「正欲」…正しい欲とは何なのでしょう。食欲や性欲、睡眠欲のこと?自らの内から湧き出てくる欲望に正しいとか正しくないとか、誰がどうやって決めるの?
人には言えない感情を、生まれながらにして持ってしまったために生きづらさを感じる登場人物。あきらめを感じながらも、心のどこかで人との繋がりを求めてしまう…。
単なる「多様性」とか「マイノリティ」とかを扱った物語ではなく、残酷さや救いを描いた感情えぐられる物語です。
朝井リョウさんの作家生活10年目にして渾身の作品。
【主なキャスト(敬称略)】
新垣結衣:桐生夏月
寺井啓喜:稲垣吾郎
磯村勇人:佐々木佳道
佐藤寛太:諸橋大也
東野絢香:神戸八重子
『正欲』のあらすじ
『正欲』はそれぞれに生きにくさを抱えた人たちの群像劇です。その人たちが、あることをきっかけに繋がっていきます。
ずっと心のどこかで人との繋がりを求めてきたのに…。分かり合えると思ったのに…。
寺井啓喜
横浜地方検察庁に勤務する検事の寺井啓喜(ひろき)。専業主婦の妻・由美と小学校4年生の息子・泰希(たいき)との3人家族。
郊外に一軒家を購入し、泰希は有名私立小学校に入学。順風満帆な人生を歩んでいるはずだった…泰希が不登校になるまでは。
社会の通常ルートから外れた人間がその後どのようになっていくのか…。犯罪に巻き込まれるケースを数々見てきた啓喜は、泰希を学校に戻そうと焦っていた。
当の泰希は、学校に行かずに自由に生きることを声高に叫ぶ小学生インフルエンサーに傾倒している。
泰希は不登校児が外で遊ぶNPO法人の企画に参加したときに仲良くなった富吉彰良(あきら)と一緒にYou Tubeチャンネル【元号が変わるまであと〇日チャンネル】を開設することになった。
泰希と彰良は視聴者からのリクエストに応える形で動画をアップしていった。由美は泰希の表情が明るくなっていくことを喜んでいたが、相変わらず啓喜は受け入れることができないでいた。
啓喜が手伝わない代わりに、NPO法人職員の右近一将が泰希と彰良の動画撮影を手伝っているようだ。
桐生夏月
岡山のショッピングモールの寝具売り場で働く桐生夏月(なつき)。一人でいる空間が好きだ。
職場の休憩室で話しかけられ、根ほり葉ほり聞かれることも、聞かされることも苦痛でたまらない。
仕事中たまたま通りかかった中学校の同級生の西山修・亜依子夫妻に見つかってしまい同窓会に来るように言われた。
夏月は同級生の誰とも連絡を絶っていたが、気になるたった一人の同級生・佐々木佳道が来ると聞いて同窓会に行くことにした。
同窓会直前に修が酒を飲んで酔っ払ったまま川に飛び込んで亡くなるという事故があったが、予定通り同窓会は開催され、夏月は佳道と再会した。
三次会を断り、夏月と佳道は修が亡くなった河川敷にやってきて話をした。
中学校の教室で、水を出しっぱなしにして蛇口を盗んだ藤原悟容疑者が「水を出しっぱなしにするのが嬉しかった」と語ったというニュースをクラスのみんなが笑うのを聞いて、夏月は自分がおかしいことを改めて確信したことがあった。
その日の放課後、夏月が取り壊される校舎裏の水飲み場に行くと、そこには佳道がいた。夏生は噴出する水の様子に興奮するのだが、佳道も同じだということがわかった。
2人でいろいろな形に水を噴出させて笑いあった思い出を話しながら、小学生のYou Tubeに水を使った企画をリクエストしていた「SATORU FUJIWARA」は互いだと思い込んでいたが、全く別の第三者であることがわかった。
大晦日、職場であらぬ誤解から暴言を浴びせられてイライラしながら帰る途中、夏月は偶然佳道を見かけて呼び止めた。
佳道は自ら命を絶とうとしていた。その気持ちが痛いほどわかる夏月は「明日死なない」ために佳道と結婚生活を始めることにした。
