32歳の浜中と梨田は高校の同級生。真面目に勉学にいそしみ、仕事もそつなくこなしてきた。
日常生活に刺激が足りないと、風呂無しボロアパートに引っ越してみたり、バンド活動を始めてみたりしたが何だか満たされない。
そんなとき「足が炎上する男」の噂を耳に入れた。足首から先が本当に燃えているらしい。
「足が炎上する男」に会うことが目下の関心ごとになった2人。浜中と梨田は「足が炎上する男」に会えたのか？そして2人は…？
『炎上する君』は、まさに西加奈子ワールド全開！なぜか最後にはほっこり勇気づけられてしまうような不思議な短編集です。
【主なキャスト(敬称略)】
うらじぬの：梨田
ファーストサマーウイカ：浜中
小説『炎上する君』のあらすじ
32歳の浜中と梨田は高校の同級生だ。一番の親友である。
浜中は国立大学の経済学部に進学し大手証券会社に就職していた。25歳で都内に購入したマンションを、なぜか3年前賃貸に出し、梨田の近くのボロアパートに引っ越してきた。
梨田は有名私立大学を卒業後、銀行員として堅実に働き、資産運用の知識も身に付けそれなりの財産を持っている。浜中が越してきたのを機に、ボロアパートに移った。
2人で毎日銭湯に行くのが日課だ。
浜中は梨田に、バンドを組もうと言った。冒険がしたかったからだ。ギターボーカルの浜中とベースの梨田。メンバーたった2人のバンド名は「大東亜戦争」と名付けられた。
真面目で賢い2人は、日々の努力で演奏技術もメキメキ上達し、あらゆる楽器の演奏を打ち込みで作成できるほど音楽機材にも精通し、作詞作曲も難なくこなすようになった。
固定のファンが付くほどになり浜中と梨田はこれまでにない充実感を味わったが、成功を収め日々がマンネリ化していくと、とたんに気持ちは冷めていった。
そんなとき「足が炎上する男」の話を聞いた。足首から先が本当にぼうぼうと燃えているらしい。
目撃情報には、「足が炎上する男」を見るとラッキーなことが起こり、邪険に扱うと逆にアンラッキーなことが起こるという神話まで付いてきた。
浜中と梨田の興味関心は「足が炎上する男」の一点に集中していった。
いつものように浜中と梨田が銭湯に浸かっていると、番台の女主人の叫び声が聞こえた。「床が燃える」という言葉に「足が炎上する男」が来たことを確信し、2人は風呂から飛び出した。
急いで着替えて銭湯をでた。道には火の粉が残っていたので「足が炎上する男」は簡単に見つけることができた。
本当に男の足はオレンジ色の炎をあげてぼうぼうと燃えていた。
聞くと、歩くとマッチのようにすれて火が点くのだと言う。男の真っすぐで綺麗な目に浜中と梨田は射ぬかれた。心臓が熱くなるのを感じた。
それから、浜中と梨田の足は炎上し始めた。
浜中と梨田はそれまで履いたことのないハイヒールを履き始めた。さらに浜中は眼鏡をコンタクトレンズに替え、髪にゆるーいパーマをかけた。梨田は髪を茶色く染めた。
いい匂いのするシャンプーやソープで女性としての自分たちの体を慈しみ磨き上げることに専念するようになった。
浜中と梨田は「恋」という初めての戦いの中に身を置いている。
『炎上する君』の感想
「真面目」を絵に描いたような浜中と梨田。努力を惜しまない2人は、なんでも人並み以上にできてしまうので、最初感じた充実感や高揚感は時間が経つとすぐにしぼんでしまいます。
男は全員、女を性の対象として見ていると思っているし、誉め言葉も素直には受け取れない。実に生きにくい女性なんですよね。
それが「足が炎上する男」で出会うことで、ハートに火を点けられてしまうという落ちが最高でした。
女を捨てていた浜中と梨田が、きっと生まれて初めて感じる高揚感。
人が価値観を変えるのって、実は本人が全く思ってもみなかったことが原因になることもあるし、変えちゃっていいんだと思える優しい物語でした。
世の中に生きにくさを感じている真面目な人にはぜひ読んでほしいなぁ。
これを実写映画化するですって？元々短編小説だし…足が燃えるっていう設定が奇天烈すぎて想像がつかないですよね。
ふくだももこ監督による、単におもしろいだけでなく女性蔑視社会と戦う女の話に期待しましょ！
その他の収録小説
『炎上する君』は短編小説集です。
他に「太陽の上」「空を持つ」「甘い果実」「トロフィーワイフ」「私のお尻」「船の街」「ある風船の落下」が収録されています。
どれも摩訶不思議な世界観。見事なまでに西加奈子ワールドです。
あり得ない設定のオンパレードで訳が分からないと感じる方も多い西加奈子ワールドですが、生きづらい登場人物に共感できる面があって、なんだかんだで最後まで読んでしまうから不思議です。
そして、最後にはなんだかほっこり癒されてるという…。
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非日常だけど、なぜか共感してしまって癒される…。不思議な西加奈子ワールドをぜひ！
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