
「グリコ森永事件」という昭和最大の未解決事件に着想を得たフィクションですが、細部にわたり史実に基づいています。
そのこと自体も塩田武士さんの取材力や発想力に驚かされますが、一番心に深く突き刺さるのは「家族の物語」であるということです。
「グリコ森永事件」の犯行声明文で使われた子どもの声は3人。その最年少は、作者である塩田氏とほぼ同い年(4-5歳)だったと言われています。つまり今現在、大人になってどこかで生きているかもしれない…ということです。
自分の意志とは関係なく、事件の当事者となるというのはどういうことなのか。我が子を犯罪に加担させる親はどういう人物なのか。未来を奪われた子どもはどうなってしまうのか…。
小説にしようと思い立った時、塩田氏は鳥肌が立ったと言います。
着想から15年を経て、世に送り出した執念の一作。
塩田武士さんの「罪の声」3刷りだそうです。インタビューした身としては、凄く嬉しい‼︎ https://t.co/EsMt3XsEZy罪の声 #塩田武士 #講談社 #グリコ森永事件 #声 pic.twitter.com/ADISfZy2wn
— 本TUBE@読書垢 (@hontube) August 17, 2016
小説のあらすじ
父から受け継いだテーラーを営む曽根俊也は、ある日父の遺品から黒革のノートとカセットテープを見つけます。楽し気に歌う幼いころの自分の声に続いて流れてきたのは…。
「ばーすーてーい、じょーなんぐーの、べんちの、こしかけの、うら」
そして黒革のノートには「ギンガ」「萬堂」の文字が…。31年前、日本中を震撼させた「ギン萬事件」の犯行指示文でした。
これは自分の声だ…。
平穏に暮らしてきたと思っていた俊也の人生が一瞬にしてひっくり返されてしまいます。
俊也は父の友人である堀田に相談し、2人で独自に調べ始めます。
一方、大日新聞社の記者である阿久津英士は、「昭和の未解決事件」の1つ「ギン萬事件」の取材を命じられ、何一つ手がかりのない状態から、地を這うような取材を繰り返し、一つ一つ点を集めていきます。
阿久津も俊也も取材を進めていくうちに、この大きな事件に3人の子どもが巻き込まれていることを知り、言いようのない違和感と嫌悪感を感じ、今現在その子どもがどうしているかを知りたいと思うようになります。
一つ一つ点が線になり、阿久津の集めた線と俊也の集めた線が交差することは必然。
犯行グループ”くら魔てんぐ”の会合が行われていたという「し乃」という小料理屋にたどり着いた阿久津は、自分より前に訪ねてきた”テープの子ども”曽根俊也のことを知ります。
最初に阿久津が訪ねてきたとき、妻や娘との穏やかな生活を守りたい俊也は、阿久津を拒絶します。しかし、阿久津から「犯人は誰か、ということより、今そして未来につながる記事が書きたい。僕たちにできることがある。」と言われ、俊也は共に真相を突きとめる決意をします。
”くら魔てんぐ”のメンバーは全部で9人。俊也のおじ・曽根達雄もその一人でした。
当初の計画では、企業を脅迫して身代金を要求しても、実際に受け取ることはせず、株価を操作することで大金を得ようとしていました。しかし儲けは9人で分けなければならず、思ったほどの儲けにならず、内部は分裂していました。
事件に関わった子どもは3人。そのうちの1人である俊也は何不自由なく「明」の世界で生きてきました。一方あとの2人は未来を奪われ「暗」の世界での生活を余儀なくされていました。
2人の子どもはメンバーである生島の娘・望と息子・総一郎でした。生島は元マル暴の警察官でしたが警察をクビになっていました。生島はメンバーの一人でもあるヤクザの青木ともめて殺されてしまいます。
生島が殺されたことを知ったメンバーのうちの2人が、生島の妻と子ども達をかくまいますが、青木に見つかってしまい、3人は青木の元で生活させられることになります。
娘の望は逃げ出そうとして殺され、弟の総一郎は自分を可愛がってくれていた津村と一緒に事務所に火をつけて、青木の元から逃げ出していました。
阿久津と俊也は、ようやく総一郎を探し当て、会って話を聞きました。総一郎は靴の修理店で働いていましたが目がよく見えなくなって解雇されていました。病院には保険証がないので行けないと…。
彼らの世界にあかりを灯さなければ、この事件の真相を突き止めた意味がない…と、阿久津と俊也はともに動き始めます。
阿久津はイギリスにいる俊也のおじ曽根達雄に会いに行き、俊也は母にテープのことを聞きます。
あまりにも情報量とエピソードが多すぎて、あらすじを要約するのが不可能な大作でした。映画はこの原作を見事に忠実に映像化してくれています。読むのは無理かも…という方は、ぜひ映画をご鑑賞ください!期待を裏切らない素晴らしい映画です!
小説の感想は?
「グリコ森永事件」はグリコの社長の誘拐に始まり、食品・製菓会社への脅迫、青酸菓子のばらまきと悪事の限りを尽くしたような未解決事件です。
それだけでもこの事件を題材にしたのは注目に値すると思いますが、最も震撼するのは、作者の塩田氏が語っているように、子どもを犯罪に加担させたことでしょう。
自分の意志に関係なく声だけが使われたとしても、その事実を知ったとき、どれほどの恐怖を感じるか…。自分の身に置き換えようとしても、想像だにできません。
未解決のまま時効を迎えてしまったので、実際の事件では犯人はわからないままです。
もしかしたら犯人と犯人の家族はこのような人生を歩んできたのではないかという、あくまでも塩田氏の創造による物語です。しかし、塩田氏自身も事実にそう遠くないと思うと語っている通り、すごくリアルに迫ってくるものがあります。
小説の中で使われている事柄が「グリコ森永事件」の史実に基づいているという点もそうですが、一つの突破口から次への足掛かりを見つけていく取材の難しさ、現場に赴いてこそ感じられるものに臨場感があるのは、塩田氏が元新聞記者だったからでしょう。
阿久津が地を這うようにして集めた数々の点と、俊也が集めたいくつかの点とが線でつながるとき、2人の線が交差します。その瞬間が訪れるドキドキ感は、ちょっと他に経験したことがないくらいの高揚感でした。
3人の子どものうち、俊也は31年間全く事件のことを知ることも関わることなく、平穏に生活してきましたが、あとの2人は夢も希望も失って悲惨な人生を送っています。
フィクションだとわかって読んでいるのに、子どもを犯罪に巻き込んだ親には怒りさえ覚えます。でも、その親にも親なりの我が子を思う事情があり、底知れぬ悲しみが感じられてなりません。
子どもを犯罪に巻き込めば、その分、社会から希望が奪われる。「ギン萬事件」の罪とは、ある一家の子どもの人生を粉々にしたことだ。
塩田武士『罪の声』より
作者が声を大にして訴えたかったことは、そういうことではないかと思います。
最後は胸に熱くこみ上げてくるものがある、感動の超大作でした。
かなり分厚い、読み応えのある本でしたが、読み始めたら結末を知るまでやめられないのは必至です。ぜひお時間のあるときに読んでみてください。
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