童貞の大学生がいきなり飛び込んできた女子高生に淡い恋心を抱いたり、就活がうまくいかない上に彼女を寝取られたり…、世の中思い通りにいかないことだらけ。
それでも時には踏ん張り、時には逃げたりしながら、生きていかなくてはならない。
YOASOBIがプロの小説家とコラボして発表した楽曲「ハルジオン」の原作『それでも、ハッピーエンド』の作者・橋爪駿輝さんのデビュー作。
理想と現実、友情と恋愛、社会と自分など様々なものと向き合いながら、それぞれの明日をさがす若者たちの群像劇です。
『スクロール』のあらすじは?
童貞王子
コンビニ行こうと部屋を出たモボの目の前に、隣の部屋のベランダから女子高生と思しきセーラー服姿の女の子が飛び降りた。しかも手には男性のボクサーパンツを握りしめている。
女の子から突然「入れて」と言われ、なぜかモボは「いいよ」と答えてしまった。
女の子は高校3年生、ハルと名乗り、隣の部屋の男は元カレだと言った。別れてしまったけど今でも忘れられないらしい。
それからは:モボの部屋にしょっちゅう訪ねてきては、隣の部屋との壁に耳を付けて「彼の音」を聞くのだった。
ハルは初めてセックスをした相手が隣の元カレで、エッチをするときにいつも嗅がされていた彼氏のパンツの臭いが忘れられないのだと言った。話を聞いてるモボは童貞だというのに…。
友達の少ないモボのところにたまにゲームをしに来るユウスケに話すと、さっさと告白してやってしまえと言う。そんなことできる訳ない…。
ある日、隣の男が引っ越しを始めた。ハルに知らせないと…と思ってみても連絡先も知らなかった。
数日後ハルが来たので、元カレが引っ越したことを伝えると、ハルはそのことを知っていた。モボはばいばいと手を振って去っていくハルを引き留めることができなかった。
麗しい美しい
そこそこの会社に入りたい…付き合って3年になる真理との結婚も意識し始めた草太だったが、全く見事なまでに就職が決まらない。
今日受けた会社の面接は手ごたえがあった。ゼミは休みになったし、草太はご機嫌で真理のマンションに向かった。
合鍵を使って真理の部屋に入ると、そこにいたのは裸の真理と、真理と同じサークルの男だった。
ブチ切れた草太に、真理はいつまでも就職が決まらない草太の相手に疲れたと逆ギレしてきた。そこへ追い打ちをかけるように、今日受けた会社の不採用通知…。
結局真理に文句を言うことも暴れることもできずに草太は退散し、浴びるほど酒を飲んだ。
正体をなくして植え込みで動けなくなった草太を見つけて助けてくれたのは「とんでもない青」という名のお店のモガちゃんだった。
モガちゃんから草太は「2番目の彼氏」にならないかと提案され、草太は条件を飲んだ。草太はいわゆるヒモとなった。
なんだかんだで草太はだんだんモガちゃんを本気で好きになっていった。モガちゃんは本名を「麗しいに美しい」で「れみ」と教えてくれた。
(パルプ・フィクション)
夜中にテレビ局で報道記者をしているユウスケから「モボが死んだ」と電話があった。自殺だったらしい。
<僕>は葬儀に行くことにした。会社を休むチャンスだと思ったから。
葬儀の途中で弔問に訪れた2人の男性にモボの母親が切れて会場は修羅場と化した。モボの母親は、息子は会社に殺されたとテレビでも訴えた。
<僕>は特に望んだわけでもない家具を扱う小さな会社に就職していた。先輩のコダマはいつもえらそうに<僕>に仕事を山ほど押し付けてくる。
今日の会議のコダマの資料も<僕>が作ったものだ。会議の後片づけている資料を見て<僕>は固まった。
【コダマのこといつか殺す】と入力して後で消そうと思っていたのに、消すのを忘れて全ての資料にプリントアウトしていた。
<僕>は会社を辞めた。ユウスケは「逃げれるのは強い」と言ってくれたが<僕>はモボのことを思い出すことが多くなっていった。
街なかでコダマと出くわし、必死で逃げた裏道で突然大爆発が起こった。<僕>がたまたま撮った動画に放火犯が写っており、それをユウスケに送った。
