映画『怪物』珠玉のキャストで描く人間ドラマ、あらすじとネタバレ

息子の湊はいじめられているかもしれない…そう思った麦野早織はいてもたってもいられなくなった。

学校に話をしにいくが、事実関係を確認するどころかまともに取り合ってももらえない。挙句の果てに、担任の保利からは湊がいじめをしていると言われてしまった。

静かな町で起こった小さな事件。よくある学校の風景であるように見えて、そこには怪物が潜んでいた。

「かいぶつ、だーれだ」それぞれに見える怪物は違っているのかもしれない。

カンヌ映画祭での「脚本賞」「クィア・パルム賞」受賞はまさに快挙!「クィア・パルム賞」はLGBTや特定のせいに属さない人を描いた作品に贈られる賞です。映画の中でも抱えている秘密は本当に繊細なものです。

是枝裕和監督、脚本家の坂元裕二さんという最強タッグで描くヒューマンドラマを演じるのは、珠玉のベテランキャストと黒川想矢くんと柊木陽太くんという注目の2人の子役です。

【主なキャスト(敬称略)】
安藤サクラ:麦野早織
永山瑛太:保利道敏
黒川想矢:麦野湊(早織の息子)
柊木陽太:星川依里(湊の友達)
田中裕子:伏見校長

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『怪物』のあらすじ

周囲を山に囲まれ大きな湖のある静かな町で、その火事は突然起こった。火の手が上がった繁華街の雑居ビルに野次馬たちが集まっている。

湖のほとりで、プラスチック容器で自作した”うなり笛”をぐるぐる回しながら歩いている少年の手にはロングノズルのライターが握られていた。

麦野早織は自宅のベランダから息子のと火事の様子を見ていた。

小学校5年生の湊は自室にこもっていることが多くなり、早織に何でも話さなくなっていた。早織の夫は湊が小さい頃に事故で亡くなって、母子家庭だ。

早織が働いているクリーニング店に湊の友達の広橋岳(がく)の母親・広橋理美がやってきて昨夜の火事の話を始めた。理美は5年2組の担任の保利(ほり)道敏が火事のあったガールズバーにいたらしいといううわさ話を早織に話して聞かせた。

仕事が終わって早織が家に帰ると湊がシャワーを浴びているようだった。脱衣室には湊が切ったと思われる髪の毛が散乱している。

湊は校則違反と言い訳したけれど、もしかしたらいじめられてる?5年生になって初めて同じクラスになった蒲田大翔(だいと)がクラスメイトをからかうと、早織は湊から聞いたことがあった。

早織が帰宅すると玄関には湊のスニーカーが片方しかないことや水筒から石や砂出てきたことがあり、早織の中で「いじめ」が確信に変わりつつあった。

ある日の夕方、早織は洗濯機の中に絵の具で汚れたTシャツを見つけた。もう暗くなる時間だというのに湊は帰って来ない。

ママ友から40年も前に廃線になった鉄道トンネルの跡地で湊を見かけたという情報を得て、早織は急いで湊を探しに行った。

鉄道跡地には湊の自転車があった。近くの枯れ木には「いるよ」と書かれた手作りのプレートが掛かっている。

早織がトンネルの中を進んでいくと「かいぶつ、だーれだ?」という湊の声がした。早織は声の方に走り寄ると、湊を抱きしめて車に乗せた。

突然、走行中の車の助手席のドアが開いたかと思うと、湊が車から転がり落ちていった。動転した早織の車は草むらに突っ込んでいった。

幸い湊のけがは大したことなくCT検査でも問題がなかったため、すぐに帰らせてもらえることになった。

帰り道、湊を質問攻めにする早織に、湊は自分の脳は豚の脳と入れ替えられていると言った。誰に言われたのかを問い詰めると、湊は「保利先生…」とつぶやいた。

早織は学校に乗り込んでいった。校長の伏見に訴えかけたが、伏見は能面のように無表情で早織の言い分を聞いていた。

教頭の正田、学年主任の品川、かつて湊の担任だった神崎のが早織の話を聞き始めると、伏見は退席して帰っていった。

伏見は数日前に孫を事故で亡くしており、そのやむを得ない用件だと説明されたが、早織は納得がいかなかった。

再び学校に向かった翌日、校長室には昨日のメンバーと問題の担任・保利が入ってきた。

事実関係を調査するように依頼したのに、そのことには何も触れず、保利がたどたどしく謝罪する姿に早織の苛立ちは募っていった。

保利がぼそぼそと「母子家庭にありがち…」と言うのが聞こえて、早織は逆上したが、教師たちがそろって頭を下げて謝罪の言葉を言う姿に、それ以上何も言えなくなってしまった。

