実写映画化もされた今村昌弘氏の大人気小説『屍人荘の殺人』シリーズの第3弾!
”班目機関”の超人研究の資料を求めて、剣崎比留子と葉村譲のコンビが「兇人邸」と呼ばれる謎の館へと誘われていきます。
「兇人邸」にいたのは”班目機関”の元研究員と人間の能力を遥かに超越した巨人でした。そして、危険な研究に端を発した殺人が次々に巻き起こります。
今回、比留子さんは閉じ込められて動くことができません。果たしてそのような中でいつもの華麗な推理を働かせて、葉村くんやみんなを助けることができるのでしょうか。
小説のあらすじは?
「班目機関のことで話がある」と、剣崎比留子と葉村譲は、成島IMS西日本という医科学研究所の社長・成島陶次(なるしまとうじ)と秘書の裏井と会った。
”班目機関”の研究資料を回収するために比留子さんに同行してほしいと言う。
成島の目的地は生ける廃墟というコンセプトを徹底した馬越ドリームシティというテーマパークの中にある「兇人邸」。
40年以上前に班目機関の研究員をしていた不木玄助(ふぎげんすけ)という男が「兇人邸」で隠居生活をしており、そこに重要な研究資料が隠されているという。
「兇人邸」に入った人間が戻ってこないという事件も発生しており、成島は精鋭を集めて兇人邸に乗り込むことにした。
ボス、アウル、アリ、コーチマン、チャーリー、マリアという6人の傭兵と共に成島、裏井、比留子、葉村は「兇人邸」へと乗り込んだ。
最初は難色を示した不木だったが、意外にも素直に「兇人邸」の中に10人を招き入れ、一行は地下へと降りて行った。
迷路のような通路を抜けると、上部が吹き抜けになっているテニスコートくらいの広さの石室に出た。悪臭立ち込める中、ライトで照らすとそこには10を超える白骨化した頭部が転がっていた。
コーチマンから新たな侵入者があり拘束したことが告げられた。侵入者はフリーライターの剛力京(ごうりきみやこ)と名乗った。
不木に先導され首塚の右側の扉から建物に入った。すると通路の奥からコーチマンの絶叫が聞こえた。声の方に走って行くとそこは広間につながって、みんなが目にしたものは大量の血と切り落とされたコーチマンの片腕だった。
銃声と「助けてくれ」という悲痛な叫び声に続いてガラーン、ガラーン、ガラーンという鐘の音が聞こえて、コーチマンからの通信が途絶えた。
鐘楼は首塚の左側の別館にあると言う。慌てて首塚に戻ると、別館の扉からコーチマンの首をぶら下げた隻腕の巨人が姿を現した。腰には大鉈が下がっている。
銃撃戦が始まったが巨人は銃で撃たれてもびくともしなかった。みんなは散り散りになって逃げたが、チャーリーとアリが巨人の犠牲となった。
朝になり生き残った者は広間に集まった。そこには不木の使用人の阿波根令実(あわねれみ)と雑賀務(さいがつかさ)の姿もあったが、比留子さんの姿がなかった。
「兇人邸」の出入り口は通用口しかなく、その鍵はコーチマンが持ったままだ。そこへマリアから「不木が殺されている」という衝撃の報告がもたらされた。
不木の私室に行ってみると、横たわる不木の遺体には頭部がなかった。
阿波根の話によると、「兇人邸」は自分たちがいる「主区画」と首塚から右の扉を入った「副区画」と左の扉を入った「別館」の3つに分かれているらしい。そして日光が嫌いな巨人は、吹き抜けの天井のはめ込み窓から光が降り注ぐ首塚には出てくることができず昼間は別館に身を潜めているらしい。
葉村は不木の部屋に残された”超人研究”の研究資料を読んだ。40年前”班目機関”の研究所で起きた事故に乗じて不木が連れだした被験者が成長を続け巨人と化し、今や意思疎通もできず、不木でさえもコントロールできない化け物と化してしまったようだ。
夕方になり雑賀の遺体が発見された。どうやら自分たちの中にも「敵」がいるらしい。不木が「生き残り」と書き残していたもう一人の被験者なのか?一同は互いに疑心暗鬼になっていった。
比留子さんが生きていることがわかり、救出するための計画が決行された。しかし巨人の予測不能の動きに対処できず、ボスが計画中止を伝えると怒った成島が飛び出していった。成島は巨人の犠牲となってしまった。
成島がいなくなった今、任務を遂行する意味がない。そう判断した一同は、とにかく「兇人邸」を脱出することにした。
「兇人邸」に送り込まれた生贄の処分を任されていた雑賀の部屋を捜索すると、金目のものが床下に大量に隠されていた。スマートフォンも何台も出てきた。
そのうちの1台を剛力京が指差して「充電して」と言った。兄の剛力智(さとし)のものだと言う。京は取材という名目で智を探しに来たのだった。
智のスマホを充電し、比留子さんが懇意にしている探偵のカイドウに連絡を取り救助を要請した。しかし、夕方になっても救助隊が来る様子はなかった。
さらに誰も信用できなくなったと阿波根が鉄扉に鍵をかけて閉じこもってしまい、葉村たちは隠れる場所がないまま放り出されてしまった。夜になって巨人が動き始める前に自力で脱出するしかない…。