ユウスケは会社からスクープ激励賞と金一封をもらったお礼に、<僕>を京都旅行に誘った。
その日はモボの命日だった。ユウスケは仕事でモボの家族を取材して、心をすり減らしていた。
まっすぐ立てない
寝坊してバイトをすっぽかした。速攻で辞める決心をし、山手線に乗って一日ぼーっとすることにした。
上野駅では元カレを思い出した。東京駅では胸を高鳴らせて上京した日のことを思い出した。大学で仲良くなった菜穂と、人生のピークとも思える最強の楽しい日々を過ごしたっけ。菜穂は銀行に就職し<わたし>はフリーターになった。
新橋は今カレのたーくんが働いてる。1年ちょっと付き合って2週間前にプロポーズされた。
そういえば3日前、その日コンパで会った男と目黒のラブホテルに行った。元々は彼氏と別れて落ち込んでる菜穂を励ますためにセッティングされたコンパなのに、当の菜穂は次の彼氏ができたと言って欠席した。
菜穂はそういう星の元に生まれ、<わたし>は「まあいっか」っと流されていく。
新大久保でいい匂いのするイケメンが乗ってきて<わたし>の隣に座った。なんと俳優のスダくんだった。
スクロール
あこがれのテレビ局に入ったものの、全く希望していない報道局に配属されたユウスケの楽しみは合コンだけだった。
合コンで女の子全員に帰られ、ユウスケはやけくそで飲み直そうと向かった「とんでもない青」で菜穂と出会った。一目ぼれだった。
モガを使って名前を聞き出したけど、何も接点を持たないまま菜穂は帰ってしまった。
ふたたび菜穂が「とんでもない青」に来たとモガからLINEが来て、ユウスケは合コンから飛び出した。
「とんでもない青」に転がりこみ、ユウスケは菜穂に必死で話しかけた。菜穂は今日彼氏と別れたばかりだった。
ユウスケと菜穂は付き合い始めた。デートの真っ最中に、ユウスケは仕事に呼び出された。若い男が首つり自殺をしたらしく、取材に行かされた。死んだのは大学時代の友人、モボだった。
ユウスケはモボの遺族や周りの人の取材をすることになり、神経をすり減らしていった。菜穂との関係がビミョーになっていったのはこの頃からだ。
忙しそうにしているユウスケを思い、菜穂が一緒に暮らそうと提案してくれたけど、ユウスケは逃げた。ほどなく、2人は別れた。
『スクロール』の感想
何かになれるかもしれない、何かを起こせるかもしれない…そんな夢を抱く若者たちが、恋愛、友情、就活、仕事で思い通りにはならない現実と向き合っていく…。
5話からなる短編集でそれぞれの物語は独立していますが、5話全部がゆる~い感じで繋がっていてます。
ありがちと言えばありがちな物語なのかもしれないけど、どのエピソードにもどこか自分の中の思い当たる記憶がつながってしまう、そんな物語でした。
自分の努力不足や運という不可抗力や、とにかく自分が進みたい方向とは違う方向に流されて行ってしまうことは山のようにあって、ひたすら嘆いたりしたこともあったなぁ。
けど結局あとから「なーんだこっちの道に来て正解だったじゃん」って思えることもいっぱいあって、なんだかんだで人生って±0なのかな…と今は思いますね。
すごくいっぱい共感する分、若者には「もっと悩め!落ちこめ!それでも生きていけ!」って言いたい!
人生うまく回ってるように見える人でも、実は人はみんなそうやって生きていってるのかもしれないよ。
『スクロール』が北村匠海さんと中川大志さんのW主演で映画化されることになりました。こんなイケメン、もてない訳ないんだけど…というのは置いといて…。
それでも、自分が好きになった人に好きになってもらえるかどうかは別問題なわけだし、思うようにいかないことはやっぱり山のようにあるのが人生なのよ。
打たれて、もだえ苦しんで、泣いて、つぶれて…痛みの中で生きていく姿に、明日を生きるヒントを見つけてほしいなと思います。
小説も映画もおススメです!若い人たちにぜひ読んでほしい!
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