湊は毎日学校に通っていたが様子がおかしい気がして、早織は落ち着かない気持ちで再び学校を訪れた。

相変わらずのらりくらりとかわしていく態度に早織のいら立ちが爆発しそうになった時、校長室を訪ねて来た保利を正田が押しとどめたように見えて、早織は校長室を飛び出した。

早織が追いつくと保利は、湊が同じクラスの星川依里(より)をいじめていると言った。早織は怒りを爆発させた。

湊の部屋でロングノズルのライターを見つけた次の日、早織は依里の家を訪ねてみた。

依里の家の玄関にはなくなった湊の片方のスニーカーがあった。湊の母親である早織に笑顔で対応しているということは、湊がいじめをしていないということだと判断した。

早織は、依里を同席させての事実確認をお願いして再度学校に向かった。依里は、保利先生が湊を叩いていると言った。

学校に話しても埒が明かないので早織は弁護士に相談することにした。保利は湊のクラスの担任を外され、休職することになった。

学校から湊が階段から落ちてけがをしたと連絡があり、早織は大急ぎで学校に向かった。

湊の友達の浜口悠生(ゆうせい)が、湊は保利先生から逃げていて落ちたと言った。写生の時間、保利が待ち伏せしていたのを見て湊は逃げたらしい。

保利が勝手にやったことなので学校は関係ないという先生たちの態度が、やはり早織を苛立たせた。

町に巨大台風が接近してきた翌朝、早織が朝5時半に目覚めると湊の姿がどこにもなかった。

外から「麦野」と呼ぶ声がした。保利だった。

それぞれの真実?

保利の真実
保利道敏は一緒に買い物に出た恋人の鈴村広奈と雑居ビルの火事を見た。火事の現場には担任している子どもの姿が見えたので早く帰るようにと声をかけた。

5年2組の教室が騒がしいので走って向かってみると、湊が奇声を発しながら怒りに任せて体操着袋を投げ捨てていた。

保利が湊を止めようとして伸ばした腕が湊の顔に当たり、湊は鼻血を出した。

あるときは湊が依里の上に馬乗りになっていた。2人とも絵の具だらけで、湊は左の耳をけがしていた。

それを保護者に伝えていなかったのがいけなかったのか?突然、湊の母親が学校に乗り込んできた。

湊が保利に殴られた、体操着を投げ捨てた、耳に傷を負わせ暴言を吐いた、給食を食べさせなかった…どれも身に覚えのないことばかりだった。

直接誤解を解きたいと言う保利に、校長の伏見は「実際どうだったかはどうでもいい」と言った。学校はことを穏便に済ませることだけを優先した。

担任している星川依里がいじめを受けていることに気付いた保利は依里の家を訪ねた。

依里の父親が飲みかけの缶チューハイ片手に帰ってきた。エリート意識の強い父親は依里のことを「人間じゃなくて豚の脳が入ってる」と言った。

その言葉には聞き覚えがあった。湊の母親が、保利が湊に言ったと訴えた言葉だった。

学校のトイレから出てきた湊とすれ違った保利は、トイレの個室に閉じ込められていた依里を見つけた。やはり湊がいじめているのか?

