売れない小説家・中島加代子。憧れの「山の上ホテル」で執筆しようとしたところ、上階に文壇のドンファン・東十条宗典が宿泊していることを知る。
加代子は東十条の執筆を邪魔して文芸誌の1枠を奪い取ることに成功した。
かくして、怒りがおさまらない東十条宗典と中島加代子の戦いが始まった。
運とは自分で手繰り寄せるもの。不遇な小説家・中島加代子の逆襲劇を描いた、笑いと勇気がてんこ盛りの痛快コメディです。
あらすじの中にはネタバレを含みますので、知りたくない方はご注意くださいね。
【主なキャスト(敬称略)】
のん:中島加代子
滝藤賢一:東十条宗典
田中圭:遠藤道雄
実在する「山の上ホテル」
物語の舞台となるのが川端康成、三島由紀夫、池波正太郎をはじめとする文豪たちや文化人たちに愛された実在するホテル「山の上ホテル」。竣工から86年経ち、現在は休業中です。
映画のロケで実際に使用されています!
2024年2月13日より当面の間、休館することとなっている〈#山の上ホテル〉。館内では12日まで「創業70周年 山の上ホテル歴史展示」のほか、〈山の上教会〉の見学開放などのイベントが行われています。入場できない日時もあるのでお出かけの際は公式サイトでご確認を。… pic.twitter.com/zpbS3VWE5k
— casabrutus (@CasaBRUTUS) February 3, 2024
小説『私にふさわしいホテル』のあらすじ
売れない小説家・中島加代子、30歳。なけなしのバイト代をかき集め自腹でかの有名な「山の上ホテル」に宿泊してみた。「山の上ホテル」を愛した過去の文豪たちと同じ気分を味わいながら執筆するためだ。
3年前、加代子はプーアール社の文学新人賞の大賞に輝いた。ところがその文学賞はアイドルの島田かれんを小説家デビューさせるための出来レースで、加代子にスポットライトが当たることは一切なく、結局1冊の本も出せないまま現在に至っている。
大手出版社の文鋭社の編集者である遠藤道雄が加代子を訪ねてきた。遠藤は加代子の大学時代の演劇サークルの先輩である。遠藤は加代子を散々けなした末に、文壇のドンファンと呼ばれる東十条宗典が真上の部屋に宿泊して執筆中であることと、「小説ばるす」創刊50周年特大号に載せる原稿が明朝9時までに上がらなければ東十条の枠は他の誰かのものになることを教えた。
なるほど、そういうことか。加代子は「山の上ホテル」のルームサービス係の制服によく似たメイド服に着替えると、遠藤からの差し入れのシャンパンを手に階上の東十条の部屋を訪ねた。
シャンパンの差し入れだと言って東十条の部屋に入り込んだ加代子は、執筆中のパソコンにシャンパンをぶっかけながらも、ファンだの早稲田大学文芸サークルの後輩だの小説家を目指しているだの並べ立て、東十条をとりこにした。
かくして、相田大樹(たいじゅ)こと中島佳代子は「小説ばるす」の1枠を東十条から奪い取ることに成功したのだった。
その後「小説ばるす」に4本の短編を掲載し、初の単行本出版も決まりかけたかと思ったとき、プーアール社と大手芸能事務所からの邪魔が入った。島田かれんの2冊目を売るためらしい。
文鋭社のパーティーで加代子が豪勢な食事をやけ食いしていたところ、突然加代子の前に東十条が現れた。東十条が加代子の腕をつかみ連れていこうとすると、加代子はホテルのメイドのふりをして白を切り通した。
東十条が加代子を遠藤の元へ引っ張って行って確認したが、遠藤までもが相田大樹ではないと言い張った。
加代子は白鳥氷と名乗って、東十条に人まちがいのお詫びにおごってほしいと銀座の老舗クラブに連れていってもらい、浴びるほど高級ウイスキーを飲んで東十条の前から姿を消した。
1年後、「小説ばるす」の新人賞を受賞した有森樹李の『氷をめぐる物語』は、東十条が1年前にクラブで白鳥氷から聞いた話と同じだった。加代子がまた新しい名前で別人のふりをして新人賞を獲得したことを遠藤は否定したが、全てを察した東十条は怒りが収まらなかった。
「氷をめぐる物語」のおかげで出会った大手酒造メーカーの御曹司・錦織聡一郎と交際を始めた加代子。秀茗社の編集者・門川響子からおだてられ接待漬けにされて執筆活動はなおざり状態だ。遠藤だけが加代子にはっぱをかけるが効果はない。
一方、東十条は本が売れても美女を目の前にしても、なにやら情熱が湧き上がってくる感覚を失いモヤモヤしていた。高級フレンチレストランで加代子と再会した東十条は、自分がモヤモヤしている原因がわかった気がした。加代子が牙を抜かれ普通の作家になっているのがおもしろくないのだ。
