オレオレ詐欺グループに属し受け子の差配を担う橋岡恒彦。相棒の矢代穣と賭場で借金をつくってしまい雇い主である名簿屋の高城に金を貸して欲しいと迫った。
金を出し渋る高城を矢代が殺してしまったため、遺体は山へと埋めた。
一方、警察は詐欺グループの一斉摘発に向けてじりじりと包囲網を狭めてくる。警察からもヤクザからも追われる身となり、次々と襲いかかる絶体絶命のピンチ。
果たして橋岡と矢代はこのピンチから逃げきることができるのか?
『燃えよ剣』『ヘルドッグス』の原田眞人監督が主人公の橋岡恒彦を女性の橋岡煉梨(ネリ)に変えて、雑草のように逞しく生きる詐欺師を映像にしました。
【主なキャスト(敬称略)】
安藤サクラ:橋岡煉梨
山田涼介:矢代穣
生瀬勝久:高城政司
宇崎竜童:曼荼羅
淵上泰史:胡屋賢人
「BAD LANDS」「勁草」ってどういう意味?
「BAD LANDS」は”悪の巣窟”という意味です。詐欺師に刑事、ヤクザだけではない様々な人間が絡み合い誰が敵で誰が味方かもわからない場はまさに悪の巣窟。その修羅場に身を投じていく橋岡ネリと矢代ジョーの物語。
「勁草」は「けいそう」と読みます。”強い風が吹いても折れない強い草”のことを指します。
「疾風に勁草を知る」という風に使われることが多いのですが、「強い風」つまり人間世界でいうところの困難や苦難に遭って初めて「強い草」つまり折れない強い意志を持っていることがわかるという意味です。
原作の『勁草』は、不本意な事件に巻き込まれていく橋岡が必死に逃げて生き抜いていこうとする姿が描かれているのに対し、映画の『BAD LANDS』ではビッグビジネスを目の前に後には引けなくなったネリとジョーの戦いが描かれています。
小説『勁草』のあらすじ
橋岡恒彦(つねひこ)33歳、詐欺のターゲットからお金を受け取る「受け子」の差配をしている。橋岡に指示を出すのは建前はNPO法人の代表者、実の姿は詐欺集団に名簿を売る「名簿屋」という高城政司。
「ふれあい荘」というボロアパートに住む住人を管理し受け子として使いながら、22歳の相棒・矢代穣とともに高城からもらった名簿のターゲットの下見もしている。
大阪府警特殊詐欺捜査班の佐竹正敏と湯川優はオレオレ詐欺のおとり捜査で橋岡が関与していることまではつかんだ。高城を張って現金受け渡しの現場を押さえようとしたが、受け子は高城に直接金を渡すことはせずコンビニから私書箱サービスへ送ったようだ。
受け子を尾行するとふれあい荘へと入っていった。どうやら宇佐美知隆、上坂健三の2人が受け子として動いているようだ。受け子を逮捕したところで詐欺グループの全容がわかることはない。
私書箱サービスに現金を取りに来た受け子を追跡して、高城の元に届けたところで踏み込む…、高城を引っ張るための作戦が立てられた。
橋岡は矢代に誘われ賭場に行ったが、そこで矢代は負けが混み250万円の借金をつくってしまった。しかもその借金は矢代が勝手に橋岡を連帯保証人にして借りていた。
矢代は橋岡を伴って高城のところに250万円を借りに行くことにした。高城は30万円しか貸せないと言った。矢代は高城が金庫の扉を開けた瞬間、そばにあった電話機を高城の頭に叩きつけ電話コードで高城の首を締め上げた。高城の死体は高城のベンツで運び山に埋めた。
金庫からは8000万円の残高を有する4冊の通帳と1億6000万円の取引残高を示す証券会社からの報告書が出てきた。銀行印と思われるハンコを見つけた、橋岡と矢代は銀行に向かったが、暗証番号がわからないことには10万円しか下ろせないと言われた。
株を売ってなんとか現金化できないかと画策したがこちらも難しそうだ。高城の事務所にいると高城の携帯に平岡という男から電話がかかった。橋岡はその電話に出て、高城はヤクザに追い込みをかけられて飛んだと伝えた。
私書箱サービスに届くはずの320万円を宇佐美に取りに行かせようと考えたが、私書箱を挟んだ場所に警察と思われる男たちが張っていることに橋岡は気付いた。
橋岡はふれあい荘の江川を使って高城のふりをさせ、2つの銀行の暗証番号を変更しATMの引き出し限度額を変更した。
橋岡は矢代には残りの2つの通帳を渡し、紛失届を出して通帳、印鑑、暗証番号の全てを新しく登録し直すことにした。1週間後新しい通帳とキャッシュカードが届けば高飛びできるはずだ。ベンツも売って金に換えた。
高城の事務所に新井登茂子と名乗る女が訪ねてきた。2度目は若い男を2人連れてきた。1人は亥誠組の徳山英哲と名乗り、もう1人は先日電話をかけてきた平岡だった。高城は名簿をベンツに積み込んで四国に高飛びしたと伝えた。
平岡の話から実は高城は単なる名簿屋ではなく金主、つまり詐欺グループのオーナーで、新井という女は銀行口座や携帯を売っている道具屋でグループのサブオーナーだということがわかった。
このままではただで済むわけがない…。まずは高城が高飛びしたことにするためキャビネットの名簿を始末しなくては…。
橋岡と矢代が書類を処分しようと段ボールに詰めていると徳山がやってきて詰め寄った。橋岡が嘘を並べて適当にかわそうとしていたが、矢代はゴルフクラブで徳山を殴りつけた。
また死体が1つできた。橋岡と矢代は高城を埋めた山に徳山も埋めることにした。