湊の母親は弁護士に相談したようで、学校で保利に関するアンケートが実施されることになった。

アンケートの結果、保利の暴言暴力が「ある」と認定された。急遽開かれた保護者会で、保利は用意された謝罪の言葉を言い、退職を余儀なくされた。

保利は暴力教師として週刊誌に追われ、広奈は保利の元から去って行った。

納得のいかない保利はもう一度湊と話がしたくて、学校に出向いていった。湊を追いかけ、保利が何かしたかと尋ねると湊は否定した。

逃げ出した湊が階段から落ちてけがをした。保利が突き落としたことになっているようだ。

家に戻った保利は、添削しようと思って持って帰ったままの生徒たちの作文を見つけた。

依里の作文の各行の一文字目を右から左に読むと「むぎのみなとほしかわより」となっていた。湊の作文は「ほしかわよりむぎのみなと」と読めた。

いてもたってもいられなくなった保利は台風の風雨の中、湊の家に向かった。

家の外から呼びかけると、湊の母親が出てきて湊がいなくなったと言った。湊の母親の運転で2人は廃線のトンネルに向かった。

湊の真実
1年生のときから仲良しだった岳と悠生が蒲田大翔とつるんで依里をからかうようになって、湊は距離を置き始めた。

依里のことが気にはなるけれど、話すと自分もからかわれる可能性があるので、湊は依里と距離を保って近づかないようにしていた。

大翔のからかいが度を越えていた時には、どうやってとめたらいいかわからない湊は、クラスメイトの体操着袋を片っ端から投げ付けて、保利先生に止められるまで暴れに暴れた。

下校途中見かけた依里は靴を履いていなかった。大翔たちに隠されたのかもしれない。湊は自分のスニーカーを片方貸してあげた。

依里に誘われて、湊は廃線になった鉄道跡地に初めて足を踏み入れた。

トンネルを抜けると電車の車両があった。電車は湊と依里の隠れ家になった。

依里が枯葉に火を点けた時には、湊は怖くなってそばの水路に水筒を突っ込んで水をくみ火を消して、依里が持っていたライターを取り上げた。

学校の外では依里と仲良くできるのに、学校の中では相変わらず大翔の目が気になって、依里がトイレに閉じ込められた時にも助けることができなかった。

湊と依里は電車の中を手作りした工作で飾っていった。給食で取っておいたパンを中で食べたり、一緒に宿題の作文を書いたりもした。

依里が考えた「怪物ゲーム」で遊ぶのが恒例だった。「かいぶつ、だーれだ?」の掛け声で額にカードを掲げ、相手からのヒントで自分のカードに描いてある生き物を当てるというゲームだ。

ある日、学校の図工の時間が終わると、大翔が依里の机の上に絵の具をチューブから縛り出した。

依里が絵の具を拭いた雑巾を大翔が奪った。湊のところに飛んできた雑巾を、湊が依里に返すと大翔は明らかに不満げに湊をからかい始めた。

湊は依里から雑巾を取り返そうと取っ組み合いになった。

依里に謝ろうと湊は学校から帰るとすぐに鉄道跡地の電車に向かったが、依里はいなかった。

しばらくして、そこに現れたのは湊を心配して探しに来た母親の早織だった。

早織の後ろに依里の姿を見つけていた湊は、依里のところに戻ろうと思い、車を止めてほしくて助手席のドアを開けたのだが、はずみで車外に投げ出されてしまった。

自分を守るために保利先生を悪者にしてきたことに罪悪感が募り苦しくてたまらなかった。

ベランダで出会った校長先生に湊は「保利先生は悪くない。嘘をついた」と告白した。校長先生は湊を音楽室に連れて行って、誰にも言えないことはふーって吐き出せばいいとホルンを手渡した。

物語の結末、怪物とは?

湊はどこに?
湊の姿は鉄道跡地の基地にあった。

本当の結末はぜひとも映画館で確かめてほしいと思います。

大人たちもそして湊自身も、人には決して知られたくない秘密を隠しています。そしてその秘密を知られないようにするために、自分を守るために必死。

登場人物それぞれが「怪物」だと感じているものは何なのか。見る人によって見つける「怪物」は違っているのかもしれません。

映画の見どころ

人間の脳は「自分が見たいように見る」「見たくないものは見えない」「思いたいように判断する」ようにできているものなのでしょうか。

事実はたった一つなのに、受け取る側によってこんなにも真実が違ってくるのか…、もう恐怖でしかありません。

我が子のことになると必死の母親、事なかれ主義の学校の先生、どのエピソードも狂気をはらんでいるけれど、実際にありそうなことばかりです。

これを映像化するのか。是枝裕和監督は本当にすごい監督だと改めて感心。

豪華キャスト陣の鬼気迫る演技はもちろんのこと、2人の子役、黒川想矢くんと柊木陽太くんの狂おしい演技も必見です。

映画『怪物』視聴方法は?

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Blu-ray 5963円 / DVD 3713円
高画質ダウンロード 2546円
【価格は2024年2月15日現在】

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