葉村たちは太い鎖を切って外界へとつながるはね橋を下ろすことにした。はね橋を下ろすことは、巨人を「兇人邸」から解放することを意味し、一般市民たちに犠牲者が出ることを意味する。救助隊を動かすにはこの方法しかない…。
比留子さんをどうやって助け出そうかと思案している葉村の元に1人の人物がやってきた。自分こそが「生き残り」だと言い、巨人を一緒に生活した「家族」だったと言った。
その「生き残り」は別館に入っていき、大きく鐘を鳴らした。巨人は鐘の音に導かれるように別館へと消えていった。
葉村が広間に戻ると格子の下りた階段の向こうに比留子さんの姿があった。比留子さんから受け取った鍵を差し込んで格子を開け、比留子さんを助け出すとすぐ、全ての格子を下ろして巨人を閉じ込めた。
葉村はこれから先も「比留子さんのワトソン」として生きていく決意を新たにしていた。
”班目機関”と”超人研究”
山中にある”班目機関”の研究施設では子ども達30人ほどが集められ、身体能力を高める”超人研究”が行われていた。不木と羽田もその研究施設の研究者だった。
不木は猿を実験に使っており、羽田をいつも目の敵のようにしていた。
養護施設から研究施設に引き取られてきたケイ、ケイにいつもちょっかいを出してくるジョウジ、頭のいいコウタ、子どもたちはみんな「家族」のように生活していた。
施設内では小動物が焼却炉で燃やされる事件が相次いでおり、査察が来る日に「大量虐殺が行われる」とサキミが予言していたこともあって、大人たちは犯人探しに戦々恐々としていた。
査察前夜、ケイは研究棟に入っていく子どもを見かけて後をついていった。不木の研究室に入っていったのは、ジョウジだった…。研究室の中の檻には化け物と化した猿たちがうめき声を上げながらのたうち回っていた。
超人処理を施された猿たちは身体能力が高いのはもちろんのこと、傷の治りも異様に早く、ケガをさせたくらいでは動きを止めることはなかった。殺すには首を斬るしかないのだ。
ケイは自分の「家族」を守るために、目の前に現れる「猿」の首を次から次へと斬っていくしかなかった。
不木によって連れ出された被験者つまり巨人はケイだった。不木に超人試薬を注射されたケイは今でも「家族」を守るために、襲いかかってくる猿の幻影と戦い続けていたのだった。
小説を読んだ感想は?
かなりボリュームのある物語ですが、そこはさすが『屍人荘の殺人』シリーズ!「えっ?」という物語の展開と巨人の恐怖におびえながら、どうしても先が知りたくてどんどんサクサク読めてしまいます。
今回もまた殺人が次々と起こります。もちろん巨人によるものもあるのですが、明らかに巨人によるものではない殺人まで。そのせいで怖さは倍増することになるのですが…。
しかも数時間前まではつながっていた胴体と首が切り離され、首塚に新しい頭部がどんどん増えていくという謎の展開。一体誰が、何のために??
そして今回の比留子さんは閉じ込められており、葉村くんたちと一緒に行動できない状況に置かれています。にも拘わらず、与えられた情報から論理を組み立てていく姿が相変わらず魅力的で尊いです!
「兇人邸」で隠匿生活を送る人々や乗り込んできた面々には、それぞれ事情があり誰にも言えない過去を持っていたりします。
そのことが互いを疑心暗鬼にさせたり裏切ったりすることにつながるのですから、敵は「巨人」ではなく生身の人間なのだということを思い知らされる物語でもあるのですが、ただ最後にやっぱり人は誰かを救いたいと思っているんだと心がほんのり温かくなる物語でした。
それにしても”班目機関”は一体いくつの研究をしていたのでしょう。『屍人荘の殺人』ではゾンビ、『魔眼の匣の殺人』では未来の予言、『兇人邸の殺人』では超人研究。
ゾンビは別として、未来の予言や超人計画は今でも継続されていてもおかしくない人間の望みを結集させた研究です。
今後どんな研究がどんな事件を引き起こすのか、このシリーズからは目が離せませんよ!
映画化はある?
今回もまた”班目機関”については具体的な解決を見ていないというか、正体が明らかになっていなくて、比留子さんと”班目機関”の直接対決は次回以降に持ち越しです。
明らかに続編に続く…っていう終わり方でした(笑)
子どもたちが犠牲になった”班目機関”の”超人研究”は、不木がいなくなったこともあって一応の決着は見るんですが、結局巨人はどうなってしまうのか、そこは「ご想像にお任せします」という感じの結末。
この『兇人邸の殺人』は巨人が光を嫌うので、ほとんど暗闇の世界で描かれるんですよね。一番映像化に向いてないんじゃないかな…。
それにしても、今回の比留子さんの推理も華麗で素晴らしかった!そこはぜひ映画にしていただきたいと願いますが、このシリーズはまだまだ続きそうなので、映像向きの華々しい物語までお預けかな。
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