東十条は今度はこっちから加代子仕掛けてやろうと考え、加代子のいない間に聡一郎がいる部屋に女優の萌木志保子を送り込んだ。志保子を膝にのせシャツのボタンを引きちぎられた状態でキスをしている聡一郎と志保子を見て加代子は激怒した。
激怒している加代子を見ていると東十条は心地よかった。とどめとして門川に有森樹李を切って東十条の載せろと言ってやったら、門川はあっさりとそれを飲んだ。加代子は秀茗社とのつながりも恋人も失ってしまった。
翌年「小説ばるす」の新人賞を獲ったのは有森光来(みく)という18歳の高校生だった。加代子は、世間が光来を絶賛していることも有森かぶりも面白くない。
偶然であった朝井リョウから、作家なんて世間から叩かれて叩かれてはい上がった者だけが生き残れる世界だと言われ、再び元気を取り戻した加代子。
加代子はたまたま東十条と一緒になったときに、遠藤が光来に加代子と東十条の悪口を言うのを聞いてしまった。東十条とは一旦停戦条約を結び、遠藤に仕返しするしかない。
大学時代の仲間から、遠藤が8歳と10歳の娘にサンタクロースを信じ込ませることに命を懸けていると聞いて、夢をぶっ潰してやることにした。娘の桜子と緑子から「サンタがいないことくらい知っている」と言われ、計画は失敗に終わった。
光来はネットの酷評と遠藤からの強いプレッシャーに耐え切れず北海道に帰ってしまい、結局2作目が出版されることはなかった。
有森樹李の3作目「魔女だと思えばいい」の宣伝のために書店回りをしていた加代子。隣々堂書店恵比寿店で万引き常習犯がまさに万引きする瞬間を目にして怒りがおさまらず、万引き犯に馬乗りになってボコボコにした。
男は新刊ばかりを狙って万引きしては転売している窃盗グループのボスだった。カリスマ書店員と呼ばれている須藤純一から感謝され、加代子の特設コーナーを作ってもらったことから、「魔女だと思えばいい」はその年の「書店員大賞一位」を獲得した。
「魔女だと思えばいい」が権威ある鮫島賞にノミネートが決まった。喜ぶべきことなのだが、なにしろ選考委員の1人が東十条宗典なのだ。加代子になど絶対受賞させる訳がない。
東十条が久しぶりに自宅に帰ると、妻の千恵子が客人を連れていると言った。東十条は目を疑った。そこにいたのは東十条がホステスの明美に買ってやった高級着物を身に着けた加代子だった。しかも娘の美和子までもが加代子と親しい関係になっていた。
東十条は加代子を追う出そうとした。加代子は、千恵子が愛したのは世間にこびた作品を出す東十条ではなく書きたいものを夢中で書いている東十条だと力説した。
結果、東十条は新作の執筆に没頭し、鮫島賞の選考会には現れなかった。鮫島賞は有森樹李が受賞した。
有森樹李の「柏の家」が直林賞を受賞し、映画化が決まった。加代子は島田かれんをヒロインの美弥子役のオーディションをすると言って「山の上ホテル」に呼び出した。
課題は、すぐ真上の部屋に宿泊している東十条宗典の執筆を邪魔すること。
とりあえず東十条の部屋を訪れたかれん。泣き落としと色仕掛けで東十条を落とそうとしたところで、クローゼットから加代子が現れた。東十条を演じていたのは遠藤だった。
加代子はかれんに美弥子の役を与えた。「柏の家」がカンヌに出品されることになって、主役の百合子役を演じた冴木裕美子は脚光を浴びていた。裕美子は加代子の大学時代のサークル仲間だ。
美弥子が主人公ではないこともわからない読解力のない島田かれんに、加代子は憐憫の情など欠片も感じてはいなかった。
そして加代子と東十条はいつしかかけがえのない戦友になっていた。
映画の見どころと原作との違い
これは痛快コメディでありながら、大切なことを教えてくれる指南書でもあります。
夢を叶えるには実力だけではなく運やタイミングも大きく味方すること。そしてその運は自分で引き寄せることができるのだと教えてくれる物語です。かなり荒っぽくてぶっ飛んでますけどね!
文壇のドンファンと呼ばれる大御所を目の前にしても一切ひるむことなく嘘八百を並べ立て、ペンネームを変えて2度もデビューを果たすとか、加代子のメンタルは間違いなく鋼ですよ。
でも好きなことを仕事にするということは、ある意味それくらい覚悟を決めて、酷評や逆境を乗り越えて自分で運をつかみに行くくらいじゃないと心折れちゃうのかも。好きなこと得意なことで酷評されるって、これほどメンタル削られることないもんね。
東十条とのやり取りに大いに笑ってスカッとして、最後には戦友になる2人にほっこりして元気をもらってください。
物語には実在する作家さんが登場します。映画でも登場するんだろうか!?わくわく♪
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