夏月と佳道にはもちろん男女の関係はない。ただ互いを認め合って一緒にいるという【繋がり】に2人は幸せを感じ始めていた。
自分の好きな水の動画を撮り始めたことをきっかけに、夏月と佳道は【水フェチ】のためのSNSを開設し、同じ性癖で悩む仲間とともにいろいろな水を撮影する会【パーティー】を開くことにした。
神戸八重子
金沢八景大学1年生の神戸(かんべ)八重子。学祭の実行委員をしている。
当たり前のように行われてきた、見た目の醜悪だけを競う「ミス・ミスターコンテスト」に違和感を感じ、誰もが主役になれる【繋がり】をテーマとしたイベントを企画したいと考えている。
八重子は兄の部屋のパソコンで女性の性的動画を見ていた履歴を見つけてからというもの、男性の目が怖くて仕方がない。兄は地元の国立大学を卒業し銀行に就職したが、ある日突然引きこもり生活を始めた。
そんな八重子が一人だけ怖くない男性と出会った。ダンスサークル「スペード」の諸橋大也(だいや)だ。
周りからゲイだとも噂されている大也だが、実は噴き出す水が大好きで人間には全く興味がなかった。小学生のYou Tubeに「SATORU FUJIWARA」というアカウント名でリクエストしているのは大也だった。
たまたま同じゼミになった八重子は大也に関わろうとしてくるが、大也は鬱陶しくてたまらない。
大也はゼミ合宿を欠席して、SNSで知り合った「古波瀬(こばせ)」というアカウントの人物と【水フェチ】の会【パーティー】に参加することにした。
ゼミには体調不良の連絡を入れて家を出ようとすると、そこに八重子がいた。八重子は、何でもかんでも自分を不幸な箱に閉じ込めて諦めるのではなく、もっと話をして繋がりたいと言った。
そして起こった事件と結末(ネタバレ)
3人の男が逮捕された。3人は裸の児童の同じ画像や動画を所持していた。3人のうち2人は「児童が目的ではない」と供述しているが、画像を所持しているだけで起訴の対象となる。
『正欲』の感想
近ごろ声高に叫ばれている「多様性」とか「マイノリティ」という言葉。その苦しみを描いた作品も多く発表されています。
「多様性を受け入れよう」という言葉自体は全然悪いことではないと思いますが、それはあくまでも自分が多数側にいるという安心感ありきの言葉なのだと、何だかハンマーで殴られたくらいの衝撃を感じぞっとしました。
読んでいて嫌悪感さえ感じる「田吉」の語る世界が世間であり、私自身なのだと思い知らされたあの瞬間。この本のこと一生忘れられないと思いました。
「噴出する水が好き」…それくらい違法でも何でもないのだから言えばいいのに、と大人になってしまえば開き直ることもできますが、学生のときに周りと違うということは自分の居場所をなくしてしまうくらい大きな問題です。
人と違うものが好きなことより、周りのみんなが興味を抱いている「異性」や「性」に何の興味もわかないことは異質なものとして排除されてしまい、結果として孤独にならざるを得ない…。
自分自身を振り返っても「人と違うこと」が恐怖だった体験って、多かれ少なかれありますよね。大人になった今となっては、なんであんなしょうもないことに拘ってたんだろうって思うくらい些細なことなのに。
でも、それが小さいか大きいかなんていうのは、その本人にしか決められないんですよね。
「何かを見てその人がどう感じるかは誰にも止められない」という人が生きていく上での事実と向き合いながら、「明日も生きていきたい」と思える繋がりを描いた衝撃の作品でした。
若い人にはぜひとも読んでほしいなぁ。
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