平野啓一郎が問う死生観、小説『ある男』のあらすじとネタバレ

2歳の息子を脳腫瘍で亡くした直後に離婚、さらに父が急逝したことで実家の宮崎に戻ってきた傷心の里枝。そんなとき出会った「谷口大祐」と里枝は再婚します。

夫の大祐と過ごした3年9か月はまさに”幸せ”と呼べるものでした。

ところが…、愛した夫が、まったくの別人だった…。

愛した夫は本当は誰なのか?夫はなぜ他人の戸籍を騙っていたのか?人が誰かを愛するとき、その人の過去が必要なのか?

ヒューマンミステリーと言われるジャンルですが、いやいや、平野啓一郎さんが問う壮大な愛の物語です!

【主なキャスト(敬称略)】
妻夫木聡:城戸章良
安藤サクラ:谷口里枝
窪田正孝:谷口大祐(ある男)
清野菜名:後藤美涼(大祐の元恋人)
真島秀和:谷口恭一(大祐の兄)

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小説のあらすじは?

横浜で弁護士をしている城戸のところに、宮城県に住む武本里枝から「ある男」について調べてほしいと連絡があったのは、城戸が里枝の離婚調停を担当してから8年後のことだった。

次男の遼が2歳のときに脳腫瘍と診断され半年後に亡くなると、治療方針を巡って対立した夫と何事もなかったように生活することはできず、里枝は離婚を決意した。

離婚が成立してほどなく、宮城県の実家の父親が急逝し、里枝は長男の悠人を連れて実家に戻って生活することを決意した。

谷口大祐が林業で生計を立てたいと里枝の住む町にやってきたのは4年前のこと。

里枝の働く文房具店に大祐が画材とスケッチブックを買いに来て話をするようになり、2人は次第に距離を縮めていった。

大祐は群馬県の伊香保温泉にある旅館の次男であること、兄が東京で飲食店を始めたのでしかたなく大祐が旅館を継いだこと、父が肝臓がんに侵され大祐が生体肝移植のドナーになることを迷っている間に手遅れになってしまったこと、それ以来家族とは縁を切って生活していることなどを里枝に話した。

大祐と里枝は間もなく結婚し、女の子を授かった。

しかし幸せな時間は長くは続かなかった。悠人12歳、花3歳のときに大祐は自分が伐採した杉の木の下敷きになって亡くなった。39歳だった。

「自分にもしものことがあっても実家には連絡しないでほしい」という大祐の言葉を守っていた里枝だったが、1周忌を迎えるころに大祐の実家に手紙で知らせることにした。

手紙を受け取った大祐の兄・谷口恭一は宮崎に飛んできた。そして、線香をあげようと遺影を目にした恭一は信じられない一言を発した。

これは大祐じゃないですよ

里枝は何をどうしていいのかわからなくて、城戸に連絡した。

城戸は宮崎に飛び、里枝が旧姓の「武本」の戸籍を復活させるのを手伝った。里枝は「大祐」が描いたスケッチブックを見せながら、絵の通りの純粋で真面目で思いやりのある人だったと語った。

「谷口大祐」と呼ぶことが適当ではない気がして、城戸は誰だかわからないこの男を「X」と呼ぶことにした。

本物の谷口大祐の元恋人・後藤美涼は、大祐が見つけたらきっと何らかのコンタクトを取ってくると考えて大祐の名前で偽のアカウントを取得しfacebookを運営し始めた。

「犯罪歴を隠したいがために他人の戸籍を手に入れたのでは?」と思い、城戸は社会保障関連の事件を調べてみて珍妙な裁判記録にたどり着いた。

男2人がそれぞれの目的のために戸籍を交換していたという事件。この事件には戸籍交換を仲介するブローカーが存在していた。

小見浦というブローカーが横浜刑務所に服役中だと知り、城戸はこの男に会いに行った。

小見浦は「谷口大祐」のことを知っているようだったが、それ以上の情報は教えてはくれなかった。

しばらくすると小見浦からヌードを模写した稚拙なハガキが送られてくるようになった。挑発文と共に送られてきたヌード漫画の模写をよく見てみると、右の乳首を取り囲むように「谷口大祐」左の乳首には「曾根崎義彦」と書かれていた。

