「平場」とは「ごく一般の人たちがいる場所」のことです。ありふれた場所でありふれた2人が出会い、ごく自然に恋愛へと流れていきます。
50歳の『世界の中心で、愛を叫ぶ』を書きたいと、朝倉かすみさんの描く大人の恋…。悲恋です。
須藤葉子と青砥健将はともに、人生の酸いも甘いも知り、体の不調を感じ始める50歳。
青砥が検査で訪れた病院の売店でたまたま働いていたのが中学校の同級生・須藤でした。
「互助会」と称して何度も会ううちに、次第に距離を近づけていく2人。そんな中、須藤が大病を患っていることがわかります。
50歳だからこそ、相手に頼りたい気持ちと迷惑をかけたくない気持ちが葛藤する…大人の2人の不器用で切ない恋の物語。
小説のあらすじは?
青砥健将(あおとけんしょう)、バツイチ、50歳。7月、胃の不調を自覚して病院に行ったら、内視鏡検査を受けることになった。
見つかった腫瘍は生検に出されることになり、不安で落ち着かなくなった青砥は病院の中を歩き回った末に、売店へとたどり着いた。
売店でレジ打ちをしていたのは華奢でおかっぱ頭の見知った顔…中学校の同級生、須藤葉子だった。
青砥が中3のとき須藤に「付き合ってください」と告白した時の返事は「いやです」。
中学生の頃から須藤は「肝っ玉母さん」のように腹が座っていて、体は華奢なのに、押しても引いてもびくともしない「太い」感じのする女の子だと、青砥は思っていた。
35年ぶりに会って話をする須藤はやっぱり太かった。
須藤は青砥に「お互いの屈託がパンパンになりそうになったら、無駄話をして景気づけ合いっこしよう」と提案し、2人は互助会を結成した。
第1回の互助会は、出会った2日後、駅前の焼き鳥屋で行われ、互いに簡単な身の上話をした。
須藤は大学を出た後、証券会社に勤め、30歳で結婚、41歳で夫と死別、2年前に地元に舞い戻ってきたらしい。一方青砥は、6年前マンションを買ってほどなく妻子に出ていかれ、母親が倒れたのを機に地元の印刷会社に転職して、マンションを売って実家に戻っていた。
2回目の互助会は須藤の部屋で開かれることになった。売店のパート収入だけでやりくりしているため外食の出費が繰り返されるは痛いし、青砥のごちそうになるのも気が引けるという須藤からの提案だった。
須藤の亡き夫はひとまわり年上で酒乱だった話や、夫が亡くなった後知り合った年下の美容師にのめり込みひと財産を2,3年ですっからかんにしてしまった話のあと、須藤は大腸の内視鏡検査を受けると打ち明けた。
青砥の生検の結果は「異常なし」で、須藤とお祝いをしようと思ってLINEをしたけど、なかなか返信が来なかった。夜、須藤のアパートに行くと、須藤は「わたし、ちょっとやばいかも」と言った。
須藤は「進行性の大腸がん」だった。
須藤が手術のために入院するまで、青砥は何度も須藤に会いに行った。そばにいたい、須藤を笑わせたいと思ううちに、どんどん須藤を大事に思う気持ちが増していった。
須藤はストーマ(人工肛門)を造設することになることや、術後は抗癌剤治療が始まることを青砥に告げた。
8月、手術を2日後に控え、須藤は売店を退職した。その夜、青砥は須藤を抱いた。
手術から5日経って、青砥は初めて須藤のお見舞いに行った。「誕生日プレゼント」と称して0.01ctのダイヤをあしらった三日月のペンダントを須藤に贈った。
退院してから2週間経っても須藤はストーマの扱いに手こずっていた。手術のときに摘出されたリンパ節には転移が認められ、化学療法が始められることになっても、須藤は青砥や妹のみっちゃんに頼ろうとはしなかった。
須藤は「だれにどんな助けを求めるのかは私が決めたい」と言い、相変わらず「太い」ままだった。
しばらくは一人で頑張っていたけれど、薬の副作用がひどく吐き気とだるさで体が思うように動かない須藤に、青砥が「おれんとこ来るか?」と聞くと、意外にも素直に須藤は従った。
青砥は須藤との濃密な時間を愛おしく感じており、ずっとこの時間が続いていくものだと思っていた。しかし抗癌剤治療が終わって1か月経った4月、須藤は自分のアパートに戻っていった。
コンビニでの仕事を再開するにあたり、体を慣らすために須藤は青砥の職場で短期のバイトもした。