一方、警察は私書箱サービスに張り込みを付けていたが全くの空振りに終わった。別の詐欺事件で逮捕した受け子と見張り役が小沼英二という男から仕事を紹介されたと話したことから小沼を調べることになった。
小沼は仕事上のケガが原因で東和土健を辞めていたが、小沼と同棲していた崎田ゆりという女性の住所がわかった。崎田ゆりを訪ねると小沼とは別れていた。
ところが小沼からゆりの元に連絡があり、小沼の居場所がわかった。佐竹と湯川は小沼が居候している掛け子のリーダー・青木亮のマンションへと向かった。小沼と青木は逮捕された。
小沼は掛け子グループでは平岡と名乗っており、詐欺グループの金主は高城という男で、徳山というヤクザと高城に会いに行ったが、高城はいなくなっていたことなどを自供した。
徳山がいなくなったことを不審に思い、亥誠組のヤクザが橋岡と矢代の元へやってきた。橋岡は何とか逃げ切ったが矢代は連れ去られた。
橋岡は自宅に戻ると、デイパックに着替えと通帳と印鑑を詰めて家を出た。2つの銀行で500万円ずつおろし、関空に向かうと沖縄へと飛んだ。
警察では捕まった小沼が洗いざらい自白していたので、高城と徳山が橋岡と矢代に会った後、所在不明になっていることがわかった。橋岡と矢代に逮捕状が出されることになった。
佐竹と湯川が矢代の自宅に行くと、矢代の部屋には亥誠組の組員・玉城朝洋がいた。ポケットからは高城名義の通帳が2冊と印鑑が出てきた。玉城を吊し上げると矢代は豊中のガレージに囚われていると吐いた。
リンチを受けボコボコにされた矢代は無事に助け出された。矢代は、高城殺しと死体の始末は橋岡が勝手にやったもので、沖縄に高飛びするつもりだと警察に話した。
関空のカウンターで聞き込みをすると、橋岡が沖縄行きのチケットを買っていることがわかった。佐竹と湯川は沖縄へ飛んだ。
佐竹と湯川が沖縄県警の協力を仰ぎながら宿泊施設に聞き込みを行っている頃、橋岡は残りの金を全て引き出したほうがいいと考えて大阪に戻っていた。
橋岡が全額引き出そうとすると通帳には紛失届が出されていた。警察にばれた…、もう逃げるしかない。橋岡は今度は石垣島へと飛んだ。
警察は早くも橋岡らしき人物が石垣島行きのチケットを買ったことを突き止め、一旦大阪に戻ってきた佐竹と湯川は石垣島へと向かった。警察は橋岡の動きをあっという間につかみ、佐竹と湯川は橋岡の宿泊先であるホテルへ向かった。
窓の外に警察車両が停まるのが見えて、橋岡は2階のバルコニーから飛び降りた。捻挫した足を引きずりながら必死で逃げると、灯台に出た。周りは断崖絶壁。崖を穿ったような階段があったので橋岡はその階段を下りていった。
半分ほど下りたところで崖が崩れていた。万事休す。そのとき頭上から「橋岡」と呼ぶ声が聞こえた。警察は早くも自分にたどり着いたようだ。
橋岡は観念して下りてきた崖を登り始めた。ところが橋岡が足をかけた岩のくぼみが崩れ、橋岡の体は崖下へと投げ出された。
回復した矢代は、高城殺しも徳山殺しも橋岡主導で行ったものであり自分は死体遺棄を手伝っただけだと供述した。橋岡は被疑者死亡により公訴棄却、矢代は詐欺と死体遺棄容疑で懲役10年の判決を求刑された。
映画の見どころと原作との違い
原作との一番大きな違いは主人公の橋岡恒彦が橋岡煉梨(ネリ)という女性に変わっていること、そして原作では完全に疫病神でしかない相棒の矢代穣(ジョー)が煉梨の弟という設定になっているところです。
ネリとジョーは姉弟といっても実は血がつながっていません。それに対してネリの本当の血のつながった父親がいるのですが、それも映画独自の設定です。
宇崎竜童さん演じる元ヤクザの曼荼羅(まんだら)、ネリの昔の恋人だった胡屋(ごや)賢人、月曜日の巫女というかなり特異な面々が加わることによって、物語は暴力的で人情的で熱い物語へと膨らんでいます。
登場する奴ら全員頭がイカレている、まさに「BAD LANDS=悪の巣窟」。
でもその中で描かれる人情というか家族というか愛というか…結局は人のつながりが事態を大きく動かしていく様が胸に熱く迫ってくる物語でした。
原作では完全に矢代に巻き込まれる形で最期まで救いがなかった橋岡ですが、映画でのネリの結末は違いますよ。
詐欺なんて決して許されることではないし、ネリがやってることは犯罪以外の何ものでもないんだけど、「本物の詐欺師にはなりとうない」と言ってるように、ネリは本当は優しくて義理堅くて賢い人なんです。
奴隷のように扱われてきた半生を持つネリの新しい人生を守ろうとする周りの人達とそれを受けとめるネリを応援してしまいたくなってしまう、そんな熱い物語です。
ちなみに原作者の黒川さんも賭場のシーンに出演されていて、特報でも聴くことができるヴァイオリン曲を演奏している土屋玲子さんが月曜日の巫女を演じておられて、ジョーに発砲する警察官は原田監督の息子さんで編集もされている原田遊人さんという隠れキャラも満載!
なにより途中でジョーが襲撃するシーンに出てくる俳優さんが大物すぎてびっくりして興奮しました。
ストーリーも画面も見どころ満載!映画館で必見です!もう一度見に行きたいなぁ。
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