「X」は「曾根崎義彦」なのか?しかし、調べても「曾根崎義彦」という人物について何も情報が得られなかった。

2週間が経過したある日、城戸は友人弁護士が携わっている死刑廃止運動の一環で確定死刑囚の美術展を見に行った。

城戸はその中の一枚の絵に釘付けになった。その絵を描いた人物は「小林謙吉」といい20年も前に刑が執行されていた。小林謙吉の顔写真は「X」そっくりだった。

衝撃の結末と相関図

ここから先はネタバレを含みます。知りたくない方は【+】を開かないでね。

小林謙吉という人物
小林謙吉が事件を起こしたのは1985年のこと。典型的なギャンブル依存症で借金で首が回らなくなり、知り合いの工務店社長に金の無心をするも断られ、逆上して一家を刺殺した上に放火し、死刑判決を受けた。

事件当時、小林謙吉には「誠」という小学4年生の息子がいたが、母親は誠を連れてすぐに転居・離婚して、「原誠」という名前になった。

城戸の推察
調べてみると「原誠」を名乗っていた男は万引き常習犯で何度も有罪判決を受けていたことがわかった。

「原誠」は知的障害を持ったホームレスで、小見浦と同じ横浜刑務所にいたらしい。

城戸は「原誠」がホームレスの「曾根崎義彦」と戸籍を交換し、その後に「谷口大祐」と2度目の戸籍を交換したのではないかと推察し、現在「原誠」を名乗っている男に会いに行くことにした。

しかし「原誠」を名乗る男は本当の名前は「田代昭蔵」だと言い、「X」の写真を見せても「知らない」と答えた。

曾根崎義彦という人物
谷口大祐の元恋人・後藤美涼が大祐をおびき寄せるために開設した「谷口大祐」のfacebookには、ある人物の代理人と名乗る人から「偽アカウントを今すぐ削除するように」という警告文が送られてきた。

美涼がこの警告文を送った人物こそ「大祐」に違いないと言うので、城戸は「伝えたいことがある」というメッセージをこの代理人に送った。

代理人から返事はすぐに来た。代理人を騙っているが、彼自身が「谷口大祐」であり現在「曾根崎義彦」という名前を騙っていることはすぐにわかった。城戸は美涼と一緒に会いに行くことにした。

名古屋で「曾根崎義彦」と対面した城戸は、単刀直入に「谷口大祐さんですよね」と聞くと、男は躊躇しながらも「そうです」と答えた。

「X」は誰だったのか
「原誠」が若い頃に通っていたボクシングジムで「X」の写真を見せると、ジムの会長とかつて「原誠」と一緒に練習していたという元ボクサーの柳沢は「マコトです」と断言した。

「原誠」はバンタム級で東日本の新人王になって、全日本に挑戦する前にけがをして姿をくらましていた。里枝と出会う9年前のことだった。

城戸が突き止めた戸籍交換の相関図は次の通り。

殺人犯の息子として生きていくことが困難だった「原誠」は2度の戸籍交換で「谷口大祐」という名前を手に入れ、里枝と結婚したのだった。

真実を知った里枝は?
城戸からの報告を受け取った里枝は、長男の悠人には本当のことを教えることにした。

悠人は血はつながっていなかったけれど「お父さん」のことが大好きで、姓を「武本」に変えると「お父さん」とのつながりがなくなってしまうことを気に病んでいた。

「原誠」にとって里枝と過ごした3年9か月が人生で最もかけがえのないものだったように、里枝にとっても「大祐」の妻として過ごした月日は幸せだったと思うのだった。

映画の見どころと原作との違い

切なくて辛い物語でした。

考えても考えても「愛にとって、過去とは何だろう」という疑問に対する答えは見つかりそうにありません。

理性的に考えると、”犯罪者の息子だから”という理由で不利益を被ることなどあってはならないと思います。その家に生まれてきたばっかりに、自分は何もしていないのに社会からつまはじきに遭うなんて怖ろしすぎるし悲しすぎる…。

でもそれって、もしかしたら実体験がないから言えることなのか?もしも身近で起こったり被害者が自分の親しい人だったら、同じことが言えるのか?と考えたら、全く想像がつきません。

小説ではある男=谷口大祐に苦悩はほとんど語られないので想像するしかないのですが、窪田正孝が絶妙な表情や姿に胸が締め付けられる思いがしましたね。やはり映像で見るというのは心に突き刺さります。

映画『ある男』視聴方法は?

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