
『サラバ!』『きいろいゾウ』など人気作を次々と生み出す、西加奈子さんの初期の人気小説。
素敵なキャストで映画化が決まり、再び話題急上昇です!
ありふれた日常を描いた普通の物語なのですが、登場人物が個性的すぎて、感情移入しそうになると離れていく…みたいな、不思議な物語でした。
兄ちゃんの死を機に、ありきたりだけど幸せだった、家族の形が変わっていきます。
唯一変わらなかった飼い犬の「サクラ」が再び結びつける、家族の物語です。
登場人物 長谷川家の人々
お父さん:長谷川昭雄
男前で優しいお父さんは、兄ちゃんの死を境にどんどんやせ細り、ある日突然家を出ていきます。
お母さん:長谷川つぼみ
美しかったお母さん。兄ちゃんの死を甘いものとアルコールで埋めようとして、どんどん太っていきました。
兄:長谷川一(はじめ)
子どものころから女子にもてまくり、数々の「はじめレジェンド」を作ったみんなの人気者でした。そんな兄ちゃんは20才と4か月でその生涯を閉じます。
弟:長谷川薫(かおる)
「はじめ君の弟やから」と恩恵を受けることが多かったが、薫本人は何事にもやる気を見せることなく「実はできる」という地位を確立していました。ヒーローみたいな兄と美しい妹に挟まれた、真ん中の自分の立ち位置を模索しながら、懸命に生きている薫の目線で物語は進んでいきます。
妹:長谷川美貴(みき)
美しく大切な妻が自分の子を産み、やんちゃんな男の子が妹の到着を待っているという、優しく奇跡的な日常に父が「なんて美しくて、貴いことだ。」と男泣きし、美貴という名前になりました。
見た目は美しく、しかし攻撃的で破天荒なミキは、優しいはじめ兄ちゃんが大好きで、兄ちゃんの行くところへはどこへでもついて行きました。
飼い犬:サクラ
サクラが我が家にやってきたのは薫10才、ミキ6才のとき。選んだのは薫で、5匹いた子犬の中で、一番小さく痩せていて、頼りない子でした。。
美貴に抱っこされた子犬からピンクの花びらがハラリと落ちて、その子の名前は「サクラ」になりました。
小説のあらすじ
東京の大学に進学し一人暮らしをする薫の元に「年末、家に帰ります おとうさん」という手紙が届きます。年末年始は彼女と過ごす約束になっていたけど、薫は「サクラに会いたいから」という理由で帰省することにします。
サクラは12歳のおばあちゃん犬です。
はじめ5才、薫3才のとき、妹ミキが生まれました。ミキは美しい子で、男の子にモテモテでしたが、はじめ兄ちゃん以外の男には全く興味がなく、兄ちゃんについて行って、危ない遊びをするのが大好きでした。
長谷川家はニュータウンに引っ越します。ミキが突然「犬を飼いたい」と言い出し、サクラを迎えることになりました。
はじめ兄ちゃんは、中学生になると「矢嶋さん」というちょっと不良な感じの彼女を連れてきました。八嶋さんは兄ちゃんの童貞を奪った人でもありました。
ミキは大好きな兄ちゃんを奪った八嶋さんが家に来る日は、不快な音を立てまくりふて寝していました。
中学校に入学した薫は、小学校のときから文通をしていた湯川さんと会うことになりました。興奮して眠れないくらいだったのに、ニキビがいっぱいできていた湯川さんの顔をまっすぐに見ることができませんでした。それ以来、手紙も来なくなってしまいました。
ある日「サキコ」という人からお父さんあてに手紙が届きます。単なる高校の同級生だというお父さんに、怒り心頭のお母さんは尋問します。高校の卒業アルバムをめくって「どいつや!」とすごまれ、指さした人物は「溝口先史」という名前のたくましい男の人でした。
サキフミ君は高校時代、お父さんが所属していたラグビー部のマネージャーで、お父さんに恋をしていました。その恋は発展することなく卒業し、彼(いや彼女?)は卒業後、水商売の道へと入っていきます。
長谷川家は家族全員でサキコさんのおかまバーに行きました。サキコさんは「あんたたちも、いつか、お父さんお母さんより、好きな人ができるんよ。いつか、お父さんとお母さんに、嘘をつくときがくる。愛のある嘘をつきなさい。」と言いました。
毎日のように、兄ちゃんのところに来ていた矢島さんからの手紙や電話がぱったりと途絶えてしまい、兄ちゃんはうなだれて考えこむことが多くなり、サッカーの練習も休みがちになってしまいます。
受験生の薫は「ゲンカン」と呼ばれる同級生の女の子・須々木原環(すずきはらたまき)と出逢い、童貞を奪われてしまいました。それ以来学校公認のカップルとなり、別々の高校に進学してもずっと関係が続いていきました。
中学生になったミキは美しさにより拍車がかかり、男子の注目を一身に集めていきました。しかし、元々持っていた攻撃性にもますます拍車がかかっていました。入学早々先輩に呼び出されるものの、数人の先輩をボッコボコにし、ある意味、伝説となりました。
ミキはバスケ部に入り、友達の薫を家に連れてくるようになりました。見た目は男の子みたいで社交的ではないカオルさんとミキはよく似ていました。ミキに初めてできた女友達でした。
