぼっていく展開。余韻を楽しむ小説とでもいうのでしょうか。初めての経験でとても新鮮でした。

ただ、その余韻が結構、重くて…陰鬱で…、清々しい読後感とはいかないのですが…。

7つそれぞれのエピソードは、結末まで詳しく書いてないこともあります。だけど、その先の未来から読んでいるので、実はどうなるのか知ってしまっていて、読みながら胸が苦しくなる場面も何度か…。

登場人物はみんな、何かしらの重荷を背負っていて、それでも生活の中に希望を見出したいと思っていて。そんなものを吐き出させてしまうのが「ホテルローヤル」という場所だったのだと思います。

作者の桜木紫乃さんの実家が「ホテルローラル」というラブホテルを経営していたという、実体験に基づく物語です。桜木さんの中に何かモヤモヤしたものが残っていたのだとしたら、この小説で昇華されていればいいなぁと思います。

2回目読むと、あの時のあの人はこんなところで!みたいな発見があってさらにおもしろさが増してきますよ。その辺りの構成は、さすが累計発行部数100万部超え!ぜひ一度読んでみてください!

波瑠さんの主演で実写化されることになった映画は、さすがに原作通りという訳にはいきませんが、「ホテルローヤル」のある一つの部屋と雅代という人物に的を絞って描かれるようですね。

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