『騙し絵の牙』原作のあらすじと結末は?映画とはちがう?

大泉洋を「あてがき」して書かれた物語『騙し絵の牙』。

本の表紙や章の扉に大泉洋の写真が使われているのも手伝って、読んでいるとき、頭の中で主人公の速水は当然、大泉洋になってしまいます(笑)

それでも、主人公の速水は皆から愛され大切にされる「人たらし」なので、大泉さんがしっくりきてしまうので、読んでいて楽しかったですよ。

最後の最後まで、速水は一体どんな牙を隠していたのでしょう?

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映画とは違う登場人物

映画で速水輝(はやみあきら)と名乗っている主人公、小説では速水輝也という名前で登場します。

小説「騙し絵の牙」は映画の”原作”と謳われていますが、いやいや全く別物でしたよ(笑)。

顔が見えない小説と、全てが見えてしまう映画とでは描き方が違うのは当然のこと。それは認識していますが、登場人物からしておもしろいくらいに違ってましたねぇ。

小説『騙し絵の牙』と映画『騙し絵の牙』はパラレルワールド的に考えるのが受け取りやすいのではないかと思います。

原作では、高野恵は速水の「愛人」みたいな存在です。「みたいな」というのは、完全にそうとも言い切れない都合のいい関係でして…。

また、速水の妻と娘も登場して、家族とのしがらみがもう一つの物語になっています。速水の生い立ちも詳しく描かれます。映画には全く出てこないけど。

小説は小説、映画は映画と割り切って両方楽しむのがベスト!どちらも最高におもしろいですよ!

小説のあらすじ

新聞記者から転身した速水輝也は薫風社が出版している雑誌「トリニティ」の編集長。

スマホの浸透、若者の活字離れが言われて久しく、電子書籍の興隆により出版社業界において紙の本は岐路に立たされています。

雑誌「トリニティ」も例外ではなく、相沢徳郎編集局長から廃刊の危機に瀕しており、半年が勝負だと告げられます。

速水は「トリニティ」を何とか存続させるべく、魅力のあるコンテンツを生み出すために東奔西走します。

化粧品会社とのタイアップ連載小説、人気女優永島咲の連載小説、と新しい企画に起こってくる難問も乗り切り、大御所二階堂大作の懐にもするりと入り込む…。口がうまく他人への配慮に長ける「人たらし」こそが速水の人間としての最大の魅力です。

それでも、速水の小説に対する”愛”は決して仕事上のうわべだけのものではありませんでした。二階堂が長年温めてきた新しいスパイ小説のプロットには、自分も同じだけ思い入れを示し、実現に向けて誠意をもって尽力したり、実力のある若手小説家に常に気にして声をかけたりしていました。

速水は「トリニティ」存続のために寝る間も惜しんで踏ん張っているのに、相沢編集局長からは、二階堂の往年の名作「忍の本懐」をパチンコ台のコンテンツとして使えるように取り計らってほしいとか、専務の多田が進めている電子図書館に賛同してもらえるよう二階堂を説得してほしいだとか、無理難題を持ちかけられます。

そんなある日、パチンコメーカーの清川から、二階堂は未公開株の詐欺に遭っていると聞かされます。速水は「1000万円の取材費」を手土産に清川とともに二階堂を訪ね、無事にパチンコ台のコンテンツとして使う許可を得るのでした。

仕事ではこれでもかという難題をなんとか乗り越えてきた速水でしたが、私生活では妻・早紀子との関係は冷え切っていました。妻の「万引き騒動」があったときも、速水はそばに寄り添うことも話を聞くこともできませんでした。

ある日、妻から離婚を切り出されたときには、中学受験を控える娘・美紀のためにも離婚はできないと突っぱねましたが、その美紀から「ママがかわいそうで見ていられなくなったから、私が言ったの」と聞かされ、速水の結婚生活はあっけなく破綻してしまいます。

人たらしゆえ、あちこちから頼りにされる速水。雑誌が次々に廃刊になり社員のリストラが進む会社では、労使の中央委員会の準備が進んでおり、速水は組合側からは過密労働について語ってほしいと頼まれ、相沢局長からは経営側が不利にならないように立ち回ってくれと頼まれる始末。

中央委員会で速水は、出版社は読者の方を見るべきだ、小説家を育てる手伝いをするべきだと力説しましたが、利益を守るためにデジタル化を推進する役員に押し切られる結果となってしまいます。

専務の多田は収賄で失脚し、「トリニティ」の廃刊も時間の問題と無力感にさいなまれているとき、目をかけていた若い作家が自殺したとの連絡が入ります。

守れなかった命。守れなかった小説…。速水は退職を決意しました。

物語の結末は?