ミキの中学校の卒業式の日、カオルさんは皆の前で「あたしは自分が女や思われへん。長谷川が好きや。長谷川のこと好きでもおかしくない時が来る。そのときのために努力する」と宣言しました。
大学生になって家を出た兄ちゃんが、夏休みで1週間帰省していたとき、その不幸は起こりました。コンビニに買い物に行った兄ちゃんは猛スピードのタクシーにはねられ、生死をさまよいます。一命をとりとめた兄ちゃんは、下半身の筋肉と顔の右半分の表情を失ってしまいます。
車いす生活になった兄ちゃんは、何をする気力も失せて、泣いたり怒ったりばかりの毎日が始まります。
幼いころから「はじめレジェンド」を作り続け、周りから好意の視線を集め続けていた兄ちゃんは、周りの人から奇異の目で見られることに、心が壊れるところまで来ていました。そして「神様は、打たれへんボールを投げてくる」と言い、12月の寒い日、サクラの散歩に出かけたまま帰ってきませんでした。
20才の誕生日にミキがプレゼントしたサクラの散歩用の鎖を、自分の首に巻き付け「この体で、また年を越すのが辛いです。 ギブアップ」という手紙を残して兄ちゃんはその生涯を閉じました。
ミキが赤いランドセルを持って薫の部屋にやってきました。その中には矢嶋さんからの3年分もの手紙が入っていました。誰よりも早く帰宅するミキはそれをポストから取り上げて、あろうことか、兄ちゃんの字を真似して「ほかに好きな人ができました。もう電話をかけてこないでください。」という手紙まで矢嶋さんに送っていました。
ミキは生まれた時からずっと、兄ちゃんに恋をしていたのでした。
ミキは受験勉強をやめ高校にも行かず、自分の身に一切気を配ることも無くなって家の中に閉じこもってしまうようになりました。お母さんは甘いものとアルコール漬けの毎日でブクブクと太っていきました。
お父さんはやせ細り、ある日突然、赤いランドセルを持って出ていきました。
薫は一人になりたいと、東京の大学へ進学しました。そして、「年末、家に帰ります おとうさん」という手紙を受け取り、久しぶりに実家に帰ってきました。
全員でお墓参りに行って迎えた大晦日の夜。サクラが犬小屋の前で動かなくなっています。
「病院に行こう」とお父さんが言い、家族全員で大晦日の夜にサクラを診てくれる病院を探しに出かけます。軽自動車にぎゅうぎゅう詰めに乗って、どこか診てくれるところがあるはずと走り回ります。
お巡りさんに止められたその時、げっぷを続けていたサクラは「ぶふうっ」と大きなおならをして、同時にミキは緑色のうんこまみれになっていました。
しっぽを振り元気を取り戻したサクラ。家族を一筋の明るい光が照らし、あとからあとからシャワーのように降り注ぎました。長谷川家の新しい1年が始まりました。
小説を読んだ感想
分かりやすい文章で、淡々と物語が進んでいくので、とても読みやすい物語でした。だけど、なんだか不思議な不思議な物語。
そういうことあるよね…と感情移入しかけては、あらぬ方向に動いていく物語に度肝を抜かれることしばしば。
こんな兄ちゃんもこんな妹も普通はいない、だいぶ変わった家族の変わった物語なんだけど、この家族が長谷川家にとっての普通で、幸せの形だったということは、他のどの家族と何ら変わらない事実でした。
大切な家族を失ったとき、感情が壊れてしまうというのは、こういうことを言うのでしょう。そこだけは本当に感情移入してしまって、とても辛くて苦しい気持ちで読み進めました。
変わってしまった家族の中で、唯一変わらなかった存在がサクラでした。そして、サクラが家族が再生するお手伝いをします。
動物は家族と同じ、家族の一員という言い方をよくします。その表現は私にもしっくりくるし、とてもよくわかります。
でも時に家族以上の、まるで神様みたいな存在になるんですよね。なんでわかるの?なんでそんなことしたの?っていう奇跡的なことをするんです。
サクラのおかげで、家族全員で笑うことができた長谷川家。きっとまた感情が壊れそうになって、お母さんは甘いものとアルコールが手放せないだろうし、ミキはひきこもるだろうし、薫は東京に逃げるだろうし、お父さんはまた出て行っちゃうかもしれないけど、サクラがいる場所にみんな帰ってくるのでしょう。
12歳のおばあちゃん犬のサクラ。家族がもう少し前に進めるようになるまで、元気でおしゃべりを続けてね!と願いながら本を閉じました。
読後感がふわふわした、なんだか不思議な物語でした。
映画化が決まり、はじめ兄ちゃんを吉沢亮さん、薫を北村匠海さん、ミキを小松菜奈さんが演じると発表がありました。かなり個性的なミキを小松菜奈さんが演じることには興味深々!
映像で見ると、もっと辛くて苦しくなるのでしょうね。でも、サクラの力を映像で確かめてみたい…。そう強く思います。
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