5月生まれの2人の誕生日会を6月17日にしようと決めて、来年は一緒に温泉に行こうと約束した。
互いの体をマッサージしながら須藤は自分の母親の話をした。須藤が小学校に上がる年に母親が19歳のバイトの兄ちゃんと駆け落ちして出ていったこと、中3になる春休みに見る影もない母親が突然帰って来て父親が罵倒の限りを尽くして追い返したこと、1人で生きていくと決めてひそかに訓練していたことなどを語った。
青砥は中学生のときに須藤を「太い」と感じた理由が少しわかった気がした。そして今でもそれは変わっていないのだとわかって、寂しくも感じた。
抗癌剤治療が終わって3か月後たった6月15日、須藤の初めての検診日。青砥は誕生日の食事の前に須藤にプレゼントを買いたいと申し出た。
「指輪はどうだ。一緒にならないか」と青砥が言うと、須藤は「それ言っちゃあかんやつ」と答えた。
須藤は、自分は軽蔑に値する人間だから一緒にはならないと前置きし「青砥とは、もう一生、会わない」と宣言した。
青砥は打開案として、1年は須藤の顔を立てて会わないでいてやるけど、1年後の6月には約束した通り一緒に温泉に行こうと提案した。
2人の結末は?(含ネタバレ)
青砥にとって、翌年の6月までの時間は途方もなく長かった。6月17日には誕生日の食事をする約束のレストランに行ってみたけれど、須藤は現れなかった。
自分が焦り過ぎたのかと後悔の念にさいなまれて、他愛ないLINEを送ってみたりしたけど、既読にもならなかった。
我慢できなくて電話をしたりアパートに訪ねて行ったりしたこともあるけれど、須藤が出ることはなかった。
検診の結果が気になったけれど、きっと妹のみっちゃんが連絡をくれるだろうと高をくくって1年間待つ覚悟を決めたが、母親が亡くなり叔父から再婚のお見合いを勧められると、青砥の我慢が限界を超えてしまった。
青砥は須藤の勤めるコンビニの入った病院に通い続けたけれど、須藤の姿を見ることさえ叶わなかった。
小説を読んだ感想
実はこの小説、冒頭で須藤が亡くなったことが告げられています。そこから、須藤と青砥の再会、2人が距離を縮めていくエピソードが語られていくのですが、結末を知っているので、読み進めるにつれ切なさがこみあげてきてどうにもなりませんでした。
「平場」というのは「ごく一般の人々がいる場所」という意味です。転職、離婚、親の介護、自身の病気…と、ごく一般の人々が経験する普通の生活の中で出会った2人。
ちょっと押しが弱くて、須藤が「お母さんみたいにやさしい」と形容する青砥、抱きしめたくなるくらいいいヤツです。
そんな青砥が心惹かれるのは、可愛げもあざとさもどこかに置き忘れてきた「太い」女、須藤。呼び捨てにするのがしっくりくる女性です。
2人にとって互いの存在は、輝く太陽でもなく瞬く星でもなく、ひっそりと光る月のようだったのかもしれませんね。そしてその月のおかげで空を見上げ、顔をあげて歩くことができる
周りの人たちも、どこにでもいるありふれた人たちです。
人のうわさ話が大好物で、須藤の結婚は略奪婚だったことを教えてくれるおせっかいなスピーカー・ウミちゃん。いるいるこういう女性って思わず声に出そうになりました。
一人で生きていくと決めていた須藤は、大切な人だった青砥に迷惑をかけたり弱っていくところを見せたくなかったのでしょう。その気持ちはよくわかります。
だけど人の気持ちってそんなに簡単に割り切れないし、思っているほど強くない…。どこかのタイミングで「もう会わない」と須藤が言い出したとしても、青砥と完全に切れてしまうことはなかったんじゃないかなと思うといたたまれない…。
勢いだけでガンガン進めることができた若い頃の恋愛と違って、たくさんの後悔を抱いて、相手の気持ちを推し量り気遣いながら、少しずつ手繰り寄せていく50代の恋愛。
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章タイトルにもなっている須藤のセリフ「夢みたいなことをね。ちょっと」「ちょうどよくしあわせなんだ」…かなりグッときます!
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