ここから先はネタバレです。小説を読んでみようと思っている人は見ないでね!

速水の牙とは?

株式会社「トリニティ」の設立。速水が出た勝負は、新会社の設立でした。

「トリニティ」は「書き手に寄り添う創作」「電子書籍にしぼった創刊」「他業種との提携でコンテンツの販売力を上げる創業」の3つを柱とした会社であり、自分が企業の一員として果たせなかったことを全て形にした会社だと速水は述べます。

二階堂を始めとするいろいろな小説家と懇意になり信頼を集め、海外進出も視野に入れて、通訳の勉強もしていたという速水。知らないところで牙を磨き続けていました。

そして、薫風社時代に培った人脈と版権などは根こそぎ持って行った速水に、何かを言える人は一人もいませんでした。

速水のサイドストーリー

薫風社という出版社を舞台に、現代の出版業界が置かれている現状をベースに、雑誌の生き残りをかけて奔走する編集者・速水が隠し持っていた牙をむく話がメインストーリーだとすると、速水にはもう一つの物語があります。

それは、彼が小説をこよなく愛し、編集者を目指すに至った経緯です。

速水少年は両親と3人暮らしでしたが、父は酒とギャンブルをこよなく愛し何かというとすぐに暴力を振るう人でした。小学校3年生のとき、父の暴力から避難した担任の先生の家で小説に出会い、本を読むことが好きになったといいます。

そんな父が事故で亡くなってからは、母と二人でつつましく生活していましたが、母は体を壊し次第に親子二人の生活もままならなくなっていきます。母は藁にもすがる思いで再婚し、少年は中学2年生のときに速水輝也となりました。

義理の父は趣味で小説を書いていました。それを出版社に投稿することとなり、義理の父と息子の共同作業が始まります。自分のアドバイスで小説が輝きだすことを知った編集者・速水輝也の誕生です。

義父の小説は賞をもらうには至りませんでしたが、一部を雑誌に掲載すると出版社から連絡があり、とても誇らしく思っていたある日、一本の電話があります。

掲載を断るという電話でした。

義父の勤めていた会社が工場を建設する際、反対派住民を説得するため市議や市の担当者に袖の下を渡したという贈賄容疑で、義父は逮捕されてしまいます。速水少年はまた一人になりました。

それからは義父が残してくれたお金を自分の将来のためだけにつぎ込み、編集者としての道をひたすら歩んできました。

新聞記者を経て、薫風社に中途入社した後は「薫風社で最も小説を売った男」と称されるくらい編集の仕事に邁進していました。

速水が「小説薫風」の編集室で編集者として働いていたとき、「小説薫風」が廃刊になると決まったとき、ある読者から手紙をもらっていました。それは紛れもなく、義父の字でした。

「親父に会いたい…」速水を動かしていたいつわりのない気持ちでした。

小説を読んだ感想

「あてがき」という言葉をこの小説で初めて知りました。役者を先に決めて、その人のイメージで物語を作っていくことで、ドラマの脚本などではよくあることだそうです。

おもしろくて、人当たりが良くて、誰からも好かれている…まさに、大泉洋さんのイメージ通り。人を裏切ったりするなんてとても思えない。けれどなんだか裏でとんでもないことを考えていて、ニタニタと不敵な笑みを浮かべていてもおかしくない、まさに「騙し絵」のような人です。

あらかじめ「主人公は大泉洋さんですよ」と言われて読んだようなものなので、頭の中の大泉洋さんがしゃべるしゃべる。めちゃくちゃ楽しく読むことができました!

この大泉洋さん扮する速水が最後に「牙」をむきます。速水を信じて、会社のために戦ってきた人達にとっては、まさに「牙」となったのかもしれませんが、傍観者として見ていると「そりゃそうでしょ。そうなるよね。」と清々しい快感を覚える結末だったと思います。

多くの社員とその家族を養っている会社としては、営業利益を上げることが最優先なのは当然のこと。しかし速水は、それでは小説を…小説家を守ることはできないと、自分の理想の形で小説を守ってみせると牙を磨いていたのでした。根っからの編集者だったのです。

最後のサイドストーリーで、彼がこよなく小説を愛する理由が語られます。その理由もかっこいいというか、人間らしいというか。

組織と戦った一人の男の「奮戦記」。かなり読み応えがあり、清々しい読後感でした!

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