舞台は九州最大の歓楽街、中洲。中洲で生まれ中洲で育った一人の少年、加藤蓮司の物語です。
決まった家も戸籍も持たず、生きるために夜の街に繰り出していく蓮司は「真夜中の子供」と呼ばれ、明るくたくましく生きていきました。
しかし、必死で生きている蓮司をもてあそぶかのように、過酷すぎる運命は蓮司を飲み込んでいきます。
それでも中洲の人達は、決して蓮司を見捨てることはしませんでした。
辻仁成さんが書いた小説『真夜中の子供』が辻仁成さん監督で映画になります。故郷の福岡をこよなく愛する辻さんは、福岡の博多祇園山笠と中洲の人情味あふれる魅力を余すところなく丁寧に描きあげています。
『真夜中の子供』のあらすじ
加藤蓮司は福岡の歓楽街、中洲で生まれ中洲で育った。ホステスとして働く母親の加藤あかねと母親の恋人でホストの今野正数とともに決まった家も持たず、放浪生活を送っていた。
中州から出ることもほとんどなければ、学校に行ったこともない。
警察学校を出たばかりの宮台響が中洲警部交番に赴任して、蓮司と初めて出会ったのは、蓮司が5歳のとき。
蓮司は児童相談所に保護されることもあったが、親は反省する様子もなかった。蓮司は無戸籍児だった。
響は蓮司のために何かできることはないかと役所をあちこち当たってみたが、法律の壁に阻まれて身動きが取れなくなっていた。親が動かなければ現状を変えられないのだ。
それでも蓮司は食べるものには困らなかった。中洲の客引きを束ねる井島敦、スナック「てのごい」のママ・御手洗康子、山笠振興会の会長・高橋カエル(蓮司が付けたあだ名)、居酒屋を営む黒田平治など、蓮司の面倒を見てくれる優しい大人がいて、いつも何かを食べさせてくれた。
伏見源太はマンションの最上階に部屋を持ちながら、屋根のある暮らしが嫌いで中洲の北側にある中島公園にテントを張って暮らしていた。蓮司は源太からは、天然ウナギの釣り方とその美味しさを教えてもらった。
生きるために中洲の街に繰り出していく蓮司のことを人々は「真夜中の子供」と呼んだ。
中州に暮らしている少女の緋真(ひさな)と出会ったのは蓮司が7歳のとき。
蓮司と緋真はたびたび会うようになり、蓮司は緋真に中洲を、緋真は蓮司に中洲の外の世界を案内した。
博多祇園山笠が開幕すると中洲の空気は熱を帯びてくる。蓮司も例外ではなかった。屈強な男たちによる流舁きは蓮司の憧れだった。
蓮司は中洲で生まれ中洲で育った正真正銘の中洲の子。高橋カエルは山笠の上に蓮司を乗せた。男たちに舁き上げられ、蓮司を乗せた山笠は一気に走り出した。
蓮司が寝床にしている廃ビルに戻ると、正数と見知らぬ女がいた。あかねは2人目を身ごもり出産のため里帰りしていた。
そこへ男が「あかねはどこじゃ!」とものすごい剣幕で訪ねてきた。男は正数を半殺しの目に遭わせて刑務所に送られ、その後あかねと蓮司は行方がわからなくなってしまった。
それから9年後。宮台響は再び中洲へと赴任してきた。人ごみの中に蓮司を見た気がして、ずっと探しているが蓮司は見つからない…。
16歳の蓮司は年齢をごまかして中洲のホストクラブで働き始めた。瀧本優子が毎晩のように蓮司を指名するようになると、あっという間にナンバーワンホストになった。
住むところのない蓮司は、源太のマンションで寝起きしていた。蓮司が10歳のときあかねの元を逃げ出して突然中州に帰って来てから、緋真は毎日蓮司をそばで見守り続けていた。
源太の部屋に引きこもっている間、蓮司は緋真に読み書きを教えてもらいながらたくさんの本を読んだ。本は蓮司と外の世界を繋いでくれるものだった。
夜の中洲の大通りで蓮司は幼い少年を見つけた。かつての自分と重なる。少年はユウキという名で、近くの託児所から抜け出してきていた。
必死で探していた保育士の小野寺菜月がユウキと蓮司を見つけ、それ以来蓮司は託児所に差し入れをするようになった。偶然にも菜月は響の婚約者だった。
瀧本優子から「あかねが中洲に戻ってきた」と電話があり、蓮司は自分からあかねに連絡を取った。
あかねは蓮司に金の無心をしては毎晩ホストクラブ通いをくり返すようになった。働いたお金を全てあかねに吸い取られ、蓮司はホストクラブをやめてあかねとの連絡を絶った。
蓮司は老舗料亭「千秋」の黒田平治を訪ね、料理人を目指して働くことにした。蓮司は初めて自分の将来に夢を持つことをできた気がした。緋真もそんな蓮司を見て嬉しかった。
正数を半殺しの目に遭わせた男が刑務所から出てきて、あかねを探していた。その男・加藤文亮(ふみあき)はあかねの元夫のだった。
瀧本優子があかねのところに加藤文亮が乗り込んできたと知らせに来た時、蓮司は緋真と一緒だった。緋真が優子の娘だということがわかり3人は混乱したが、蓮司はあかねの元へと急いだ。
あかねに怒りをぶつける中で、文亮は思いがけないことを叫んだ。蓮司の本当の父親は文亮だと…。
文亮があかねにナイフを振りかざしたため、若い警察官が発砲した。倒れた文亮に向かって悪態をつきまくるあかねを見て、蓮司は文亮が落としたナイフを拾い上げて…。
2年後、蓮司は少年院から出て中州に戻ってきた。緋真は大学進学もせず蓮司を待ち続けた。
中洲の仲間たちは蓮司を「おかえり」と迎えた。蓮司は夢の続きをこの中洲で見ることができるのかもしれないと思った。
『真夜中の子供』の感想
蓮司に戸籍があろうがなかろうが、中洲に生まれ中洲に育った一人の人間として蓮司を認める大人たちの心意気、少年院から帰って来た蓮司を快く迎え入れてくれる深い情に、心の奥底が温かくなる物語でした。
もちろん読んでる途中は、とにかく親がクズすぎて…蓮司の人生の邪魔しかしないあかねの言動にイライラと怒りがこみあげてきてきますよ。まさに毒親中の毒親。
みんなが普通にやっていることの枠から放り出されてしまった人生。中洲という場所にしがみついていくしか生きていく方法がなかった蓮司。
それだけ聞くと「悲惨」としか言いようがないんだけど、持ち前の明るさと純真さで周りの人たちをみんな自分の味方にしていく蓮司に、読んでいるこちらも惹きつけられていきます。
世の中にはもしかしたらもっと過酷な状況で生きている子どもがいるのかもしれません。蓮司も生まれたのが中洲でなかったら、とっくに死んでいたのかも。
支えてくれる何かが、寄り添ってくれる誰かがいてくれれば、人は夢を持って前を向いて生きていくことができる、そんなメッセージも込められた感動の物語です。
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